令和元年版 消防白書

3.中央防災会議通知

防災基本計画の修正内容等を受け、出水期前の令和元年5月に、中央防災会議会長から都道府県防災会議会長に対し、以下の点に留意して防災態勢の一層の強化を図ることを要請するとともに、管内市町村防災会議への周知を依頼した。

〔1〕災害の発生を未然に防止するため、防災事務に従事する者の安全確保にも留意した上で、職員の参集や災害対策本部の設置等適切な災害即応態勢の確保を図り、関係機関との緊密な連携の下に、特に以下の取組について万全を期すること。
 (1)防災・減災、国土強靱化のための3か年緊急対策の実施
重要インフラの緊急点検結果等を踏まえ、「防災のための重要インフラ等の機能維持」及び「国民経済・生活を支える重要インフラ等の機能維持」の観点から特に緊急に実施すべきハード・ソフト対策を着実に実施し、被害の防止・軽減を図ること。
 (2)危険箇所等の巡視・点検の徹底
河川等の氾濫、がけ崩れ、土石流等災害発生のおそれのある危険箇所の巡視・点検の徹底を図るとともに、地形、地質、土地利用状況、災害履歴及び最近の降雨状況を勘案し、従来危険性を把握していなかった区域も併せて再度安全性を点検する等、適切な措置を講ずること。災害復旧事業施行中の箇所について、再度の災害発生及び復旧作業中の事故等を防止するため、気象情報等に留意しつつ警戒監視を行う等、適切な措置を講ずること。
 (3)河川管理施設を始めとする施設管理等の強化
施設管理者等は、災害発生に備え、管理施設等について、点検及び必要な箇所に対する補修等の措置を講ずるとともに、施設の操作人員の配置計画、連絡体制、操作規則等の確認をする等、管理の強化を図ること。また、台風の接近等、災害発生のおそれのある場合には、事前に改めて施設の点検等を行うこと。
 (4)地下空間の浸水対策等の強化
地下空間を管理する主体と連携し、地下空間の浸水に対する危険性について、利用者に対して事前の周知を図り、浸水対策及び避難誘導等安全体制の強化に万全を期すること。洪水が発生し、又は洪水が発生するおそれがある場合には、迅速かつ的確な情報の伝達、利用者等の避難のための措置等を講ずること。
 (5)道路の冠水・法面崩壊・越波対策等の強化
道路のアンダーパス部等、局地的な大雨により冠水し、車両が水没する等重大な事故が起きるおそれがある箇所については、道路利用者への注意喚起や情報提供を適切に行うとともに、事前に標識、情報板、排水ポンプ等の施設を点検する等の措置を講ずること。台風による越波、大雨による法面崩壊等の土砂災害のおそれのある箇所については、通行止め等の措置を適切に行い、被害を防止すること。施設管理者や所轄の警察、消防は引き続き、相互に情報を共有するとともに、連絡体制の確保、通行止めの措置、救助等に遅れが生じないよう措置を講ずること。また、台風などによる電柱倒壊で道路の閉塞が発生した際には、通行止め等の措置を適切に行うとともに、電線管理者より可及的速やかに報告がなされるよう連絡体制を確保すること。
 (6)災害発生のおそれのある箇所等の周知徹底
住民等が災害から身を守るための安全確保行動に資するため、浸水想定区域(洪水、内水、雨水、高潮、津波)や、津波災害警戒区域、土砂災害警戒区域、土砂災害危険箇所を始めとする災害発生のおそれのある箇所や避難経路、指定緊急避難場所等の情報について、ハザードマップの活用及び看板の設置等を通じ、住民等への周知徹底を図ること。
 (7)水辺等利用者に対する情報提供及び自助意識の啓発
大雨後の河川増水時には、河川管理者等と連携し、河川等の水辺利用者に対して情報を提供し、安全な場所へ避難するよう注意を促す等、適切に対応すること。増水時や台風の際、農業用水路、排水路、岸壁等から落ちる危険性等もあることから、これらに近付かない等の注意を促すことも含めて、水難事故防止についての自助意識を啓発すること。
 (8)指定緊急避難場所の確保等
市町村は、避難経路の安全性や住民が安全に避難できる時間等も考慮した上で、住民の居住地近隣に災害の種別ごとに指定緊急避難場所を確保するとともに、指定緊急避難場所を確保することが困難である場合には、指定緊急避難場所以外の比較的安全な避難場所を確保することや自主防災組織等が地域内で比較的安全な施設等を近隣の安全な場所として自主的に設定することに対して助言すること等により、住民の居住地近隣に避難場所を確保することについても検討されたい。
このほかに、関係機関及び市町村が指定緊急避難場所の表示等を新設・更新する際は、当該避難場所が対応している災害種別が一目でわかるよう、日本工業規格として定めた「災害種別図記号(JISZ8210)」及び「災害種別避難誘導標識システム(JISZ9098)」に基づく表示に努めること。
