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第6章 消防防災の科学技術の研究・開発
(5) 消防ロボットシステムの研究開発

ア 背景・目的

東日本大震災において、千葉県市原市の石油化学コンビナートで大規模な爆発が発生した。平成24年9月には、兵庫県姫路市において石油化学プラント爆発火災事故が発生し、消防職員1人が殉職し、消防職員を含む36人が負傷した。このように、石油化学コンビナートにおける大規模・特殊な災害時には、消防隊員が災害現場で活動することは危険と隣り合わせで、極めて困難である。しかしながら、災害の拡大を抑制できないと、危険な領域が拡大し、近隣地域へ影響を及ぼす。さらには、石油化学プラントは社会的基盤として重要な施設であるので、災害発生後の復旧の遅れにより、石油化学製品の供給が滞り、市民生活に影響を及ぼすことにもなる。

危険な災害において消防活動を行う手段として、ロボットの利用が考えられる。これまでに研究開発されてきた消防ロボットは、遠隔操縦により稼働し、また、1台で完結しているタイプであった。遠隔操縦によってロボットを稼働させるには、操縦者とロボット間の距離に限度があり、危険な災害においては安全な距離の確保が難しいという問題があった。また、大規模な災害では状況の把握と対応を1台のロボットで対応することは難しかった。

そこで消防庁では、このような災害においても、自律技術により安全な場所からロボットを稼働させることができ、また、複数のロボットが協調連携し大規模災害にも効率的に対応できる消防ロボットシステムを、ドラゴンハイパー・コマンドユニットの資機材として研究開発を進めてきている。

イ 消防ロボットシステムの概要と想定事案

研究開発している消防ロボットシステムの活動イメージが第6-11図である。消防ロボットシステムは、飛行型偵察、走行型偵察、放水砲及びホース延長の計4機のロボットと、指令装置で構成されている。また、コンテナにそれら全てのシステムを収容し搬送する。まず、飛行型偵察ロボットと走行型偵察ロボットが自律的に飛行あるいは走行し、上空及び地上から偵察、放水監視等の情報収集を行う。偵察ロボットからの情報を基に、放水砲ロボット及びホース延長ロボットが連携し、自律的に走行し、放水を行う。放水砲ロボットには、放水及び泡放射するノズルを備え、1分間に4,000リットルの容量を圧力1.0MPaで放射する。災害現場でロボットを稼働させるため、予想できない状況や判断が難しい局面もあると考えられる。そこで、活動の各段階において指令装置から消防隊員に判断を求める。消防隊員は指令装置を介してロボットに指令を送る。なお、全てのロボットは電動としている。偵察ロボットは稼働時間中にバッテリィの交換を行い、ロボットシステム全体として10時間以上の連続稼働を目標としている。

第6-11図 研究開発する消防ロボットシステムの活動イメージ

想定している事案は、延焼拡大阻止のための冷却、発災施設の倒壊防止のための冷却及び一定規模の石油タンク等の火災の抑制・消火活動とした。冷却活動を行う際には、非常に高い放射熱環境下で安定して動作できる必要がある。火炎に最も近接する放水砲ロボットをはじめ各ロボットは、現時点で国内において想定できうる最大の火災に対応できる耐熱性能を有している。

ウ 研究開発の状況

研究開発を平成26年度に開始し、5年計画で進めてきている。まず、平成26年度に設計を行った。

平成27年度には、設計した機構などを部分的に試作し、その性能を検証するとともに、設計を修正した。飛行型偵察ロボットは、研究開発の仕様において風速12mの定常風下で運用可能と指定しており、第6-12図が、その性能検証実験の様子である。実験の結果、飛行制御可能であることが確認された。部分試作した走行型偵察ロボットの走行機構の性能確認試験の様子が第6-13図である。走行型偵察ロボットは走行する路面の状況を探査するためのものであり、路面の状況に応じて車輪及び履帯の2つの走行モードで移動できる。第6-13図は走行型偵察ロボットが車輪走行モードの状態を示している。この部分試作を利用して性能を確認し、平成28年度の単体ロボットの試作への改良等への基礎データを得た。第6-14図は、部分試作した放水砲ロボットの走行機構である。配備後の維持管理をより容易にするために、放水砲ロボット及びホース延長ロボットは同一の走行機構を採用した。放水砲ロボットのノズルについては、泡放射の放射距離を考慮し「セミアスピレート方式」を採用し、企業との共同研究にて、新たに開発を行った。また、小型ノズル(1,500リットル毎分、1.0MPa)を試作し、性能検証実験にてその有効性を確認した。第6-15図はホース延長ロボットのホース繰り出し機構の性能検証実験の状況である。検証実験の結果から、最小回転半径5.0mでの繰り出しが可能と確認できた。また、高放射熱環境下でホースを延長するため、耐放射熱性能の高いホースが必要となり、新たに開発した。自律走行技術の研究開発については、実現可能性を検証するために屋外で自律走行実験を行い、基礎的な技術を確立した。

第6-12図 飛行型ロボットの強風検証実験
走行型ロボットの走行機構
放水砲ロボットの走行機構
第6-15図 ホース繰り出し機構検証実験

エ 今後の研究開発計画

平成28年度は、消防ロボットシステムを構成する各単体ロボットの試作を進めている。高度な機能は備えてないものの、遠隔操縦等で動作させ、その機能を検証する。単体ロボットの遠隔操縦で十分対応可能な災害現場であれば、この試作機を運用可能なレベルで完成させることとしている。さらに平成29年度には、単体試作機での評価結果、「自律」及び「協調連携」という高度なロボット技術を導入した実戦配備型の開発を開始し、平成30年度に完成させる計画である。

第6章 消防防災の科学技術の研究・開発
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