令和元年版 消防白書

2.緊急消防援助隊

(1)緊急消防援助隊の創設と消防組織法改正による法制化

ア 緊急消防援助隊の創設

緊急消防援助隊は、平成7年(1995年)1月17日の阪神・淡路大震災の教訓を踏まえ、国内で発生した地震等の大規模災害時における人命救助活動等をより効果的かつ迅速に実施し得るよう、全国の消防機関相互による援助体制を構築するため、全国の消防本部の協力を得て、同年6月に創設された。
この緊急消防援助隊は、平常時においては、それぞれの地域における消防責任の遂行に全力を挙げる一方、いったん国内のどこかにおいて大規模災害が発生した場合には、消防庁長官の求め又は指示により、全国から当該災害に対応するための消防部隊が被災地に集中的に出動し、人命救助等の消防活動を実施するシステムである。
発足当初、緊急消防援助隊の規模は、救助部隊、救急部隊等からなる全国的な消防の応援を実施する消防庁登録部隊が376隊、消火部隊等からなる近隣都道府県間において活動する県外応援部隊が891隊、合計で1,267隊であった。平成13年1月には、緊急消防援助隊の出動体制及び各種災害への対応能力の強化を行うため、消火部隊についても登録制を導入した。
さらに、複雑・多様化する災害に対応するため、石油・化学災害、毒劇物・放射性物質災害等の特殊災害への対応能力を有する特殊災害部隊、消防防災ヘリコプターによる航空部隊及び消防艇による水上部隊を新設したことから、8部隊、1,785隊となった。

イ 平成15年消防組織法改正による法制化

東海地震を始めとして、東南海・南海地震、首都直下地震等の切迫性やNBCテロ災害等の危険性が指摘され、こうした災害に対しては、被災地の市町村はもとより当該都道府県内の消防力のみでは、迅速・的確な対応が困難な場合が想定される。そこで、全国的な観点から緊急対応体制の充実強化を図るため、消防庁長官に所要の権限を付与することとし、併せて、国の財政措置を規定すること等を内容とする消防組織法の一部を改正する法律が、平成15年に成立し、平成16年から施行された。
(ア)法改正の主な内容
法改正の主な内容は、緊急消防援助隊の法律上の明確な位置付けと消防庁長官の出動の指示権の創設、緊急消防援助隊に係る基本計画の策定及び国の財政措置となっている。
(イ)法律上の位置付けと消防庁長官の出動指示
創設以来、要綱に基づき運用がなされてきた緊急消防援助隊は、この法改正により、消防組織法上明確に位置付けられた。また、東海地震等の大規模な災害で2以上の都道府県に及ぶもの、NBC災害等の発生時には、消防庁長官は、緊急消防援助隊の出動のため必要な措置を「指示」することができるものとされた。国家的な見地から対応すべき大規模災害等に対し、緊急消防援助隊の出動指示という形で、被災地への消防力の投入を国が主導で行おうとするものであり、東日本大震災という未曾有の大災害に際し初めて行われ、その後、平成30年7月豪雨においても実施された。平成31年3月に改定した緊急消防援助隊の編成及び施設の整備等に係る基本的な事項に関する計画(後述。以下「基本計画」という。)において大規模な災害に対する出動指示の考え方が規定され、令和元年度台風第19号による災害に対しても出動指示が行われたところである。
(ウ)緊急消防援助隊に係る基本計画の策定等
法律上、総務大臣は基本計画を策定することとされた。
この基本計画は、平成16年2月に策定され、緊急消防援助隊を構成する部隊の編成と装備の基準、出動計画、必要な施設の整備目標等を定め、策定当初は緊急消防援助隊の部隊を平成20年度までに3,000隊登録することを目標としていた。
(エ)緊急消防援助隊に係る国の財政措置
消防庁長官の指示を受けた場合には、緊急消防援助隊の出動が法律上義務付けられることから、出動に伴い新たに必要となる経費については、地方財政法第10条の国庫負担金として、国が負担することとしている。
また、基本計画に基づいて整備される施設の整備については、「国が補助するものとする」と法律上明記されるとともに、対象施設及び補助率(2分の1)については政令で規定されている(第2-8-2表)。