なお、激しい雨が継続する、あるいは落石等の災害の前兆現象が発生する等して、指定緊急避難場所まで移動することが、かえって命に危険を及ぼしかねないと判断される場合は、近隣のより安全な場所や建物へ移動し、それさえ危険な場合は屋内上階の山からできるだけ離れた部屋等へ避難する等して安全を確保する必要性についても併せて周知を図ること。特に、地震の被害を受けた地域においては、降雨による土砂災害が発生しやすい状況にあることから、十分に注意すること。
 (9)災害対策本部における機能の維持
災害対策本部は、本部長である市町村長が適時適切な判断を下せるよう、的確な情報の収集・整理を行う等、膨大な業務に対処する必要があることから、防災担当部局の職員に過度な負担がかかり機能不全に陥ることがないよう、平常時から災害時における優先すべき業務を絞り込むとともに、当該業務を遂行するための役割を分担する等、全庁を挙げた体制をあらかじめ構築しておくこと。また、一定の業務を継続的に行えるよう業務継続計画を確認し、必要に応じて修正する等の対策をとること。災害対策本部が設置される庁舎においては、災害発生時に備え、非常用電源を設置し、浸水等への対策や十分な燃料の確保を行うとともに、定期的な保守・点検等の実施や停電時に確実に作動するよう確認、訓練等の対策を講ずること。
 (10)受援計画
被災した市町村は、国・都道府県・市町村・救助機関・医療機関・ボランティア等、様々な主体から多数の応援の申出がなされると同時に応援を要請するようになる。それらの応援を円滑に受け入れ、かつ、効果的に活用するため、市町村は地域防災計画等に受援計画を重要業務として位置付け、可能な限り、受援調整を専門に行う部署を設置する等して、受入れ体制の確保に努めること。なお、上記事項は都道府県についても同様に留意するとともに、被災市町村を包括する都道府県は、受援調整等について積極的な支援に努めること。
 (11)避難勧告等の発令・伝達、避難判断のための訓練等
災害時に躊躇なく避難勧告等を発令・伝達できるようにするとともに、住民自身が適切に避難行動をとることができるようにするため、専門家等の知見も活用し、職員と多数の住民の参加による洪水や土砂災害等の地域の実情に応じた災害を想定した避難勧告等の発令・伝達、避難判断のために地域内での声かけにより避難する取組や、安全を確認する訓練を、災害発生のおそれが高まる出水期前に実施するよう努めること。また、各地域における自助・共助の取組の適切かつ継続的な実施に向け、専門家の支援により地域防災リーダーの育成に努めること。
 (12)ボランティアによる支援活動環境整備
災害が発生した場合、ボランティアによる支援活動が円滑に行われるよう、発災時のみならず平時から社会福祉協議会、ボランティア団体、中間支援組織(NPO・ボランティア団体等の活動を支援するため、人材、資金、情報等の仲介やコーディネート等を担う組織)等との連携を促進し、必要な情報の提供を行うとともに、受援体制の整備に努めること。特に発災後は、被災者支援活動の情報等の共有、活動の調整等を行う「情報共有会議」の開催や参加を促すこと。また、ボランティアを受け入れるに当たっては、ボランティア保険への加入奨励、危険な作業の回避等の安全確保対策を十分に講ずること。
 (13)関係機関から市町村に対する助言
市町村から助言を求められた際には、所掌事務に関し、適切に必要な助言を行うことができるよう、事前の準備を十分しておくこと。また、市町村に対しては、必要に応じ都道府県等に助言を求めるよう周知すること。
〔2〕災害発生時には早期避難のための避難態勢の構築等を図り、住民が適時的確な避難行動を判断できるよう、関係機関との緊密な連携の下に、特に以下の取組について万全を期すこと。
 (1)防災気象情報及び河川情報の収集及び早い段階からの危機意識の醸成及び確実な防災情報伝達の徹底
災害発生の危険度の高まりに応じて段階的に発表される注意報・警報・特別警報等(早期注意情報(警報級の可能性)、警報に切り替える可能性が高い注意報を含む。)、危険度の高まりが5段階等で色分け表示された危険度分布等(土砂災害警戒判定メッシュ情報、流域雨量指数の予測値、大雨・洪水警報の危険度分布)、土砂災害警戒情報、指定河川洪水予報、竜巻注意情報、台風情報等の防災気象情報及び河川の水位、カメラ画像等の河川情報の収集・伝達を徹底し、関係者間での危機意識の醸成及び共有を図ること。
