審議会

市町村の消防の広域化の推進に関する答申

平成18年2月1日
消防審議会


 平成17年11月24日付けで諮問のあった「今後の消防体制のあり方」のうち、「市町村の消防の広域化の推進」について、別紙のとおり答申する。

平成18年2月1日

消防審議会会長 菅原 進一

消防庁長官 板倉 敏和殿


別紙

市町村の消防の広域化の推進に関する答申

 本審議会は、消防庁長官の諮問に応じ、今後の消防体制のあり方について審議してきたところ、早急に実施すべき市町村の消防の広域化の推進方策について、大要次の結論に達したのでここに答申する。
 消防庁においては、これに基づいて、必要と認めるものについて、法制化を図り、かつ都道府県及び市町村における運用面への支援等所要の措置を講じ、この答申の実現に努めるよう要望する。

市町村の消防の広域化の推進に関する答申

第1 消防行政における国・都道府県・市町村の役割
1 市町村消防の原則
 消防は、国民の生命、身体及び財産の火災からの保護、水火災又は地震等の災害の防除、及びこれらの災害による被害の軽減を任務としており、昭和22年の消防組織法制定以来、基礎的自治体である市町村がまずその任に当たる市町村消防の原則をとっており、 これまで消防制度の根幹として維持されてきた。この原則に基づき、市町村の常備消防である消防本部及び消防署の整備が順次進展し、 平成17年には市町村の消防の常備化率は市町村数では、98.0%に達し、人口の99.9%が常備消防により守られている。 また、防災に関する第一次的な責任も災害対策基本法において市町村にあるとされており、今後とも市町村長が自らの区域の災害対応について自覚した責任を持ってその事務を行うことが適当であり、今後の消防体制のあり方として、 市町村は、従来同様、市町村消防の原則に基づき、一義的な消防の責務を担っていくことが必要である。
 一方、社会経済情勢の変化に伴い、災害の複雑化、多様化や社会の高度化が一層進む中、我が国の大きな優位性の一つである安心・安全が揺らぎ、 国民の関心が高まっている。この国家の存立基盤の一つである安心・安全について、国の責任において市町村消防の原則に立ちながらも、国や都道府県が全国的な観点から、その補完的役割を発揮していくことができる仕組みを構築することもまた必要とされてきている。
2 国・都道府県の役割
 これまで、消防について、市町村消防の原則を基本としつつ、国は、消防に関する制度の企画立案や消防大学校における消防職団員の幹部教育など、都道府県は、市町村相互の連絡協調を図ることなどのほか、 消防学校による教育訓練の提供など広域的に対応すべき事務により市町村消防の健全な発展を図ることをその役割としてきたところである。
 これらに加え、災害が複雑、多様化、広域化しており、阪神・淡路大震災を契機にして、緊急消防援助隊の制度が創設されるなど、国及び都道府県が市町村の消防を補完するような仕組みが設けられた。 さらに、平成15年には大規模災害や特殊災害の発生時の全国的観点からこの緊急消防援助隊を法律に位置づけ、大規模・特殊災害時には消防庁長官がその出動を指示できること などの改正を行った。また、都道府県がヘリコプターで行う消火、救急、救助等の活動について市町村支援の役割を明確化した。 さらに、消防庁長官が主体的に特殊な火災などの火災原因調査を実施できることとする消防法の改正を行い、これらの制度改正を通じて、国や都道府県の果たすべき役割が明確にされてきたところである。 加えて、平成16年には、国の支持を受けて、都道府県、消防も含めた市町村が避難誘導など応急措置を行うといった国民の保護のための新たな国民保護法制が整備された。
 今後の消防体制を構築するに当たっては、市町村消防の原則を基本としつつ、消防庁が全国的・広域的な見地から国として消防体制のあり方の方向性を示すとともに、都道府県においても、その広域的な 役割をより明確にしていくことが必要である。
第2 市町村の消防の広域化の方向性
1 広域化の現状と課題
(1) 広域化推進の現状
① 経緯
 消防庁では、複雑、多様化する災害に対し、消防本部、とりわけ管轄人口10万未満の小規模消防本部、のより高い水準の住民サービスの提供や 行財政運営の基盤強化と効率化のために、一貫して、市町村の消防の広域化を推進してきた。
 具体的には、平成6年に都道府県に消防広域基本化計画の策定を要請した。 続いて、平成13年には、市町村合併の進捗に伴い、小規模消防本部の広域続編を進めるに当たって、市町村合併との整合性を確保していく必要がある旨を通知し、 消防広域化基本計画の見直しを要請した。さらに、平成15年には合併の結果として、従来の消防本部の管轄区域が縮小され、小規模な消防本部が生じるのは適当でない旨を指導する等、市町村合併と軌を一にして広域化の推進を図ってきた。
② 広域化の現状