第2-8-2表 平成15年消防組織法改正による緊急消防援助隊の法制化

第2-8-2表 平成15年消防組織法改正による緊急消防援助隊の法制化

(オ)緊急消防援助隊用装備等の無償使用
緊急消防援助隊の活動上必要な車両・資機材等の装備等のうち、地方公共団体が整備・保有することが費用対効果の面から非効率なものについては、国庫補助をしても整備の進展を期待することは難しい。大規模・特殊災害時における国の責任を果たすためには、その速やかな整備が必要な装備等もある。こうした装備等については、国が整備し緊急消防援助隊として活動する人員の属する都道府県又は市町村に対して無償で使用させることができることとした。

ウ 平成20年消防組織法改正による機動力の強化

東海地震、東南海・南海地震、首都直下地震等の大規模地震に対する消防・防災体制の更なる強化を図るため、緊急消防援助隊の機動力の強化等を内容とする消防組織法の一部を改正する法律が平成20年に成立し、施行された。
(ア)法改正の主な内容
法改正の主な内容は、災害発生市町村において既に活動している緊急消防援助隊に対する都道府県知事の出動指示権の創設、消防応援活動調整本部の設置及び消防庁長官の緊急消防援助隊の出動に係る指示要件の見直しとなっている。
(イ)都道府県知事の出動指示権の創設
都道府県の区域内に災害発生市町村が2以上ある場合において、緊急消防援助隊行動市町村以外の災害発生市町村の消防の応援等に関し緊急の必要があると認めるとき、都道府県知事は、緊急消防援助隊行動市町村において行動している緊急消防援助隊に対し、出動することを指示することができるものとされた。これは、平成16年新潟・福島豪雨災害や平成16年新潟県中越地震において、県内において市町村境界を越える部隊の移動が行われたことなどを踏まえ、制度を整備したものである。なお、都道府県境界を越える場合は、2以上の都道府県に及ぶ調整となることから、消防庁長官が行うこととされた。
(ウ)消防応援活動調整本部の設置
(イ)の都道府県知事の指示が円滑に行われるよう、緊急消防援助隊が消防の応援等のために出動したときは、都道府県知事は、消防の応援等の措置の総合調整等を行う消防応援活動調整本部(以下「調整本部」という。)を設置するものとされた。調整本部は、都道府県及び当該都道府県の区域内の市町村が実施する消防の応援等のための措置の総合調整に関する事務及びこの総合調整の事務を円滑に実施するための自衛隊、警察等の関係機関との連絡に関する事務をつかさどることとされた(第2-8-1図)。

第2-8-1図 消防応援活動調整本部の組織

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第2-8-1図 消防応援活動調整本部の組織

(エ)消防庁長官による緊急消防援助隊出動指示要件の見直し
活断層等により局地的に甚大な被害をもたらす地震の危険性が指摘されている。緊急消防援助隊の指示対象災害は、従来は2以上の都道府県に及ぶ大規模災害のみとされていたが、1つの都道府県のみで大規模な災害が発生した場合であっても、当該災害に対処するために特別の必要があると認められるときには、消防庁長官は、災害発生市町村の属する都道府県以外の都道府県の知事又は当該都道府県内の市町村の長に対し、緊急消防援助隊の出動のため必要な措置をとることを指示することができるものとされた。

(2)緊急消防援助隊の編成及び出動計画等

緊急消防援助隊の編成及び出動計画等については、総務大臣が定める基本計画に定められているが、その概要は以下のとおりである。

ア 緊急消防援助隊の編成

(ア)指揮支援部隊
指揮支援部隊は、大規模災害又は特殊災害の発生に際し、ヘリコプター等で緊急に被災地に赴き、災害に関する情報を収集し、消防庁長官及び関係のある都道府県の知事等に伝達するとともに、被災地における緊急消防援助隊に係る指揮が円滑に行われるように支援活動を行うことを任務としている。指揮支援部隊は、統括指揮支援隊、指揮支援隊及び航空指揮支援隊により編成される。
(イ)都道府県大隊
都道府県大隊は、緊急消防援助隊の基本的な隊の集合体であり、都道府県大隊指揮隊、消火中隊、救助中隊、救急中隊、後方支援中隊、通信支援中隊、水上中隊、特殊災害中隊及び特殊装備中隊のうち被災地において行う消防の応援等に必要な中隊をもって編成される(第2-8-2図)。

第2-8-2図 緊急消防援助隊の部隊編成

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第2-8-2図 緊急消防援助隊の部隊編成

(ウ)航空部隊
航空部隊は、被災地において航空に係る消防活動を行うことを任務とし、航空小隊及び必要に応じて航空後方支援小隊により編成される。
(エ)特別な部隊
様々な隊からなる都道府県大隊とは別に、特別な任務を行う部隊として、統合機動部隊、エネルギー・産業基盤災害即応部隊、NBC災害即応部隊、土砂・風水害機動支援部隊がある(第2-8-3表)。

