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第6章 消防防災の科学技術の研究・開発
(4) 多様化する火災に対する安全確保に関する研究

ア 背景・目的

本研究課題では、東日本大震災で発生したような地震・津波火災、社会環境の変化などにより多様化している火災、再燃火災などに関係する様々な防火安全上の技術的課題を解決することを目指して、次の五つのサブテーマを設け、5年間の計画で研究開発を行っている。

(ア) サブテーマ「東日本大震災における火災分析と防火対策」

a 東日本大震災において発生した火災の発生原因や延焼要因の究明

東日本大震災では、市街地広域火災に拡大した火災や避難所に延焼した火災など、地震・津波火災として重大な問題を含むものが発生しているが、これらの火災の中には、実態がよくわからないものがある。また、津波で浸水した自動車から出火する事例が多数あったことが、目撃談やビデオ映像などからわかっているが、その出火メカニズムは明らかでない。このようなことから、このサブテーマでは、今後の地震・津波火災を防いだり、延焼・拡大を抑えたりするための技術的方策を見いだすため、東日本大震災において発生した火災の発生原因や延焼要因を究明することを目的としている。

b 再生可能エネルギー関連設備・装置の火災危険性把握

環境指向の高まりとともに、太陽光など再生可能エネルギーを利用した家庭内発電装置やメガソーラーなどの発電所の数が増加している。このような再生可能エネルギー関連設備・装置は、東日本大震災における原子力発電所の事故の影響による電力不足や被災地復興のための需要などの要因から今後ますます増えていく可能性がある。しかしながら、太陽光発電装置が設置された住宅における火災の消火活動中に消防隊員が感電するという事案が報告されており、このような太陽光発電装置は消火活動中の危険要因となり得る。このサブテーマでは、太陽光発電装置などの再生可能エネルギー関連設備・装置の火災予防上の安全な使用方法と、そのような設備・装置が設置されている火災現場において、安全に消火活動を行えるようにするための方策を見いだすため、〔1〕設備・装置自体が有する火災危険性と、〔2〕設備・装置が火災に巻き込まれた時に発生する危険性を評価することを目的としている。

(イ) サブテーマ「火災の実態把握と課題抽出」

近年、個室ビデオ店のような消防法令上想定されていなかった新しい業態や建物の使い方の出現、新しい素材や物質などの普及、高齢化の進展、一人暮らし世帯の増加などにより、火災の原因や現象、被害の生じ方も変化している。

このサブテーマでは、火災予防のための施策と啓発活動への反映や、実施すべき新たな研究課題の提起などを通じて、火災による人的・物的被害の軽減につなげられるよう、年々変化する火災の実態を分析し、その傾向・要因を把握することを目的としている。

(ウ) サブテーマ「火災の促進要因と燃焼性状の実験と数値計算による分析」

a 様々な可燃物の燃焼・消火に伴う生成物及び燃焼に伴う諸現象の把握

低反発素材、金属混合樹脂、建物内外の断熱材などの新しい材料・素材の中には、火災時の燃焼性状や燃焼中・消火中の有毒ガス等の危険性など、正確な火災感知・消火、安全な避難、効果的な消防活動にとって必要不可欠な情報が得られていないものがある。このサブテーマでは、こうした可燃物の燃焼・消火に伴う生成物及び燃焼に伴う諸現象を主として実験的に把握することを目的としている。

b 火災に伴って発生する旋風の発生メカニズム・発生条件の解明

大規模市街地火災、林野火災などでは、「火災旋風」と呼ばれる竜巻状の渦が発生して、多くの被害が引き起こされることがあり、首都直下地震においてもその発生が危惧されている。これまでの研究により、火災域の風下に発生する旋風の発生メカニズムや構造が徐々に明らかになってきたが、依然不明な点が多い。そのためこのサブテーマでは、火災域の風下に発生する旋風の発生メカニズム・発生条件の解明に加えて、無風下で発生する火災旋風の発生条件の解明を目的としている。

