水害対策(監修:片田敏孝 群馬大学教授)
1.住民が受け入れ可能な避難計画

 洪水に備えた避難計画が実効性を持つためには、住民に要求する行動様式が、 少なくとも住民にとって受け入れ可能な範囲にあることが必要です。


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1998年(平成10年)8月末北関東・南東北豪雨災害当時の郡山市の避難計画では、 郡山市洪水ハザードマップに示される浸水予想区域に居住する要避難者の避難所として、57箇所の施設が指定されていました。

 避難所までの住民の移動手段に関しては徒歩を原則とし、避難施設までの移動距離は、 悪路のなか1時間以内に移動できる距離として概ね2km以内としていました。

しかし、1998年(平成10年)8月末洪水時の住民避難の様子をみると、 84.3%の世帯においては少なくとも1人以上の世帯員が避難を行っているものの、 避難所への避難は39.1%に留まり、避難先の多くは、親戚や知人宅、さらには健康ランドなどが利用されており、 避難所への避難は低調でした。
また、避難手段については、徒歩により避難した人がいる世帯はわずか14.3%となっており、 行政が要求する「避難所へ」、「徒歩で」という避難様式は多くの世帯において受け入れられていませんでした。

徒歩を原則とした避難計画に対して、実際には自動車による避難が多くを占めていました。
 避難所までの移動距離と移動時間に対する住民の意向を、群馬県桐生市渡良瀬川沿いで行った調査の結果に もとづいてみてみると、徒歩による避難の移動距離は長くて1km程度、所要時間は15分未満とする回答が大半を占めていました。

 このように、避難計画で想定される「2kmの道のりを1時間歩く」という避難様式は住民の意向と大きく乖離している様子がわかります。
避難計画は、あるべき論だけに終始して策定されると、住民に受け入れられず実効性を持たない事実は認識しておかなければいけません。
また、避難困難者の移動手段や避難先の対応なども含めるならば、浸水前の早めの段階での車利用を認めるなどの検討も行う必要があると考えられます。

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