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平成13年12月7日判決言渡 同日原本交付 裁判所書記官
平成13年(ワ)第198号 請負代金請求事件


判決

控訴人

「A」

こと
     
同訴訟代理人弁護士    
   
     
被告 「B」  
同代表理事長    
同訴訟代理人弁護士    
   

主文
   原告の請求を棄却する。
   訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由
第1    請求の趣旨
   被告は、原告に対し、45万2812円及びこれに対する平成12年9月30日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2    当事者の主張
I1    請求の原因
   原告は、「A」の名称で、消火器の補修等、消防設備全般のサービスを業としているものである。
   原告は、平成12年8月18日、被告との間で、消火器の点検、充填作業に関する請負契約(以下「本件請負契約」という。)を締結し、被告が経営するB病院(以下「被告病院」という。)において、設置されていた消火器45台につき、消火剤の充填作業を行い、同日、これを被告に引き渡した。
   本件請負契約に基づく請負代金は45万2812円である。
   よって、原告は、被告に対し、請負代金45万2812円及びこれに対する支払督促送達による催告の翌日である平成12年9月30日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払いを求める。
II2    請求の原因に対する認否
   請求の原因1の事実は不知。
   同2のうち、原告と被告との間で本件請負契約が締結されたことは否認し、その余の事実は不知。
   同3の事実は否認する。
III3    抗弁
   原告は、本件請負契約を締結にするにあたり、被告の権限を有する担当者の許可を得ていないにもかかわらず、その許可を得たと虚偽の事実を述べて、被告の担当外の従業員をその旨誤信させ、その従業員をして本件請負契約を締結させたものである。したがって、本件請負契約における被告の意思表示は原告の詐欺によるものであるから、本件口頭弁論期日においてこれを取り消す。
   被告の従業員は、原告が被告の権限を有する担当者の許可を得ていると誤信して本件請負契約を締結した。その動機は、原告に対して黙示的に表示されていたものであり、その誤信がなければ被告従業員は被告を当事者とする本件請負契約を締結しなかったものである。したがって、本件請負契約は錯誤により無効である。
IV4    抗弁に対する認否
   抗弁1の事実は否認する。
   同2の事実は否認する。
第3    当裁判所の判断
I1    原告の被告病院における行動につきみるに、甲第4号証、第5号証、乙第1号証ないし第7号証、第10号証によると、次の事実が認められる。
   原告は、平成12年8月18日、被告病院を訪れたが、原告がそれまでに被告病院で消火器充填等の作業をしたことはなく、それまでにそのような作業の申込みをしたこともなかった。
   原告は、同日、被告病院の1階受付窓口にいたC(当時22歳)に対し、「ええっと、初回になりますけれども、消火器の点検の方に一応伺ってますので、点検してからまた係の方に費用の発生する場合報告します。」と述べて、Cに対し、被告病院における消火器関係の担当者、責任者がだれかを聞くこともなく、病院内に入って行った。
   原告は、病院内を回った後、受付に戻った。そのとき、受付カウンター内には、医事課の入院係に所属するD(当時33歳)が、たまたま、受付カウンター内のコピー機で書類のコピーをしていた。原告は、受付カウンターにいた女性に対し、Dの方を指して、「ええっと、消火器のことでいいですか、こちらの方で。」と言ったうえ、コピーをしている最中のDに対し、「あっ、済みません。あっ、済みません。今回、今回初回になりますけれども、詰め替え時期のもの、消火器の詰め替え時期のものがあります。これ、一応、金額確認後、サインだけいただければ、今から。」「はい、こちらで結構です。サインだけでいいですよ。今もう外身の点検させてもらいました。」「こちらで結構です。はい。30本対象に、今から詰め替え、1本7500円ですね。詰め替え、今回初回になりますのでね、お願いします。ありがとうございます。」などと述べ、綴込み式となっている契約書へのサインを求め、Dは、これに応じて、「D」とのサインをした。もっとも、その契約書は上記のとおり綴込み式となっていたため、Dには表題の「契約書」という文字が見えなかった。そして、その間、Dは、「消火器の詰め替え・・」「そうですか」「はい」という程度の返事しかせず、原告がどのような立場の者で、Dがサインをすることがそのような意味をもつのかということの確認はまったくしていない。また、原告も、Dに対し、その書面にサインをすることにより、原告と被告との間に初めて請負契約が締結されるもので、これによって被告に請負代金債務が発生することの説明をせず、このときも、Dが被告病院でどのような業務を担当しているかを確認しなかったし、被告病院における消火器関係の担当者、責任者がだれかを聞くこともしなかった。