c コンピュータシミュレーションによる火災再現技術の研究開発

火災の調査や消防用設備の設置の効果の検討を行う目的で、火災実験が行われる場合があるが、そのような実験には大規模な設備が必要である。また、実験の準備・実施には多くの時間、費用が必要であることから、実験条件を変えたいくつものケースについて実験を行うことは困難である。このような火災実験の代わりとなり、かつより効率的な手段として、コンピュータシミュレーションによる火災再現技術が期待されており、その有効性も示されつつある。しかし、そのようなシミュレーションを行うには高価で高性能なコンピュータが必要であるため、消防本部等においては導入しにくい状況にある。このようなことから、このサブテーマでは、パソコンでも火災再現のコンピュータシミュレーションを実施可能にするような高速な計算手法の研究開発を目的としている。

(エ) サブテーマ「生活に密着した建物等での警報伝達手段に関する研究」

住宅用火災警報器や自動火災報知設備が設置されていない小規模店舗が多いアーケード街や市場では、ひとたび出火すると延焼拡大する事例がある。このような火災における安全で確実な避難を可能にする方法として、火災警報を火災が発生した建物の中にいる人のみではなく、その周辺の建物の中にいる人にも伝達することが考えられる。このようなことから、このサブテーマでは、小規模建物群において、住宅用火災警報器により近隣建物に警報を伝達し、共助体勢を構築する技術の開発を目的としている。

(オ) サブテーマ「熱画像を活用した再燃火災の発生防止に関する研究」

火災がいったん鎮火した後に再び燃える再燃火災は、二次的な被害を生じるだけでなく、市民の消防に対する信頼を損なうおそれのある問題であるが、現状では、再燃火災を完全に防止する手法はない。鎮圧後の火災現場において、再燃火災の原因となる壁や天井裏などの構造内の残火を探し出すための手法は、今のところは、目で見て、手で触って温度を確認するなど、消防隊員の感覚や経験に依存している。そこでこのサブテーマでは、再燃火災防止のための技術として赤外線カメラを利用するなどして、消火後の火災現場の温度管理が行えるよう、温度場を定量的に監視・記録できる手法を開発することを目的としている。

イ 平成27年度の主な研究開発成果

(ア) サブテーマ「東日本大震災における火災分析と防火対策」では、再生可能エネルギーのひとつである太陽光発電装置について、太陽電池パネル構成部材の分析及び燃焼時発生ガスに対する化学分析の実施と太陽電池パネルの発電抑制技術の開発を行った。

太陽電池パネルに使用される数種類の樹脂素材を加熱や燃焼させると、可燃性のある酢酸や灯油やガソリンなどの成分である炭化水素などのほかに、フッ化水素などが検出された。フッ化水素は少量でも有害であるため、消防活動時には注意を要することを明らかにした。

消防隊員が消防活動中に感電することや、放電や漏電により再出火することの危険性を排除するために、太陽電池パネルの表面に遮光剤を噴射し定着させて発電を抑制する装置を試作した。消防本部の意見も取り入れ、片手操作ができるノズルであること、遮光剤がパネル表面を流れ落ちないこと、遮光剤タンクを地上置きにしてホースを延長する方式で放射できること等の仕様を実現した(第6-4図)。

第6-4図 試作した遮光剤噴射(背負い式)で遮光剤を噴射している状況

太陽光発電システムの安全性を高める活動として、太陽光発電の直流電気安全基準策定委員会に参加し、「太陽光発電火災発生時の消防活動に関する技術情報」と「太陽光発電の直流電気安全のための手引きと技術情報」を策定した。

(イ) サブテーマ「火災の実態把握と課題抽出」では、社会情勢の変化に留意しつつ分析を行い、住宅火災が減少する中で10棟程度が焼損する小規模な延焼火災の割合が増加していることが判明した。特に、防火地域に指定された密集市街地において、木造住宅から出火した火災による延焼規模が大きくなる傾向があった。2例の小規模延焼火災の現地調査を行ったところ、いずれも火元は木造住宅で高齢者の一人暮らし世帯であり、密集地域のため消防活動も困難であった。今後、超高齢化社会を在宅介護などで地域で支えていくに当たり、地域が引きうける火災リスクについても考慮する必要性を指摘した。