第2-8-3表 特別な部隊の任務と編成

第2-8-3表 特別な部隊の任務と編成

イ 出動計画

(ア) 基本的な出動計画
大規模災害等の発災に際し、消防庁長官は情報収集に努めるとともに、被災都道府県知事等と密接な連携を図り、緊急消防援助隊の出動の要否を判断し、消防組織法第44条の規定に基づき、出動の求め又は指示の措置をとることとされている。この場合において迅速かつ的確な出動が可能となるよう、あらかじめ出動計画が定められている。
具体的には、災害発生都道府県ごとに、その隣接都道府県を中心に応援出動する都道府県大隊を「第一次出動都道府県大隊」とし、災害の規模により更に応援を行う都道府県大隊を「出動準備都道府県大隊」として指定している。
(イ)大規模地震発生時における迅速出動基準
大規模地震発生時には、通信インフラ等の障害発生や全体の被害状況把握に相当の時間を要することなどが想定され、応援の要請等が早期に実施できないことも考えられる。
このため「消防組織法第44条に基づく緊急消防援助隊の出動の求め」の準備行為を、消防庁長官が全国の都道府県知事及び市町村長にあらかじめ行っておき、大規模地震の発生と同時に出動することなどを内容とする「大規模地震における緊急消防援助隊の迅速出動に関する実施要綱」を平成20年7月に策定した。なお、平成27年3月、同実施要綱は「緊急消防援助隊の応援等の要請等に関する要綱」に規定した。
(ウ)東海地震等における出動計画
東海地震、南海トラフ地震、首都直下地震等の大規模地震については、複数の都道府県に及ぶ著しい地震被害が想定され、第一次出動都道府県大隊及び出動準備都道府県大隊だけでは消防力が不足すると考えられることから、全国規模での緊急消防援助隊の出動を行うこととしている。
そのため、東海地震、南海トラフ地震、首都直下地震等を想定して、中央防災会議における対応方針・被害想定等を踏まえ、それぞれの発災時における緊急消防援助隊アクションプランを策定している(第2-8-3図)。

第2-8-3図 緊急消防援助隊の基本的な出動とアクションプラン

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第2-8-3図 緊急消防援助隊の基本的な出動とアクションプラン

例えば、南海トラフ地震の場合、平成28年3月に策定した南海トラフ地震における緊急消防援助隊アクションプランにおいて、被災の状況等を踏まえ、あらかじめ作成した4パターンの応援編成計画に基づき、重点受援県に指定されている10県以外の37都道府県の応援先を決定し、応援可能な全ての緊急消防援助隊を一斉に迅速投入することとしている。
また、平成29年3月に策定した首都直下地震におけるアクションプランにおいても、受援都道府県に指定されている4都県以外の43道府県の応援先を決定し、応援可能な全ての緊急消防援助隊を一斉に迅速投入することとしている。
南海トラフ沿いの地震については、平成29年9月に南海トラフ沿いの地震観測・評価に基づく防災対応検討ワーキンググループの報告において、南海トラフ沿いで異常な現象が観測された場合の防災対応の方向性が示されたことを受け、南海トラフに対する新たな防災対応が定められるまでの当面の対応として、平成30年3月に東海地震における緊急消防援助隊運用方針の全部を改定し、アクションプランに改めた。
(エ)NBC災害における運用計画
NBC災害により多数の負傷者が発生した場合においては、被災地を管轄する消防機関及び被災地が属する都道府県内の消防機関だけでは、消防力が不足すると考えられることに加え、高度で専門的な消防活動を迅速かつ的確に行う必要性があることから、特別な運用計画を定め、当該運用計画に基づき、迅速にNBC災害即応部隊等が出動することとしている。
(オ)都道府県における応援計画
各都道府県は、当該都道府県内の緊急消防援助隊の登録状況を踏まえて、都道府県大隊等の編成、集結場所、情報連絡体制等、緊急消防援助隊が迅速に被災地に出動するに当たって必要な事項についての計画として都道府県内の消防機関と協議の上、「緊急消防援助隊応援等実施計画」を策定している。

