3.消防防災ヘリコプターの運航に関する基準
平成31年3月及び令和元年6月に「消防防災ヘリコプターの運航に関する基準の在り方に関する検討会」を開催し、同検討会での議論を踏まえ、消防庁では運航団体が取り組む項目をとりまとめ、「消防防災ヘリコプターの運航に関する基準」(令和元年消防庁告示第4号)を制定した。
(1)「消防防災ヘリコプターの運航に関する基準」の制定について
「消防防災ヘリコプターの運航に関する基準」は、これまでの助言より高い規範力を持つ形式で示すべく、令和元年9月24日に消防組織法第37条に基づく消防庁長官の勧告として告示した。
同基準の内容は、運用の細かい点にわたることから、「消防防災ヘリコプターの運航に関する基準の制定について」(令和元年10月1日付け消防広第138号消防庁長官通知)を発出し、制定の趣旨及び留意事項について助言した。
(2)消防防災ヘリコプターの運航に関する基準の内容及び留意事項
ア 用語の意義
消防防災ヘリコプター、運航団体、航空消防活動、航空消防活動従事者についての意義を規定した。
イ 運航体制の整備充実
運航団体は、消防防災ヘリコプターの運航の安全の確保のために必要な組織及び施設設備の整備充実を図るものとした。
ウ 運航規程等の整備
運航団体において、消防防災ヘリコプターの出発の承認の判断基準、運航中の留意事項その他の運航の管理に必要な事項についての規程を定めるよう規定するとともに、CRM及びボイス・プロシージャーに係る実施要領や航空消防活動の実施に必要な事項について記載した活動要領についても定めることと規定した。
消防防災ヘリコプターの安全運航のためには、部隊内における意思疎通やチームワーク向上が必要不可欠であることから、CRMを積極的に取り入れ、また事故防止を図る上では非常に重要となる見張り要員の配置やボイス・プロシージャーを実施要領に定めるほか、山岳救助、水難救助その他の特に安全の確保に配慮する必要があると認める航空消防活動の類型ごとに、活動要領を定めることについても規定した。
エ 運航責任者及び運航安全管理者の配置
消防防災ヘリコプターが配置されている拠点に、運航責任者及び運航安全管理者を配置することとし、個々の任務や事務について規定した。
運航責任者については、管理監督業務をつかさどる航空隊基地の所長やセンター長等を想定しているが、消防防災ヘリコプターが配置されている拠点に配置することとし、消防防災ヘリコプターの出発の承認、航空消防活動の中止の指示その他の消防防災ヘリコプターの運航の管理に関する事務を担当することとした。
運航安全管理者は、専門的な知見を有する者をもって充て、運航責任者、機長その他の関係者に対する助言、教育訓練等基本計画及び教育訓練等実施計画の立案等を行うことと規定した。
なお、運航責任者と運航安全管理者の事務はそれぞれ別に定められているところであり、また、運航安全管理者については、運航責任者への助言等が事務とされていることから、運航責任者と運航安全管理者には、それぞれ別の者を配置することが求められる。
オ 二人操縦士体制
航空消防活動を行う消防防災ヘリコプターには、操縦士(航空法第28条の規定により当該消防防災ヘリコプターを操縦することができる航空従事者(定期運送用操縦士又は事業用操縦士の資格についての技能証明を有する者に限る。)をいう。以下同じ。)2名を乗り組ませ、1名を機長に他の1名を副操縦士に指定することとした。
副操縦士は、機長に事故がある場合には、機長に代わってその職務を行うこととしている。
カ 機長及び副操縦士の乗務要件
運航団体は、航空法その他の関係法令が定めるもののほか、「ドクターヘリ、消防・防災ヘリ操縦士の乗務要件及び訓練プログラムに関する検討委員会」の検討結果について(平成30年1月9日付け消防広第6号消防庁国民保護・防災部防災課広域応援室長通知)を踏まえ、その消防防災ヘリコプターの機長に必要な飛行経歴その他の要件を定めるものとした。
運航団体が操縦士の養成訓練を行っており、当該養成訓練のために必要と認める場合には、運航団体が安全性を考慮して定める一定の航空消防活動に限り、当該航空消防活動を行う消防防災ヘリコプターの機長に必要な要件を別に定められるようにしている。
例えば、飛行経験の少ない段階の操縦士は、情報収集任務のみ機長として認め、飛行経験の豊富な段階の操縦士は、山岳救助活動を含む全ての任務における機長として認めるなど、操縦士の操縦技能に応じて定められることとしている。
キ 航空消防活動指揮者
運航責任者は、航空消防活動の実施に当たっては、航空消防活動指揮者を指定することとした。
