特集 消防防災力強化戦略 −安心・安全な社会の確立に向けて− 

(2)精鋭達によるセーフティネット −高度消防・救急救助体制の全国的整備

 消防は、市町村が第一義的にその責任を負うこととされている。しかしながら、阪神・淡路大震災のような大規模災害時には市町村、都道府県を越えて相互に応援し、その被害の軽減を図っていくものであり、また、こうした広域的に対応すべき事態も大規模な自然災害のみならず重大事故災害やテロ災害等が想定される。このため、全国的な観点から高度な消防・救急救助体制の構築が現在求められている。

 ア 「特別高度救助隊」、「高度救助隊」の全国的展開・配備と緊急消防援助隊の大幅増強
 (ア)東京消防庁及び政令市消防本部に「特別高度救助隊」、中核市規模以上等の消防本部に「高度救助隊」の配備を検討
 平成16年10月23日の新潟県中越地震において発生した長岡市妙見堰の土砂崩れによる乗用車転落事故において、2歳男児1人とその母親の2人が救出(母親は病院搬送後死亡確認)された。その際、全国から応援に来た緊急消防援助隊が活躍したが、なかでもその救出の中核を担ったのは、東京消防庁消防救助機動部隊、「ハイパーレスキュー隊」であった。高度な救助技術と資機材を有する同部隊は東京消防庁管内で3隊配備されているが、その他の地域では配備されていない。また、平成17年4月に兵庫県尼崎市で起きたJR西日本福知山線列車事故でも地元消防本部、県内応援隊、緊急消防援助隊の救助隊が活躍したが、気化したガソリンが充満していたためその活動が制約された面などもあった。こうした背景の下、大規模災害、テロ、有事等に対して全国的見地から救助体制等を強化する必要がある。
 消防庁は、「特別高度救助隊」の東京消防庁・政令市消防本部への配備、「高度救助隊」の中核市消防本部・中核市を有しない県の代表消防本部への配備を検討し、あわせて特別高度救助隊には特殊な救助用資機材、高度救助隊には高度救助用資機材等を整備することを検討している。

 
新潟県中越地震長岡市妙見堰におけるハイパーレスキューの救助活動(撮影:東京消防庁)

 (イ)消防大学校において高度救助隊の養成講座を創設
 特別高度救助隊や高度救助隊の整備にあたり、資機材等の整備のみでなく、部隊育成のために、消防庁では消防大学校において特別高度救助隊隊員の養成講座を創設し、配備される専門的な車両及び資機材の取扱訓練や各種災害を想定した実践的な高度救助訓練とともに、現場管理・部隊管理能力の向上を図る高度救助技術・知識等の専門的な教育訓練の実施を予定している。
 (ウ)緊急消防援助隊の登録部隊数を増強(平成17年4月現在2,963隊)し、総合的・実践的な訓練を継続的に実施
 緊急消防援助隊は、阪神・淡路大震災の教訓を踏まえ、迅速で効果的な消防の広域応援のために平成7年に創設され、平成15年6月にはより実効的な仕組みとするために法律に明確に位置づけられた。緊急消防援助隊については、総務大臣が策定した「緊急消防援助隊の編成及び施設の整備等に係る基本的な事項に関する計画」に基づいて消防庁長官が部隊を登録することとなっており、大規模・特殊災害時には被災地の状況に応じて、消防庁長官の指示又は求めにより都道府県を越えて部隊が出動していく。
 平成17年4月現在、指揮支援部隊、都道府県指揮隊、救助部隊、消火部隊、救急部隊、航空部隊等計2,963隊が登録されており、平成16年7月の新潟・福島豪雨から平成17年4月のJR西日本福知山線列車事故まで計6回出場し、その出場は延べ1,552隊、6,271人に及び、2,865人の人命救助とめざましい活躍をしている。
 一方、中央防災会議においては、東海地震、東南海・南海地震、首都直下地震に関する被害想定が相次いで出され、日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震についても今後被害想定が出されることとなっている。これらの想定される大規模地震災害や相次ぐ自然災害に対して国民の安心・安全を確保する対応体制を強化するためには、緊急消防援助隊の登録部隊数を現在の3,000隊規模からさらに増強することを検討する必要がある。具体的には、大規模地震発生時の大規模火災発生に備える消火部隊、高度救助隊の全国的な展開・配備をはじめとする救助部隊、大規模救急事案のための広域医療搬送体制を強化する救急部隊、これらの部隊に伴う後方支援部隊の増強を想定している(第3図参照)。
 また、こうした部隊の編成、登録の増強のみならず、総合的・実践的な訓練を継続的に実施する必要があり、その連携、運用の錬度を高めるため、平成17年6月10日、11日には静岡県において緊急消防援助隊全国合同訓練が行われ、部隊の参集及び活動体制について総合的に検証が行われた。消防庁では、今後とも全国訓練やブロック訓練、図上訓練等により、緊急消防援助隊の充実強化に努めていくこととしている。

