平成26年版 消防白書

2.広島市の土砂災害を踏まえた災害リスク情報の的確な提供の推進

(1) 災害の概要

日本付近に前線が停滞し、暖かく非常に湿った空気が流れ込み、平成26年8月19日夜から翌20日明け方にかけて、広島市を中心に猛烈な雨となり、安佐北区三入では1時間降水量101ミリ、3時間降水量217.5ミリを観測するなど観測史上最大の値を記録した。
この影響により、広島市安佐北区及び安佐南区では、同月20日未明に複数箇所で土砂災害が発生し、死者74名、負傷者44名(平成26年10月20日午後2時時点の消防庁被害報)という甚大な被害が発生した。

(2) 政府の対応及び消防機関の活動

ア 政府全体の対応

政府では、平成26年8月20日午前4時20分に官邸に情報連絡室を設置した。同日午前6時30分には安倍内閣総理大臣から、災害応急対策、住民の避難支援、大雨等に関する情報提供、被害の拡大防止等に関する指示が発せられ、午前9時には関係省庁による連絡会議を、午前10時には関係省庁災害対策会議を開催し、被害状況、各省庁の対応状況等について情報共有を行った。また、午前11時15分には情報連絡室を官邸連絡室に改組、翌21日午後3時には官邸対策室に改組し、体制の強化を図った。
その後、8月22日午前9時、土砂災害の発生から2日経過後もなお、行方不明者が多数おり、救助活動が長期化する事態が生じていることを踏まえ、災害対策基本法第24条第1項の規定に基づき、平成26年(2014年)8月豪雨非常災害対策本部を格上げ設置するとともに、広島県に、西村内閣府副大臣を本部長とする非常災害現地対策本部を設置することを決定した(現地対策本部については、同年9月9日に現地連絡調整室となり、9月19日に閉室)。
被災者の生活支援を広島県及び広島市と連携して迅速かつ的確に進めるため、8月25日、現地対策本部に「被災者支援チーム」を設置した。また、広島県、広島市及び現地対策本部が、現地における課題解決を迅速かつ包括的に進めるため、「8.20 土砂災害応急復旧連絡会議」を翌26日に設置した。

イ 消防庁の対応

消防庁では、平成26年8月20日午前4時30分に応急対策室長を長とする「消防庁災害対策室(第1次応急体制)」を設置、同日午前8時30分には国民保護・防災部長を長とする「消防庁災害対策本部(第2次応急体制)」に改組し、広島県、広島市及び広島市消防局に対して適切な対応及び被害状況の報告を求めるなど、情報収集を実施した。
その後、同日午後0時30分に広島県知事から消防組織法に基づき、緊急消防援助隊の応援要請を受け、消防庁長官が1府3県の知事(大阪府、鳥取県、岡山県、高知県)に対して緊急消防援助隊の出動を求めた。翌21日午後7時30分には、救助体制を強化するため、新たに3県の知事(島根県、山口県、愛媛県)に対して緊急消防援助隊の出動を求めた。
同月22日午前9時00分には、災害対策基本法に基づき、政府に「平成26年(2014年)8月豪雨非常災害対策本部」が設置されたことを受け、消防庁の体制を消防庁長官を長とする「消防庁災害対策本部(第3次応急体制)」に改組した。
また、発災直後から消防庁職員及び消防研究センター職員を現地活動支援のために派遣し、被害状況の確認、緊急消防援助隊に関する調整等を実施した。

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ウ 緊急消防援助隊の活動

消防庁から出動の求めを受けた緊急消防援助隊は、高度救助隊及び航空隊を中心とする編成で広島市へ出動した。活動概要は以下のとおりである(特集3-3表)。

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(ア)出動期間
平成26年8月20日から同年9月5日まで(17日間)
(イ)活動規模
a 694隊 2,634人
b 活動規模のピーク
62隊 228人(平成26年8月28日・同月30日)
(ウ)主な活動内容
a 岡山市指揮支援隊は、消防をはじめ、自衛隊、警察等の関係機関で設置した現地合同指揮所において、活動エリアの区割りなど活動方針について他機関との調整を実施するとともに、緊急消防援助隊各隊に対する一体的な活動管理を実施した。
b 陸上隊は、災害現場において被害情報を収集するとともに、重機、津波・大規模風水害対策車両等の特殊車両を活用し、高度救助隊を中心として要救助者の捜索、救助、がれき除去活動等を実施した。
また、宿営地の広島県消防学校では、拠点機能形成車両等を活用し、隊員の後方支援活動を実施した。
c 航空隊は、上空からの被害情報の収集、要救助者の捜索、隊員等の輸送を実施した。
また、被害情報の収集において、緊急消防援助隊の活動では初めてヘリサットシステムを活用し、消防庁ヘリ5号機(高知県消防防災航空隊運航)から消防庁に映像を送信した。

