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第6章 消防防災の科学技術の研究・開発
(3) 大規模災害時の消防力強化のための情報技術の研究開発

ア 背景・目的

本研究課題では、消防職員が大地震や大雨による洪水などの未経験かつ未曾有の大規模災害に直面することとなった場合でも、被害推定シミュレーション等を活用した情報技術を用いて、適切な意思決定とそれに基づく迅速・的確な応急対応を可能とすることを目的として、次の三つのサブテーマを設け、5年間の計画で研究開発を行っている。

(ア) サブテーマ「広域版地震被害想定システムの研究開発」

東日本大震災における災害対応の初期段階では、広範囲にわたる被害と通信の途絶などによって、全体的な被害規模の把握ができず、特に、甚大な被害を受けた地域での緊急消防援助隊の活動に係る意思決定が容易でなかった。地震発生後に被害の様相がなかなか把握できない状況下では、被害の規模や分布を推定する仕組みが応急対応に係る意思決定を支援するものとなり得る。このような仕組みの一つとして、震源に関する情報に基づいて被害分布や被害量を推定するシステムを開発し、消防庁において運用を行ってきた。しかし、平成23年の東日本大震災のような巨大地震では、気象庁から地震直後に発表される震源に関する情報のみからでは、正確な推定ができなかった。そこでこのサブテーマでは、震度情報などを活用することにより、巨大地震に対しても確度の高い地震・津波被害推定結果が得られるようなシステムの開発を目的としている。

(イ) サブテーマ「水害時の応急対応支援システムの開発」

大規模水害時においては、地方公共団体の災害対策本部が行う応急対策の項目は非常に多い。さらに、対策実施の判断条件、優先順位、対応力の限界などが複雑に絡み合うこと、災害の様相は時々刻々と変化し得るものであることなどから、どのような対策を、いつ、どのように実施するかを迅速かつ的確に判断することは極めて困難であり、場合によっては避難勧告発出に遅れが生じることも懸念される。加えて、大規模水害は頻繁に発生するものではないため、災害対策本部で応急対応にあたる担当者全員が必ずしも経験豊富ではないということも考えられる。こうしたことから、災害対策本部における水害時の応急対応を支援するための情報を提供するシステムの必要性は極めて高いといえる。

このサブテーマでは、〔1〕これまでの水害における住民の避難行動を雨量や河川水位等の防災・気象情報や避難勧告などの発令状況とともに調査し、それらの結果に基づいてわかりやすく緊迫感のある避難広報が可能な「避難広報支援システム」を研究開発すること、〔2〕災害時に災害対策本部が行うべき応急対策項目を時系列で管理し、避難勧告発令等の意思決定を支援可能な「水害時の応急対応支援システム」を開発することを目的としている。

(ウ) サブテーマ「同時多発火災への対応を訓練するためのシミュレーターの開発」

首都直下地震などの大地震が発生した場合は、多数の火災がほぼ同時に発生することが危惧される。このような場合には、消防本部の指揮指令担当者には、限られた消防隊を被害が最小になるように火災現場へ出動させることが求められる。しかし、消防職員であっても、同時多発火災に対応した経験を有する者は少ないことから、判断・指示を的確に行うことは必ずしも容易ではないと考えられ、地震時の同時多発火災への消防の対応力を強化するためには、そのような火災を想定した図上訓練が重要である。そこで、本サブテーマでは、〔1〕東日本大震災における火災発生事例に基づく地震直後の火災発生件数の予測式の検討、〔2〕複数の出火点の延焼予測を高速で実行可能なシステムの開発、〔3〕同時多発火災対応のための効果的な消防戦術の検討を行い、これらの結果を活用して、同時多発火災対応訓練シミュレーターを開発することを目的としている。

イ 平成27年度の主な研究開発成果

(ア) サブテーマ「広域版地震被害想定システムの研究開発」では、被害推定精度や処理時間などの機能検証のための試験運用において、平成28年4月16日に発生した熊本地震をはじめ、震度5強以上を観測した地震については、もれなく被害推定が実施され、その結果が電子メールなどで共有された(第6-2図)。また、津波情報・大津波情報から津波被害を簡易的に予測する機能をシステムに追加するとともに、操作性を向上させるためのユーザーインタフェースの改良を行うなど、機能向上を図るための改良・開発を実施した。

第6-2図 広域版地震被害想定システムによる震度分布推定結果の表示例(震度7を記録した平成28年4月16日に発生した熊本県熊本地方を震源とする地震)

(イ) サブテーマ「水害時の応急対応支援システムの開発」では、山形県南陽市において2年連続で水害に見舞われた地区の住民に対して、防災広報の伝わり方や、避難のきっかけになった情報の変化を調査した。避難を決断する理由として、区長や近隣知人の避難勧誘、役所、消防、警察等の戸別訪問が高い割合を占め、次いで、過去に経験のない大雨、避難勧告のエリアメールや電話が契機となっていることが分かった。さらに、応急対応支援支援システムに、河川の水位情報を取り込めるようにするなどのシステムの高度化を行った。

(ウ)サブテーマ「同時多発火災への対応を訓練するためのシミュレーターの開発」では、任意の出火点や風向・風速などに基づいて市街地火災の延焼を予測することが可能なソフトウェアを開発し、システムの高度化を行った(第6-3図)。開発されたシステムは、京都市などの消防本部のシステムに活用されるとともに、自主防災組織が地域の防火力向上のために実施した防災講演会や、地方自治体が実施する地域住民向けの火災リスクへの意識啓発事業に活用された。

第6-3図 火災延焼シミュレーションの動作画面例
第6章 消防防災の科学技術の研究・開発
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