 
第3図 高度救助隊の全国的展開・配備と緊急消防援助隊の大幅増強
 
第3回緊急消防援助隊全国合同訓練

 (エ)国としてのオペレーション体制を強化
 緊急消防援助隊に対する消防庁長官の指示権の創設に伴い、全国的な運用調整を行う責務が消防庁に生じたこと等により、消防庁は、法律に明確に規定された国の責務を果たすべく、災害への対応のオペレーションも実施することとなる等大きく変化している。
 このため、消防庁では平成15年8月に設置した消防防災・危機管理センターにおいて、実践的図上演習等を繰り返し実施し、災害即応体制の点検・検証を行っている。大規模災害発生時には、直ちに緊急消防援助隊を派遣するとともに、現地に派遣した消防庁職員を通じて、消防庁災害対策本部、都道府県・市町村災害対策本部、緊急消防援助隊調整本部、指揮支援本部との調整を行っているところである。
 人員体制についても充実を図っており、平成17年度には15人の増員を行い、航空専門官、地域情報把握専門官等を設置した。また、新たに国民保護法の施行に伴う体制も充実し、テロ対策専門官等も設けた。さらに、消防庁ヘリコプターの整備により、大規模災害時における初動時の情報収集、先遣隊派遣を迅速に行うことのできる体制を整えるとともに、新たに「国民保護・防災部」を設置した。
 しかしながら、全国的なオペレーションを実践するためには担当職員の人数が絶対的に不足しており、今後、安心・安全な社会の確立に向け、また一人でも多くの人命を救い、被害を軽減するために消防庁の体制強化を含め、国としてのオペレーション体制を早急に強化する必要がある。

 イ 救急救命等の充実・高度化
 (ア)救急需要対策の推進
 平成16年中の救急出場件数は約503万件であり、10年前の平成6年と比較して約65%も増加している。今後も、高齢社会のさらなる進展や住民意識の変化等に伴い、救急需要は増加していくと予想されている。また、平成16年中の平均現場到着所要時間は6.4分となっており、平成6年中と比べると、0.6分遅延している。救急事案においては最初の数分の処置が生死を分けることもあり、救急出場件数がこのまま増加を続ければ、住民の救急要請に対して、現在のような迅速な対応が困難となる地域が出てくるおそれがある(第4図参照)。
 消防庁では、こうした状況を踏まえ、今後も救急業務が適正に確保されるよう、救急自動車の適正利用の普及啓発、傷病者のトリアージ(緊急度判断)システム、民間事業者の活用等の救急需要対策について、幅広く検討を行っていく。

 
第4図 救急出場件数と救急隊数の推移

 (イ)救急業務の高度化の推進
 傷病者の救命効果の向上を図るため、救急救命士の処置範囲の拡大を推進しつつ、救急救命処置等の適切な実施に必要な医師による常時指示体制、医学的観点からの事後検証体制、再教育・研修体制の確保など、メディカルコントロール体制のあり方を検討し、更なる充実を図る。
 また、9月9日の「救急の日」のイベント等を通じて、関係機関との連携を図りつつ、誰でも使用可能となった自動体外式除細動器(AED)の使用も含めたバイスタンダー(その場に居合わせた人)による応急手当の普及啓発を推進する。

 
自動体外式除細動器(AED)

 ウ 先端科学による消火・救急救助技術の開発 −ロボット、ナノテク、ICT等を活用し、高度な技術・資機材を研究開発・実用化(高機能ウォーターカッター、救助ロボット、ナノテク消防服、電磁波探査装置、遠隔救急医療システム等)
 JR西日本福知山線列車事故での気化したガソリンが充満した現場や新潟県中越地震の際の余震による土砂崩れ等二次災害が想定される過酷な現場におけるより迅速な救助活動のための高度な資機材の開発や、三重県でのごみ固形燃料(RDF)施設での爆発事故や北海道苫小牧での石油タンク全面火災のような大規模・特殊災害における迅速かつ安全な消火活動のための技術・資機材の高度化などが強く求められている。また、高度・複雑化する社会においては、新たな技術、素材への対応も望まれている。こうしたニーズに応え、新たな視点から高度な消防防災科学技術の研究開発を行う必要があり、例えば、独立行政法人消防研究所では、多様な利用が期待されるナノテクノロジーを活用して、耐熱性、強度、運動性等の面でより高性能で、より迅速・確実な消防活動を可能とするナノテク消防服の研究開発等を進めていく予定であるが、様々な分野において、消防機関、企業、大学等関係機関と連携を図りながら一層の開発研究を推進する必要がある(第5図参照)。

 
第5図 ナノテク消防服イメージ図

 4 災害時の対策

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