ウ 受援計画

各都道府県は、自らが被災地となる場合を想定して、平時から調整本部及び航空運用調整班の運営方法をはじめ、進出拠点、宿営場所、燃料補給基地等、緊急消防援助隊の受入れに当たって必要な事項についての計画として、都道府県内の消防機関と協議の上、「緊急消防援助隊受援計画」を策定している。
また、各消防本部についても、同様に自らの地域において緊急消防援助隊を受入れるため、都道府県が策定する受援計画及び都道府県地域防災計画の内容と整合性を図りつつ受援計画を策定する必要がある。

(3)緊急消防援助隊の登録隊数及び装備

ア 登録隊数

緊急消防援助隊は、消防組織法第45条第4項の定めにより、都道府県知事又は市町村長の申請に基づき、消防庁長官が登録することとされている。
平成7年(1995年)9月に1,267隊で発足した緊急消防援助隊は、その後、災害時における活動の重要性がますます認識され、平成31年4月1日現在では全国723消防本部(全国の消防本部の約99%)等から6,258隊の登録となり、発足当初の5倍近くまで増加した(附属資料2-8-1、第2-8-4図)。

第2-8-4図 緊急消防援助隊登録部隊の推移

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第2-8-4図 緊急消防援助隊登録部隊の推移

(備考)※の数字は重複登録隊数を除く隊数。

なお、平成31年3月には、東日本大震災を上回る被害が想定される南海トラフ地震、首都直下地震等の大規模災害に備え、大規模かつ迅速な部隊投入のための体制整備が不可欠であることから、基本計画を改正し、令和5年度末までの登録目標隊数を、おおむね6,000隊からおおむね6,600隊へと増隊することとした。

イ 装備等

緊急消防援助隊の装備等については、発足当初から、消防庁において基準を策定するとともに、平成15年の法制化以降は、基本計画でこれを定め、その充実を図ってきた。平成18年からは緊急消防援助隊設備整備費補助金により国庫補助措置を講じ、災害対応特殊消防ポンプ自動車、救助工作車、災害対応特殊救急自動車等及び活動部隊が被災地で自己完結的に活動するために必要な支援車並びにファイバースコープ等の高度救助用資機材等の整備を推進している。
また、消防組織法第50条の規定による国有財産等の無償使用制度を活用し、エネルギー・産業基盤災害対応型消防水利システム、津波・大規模風水害対策車、拠点機能形成車等、緊急消防援助隊の部隊活動及び後方支援活動に必要な装備等の一部を消防本部等に配備している(第2-8-4表)。

第2-8-4表 消防組織法第50条の無償使用制度による主な配備車両等

第2-8-4表 消防組織法第50条の無償使用制度による主な配備車両等

(備考)※については、令和元年度中に配備予定

さらに、平成23年度に創設された緊急防災・減災事業債(100%充当、交付税率70%)において、平成25年度から新たに「緊急消防援助隊の機能強化を図るための車両資機材等」及び「緊急消防援助隊の救助活動等拠点施設」にも対象事業が拡大された。
平成26年度には「消防防災施設整備費補助金」の補助対象として、ヘリコプター離着陸場、資機材保管等施設及び自家給油施設等から構成される救助活動等拠点施設が加えられ、緊急消防援助隊が自立的に救助活動を行える拠点施設の整備を促進している。
消防庁では、緊急消防援助隊の効率的な活動を実施するため、引き続き計画的な装備等の充実強化を図ることとしている。

(4)緊急消防援助隊の活動

ア 平成7年(1995年)から令和元年10月末までの出動状況

平成7年(1995年)に創設された緊急消防援助隊は、平成8年(1996年)12月に新潟県・長野県の県境付近で発生した蒲原沢土石流災害への出動を皮切りに、平成16年4月の改正消防組織法施行までの間、合計10回出動した。
以降、平成16年新潟県中越地震、平成17年JR西日本福知山線列車事故、平成23年東日本大震災、平成28年熊本地震、平成29年7月九州北部豪雨、平成30年7月豪雨、令和元年台風第19号による災害等、令和元年10月末までの間に合計30回出動し、多くの人命救助を行った(附属資料2-8-2)。