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エ 広島県内広域消防相互応援協定に基づく応援

平成26年8月20日午前11時15分に広島市長から広島県内広域消防相互応援協定に基づく応援要請を受けて、広島県内12消防本部(広島市消防局を除く全消防本部)の応援隊が出動した。
また、同月28日午後1時20分には、同協定に基づき、消防団に対する応援要請があり、県内8市町消防団(廿日市市、安芸高田市、府中町、海田町、熊野町、坂町、安芸太田町、北広島町)の応援隊が出動した。活動概要は以下のとおり。
(ア)出動期間
平成26年8月20日から同年9月5日まで(17日間)
(イ)活動規模
a 全体(延べ人数)
1,512人(うち県内応援消防団41人)
b 活動規模のピーク
146人(平成26年8月29日)
(ウ)主な活動内容
a 広島県内消防本部応援隊は、災害現場において被害情報を収集するとともに、要救助者の捜索及び救助活動を実施した。
また、無線中継車を活用し、被害状況や消防機関の活動状況について、消防庁に対して映像送信によるリアルタイムの情報提供を実施した。
b 広島県内消防団応援隊は、広島市消防局、広島県内消防本部応援隊及び緊急消防援助隊とともに要救助者の捜索及び救助活動を実施した。

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オ 広島県防災航空隊

広島県防災航空隊は、広島県災害対策本部の指示により、平成26年8月20日午前7時20分から安佐北区及び安佐南区の上空で被害情報を収集した。
また、安佐南区八木の孤立地域において要救助者の救助活動、河川の捜索活動等を実施した。

カ 広島市消防局及び広島市消防団(地元消防機関)

広島市では、平成26年8月20日午前1時35分に「広島市災害警戒本部」を設置し、その後、同日午前3時30分に「広島市災害対策本部」に格上げした。
広島市消防局は、災害発生後直ちに被害情報を収集するとともに、要救助者の捜索及び救助活動を実施した。
また、広島市消防団は、広島市消防局、広島県内消防本部応援隊及び緊急消防援助隊と要救助者の捜索及び救助活動を実施するとともに、避難誘導や避難所における支援活動を実施した。

キ 関係機関との連携

発災直後から安佐南区の災害現場近くに設置された現地合同指揮所において、消防、自衛隊、警察、国土交通省(TEC-FORCE)等の関係機関が集まり、2次災害発生の危険性など災害現場の情報を共有するとともに、活動エリアの区割りなど活動方針を調整・決定した。
また、災害現場においても、自衛隊、警察等と連携し、要救助者の捜索及び救助活動を実施した。

(3) 災害を踏まえた災害リスク情報の的確な提供の推進

ア 深夜を含めた災害リスク情報の的確な提供

平成11年(1999年)6月に広島市において発生した土砂災害を教訓に、平成12年(2000年)に土砂災害防止法が制定されたにもかかわらず、再びその近隣地域において、前回を大きく上回る甚大な被害が発生した。これを踏まえ、こうした大規模な災害を二度と起こさないよう、平成26年9月5日、「平成26年8月豪雨非常災害対策本部」において、関係府省庁が行う主な取組事項を決定した。
取組事項としては、今回の広島市については、夜間における避難勧告のあり方が課題となったことから、「深夜を含めた災害リスク情報の的確な提供」をその1つに掲げており、消防庁では具体的に以下の取組を行っている。
(ア)平成26年4月に改定した『避難勧告等の判断・伝達マニュアル作成ガイドライン』の周知徹底、確認
土砂災害について、避難準備情報の判断基準の設定例を、「大雨注意報が発表され、当該注意報の中で、夜間~翌日早朝に大雨警報(土砂災害)に切り替える可能性が言及されている場合」としており、また、「基本的に夜間であっても、躊躇することなく避難勧告等は発令する」としているなど、ガイドラインにおける主な記載内容を改めて周知するとともに、判断基準がガイドラインに照らして不足、不備等ある場合は必要な見直しを行うよう、平成26年9月、地方公共団体に依頼した。
(イ)市町村における緊急速報メールの整備促進、防災行政無線の戸別受信機の配備促進
夜間や早朝を問わず、住民に即時、確実に情報を伝達するには、複数の情報伝達手段を組み合わせる必要があることから、市町村における緊急速報メールについて、早急に100%を目指し整備促進するとともに、防災行政無線の戸別受信機の配備を図っていく。さらに、Lアラート(災害情報共有システム)の平成26年度中の全都道府県への導入決定を目指し、順次活用を進めていく。

イ 突発的局地的豪雨による土砂災害時における防災情報の伝達のあり方に関する検討

昨今、突発的局地的な豪雨に伴う土砂災害が頻発していることを踏まえ、平成26年10月に「突発的局地的豪雨による土砂災害時における防災情報の伝達のあり方に関する検討会」を発足させ、このような場合における防災気象情報や避難勧告等の防災情報の伝達について、どういった情報をどのような範囲でどう伝達すべきか検討している。
具体的には、防災行政無線(屋外スピーカー・戸別受信機)や登録制メール等の情報伝達手段を活用し、エリアを限定した情報伝達をどのように行うかについて検討し、平成26年度中に結論をとりまとめることを予定している。

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