地域防災の実践
2.災害図上訓練DIG

まず、DIGについて見て行きましょう。
DIGはDisasterー災害ー、Imaginationー想像力ー、Game(ゲーム)の頭文字を取って命名されました。DIGは「掘る」という意味を持つ英語の動詞でもあり、「探求する」「理解する」という意味も持っています。DIGは、「災害を理解する」「まちを探求する」「防災意識を掘り起こす」という意味が込められた防災力を高めるための方法です。
 では、DIGは具体的にどのようなことを行うのでしょうか。

DIGは、たとえば10人程度の参加者が自分たちの住むまちの地図を囲み、みんなでワイワイ楽しく議論して地図に書き込みを行ったり、付箋を貼ったりして進められます。その作業を通じて、いつの間にか、自分が住むまちで起こる災害を具体的にイメージし、ゲーム感覚で災害が起きたときの対応を考えることができます。
 このようにDIGは簡単で楽しいものですが、参加者はその作業を通じて何を得ることができるのでしょう。

 ひとつ目は「災害を知る」ということです。
 防災を考える上でまず必要なのが自分のまちで起こる可能性のある災害のイメージを持つことです。「どこで、どのような規模で、どういう被害の発生が予想されるのか」自分で地図に書き込んでいくうちに災害をより具体的にイメージできるようになるはずです。そして、住宅の耐震化など被害を減らすために必要な対策についての理解も深まるでしょう。

 ふたつ目は「まちを知る」ということです。
 普段の生活の中で地図と接する機会はそれほど多くはありません。しかし、地図にはさまざまな情報があります。「まちの構造はどうなっているのか」「危険な場所や注意しなければいけない施設はどこか」地図に書き込んでいくにつれて、自然と地域を見直し、自分のまちがどのようなまちなのか理解できるようになってきます。そして、自分のまちの災害に対する弱さや強さがより身近なものとして感じられてくるのです。こうした特色を持つDIGは「わがまち再発見」とも言われています。

 最後に「人を知る」ということです。
 DIGでは「いざという時に頼りになる人はどこにいるのか?」「近所に手助けが必要な人はいないか」といった情報を地図に書き込んでいきます。この作業を通じてまちの「人材目録」が作られます。さらに、ワイワイ、ガヤガヤとみんなで作業を進めるうちに参加者の間で連帯感が生まれ、信頼関係が育まれていきます。
 それでは、DIGの進め方について、説明していきましょう。
 DIGに参加する人の役割には、次のようなものがあります。

 まず、DIGの進行役の役割は...
  (1)DIGを企画し、全般的な運営を行います。自主防災組織の役員などが考えられます。それは、あなたかもしれません。
  (2)DIGで検討する被害想定を作成します。これは、自力では難しいと思ったら、自治体の防災担当職員や消防職員などに相談してみるのもよいでしょう。
  (3)DIGの講評を行います。これも自力では難しいと思ったら自治体の防災担当職員や消防職員などに相談してみるのもよいでしょう。複数の進行役が、これらの役割を分担するとよいでしょう。

 次に、DIGにプレーヤーとして参加する人は、与えられた被害状況や対応状況に応じて、地図に書き込み「ああしよう」「こうしよう」「ああでもない」「こうでもない」と議論する役割となります。

 DIGを始めるに当たり、住宅地図、地図の大きさに合わせた透明シート、油性の色ペン、マジック修正用のベンジンとティッシュペーパー、付箋を準備して下さい。 以上でだいたいの準備は完了です。では、さっそくやってみましょう。


 まず、グループ分けを行います。テーマや参加人数、地図の大きさなどを考慮してグループ分けをして下さい。その際に、記録係を設定してゲーム終了後の発表が出来るように準備しておきましょう。1グループ5人~10人程度が理想的です。
【補足:ナレーションにあるとおり、15人まで増やしても問題ありません】

 そして、進行役は、プレイヤーに、DIGを行う際の基本的な前提条件を説明します。プレイヤーが、想定上「どのような立場で」「どのような災害に対して」立ち向かうのか、その役割を認識してもらいます。
 設定が出来たら、地図の上に透明シートを重ね、その上に病院、避難所、防災倉庫など地域の防災のために役立つ場所、鉄道や幹線道路などを油性ペンで書き込んだり、付箋で印を付けていったりします。

 いよいよ災害が発生します。
 進行役が、火災発生、生き埋め現場発生、道路の寸断など刻々と変化していく災害状況をプレイヤーに伝えます。プレイヤーは、この情報に応じて、たとえば、避難方法や避難路などを考えて地図に書き込みます。そして、書き込まれた地図を見ながら、起こりうる被害やその対応策について参加者全員で話し合います。 例えば、近所の壊れた家の中から「誰か、助けてくれ」という声が聞こえてきたときに、どのような行動をとるか、必要なものは何か、日ごろから行うべきことはなにか、
など一緒に考えていきます。

 話し合いがひととおり終わると、その内容を紙に書き出し、作成した地図とともにグループごとに発表を行います。災害対策活動の方法は1つではありません。他のグループは、別の方針に従いそれぞれ違った行動をとっているとも考えられます。

 それぞれのグループが何故そのような行動を取ったのかをみんなで考えることが、より深く考えることにつながります。

 最後に、アドバイザー的な立場の人から、議論の様子、報告の内容についてコメントしてもらいます。
 ここでは、問題点を指摘してもらうというよりも、「それぞれのグループにおける優れた点を共有しましょう」という視点でコメントしていくことが、より良い対策を考えていく上で重要です。

 DIGを行うと、書き込みという形で行われる地図との対話によって、地域の防災上の長所や短所が自然に理解されるようになるはずです。住民自身が自分たちの手で防災に関する地図を作り、地域のウィークポイントを知ることや被災状況をイメージすることは、地域の防災力を高める第1歩です。

 また、DIGは災害対策本部の運営というスタイルをとっていますから、いざというときに地域のみなさんが組織的にどのように行動すべきかを考えるトレーニングにもなります。

 DIGには間接的な効果もあります。参加者全員が真剣に討議を重ねることによって参加者の間に連帯感や信頼関係がうまれます。また、準備段階での共同作業は、地域のネットワークづくりに最適です。自主防災の意識が自然に芽生えることに大きな期待が持てます。さらに、参加者が自分で気づき、自分で解決する力が付くこと、防災活動に必要なしきりのセンスが身に付くこと、地図の使い方になれることなどさまざまな効果があり、地域の防災力が無理なく自然に向上します。

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