イ 平成30年中の活動状況

(ア)大分県中津市土砂災害
4月11日、大分県中津市の山腹で土砂崩れが発生し、6人の安否が不明となった。同日、大分県知事からの要請に基づき、消防庁長官の求めを受けた福岡県及び熊本県の緊急消防援助隊が出動した。
陸上隊は、地元消防機関、警察、自衛隊、国土交通省等と連携し、重機を活用し土砂を排除しながら捜索・救助活動を行った。また、航空小隊は、ヘリコプターテレビ電送システムを活用して情報収集を行った。
(イ)大阪府北部を震源とする地震
6月18日、大阪府北部を震源とする地震により、大阪府北部を中心に広い範囲で建物倒壊等による人的、物的被害が発生した。
消防庁長官の求めを受けた京都市消防航空隊及び兵庫県消防防災航空隊が緊急消防援助隊として大阪府に出動し、ヘリコプターテレビ電送システムを活用し、大阪府北部を中心に被害状況を把握するなど、情報収集活動を行った。
(ウ)平成30年7月豪雨
7月6日、梅雨前線に台風第7号からの湿った空気が流れ込んだ影響等により、西日本を中心に全国的に広い範囲で長期間にわたる記録的な大雨となり、多くの地域で河川の氾濫による浸水、土砂災害が発生した。
発災後、岡山県、広島県、愛媛県及び高知県知事からの要請に基づき、消防庁長官の求め又は指示を受けた23都府県の緊急消防援助隊が出動した。なお、広範囲に及ぶ災害となり、多数の死者、行方不明者が見込まれたこと、7月8日に政府の非常災害対策本部が設置されたことを踏まえ、同日17時00分に平成30年7月豪雨における緊急消防援助隊の一連の出動について、消防庁長官の指示によるものとした。
陸上隊は、河川氾濫による浸水地域や土砂が堆積した住宅地等で救命ボート、重機等を活用し、孤立者の救助や行方不明者の捜索を行った。また、航空小隊は、ヘリサットシステム等を活用した情報収集及び孤立地域からの救助活動を行った。
緊急消防援助隊の26日間にわたる活動により、397人を救助した。
(エ)平成30年北海道胆振東部地震
9月6日、北海道胆振地方中東部を震源とする地震が発生した。
消防庁長官の求めを受けた12都道県の緊急消防援助隊は、本州からは、陸路による出動ができないため、民間フェリーを活用し被災地へ向けて出動した。また、防衛省に協力依頼し、航空自衛隊輸送機により、神奈川県大隊の消防車両と人員の輸送を行った。
陸上隊は、厚真町で人力及び重機による土砂等の排除を行いながら、行方不明者の捜索・救助活動を昼夜を通し行った。
また、航空小隊は、ホイスト等による人命救助の実施、ヘリコプターテレビ電送システム等を活用した情報収集を行った。
緊急消防援助隊の5日間にわたる活動により、24人を救助した。

ウ 令和元年中の活動状況

(ア)令和元年8月の前線に伴う大雨による災害
8月28日、前線と湿った空気の影響で、九州北部地方を中心に記録的な大雨となり、河川の氾濫による浸水害が発生した。同日、佐賀県知事からの要請に基づき、消防庁長官の求めを受けた熊本県の緊急消防援助隊が出動した。
陸上隊は、地元消防機関、警察、自衛隊と連携し、浸水地域の安否確認及び孤立者の救助活動を行い、11人を救助した。また、浸水地域の排水活動の妨げになっていた鉄工所から流出した焼き入れ油の除去活動を実施した。航空小隊は、上空から被災状況の情報収集活動を実施するとともに、ヘリサットシステムを活用して消防庁等に最新の情報を提供した。
(イ)令和元年台風第19号による災害
台風第19号の影響等による大雨で、各地で複数の河川が氾濫、決壊し、多くの地域で浸水害、土砂崩れが発生した。
発災後、宮城県、福島県及び長野県知事からの要請に基づき、消防庁長官の求め又は指示を受けた、14都道県の緊急消防援助隊が出動した。
なお、平成31年3月に改定した基本計画を踏まえ、災害の状況、13日の政府の非常災害対策本部の設置、応援の必要性等を考慮し、15日に緊急消防援助隊の一連の出動について、消防庁長官の指示によるものとした。
陸上隊は、河川氾濫による浸水地域や土砂崩れによって押し流された住宅地等で救命ボート、重機等を活用し、孤立者の救助や行方不明者の捜索を行った。また、航空小隊は、情報収集及び孤立地域等からの救助活動を行った。
緊急消防援助隊の6日間にわたる活動により、171人を救助した。

