平成26年版 消防白書

[石油コンビナート災害対策の課題]

1.石油コンビナートにおける災害対策の推進

(1) 東日本大震災を踏まえた石油コンビナートの地震・津波対策

東日本大震災により、石油コンビナート等特別防災区域内においても火災等の災害や特定防災施設等に被害が生じたことから、特定事業者における地震・津波対策を推進する必要がある。

(2) 特定事業所における防災体制の充実強化

特別防災区域の特定事業所における火災、漏えい等の事故は、平成18年に200件を越え、平成24年は248件と石油コンビナート等災害防止法の施行後、最多となり、平成25年は229件で平成24年に比べ19件減少したものの、依然高い水準にある。
また、東日本大震災及びその後において発生した石油コンビナート災害では、大規模な爆発、火災の延焼等により、当該事業所の敷地外、更には石油コンビナート等特別防災区域の外部にまで影響が及ぶ事案や収束まで長期間を要する事案が発生した(事故事例は次のとおり)。

塩化ビニルモノマー製造工程の塩酸塔還流槽付近で緊急停止作業中に爆発火災が発生。死者1名。漏えいした二塩化エタンが排水口より流出(一部は海域に流出)。

レゾルシン製造施設の有機過酸化物の酸化工程で、緊急停止作業中に爆発火災が発生。死者1名、負傷者21名が発生。爆発に伴う飛散物や衝撃により事業所外にも被害が生じた。

長期間休止していたアスファルトタンクにおいて、アスファルトを移送するため加温していたところ、内部に溜まった水が沸騰し、タンクが破損してアスファルトが流出。その一部が近傍の排水口を伝って海上に流出し、オイルフェンスを越えて拡散。

アクリル酸製造施設のスタートアップ中、精製過程にある残渣混じりのアクリル酸を一時貯蔵するタンクにおいて、異常な温度上昇により爆発火災が発生し、隣接する別のアクリル酸タンクとトルエンタンクに延焼。消防職員1名が殉職、消防職員24名を含め36名が負傷したもの。

貯蔵していた原油が浮き屋根の浮き部分に流出し、浮き屋根が原油中に沈降したもの。このことに伴い、ルーフドレンから防油堤内へ第4類の危険物(原油)が約4.5キロリットル流出した。原油が露出した状態が長期間継続したことによる異臭への対応や沈降した浮き屋根の安全な着底作業及び原油の移送作業等に長期間を要したもの。

第6精製水素精製系クロロシラン分離水素精製設備(危険物施設(危険物製造所))から保守作業のため熱交換器を取り外し、別の場所で洗浄作業を行っている際に何らかの原因により熱交換器内部の物質(クロロシランポリマー類の加水分解物)が爆発したもの。死者5名、負傷者13名が発生した。

コークス炉上部に設置された石炭塔内に設置されているホッパー(石炭を一時貯蔵する装置)が何らかの原因により爆発が発生。負傷者15名が発生した。
このような状況を踏まえ、今後も引き続き特定事業所における事故防止体制と災害応急体制の充実強化に取り組むとともに、特定事業所の防災体制の現状を把握し、適切な指導、助言等を行っていく必要がある。
また、異常現象の通報については、通報までに時間を要している事案が見られることから、通報の迅速化について特定事業所をはじめとする関係者へ指導や助言を行っていく必要がある。

(3) 大容量泡放射システムの効果的な活用

大容量泡放射システムについては、広域共同防災組織等において同システムを用いた防災訓練が実施されている。同システムの災害時における実効性を高めるために、今後も引き続き、広域共同防災組織等における取扱訓練や放水訓練等の実施及び特定事業者と道府県を中心とした関係防災機関等が一体となった防災訓練の実施を促進することが必要である。
また、同システムについて、石油コンビナート等防災本部が行う活動並びに防災教育及び防災訓練においては、最近の災害事例を踏まえた実践的な取組が必要である。
なお、同システムの活用事例としては東日本大震災時に基地から現場までの搬送を行った事例(平成23年3月11日千葉県での高圧ガス施設の爆発火災、平成23年3月22日宮城県での屋外貯蔵タンクの浮き屋根沈降疑い事案)、平成24年11月に基地からの現場までの搬送、現地での設定を行った事例(沖縄県での屋外貯蔵タンクの浮き屋根沈降事故)がある。いずれも泡放射は実施していない。

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