 現在、市町村合併の進展もあり、全国で消防本部が最大であった平成3年の936本部から平成18年には816部となることが見込まれるまで 消防の広域化が進み、高齢者の多い山間地でのサービスの向上、資機材の充実や消防職員のレベルや士気の向上といった効果が現れてきている。 しかしながら、市町村合併以外の要因による広域化はあまり進んでおらず、小規模消防本部が未だ消防本部数全体の63%を占めるなど、広域化が十分に進んだとは言い難い状況にある。
 また、各都道府県においてこれまで作成した基本計画の中で、市町村の組合せを明記しないものが半分以上であり、平成13年に市町村合併との 整合性を確保するため、同計画の見直しを要請した後も、実際に見直しを行った都道府県は2団体に止まっている。
(2) 広域化の課題
 広域化がとりわけ必要と考えられる小規模消防本部の課題としては、
  • ・消防力の整備指針に基づき算定される職員数の充足率が全国平均の75.5%に対して、5万人以上10万人未満では66.4%、 5万人未満では63.6%と低水準にとどまっており、出動要員に十分な余裕がなく、初動対応も必要最低限であり、2次出動以降の対応が困難である、
  • ・管轄人口10万人程度のモデル消防本部でも、単独で対応が可能な火災の規模は125m²程度と想定されているが、当該火災への対応力だけでは、 第1次出動でほぼ全ての部隊が出払うこととなり、2次出動以降や他の火災への対応が困難となる、
  • ・小規模消防本部の市町村の財政規模は、一般的に小さく、消防費のうちの機械器具購入費も小さなものとなるため、はしご車、救助工作車等の高度な車両・ 資機材の導入に困難を伴う場合がある、
  • ・小規模消防本部においては、職員数が少ないため、火災原因調査や立入検査といった予防行政の分野について専門的な人材の養成・確保が困難である、
  • ・組織運営の面で、人事ローテーションが設定されにくいことから職務経験が不足しがちであることに加えて、職員の年齢構成に不均衡も生じやすいこと
といった指摘がなされている。
 これまで、市町村において消防の広域化を図る場合にあっては、これまで一部事務組合、事務委託、広域連合といった方式がとられてきたが、 今後の広域化に当たっては、例えば、一部事務組合方式については、構成市町村間での効果的な意見集約に配慮すべきこと、事務委託方式につていは、 地域の委託市町村側の消防防災体制への関与を確保すべきことなどそれぞれの方式の抱える特徴を十分踏まえつつ、対応していくことが重要である。
 さらに、市町村の消防の広域化による常備消防の実効性のある体制整備に加え、市町村長、防災・国民保護部局等の市町村長部局、消防団、更に言えば、 自主防災組織など住民と消防本部・消防署が連携した総合的な消防・防災体制を構築することが重要であり、こうした関係機関相互の連携、協力の充実強化をいかに図っていくかが大きな課題である。
また、広域化を進めるに当たって都道府県においては、さらなる広域化の推進に当たって、都道府県の役割の明確化や消防本部、市町村など関係者が消防の広域化について検討、議論する枠組みが必要である。
2 広域化の必要性
 わが国は平成17年からいよいよ人口が減少する社会となり、こうした人口減少社会の到来、災害の多様化・大規模化や消防に対するニーズの高度化や市町村合併の進捗などにより大きく変化している。 こうした状況に対応し、市町村がその消防責任を十分に果たしていくためには、消防本部の更なる広域化を進めていくことが必要である。
 特に今後は、少子高齢化による人口の減少が現実となり、現在の各消防本部の管轄人口も一般には減少していくと考えられる。 例えば、166人の職員を擁する管轄人口10万人規模のある消防本部をみると、2030年には管轄人口が約6万人となり、この場合の消防力の整備指針に基づく平均職員数は77人と50%以上の減少となると推計されている。 多様化・大規模化する災害・事故や高度化・複雑化する社会における予防、救急業務等に対する住民ニーズに的確に対応するために、常備消防の更なる広域化が、避けて通れない喫緊の課題である。
 また、様々な高度化する消防事務へのニーズに的確に対応していくため、消防の広域化による庶務・通信等に要する人員の一元化や消防力の強化が必要である。 この際、広域化せずに消防力の整備指針の充足率を向上させる場合と比較して、効率的な体制強化が可能となることにも留意する必要がある。 例えば、モデル的な試算によれば管轄人口10万人規模の3本部が広域化する場合、14名程度の要員が予防など他の業務の増強に充てられる。 この場合、現在、管轄人口10万人規模の消防本部における予防職員に関する消防力の整備指針の充足率は、平均で64%であるが、広域化することにより、 4名程度の要員確保が可能となり、その充足率は75%に向上すると推計され、広域化によって予防業務の高度化が期待される。
3 広域化の目標となる消防本部の規模