(5)緊急消防援助隊の訓練

ア 全国合同訓練

大規模災害時における緊急消防援助隊の指揮・連携能力の向上を図るためには、平時からの緊急消防援助隊としての教育訓練が重要となる。
緊急消防援助隊が発足した平成7年(1995年)には、東京都江東区豊洲において、天皇陛下の行幸を賜り、98消防本部、1,500人の隊員による全国合同訓練が初めて行われ、現在までに5回実施されている。平成12年(2000年)には第2回目を東京都江東区有明において実施した。
第3回全国合同訓練(平成17年)は、静岡県において、緊急消防援助隊法制化以降初の全国訓練として、基本計画に基づき「東海地震における緊急消防援助隊アクションプラン」の検証を兼ねて実施し、参集及び活動体制について総合的な検証を行った。
第4回全国合同訓練(平成22年)は、愛知県・和歌山県・徳島県において、東南海・南海地震を想定し、初めてとなる全国規模の図上訓練を実施するとともに、「東南海・南海地震における緊急消防援助隊アクションプラン」に基づく参集、活動体制等について総合的な検証を行った。
第5回全国合同訓練(平成27年)は、千葉県において、南海トラフ地震や首都直下地震などの大規模災害への対応力を強化するため、広範囲での複合的な災害を想定し、全国から陸路による進出のほか、自衛隊の輸送機や民間フェリー・航空機などにより参集し、陸路での迅速な進出が困難な場合における対応について検証を行った。

イ 地域ブロック合同訓練

隊員の技術向上と部隊間の連携強化を目的に、平成8年度(1996年度)から毎年全国を6つのブロックに区分してブロックごとに合同訓練が行われており、平成15年の法制化以降は、基本計画において、地域ブロック合同訓練を定期的に実施することが明記された。
消防庁としては、訓練実施経費の一部を国費として負担するとともに、ブロックごとに設置される実行委員会と協力し、各消防本部等の参加を得て訓練を実施しており、消防大学校における教育訓練と併せて、引き続き緊急消防援助隊のより実践的な教育訓練の充実を図ることとしている(附属資料2-8-3)。

(6)今後の取組

東日本大震災を上回る被害の発生が懸念されている南海トラフ地震、首都直下地震等に備え、長期に及ぶ消防応援活動への対応及び大規模かつ迅速な部隊投入のための体制等の整備が不可欠であり、緊急消防援助隊の役割は一層重要性を増している。緊急消防援助隊創設以来、最大規模かつ最も長期に及んだ東日本大震災における部隊展開の経験等を貴重な教訓とし、引き続き以下の取組を積極的に進め、ハード・ソフトの両面において緊急消防援助隊の活動能力の向上を図ることとしている。

ア 消防庁のオペレーション能力向上

緊急消防援助隊を的確に運用することは、消防庁の重要な任務である。そのためには、大規模災害・特殊災害等発生時に、消防庁自体の初動対応が重要であり、ICT(情報通信技術)を活用するなど迅速な情報収集等に努め、可能な限り災害の規模、被害状況等あらゆる情報を把握して緊急消防援助隊に的確にフィードバックすることが求められる。したがって、図上訓練等の実施により、日頃から緊急消防援助隊の出動の要否、派遣地域、必要な部隊規模・種類の判断など、消防庁としてのオペレーション能力の向上を引き続き図っていく。

イ 部隊登録の計画的推進

南海トラフ地震、首都直下地震等の大規模災害に対応するため、令和5年度末の登録目標であるおおむね6,600隊に向けて、隊種ごとの各都道府県の目標登録隊数を設け、登録推進に取り組んでいる。
また、緊急消防援助隊設備整備費補助金及び消防組織法第50条の規定による国有財産等の無償使用制度等を活用しつつ、緊急消防援助隊登録部隊における車両・資機材の充実強化を引き続き進めていく。

ウ 訓練の推進

緊急消防援助隊が迅速かつ効果的に活動するためには、速やかに応援部隊を編成して被災地に出動し、各部隊が一元的な指揮体制の下に連携した活動を実施する必要がある。このため、消防庁では、次回令和3年度に開催することを予定している全国合同訓練や毎年実施されている地域ブロック合同訓練において、実践的な訓練を推進するとともに、各都道府県及び各消防機関においても、平時から各種防災訓練等の機会も活用し、様々な状況を想定した図上訓練、消防応援活動調整本部運営訓練、大規模な参集・集結訓練、自衛隊・警察・海上保安庁・DMAT等の関係機関と連携した訓練等を実施するなど、緊急消防援助隊の活動に即した各種の訓練を推進していく。

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