地域防災の実践
3.発災対応型防災訓練

発災対応型防災訓練というのは、東京消防庁が発案したもので、特定の訓練場を設定しない訓練です。従来の防災訓練(会場型訓練)では、地震発生のサイレンとともに、みんなでそろって避難場所へ集合し、消防署員などの指導を受けて初期消火訓練や救護訓練などを行うものでした。

しかし、災害はいつどこで起きるか分かりません。発災対応型防災訓練では、普段の生活の場である「あなたのまち」(道路や空き地等)が会場になります。訓練の基本的な流れをみていきましょう


地震発生の合図とともに、地区内の各所で訓練として、火災、倒壊家屋、負傷者等を同時に発生させます。発災の合図により、住民は自宅でテーブルの下に潜るなどの防災行動を取った後、避難場所などへ避難します。ところが、目的地まで向かう途中で、火災、倒壊家屋、負傷者に遭遇してしまいます。当然見過ごすわけにはいかないでしょう。住民一人一人が、消火活動にあたったり、救出活動に協力したり、応急手当を率先して行わなければなりません。遭遇したその場の状況により、各自の判断で訓練が進められることから「シナリオのない防災訓練」と呼ばれます。

この訓練では、いざ災害が発生したときに参加者が適切な行動をとれるよう、各訓練ポイントには役員が付いて参加者(住民)を指導することが望ましいでしょう。消防署、市町村役場、警察署などは訓練実施に至るまで自主防災組織からさまざまな相談に応じ、訓練用の資機材(訓練用消火器、ポイント標示看板等)を貸出すなどの役割が期待されます。

発災対応型防災訓練の実際をさらに具体的に見ていきましょう。訓練に参加する地域住民には、「○月×日、○時から防災訓練を行います。

サイレンが発災の合図です。地震の揺れは、長くても1分くらいですので、1分後に家の外に出て周囲の状況を把握してください。」とだけ、伝えておきます。実際に把握すべき項目は、「揺れのおさまるまでの1分間に自分と家族の身の安全を図ったか。」「揺れがおさまったら火の元の安全・家族の安全を確認できたか」などです。家の外に出てみると、火災が発生しており、助けを呼ぶ声が聞こえます。実際に火を燃やすと後片付けが大変になるので、発炎筒などを使用します。発炎筒の後ろにあるのは火災を示す表示板です。急いで必要な本数の消火器を集め、皆で手分けして消火活動に当たります。「3分以内に3本~5本(訓練の状況により適宜)集めてください」と指示します。時間内に集められなかった場合には火が大きくなってしまい危険である旨を説明します。

家屋が倒壊し、生き埋めになっている人がいます。直ちに救出しなければなりません。家や手近な防災倉庫からバールやジャッキなどの機材を持ち寄ります。訓練に当たっては、町内の適当な駐車場・空き地に廃材を積み上げ、下にダミー人形を入れておきます。生き埋めになった人は、まだ息があり、助けを呼んでいます。瓦礫の除去に当たってはけが人に注意して行います。ダミー人形でなく本物の人間が要救助者役を演じると、より臨場感と緊張感が漂います。

無事救出できました。すぐに医師のいる場所へ運ばなくてはなりません。担架があればそれに乗せますが、ない場合は機転を利かせて使えそうなものを転用します。厚手の板やたたみ、物干し竿と毛布・トレーナーなどを組み合わせて応急担架を作ります。要救助者の救助訓練では、道路端に人が倒れている場合もあります。その場合は近くの人を呼んで一緒に運びます。その他、発災対応型防災訓練には、通行不能時の対処法や、避難地における家族の安否情報の伝達などの訓練があります。地域の災害危険性に応じて現実感のある訓練を行うと良いでしょう。

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