(ウ) サブテーマ「火災の促進要因と燃焼性状の実験と数値計算による分析」

a 「火災に伴って発生する旋風の発生メカニズム・発生条件の解明」では、有風下で風に対する火源の向きが火源風下に発生する旋風のふるまいに与える影響を調べるために、平成26年度まで室内実験を行ったが、平成27年度は引き続きその解析を行った。その結果、燃焼容器の長辺が風と平行な場合、火源内の風下部に火炎を含む旋風が発生するが(第6-5図)、燃焼容器の長辺が風と直交した場合は発生しないことが分かり、その原因について考察した。また、木造密集市街地を模擬した小型の木造住宅19棟を用いた野外実験において、火災旋風の観測を試み、火災周辺気流などの測定も行った。その結果、小規模な火災旋風、上昇気流の大規模な旋回を観察し、火災旋風、旋回気流発生時の気象状況や発生した旋風の速度を求めることができた。

第6-5図 火源内の風下部に発生した火炎を含む旋風 a:上方から撮影.b:側面から撮影.燃料はメタノール.燃料容器は151cm×60cm.
模型木造住宅(床面積3.6m×3.6m)を19棟用いた市街地火災の模擬実験

b 「コンピュータシミュレーションによる火災再現技術の研究開発」では、火災シミュレータを高速に計算処理するために、コンピュータ内のメモリを効率的に使用するプログラムを作成し、処理速度が向上することを確認した。また、平成27年5月に発生した川崎市簡易宿泊所火災の原因調査において、火災シミュレータを活用し、建物玄関から出火することで建物内に拡散していく煙の様子を再現し(第6-6図)、各室の避難経路となる廊下について濃煙熱気により避難限界となる時間が30秒〜1分程度と避難行動を取るには非常に短い時間であったことを確認した(第6-7図)。

第6-6図 発災建物内に拡散していく煙の様子(着火30秒後)
第6-7図 廊下中央断面の温度分布

(エ) サブテーマ「生活に密着した建物等での警報伝達手段に関する研究」では、木造市場を対象とした無線連動式住宅用火災警報器による地域警報ネットワーク構築のフィールド実験を継続実施した。また併せて、市場関係者の火災警報の共有等の地域ぐるみの共助体制構築に関するヒアリング調査を行い、無線通信障害による誤作動復旧の負担が大きいことから、複数店舗間での火災警報共有には通信障害の防止策が必要であることや、モデル実験での住警器と消火装置の設置や自店舗での火災対策実施による安心感の向上と過去の市場火災の記憶の希薄化などによる防火意識の変化が見られたことから、防火に対する油断が生じないための工夫が必要である等の知見が得られた。また、新潟県燕市で発生した木密地域火災(平成27年10月)の調査を行い住警器による地域警報ネットワーク普及に資する検討資料の収集を行った。

(オ) サブテーマ「熱画像を活用した再燃火災の発生防止に関する研究」では、再燃着火の危険性が高い、天井裏の木製部材の接合部(木組み)が長時間燃焼した想定での実験を行った。木組みを木材クリブによる裸火で下方から加熱しながら、熱画像カメラ、通常のビデオカメラ、通常のデジタルカメラで観察した(第6-8図)。加熱後、少量の散水を行い、外からは、赤熱する部分が見えず、煙もほとんどでない状態、「鎮圧」とみなせる状態にした(第6-9図)。時間が経過すると、接合部付近から白煙が出始め、その後、接合部から火炎が出るのが見え、再着火した(第6-10図)。外見では残火が見えなくても、熱画像カメラでは、高温の部分を見つけることができた。これまでの実験結果等をまとめ、「赤外線カメラの活用による再燃火災防止のためのガイドライン」を作成した。

第6-8図 実験の様子
第6-9図 「鎮圧」と見なせる状態を実験的につくった様子
第6-10図 再着火の様子
第6章 消防防災の科学技術の研究・開発
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