 今後、着実に広域化を推進するためには、これまでの広域化の実績を踏まえた上で広域化の目標となる消防本部の規模について、目標を設定して取り組むことが適当である。
 一般論としては、消防本部の規模が大きいほど火災等の災害への対応能力が強化されることとなり、また組織管理、財政運営等の観点からも望ましいが、依然管轄人口10万未満の小規模消防本部が 全体の6割強を占めている現状も踏まえつつ、現実的な目標を設けることが適当である。
 一般火災への十分な対応能力の確保という観点からは、消防力の整備指針で想定している火災の3倍程度である概ね焼損面積375m²規模の火災に対して消防力の整備指針で想定している2~3倍程度の消防力である10~18隊 程度のポンプ隊による初動体制を確保できれば、全国で発生している約97%の火災がカバーされる。 また、はしご車、化学消防車といった高度な車両をそれぞれ最低2台配備している消防本部の規模が望ましい。
 また、火災原因調査等の高度化・専門化の観点からは、概ね職員300人以上の本部においては、火災原因調査の実施体制及び専従調査員の一定の確保がなされている。
 さらに、風水害、震災等の災害対策の観点から考えると、災害の態様は様々であるが、例えば、まず基本的には被災地の消防本部単独での対応が求められる風水害について、 単独で対応することができる一定の体制を整えることが重要と考えられる。
 この他、増加する救急活動への対応の強化、高度な救助活動の観点からも一定以上の消防本部の規模が必要と考えられる。
 以上の各般の検討を踏まえると、従来から広域化の目安としていた管轄人口10万規模と比して、より高い目標とはなるが、管轄人口30万規模以上とすることを目標として設定すべきである。
 なお、島嶼部などの地理的条件、交通事情、日常生活圏、広域行政、地域の歴史、管轄面積の広狭、人口密度、人口減少など人口動態等の地域事情及びこれまでの広域化への取組の経緯については、必要な消防体制の確保を図ることを前提に、 十分に配慮していく必要がある。 なお、広域化の推進により、現在の市町村の消防・防災体制は一層強化されるべきものであり、広域化に伴って、消防本部の対応力が低下することとならないようにすべきである。
第3 市町村の消防の広域化推進方策
1 広域化を推進するための新たな法的措置
 消防の広域化をより一層推進していくためには、国、都道府県、市町村が一丸となって取り組んでいく必要があり、市町村消防の広域化の推進に関して 消防組織法を改正し、広域化における都道府県の役割を明確にするとともに、消防広域化の関係者による議論の枠組みを創ることが必要である。 この枠組みの中で、地域において都道府県、市町村だけではなく、市町村の消防団あるいは住民も含めて十分議論をして、地域の消防防災体制が充実強化される将来像に向けた 取組が進めらることが期待される。また、併せて広域化を推進する場合の財政支援措置を講じることが必要である。
 立法措置を講じることが適当と考えられる事項は、以下のとおりである。
(1)国の役割
 消防庁長官は、都道府県、市町村が自主的な市町村の消防の広域化を推進していくに当たっての基本的な事項、今後の消防本部のあるべき姿、規模や市町村 の関係防災機関や消防団との連携などを記載した市町村の消防の広域化を推進するための基本指針を定めるものとすることが適当である。
また、国の関与についても一定の明確化を図ることが適当である。
(2)都道府県の役割
 都道府県は、基本指針に基づき、消防の広域化を推進する必要があると認める場合には、消防広域化推進計画を定めるものとすることが適当である。 この推進計画では、当該都道府県の市町村の消防の現況や将来の見通し、消防の広域化の対象となる市町村の組合せなどを示すことが考えらるが、 当該計画の策定に当たっては、市町村等の意見を聴くなど地域の実情を踏まえたものとすることが適当である。
 さらに、都道府県知事は広域化後の消防の円滑な運営の確保に資するために必要な措置を講ずるよう努める必要がある。
(3)市町村の役割
 広域化対象市町村は、その協議により、広域化後の消防本部の円滑な運営を確保するための広域消防運営計画を作成するものとすることが適当である。 この運営計画においては、広域化後の消防本部の円滑な運営を確保するために、その基本的な方針、具体的な消防本部の配置、消防体制の強化方針、関係市町村の防災・国民保護部局との連携強化方策などを定める ことが必要である。運営計画作成にあたっては、対象となる消防本部、関係市町村や消防団など地域の関係者によって地域の消防について十分に議論することが重要である。 この場合、特に消防責任を担う市町村長のリーダーシップが求められる。
 運営計画を定めるに当たって地方自治法上の協議会を設ける場合は、規約の定めるところにより、議会の議員、市町村長、学識経験者等を会長及び委員として加えることができることとすることが適当である。