平成31年3月に改定した「避難勧告等に関するガイドライン」を踏まえ、防災情報を5段階とし、これまでの「避難準備・高齢者等避難開始」を警戒レベル3に、「避難勧告」「避難指示(緊急)」を警戒レベル4に位置づけるとともに、既に災害が発生し、命を守るための最善の行動を取る段階であることを伝える「災害発生情報」を可能な範囲で発令することとし、これを警戒レベル5に位置づけて伝達すること。
また、避難勧告等の発令に資する情報を、気象庁、施設管理者等が市町村に提供し、市町村の発令判断を支援することとしているので、これに留意し、住民の主体的避難行動を支援すること。
ホームページ、SNS等のインターネット(以下「インターネット」という。)等により提供された情報については、必要に応じ適切に災害対応に活用すること。
住民等の安全確保のため、市町村は、防災行政無線、緊急速報メールを始め、マスメディアとの連携や、広報車・インターネット・コミュニティFM・Lアラート等を活用した多様な伝達手段を整備・点検し、組み合わせて活用する等、不特定多数の者が出入りする施設等の関係者を含め、住民等に対し早い段階から確実に防災情報を提供すること。さらに、PUSH型手段によるエリアを限定した避難勧告等の伝達については、特に人口や面積の規模が大きい市町村において、夜間や早朝に突発的局地的豪雨が発生した場合、住民の混乱や市町村における応急対応の遅れ等のリスクを低減する観点から有効であると考えられるため、地域の実情に応じて、その有効性や運用上の課題等を考慮した上で検討すること。
 (2)避難勧告等の発令
市町村は、関係機関の支援を受けながら、自然条件や地形、住民の居住状況等といった、それぞれの地域の持つ特性を考慮した、具体的でわかりやすい避難勧告等の発令基準や発令区域を設定し、事前に発令区域や発令のタイミング等を住民に周知すること。
特に、土砂災害は、突発的に発生し、発生場所や発生時刻の詳細を予測することが困難で命を脅かすことが多い災害であることから、「避難勧告等に関するガイドライン」等が示す通り、土砂災害警戒情報が発表された場合は、土砂災害に関するメッシュ情報において危険度が高まっているメッシュと重なった土砂災害警戒区域・危険箇所等に直ちに避難勧告を発令することを基本とすること。
また、その他洪水予報河川や水位周知河川に比べて得られる情報が少ない洪水予報河川・水位周知河川以外の河川等についても、山地部等にあり氾濫流により家屋流出をもたらすおそれがある等、命の危険を及ぼすと判断したものについては、避難勧告等の発令基準を策定すること。
避難勧告等の発令については、避難住民の受入れに備え、避難準備・高齢者等避難開始の段階から指定緊急避難場所を開放しているが、局地的かつ短時間の豪雨の場合等、避難のためのリードタイムがなく危険が切迫している状況にあっては、指定緊急避難場所開放前であっても躊躇なく避難勧告等を発令すること。
避難勧告等に係る本庁と行政区・支所との間における責任区分や発令権者を明確化すること。また、時機を逸することなく適切に避難勧告等を発令・伝達できるよう、夜間休日も含めた宿日直体制や職員緊急参集体制の構築により、万全の体制を確保すること。
 (3)要配慮者への情報伝達等
要配慮者の避難を考慮し、市町村への防災情報の提供を早期に行うとともに、要配慮者利用施設管理者等に対して災害計画の作成や避難訓練の実施の支援に努める。また、市町村が避難訓練の実施状況について確認するとともに、施設へ避難勧告等の情報が確実に伝達されるよう、情報伝達体制を定めておくこと。
市町村は、視聴覚障害者等の情報が伝わりにくい要配慮者に対しても避難勧告等の情報が確実に伝達されるよう適切な措置を講ずるとともに、避難行動要支援者名簿に係る名簿情報の避難支援等関係者への提供等を推進すること。
さらに、避難が夜間に及ぶおそれのある場合には、日没前に避難が完了できるよう避難準備・高齢者等避難開始を発令する等、着実な情報伝達及び早い段階での避難の促進に努めること。
また、学校における避難確保計画の作成、避難訓練及び避難訓練を通じた防災教育を効果的に実施するための取組について、積極的に支援すること。さらに、地域包括支援センター・ケアマネジャーが防災・減災への取組実施機関と連携し、水害からの高齢者の避難行動の理解促進に向けた取組を実施すること。
〔3〕市町村は、上記〔1〕~〔2〕の留意事項を含め必要な取組を確認・実行できるよう、「防災・危機管理セルフチェック項目」等を活用し、災害対応の在り方について職員の理解を深めるとともに、自己点検を通じて災害対応能力の向上を図ること。

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