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第6章 消防防災の科学技術の研究・開発
(2) 危険性物質と危険物施設の安全性向上に関する研究

ア 背景・目的

本研究課題では、東日本大震災において石油類等の危険物の貯蔵・取扱いを行う危険物施設が津波や地震動で多数被災したこと、我が国では今後もなお大地震の発生が危惧されていること、環境保護への取組が進められる中で、火災危険性が少ない物質やいったん火災が発生すると消火が困難な物質が普及するなど防火安全上の課題が生じていることを踏まえ、危険性物質と危険物施設の安全性の向上を目的として、次の四つのサブテーマを設け、5年間の計画で研究開発を行っている。

(ア) サブテーマ「石油タンクの津波による損傷メカニズム及び発生防止策の研究」及びサブテーマ「巨大地震による石油コンビナート地域における強震動予測及び石油タンク被害予測の研究」

東日本大震災では、数多くの石油タンクや配管が津波で押し流されたり、損傷したりする甚大な被害が発生した。このような石油タンク等危険物施設の大規模な津波被害は、我が国では初めてのことである。また、危険物の大量流出や火災には至らなかったものの、地震動の影響で石油タンクが損傷する被害も発生した。

地震・津波発生時の危険物施設の健全性の確保は、被害拡大の視点からのみならず、被災地における災害救助活動、避難生活に必要となる石油類等エネルギーの供給維持にも不可欠であることが、東日本大震災でも示された。石油タンク等危険物施設の津波・地震動被害の予防・軽減対策の確立は、南海トラフ巨大地震や首都直下地震等の発生が危惧されている状況の中で、なお一層その重要性を増している。

このようなことから、サブテーマ「石油タンクの津波による損傷メカニズム及び発生防止策の研究」では、津波による石油タンクの被害発生メカニズムの解明、それに基づく被害予防・軽減対策の考案及び対策による効果の評価を目的としている。また、サブテーマ「巨大地震による石油コンビナート地域における強震動予測及び石油タンク被害予測の研究」は、石油タンクの揺れによる被害を予防・軽減するためのより的確な対策案を立てられるよう、石油コンビナート地域等における強震動の予測をより精度よく、きめ細かに行えるようにすることを目的としている。

(イ) サブテーマ「再生資源物質の火災危険性評価方法及び消火技術の開発」

環境保護に向けた取組がますます盛んになる中、資源再利用の取組の一環として、廃木材や再生資源燃料等の再生資源物質の利用が進められているが、これらの再生資源物質に関係する火災が発生するなど、防火安全上の課題も生じている。今後安全を確保しつつ再生資源物質の利用を促進する上で、このような火災を予防するための知見・方策を研究開発することが必要不可欠なものになってくると考えられる。

再生資源物質は、山積みの状態で貯蔵されている場合が多く、そこでの火災は蓄熱発火で発生するものが多い。東日本大震災の後には、震災で発生した山積みのがれきから火災が発生しており、これらの火災もまた蓄熱発火によるものと考えられる。再生資源物質が蓄熱発火する危険性をどの程度有しているかを適正に評価することは、火災予防上重要であるが、その評価手法は確立されていない。

また、山積み状態の再生資源物質の火災は、一般的に消火が困難であり、とくに金属スクラップの火災については、消火方法が確立されていない。

このようなことから、このサブテーマでは、再生資源物質の蓄熱発火の危険性の評価手法と火災になった場合の消火方法の開発を目的としている。

(ウ) サブテーマ「フッ素化合物の使用禁止が泡消火薬剤の消火性能に与える影響評価と対応策に関する研究」

石油タンク等の火災の消火に用いられる泡消火薬剤には、消火性能を向上させるためにPFOS(ペルフルオロオクタンスルホン酸)と呼ばれる物質が添加されているものがある。しかし、世界的な環境保護に向けた取組として、残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約に基づいて、平成22年、我が国でもPFOSの製造と使用が原則としてできなくなったことから、PFOSを含まないフッ素フリー泡消火薬剤の消火性能の評価など、今後の対応策が必要になってくるものと考えられる。

このようなことから、このサブテーマでは、PFOSを含まない泡消火薬剤のより効果的な使用方法とその消火性能をより適切に評価する方法の考案を目的としている。

イ 平成27年度の主な研究開発成果

(ア) サブテーマ「石油タンクの津波による損傷メカニズム及び発生防止策の研究」では、東日本大震災時の津波による石油タンクの移動被害(流されたり、元の場所からずれてしまったりする被害)を詳細調査し、津波で動いた屋外タンクの諸元や津波時の原位置及び移動先を把握した。その結果、石油タンク津波移動被害予測式の予測精度が高いことを確認し、将来の地震津波にも適用可能な予測手法であることを示し、予測式の確立に寄与した。

また、サブテーマ「巨大地震による石油コンビナート地域における強震動予測及び石油タンク被害予測の研究」では、石油コンビナート地域における強震観測の利用方法の一つとして開発を進めてきている「石油コンビナート等特別防災区域地震動観測情報システム」(第6-1図)について、高機能化・利便性の向上を図るための改良を行った。具体的には、<1>国立研究開発法人防災科学技術研究所との共同研究により、同研究所の強震観測網(K-NET, KiKnet)のデータを利用することで石油コンビナート地域における強震動をより正確に把握できるようにしたこと、<2>大型石油タンクにスロッシング被害(地震の揺れに伴う石油タンクの中の内容液の揺動により発生する油の溢れ、浮き屋根の損傷、タンク火災など)をもたらすおそれのある長周期地震動に関する情報をユーザに対して速やかに電子メールで配信できるようにしたこと、<3>消防機関等が地震時応急対応を行う上で即座に必要となる情報をよりわかりやすく簡潔に伝達できるようにするために、短周期地震動、長周期地震動それぞれについて揺れが大きかった順に石油コンビナート地域を並べ、それらの観測値等を列記したリストを作成する機能を追加したこと等である。本システムは、消防庁における地震時応急体制下で実施される石油コンビナート地域に関する被害情報収集活動等において利活用されている。

第6-1図 「石油コンビナート等特別防災区域地震動観測情報システム」の画面表示例

(イ) サブテーマ「再生資源物質の火災危険性評価方法及び消火技術の開発」では、液体系再生資源物質を含む種々の試料について測定を行ったところ、自然発火温度と高感度熱量計及び開発した蓄熱発火試験装置による発熱検知温度の間に良い相関関係があることがわかった。これによって簡便に自然発火温度の推定をすることが可能となる。また、固体系再生資源物質として有機系燃料及び石炭等について、高感度熱量計を用いて測定を行った結果、有機系燃料は水の添加により常温から微少な発熱をし、石炭については常温からの微少な酸化発熱が検知され蓄熱発火を起こすことがわかった。

(ウ) サブテーマ「フッ素化合物の使用禁止が泡消火薬剤の消火性能に与える影響評価と対応策に関する研究」では、発泡倍率(消火薬剤と空気の比率)と還元時間(泡が消滅する時間)のコントロールが可能な大流量用のノズルを開発し、フッ素含有泡およびフッ素フリー泡消火薬剤の性能評価実験を行った。結果として、フッ素フリー泡で石油タンク火災等の消火を行う場合において、フッ素含有泡と同等な消火性能を得るための泡性状(発泡倍率、還元時間)に対する泡供給率算出式を示すことができた。

第6章 消防防災の科学技術の研究・開発
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