(4)スケジュール
 消防広域化は、消防体制の整備、確立のため、不断に取り組んでいかなければならない課題であるが、当面、 基本指針において、一定の期限を区切って取り組むことが必要と考えられる。
 その際、平成18年度前半に基本指針、平成18年度後半から平成19年度に消防広域化推進計画を策定し、その後5年程度であるべき姿の実現を目指すことが考えられる。
2 広域化に当たっての重要な事項
 広域化に当たって、広域化後の消防体制のあり方、消防本部と市町村長の一体性、防災・国民保護部局や消防団との連携など、 次のような留意すべき重要な事項がある。 消防庁においては、基本指針において、こうした事項について方向性を示すことが必要であり、また、この指針を踏まえ、都道府県、 市町村においてもそれぞれ消防広域化推進計画や広域消防運営計画に同様にそのあり方を示すことが重要である。
(1)消防の体制整備
 消防の広域化を行う際には、市町村が、広域消防運営計画を作成する段階で住民をはじめ地域の関係者を巻き込んだ 枠組みの中で徹底した議論を行い、住民への説明責任を果たしていくべきである。 また、これまで、消防の広域化が行われても、部隊運用や組織管理等が依然として広域化の前のレベルにとどまり、広域化の効果を十分に発揮できていない消防本部も存在している。 今後は、このようなことがないよう、広域化後の体制について一元的・効果的な人材育成、組織編制や出動体制を確保することが必要である。
 また、広域化により複数の消防本部が一元化されることとなるが、大規模災害時においても本部機能が十分確保できるように、 庁舎の耐震改修や情報通信システムのバックアップ体制の充実等が今後とも重要となる。
(2)市町村長と消防本部の一体性の確保
 消防の広域化が進展すると、消防本部が災害時に関係市町村長を支える中心的な役割を担うことが考えられるものの、委託・組合方式により両者が異なる地方公共団体となることもあるなど、ともすると、こうした消防本部の消防本部の 消防長と防災責任を有する関係市町村長との間の意思疎通に齟齬が生じ、災害時の対応等に支障が生じることもあり得る。
 こうした点を踏まえ、消防長と市町村長の一体性を確保するために、平時、非常時を問わず、消防長と市町村長が直接に即時通報できる仕組みや 協議・議論する場を設けること、消防の状況について関係市町村長に日頃から十分に説明・報告等を行うことなどにより 両者が共通の認識を持つことができるように努める必要がある。
(3)防災・国民保護部局との連携・協力
 防災・国民保護業務は、関係部局・関係機関が多岐にわたるため、市町村全体を総合的に調整できる責任者が実施する必要があり、また住民の安心・安全の確保 という最も基本的かつ重要な業務であるため、消防本部を委託・組合方式で広域化したとしても、基本的には各構成市町村で実施すべきである。
 その前提で、防災・国民保護業務を担当する部局と消防部局との連携・協力をこれまで以上に強化することが必要である。 特に、大規模災害時における初動対応については、24時間体制をとっている消防本部が中心的な役割を担うことなどにより、 広域化に当たって災害時の初動体制の強化を図っていく必要がある。 具体的には、夜間・休日等における防災業務等のうち、初動時の連絡体制に限定して消防機関へ事務をを委託することや、 消防署が主体となった構成市町村との連携体制の構築、防災・国民保護部局と委託・組合消防との人事交流の実施などが考えられる。
(4)消防団との連携・協力
 常備消防の広域化によって、地域に密着した消防団までも広域化され、 その特性が失われるのではないか、また消防団は広域化しないまでも、広域化された常備消防との連携が損なわれるのではないかという懸念がある。
 消防本部が専門性の高い常備の消防機関であり、消防団がより地域に密着した消防活動を実施するという特性上、消防団の広域化は行わず、引き続き構成市町村 単位での設置を維持すべきである。 自らの地域は自ら守るとの考えを持つことが重要であり、特に、大規模災害の際には消防団と自主防災組織、住民との連携を図ることが必要である。 この前提の下で消防団と消防本部・消防署の連携の確保のため、管轄区域内の複数の消防団の団長の中から連絡調整担当の団長を指名することによる常備消防との一元的な 連絡調整、常備消防と消防団の連絡通信手段の確保や消防団合同又は各市町村にある消防署所など常備消防を含めた訓練等の実施等により、広域化された常備消防と各構成市町村の消防団が 一体となって活動することが重要である。
 また、委託・組合消防の場合も消防団は委託先の常備消防や組合消防所轄の下に行動するが、災害時等においては、委託元の市町村長や組合管理者以外の構成市町村の 市町村長が当該市町村に設置されている消防団にその考え方や意思を伝えることができる方策の確保にも留意する必要がある。