   原告は、いったん1階受付を離れた後、再び1階受付に戻った。そのとき、受付カウンター内の支払、会計窓口では、医事課の外来庶務係に所属し、受付等を担当しているE(当時24歳)が、カルテの出入れの業務をしていた。原告は、その業務をしている最中のEに対し、「先ほどの方から承認の印鑑をもらっていますので、追加分の方にも印鑑をもらえますか。」などと述べ、Eは、これに応じて、契約書に印鑑を押捺した。その契約書は、前記のとおり、綴込み式となっていたため、Eには表題の「契約書」という文字が見えなかった。このときも、原告は、Eに対し、その書面にサインをすることで、原告と被告との間に請負契約が締結されるもので、これにより被告に請負代金債務が発生することの説明はせず、Eが被告病院でどのような業務を担当しているか、被告病院における消火器関係の担当者、責任者がだれかということを確認しなかった(甲第5号証には、原告がEに対し、消火器のことはEで対応できるのかということを尋ねたところ、Eがそれでよいと答えたという趣旨の記載があるが、原告が提出する録音テープの反訳書である甲第4号証にもそのような記載はないのであるから、甲第5号証記載の上記事実を認定することはできない。)。
   原告は、C、D、Eとの会話について、C、D、Eに告げることなく、少なくともその会話の一部を録音機で録音していた。
II2    被告の組織、それまでの被告における消火器点検作業等についてみるに、(1) 被告の事務関係については、その責任者が事務長、事務次長であり、その下に、総務課長、医事課長、健康相談室長がいて、消火器の設置、管理等は、総務課長の下にその担当者がいること(乙第9号証、10号証)、(2) 被告病院では、原告による上記作業がされた僅か2か月前の平成12年6月20日、FことGによって、消火器等、消火設備の点検が実施され、被告は、同年7月18日、この点検結果をH消防署長に報告したこと(乙第30号証)、(3) 原告も被告病院内の消火器を見て、上記のとおり点検が実施されたことを認識していたこと(乙第7号証、第8号証、原告本人尋問の結果)、以上の事実が認められる。
III3    以上の事実関係のもとでは、原告と被告との間に、本件請負契約が締結されたと認めることはできない。すなわち、相当多数の従業員が雇用されている法人組織のもとで、本来の担当業務と異なる業務に関して、個々の従業員が、本来契約締結権限を有している者(法人の代表権限を有している者、代表権限を有している者から一部の法律関係について代理権限を与えられている者等)から契約締結権限を与えられているということは一般的にも認められないものである。本件においても、契約書に署名ないし捺印をしたDは医事課の入院係に、Eは医事課の外来庶務係にそれぞれ所属しているのである。そして、このような従業員は、自己が所属している部署において、既に基本的な契約関係が成立している業者との間で、その基本的契約関係に基づく派生的な個々の契約関係(例えば、Dについていうと、入院係において必要な物品につき、既に被告が基本的な契約関係を締結している業者との間で、その業者から日常的に納入される物品の個数を確認し、その個数についての売買をするような契約関係)につきその契約締結権限を与えられているとみる余地はあるが、それを超えて、本件のように、D、Eが自己の部署と関係のない部署に関する契約の締結権限を有することを認めるに足りる証拠はなく、まして、初めての業者との間において契約を締結する権限を有することを認めるに足りる証拠もない。また、以上のところから、DやEが被告の使者として上記の契約を締結することもできないことは明らかである。
   他方、原告は、その主張するところによると、消火器の補修等、消防設備全般のサービスを業としているというのであるから、法人組織の中で、個々の従業員がその担当業務以外の業務につき契約締結権限を有することはなく、まして、当該法人が他の業者との間で消火器等の消火設備を点検する契約を締結したうえ、これに基づき点検を実施しているのに、その僅か2か月後に、原告のような基本的契約関係のない業者との間で、初めての法律関係を発生させる契約を締結する権限を有するものでないことは、当然に知っていたはずである。それにもかかわらず、原告は、前記認定のとおり、C、D、Eに対し、被告病院における消火器関係の担当者、責任者がだれかを聞くことをせず、D、Eに対し、同人らが被告病院でどのような業務を担当しているかを確認することもしていないのである。そればかりか、原告は、Cらとの会話内容をCらに告げることなく録音機で録音して、その会話内容を証拠として提出したうえ、その理由として、悪徳業者と間違えられることを懸念した(甲第5号証)、事実関係をきちんとしておくためである(原告本人尋問)と述べる。しかし、悪徳業者と間違えられることを防止し、あるいは事実関係をきちんとさせて紛争が発生することを防止するのであれば、原告としては、Cらに対し、事務方の責任者はだれか、消火器関係の担当者、責任者はだれかということを質問し、その回答を受けて責任者のもとへ行き、その責任者との間で基本契約を締結するなどすれば足りるのであり、そのような手段をとっていれば、悪徳業者と間違えられることはなく、紛争が発生することもないことは、原告において当然に認識できたはずのことがらである。原告がそれをせず、前記のとおり消火器関係の担当者、責任者を確認もしないまま、D、Eをして契約書に署名ないし捺印をさせ、その反面で会話内容を録音しているということは、原告自身、そのような手続によったのでは将来紛争が発生するであろうということを予想し、これに備えて会話内容を録音していたということを推認させるものである。したがって、仮に、原告がそのような方法で請負契約が成立するという期待をしていたとしても、それが法によって保護される正当な期待であるということはとうていできず、本件請負契約の成立を否定することは、契約の成立に関する原告の正当な期待を侵害するものではないというべきである。
IV4    よって、その余について判断するまでもなく、原告の請求は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。
(口頭弁論の終結の日 平成13年11月21日)
大津地方裁判所
裁判官  
   佐賀 義史

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