関係法令の規定により機長が行うこととされている権限を除き、航空消防活動従事者の指揮監督を任務としていることから、航空消防活動における救助隊長(小隊長)としての役割を担い、航空消防活動現場における活動の指揮を執ることとしている。
ク 消防防災ヘリコプターに備える装備等
運航の安全の確保に資するために消防防災ヘリコプターに備えるべき装備、装置及び資機材と備えるよう努めるべき装備、装置及び資機材について規定した。
ケ 教育訓練等
操縦士の操縦技能の習得維持に必要な飛行訓練及びシミュレーターを用いた緊急操作訓練や、将来にわたり操縦士を安定的に確保できるよう、計画を定めて必要な操縦士の養成訓練を行うこととした。
また、これら教育訓練等の基本計画や実施計画についても定めるよう規定した。
消防防災ヘリコプターは、その業務の特殊性から高度な技術が要求され、経験の浅い操縦士が即戦力となり得ず、単に飛行時間を積み重ねていくだけでなく、航空消防防災業務に特化した訓練等により任務に対応し得る技術を身につけることが必要である。
コ 航空消防活動
航空消防活動の安全かつ円滑な実施を図るため、当該運航団体の区域の他、相互応援協定を締結している他の地方公共団体の区域等においても、地勢の状況、災害の発生するおそれのある場所等について調査を行うよう規定した。
また、出発前の安全対策として、消防防災ヘリコプターの出発に当たっては、運航責任者の承認を必要とすることとし、気象の状況、航空消防活動の内容及びその実施場所の状況等を可能な限り詳細に把握することで、出発前においても安全運航に寄与することとしている。
運航中の安全対策としては、機長及び航空消防活動指揮者は、運航中、安全管理に十分配慮し、必要に応じて航空消防活動を中止する判断を行うことを規定することとしたほか、運航責任者についても、飛行状況及び航空消防活動の現場の状況、気象の状況等から航空消防活動を安全に実施することが困難であると認める場合には、機長及び航空消防活動指揮者に対し、航空消防活動を中止するよう指示するものとした。
この規定により、運航責任者、機長及び航空消防活動指揮者の3者が航空消防活動の中止の判断を行うことができることとしている。
サ 航空機事故対策
消防防災ヘリコプターに係る事故(航空法第76条第1項各号に掲げる事故に限る)が発生した場合等には、速やかに捜索及び救助の体制を確立し、その旨を消防庁長官に報告するものとした。
また、事故が発生するおそれのある事案が生じた場合にも、その旨を消防庁長官に報告するものとしている。
この規定により、航空機事故が発生した場合の捜索救難体制の早期確立と、事故及び事故が発生するおそれのある事案の発生状況について報告を求めることで一元的に集約し、各運航団体とも情報共有できるよう体制の確立を図ることとした。
シ 相互応援協定等
運航団体は、近隣の他の地方公共団体との間で、相互応援協定の締結に努めるよう規定するほか、関係機関との間でも航空消防活動の必要がある災害が発生した場合における対応を相互に協力して行うための協定等を締結するよう努めることとした。
耐空検査等により航空消防防災体制に空白を生じさせないことを目的として、相互応援協定の締結及び他の防災関係機関との協定についても締結に努めるように規定した。
ス 施行期日
令和元年10月1日から施行することとするが、資格取得や人事配置、予算を伴う項目については、それぞれを実施するために必要な相応の経過措置を考慮し、施行日を定めることとした。
(ア)運航安全管理者の配置については令和3年4月1日とした。
(イ)CRMの策定、二人操縦士体制、機長及び副操縦士の乗務要件及びCRMに関する訓練については令和4年4月1日とした。
(ウ)なお、二人操縦士体制については、安全運航の確保のための核となることから、(イ)のとおり令和4年4月1日を施行日としつつ、操縦士の確保及び養成の状況等に鑑み、操縦士2名を消防防災ヘリコプターに乗り組ませることが困難であると運航団体が認める特段の事情がある場合においては、1名が型式限定資格取得訓練中であっても、事業用操縦士資格取得者である場合は、副操縦士の代わりに乗務することが、現行の一人操縦士体制に比して、運航の安全に一定程度資するものと考えられることから、経過措置として運航を認めることとし、その経過措置の終期を、令和7年3月末とした。
なお、施行日を待つことなく、実施可能なものから随時実施するなど、消防防災ヘリコプターの安全運航を最優先に考え、「消防防災ヘリコプターの運航に関する基準」に則った運用に努める必要があるとしている。