水害対策(監修:片田敏孝 群馬大学教授)
3.洪水ハザードマップと住民意識・行動

 洪水ハザードマップは、過去の浸水実績や氾濫シミュレーションに基づいて予測された浸水深や、氾濫を想定した避難計画に基づく避難所情報などを地域住民にわかりやすく地図に取りまとめたもので、2000年(平成12年)7月現在78の自治体で作成・公表されています。福島県郡山市においては、1998年(平成10年)8月末北関東・南東北豪雨災害時のおよそ半年前にあたる1998年(平成10年)3月の段階で、住民へ洪水ハザードマップの配布を終えており、全国でも初めて実際の洪水に際して活用された事例として、その効果のほどが注目されました。


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1998年(平成10年)8月末北関東・南東北豪雨災害時の福島県郡山市の避難勧告・指示発令地域周辺を対象に行われた群馬大学工学部による住民意識調査の結果によると、調査対象の全世帯には洪水ハザードマップが配布されているにも関わらず、32.8%の世帯はマップを持っていないとしており、その保管には課題も見られましたが、洪水当日、「あらためてマップを見た」として何らかの利用をしている世帯はおよそ30%存在しており、住民の避難行動に少なからぬ影響を与えたことがわかっています。
 郡山市民の洪水ハザードマップの閲覧状況と、1998年(平成10年)8月末北関東・南東北豪雨災害時の避難行動との関係をみてみると、洪水ハザードマップを見た住民の避難行動は、避難勧告・指示の発令や解除に従順に従っていることが読み取れ、見ていない住民との比較では、発令と共に避難率は高くなる一方で、解除と共に避難率は低くなっていることがわかります。

 また、8月30日(午前9:30に避難指示が発令)における住民の避難開始時刻の分布をみると、洪水ハザードマップを見た住民は、見ていない住民よりも早い段階で避難を開始しており、その開始時刻の平均ではおよそ1時間ほど早くなっています。
 洪水ハザードマップなど平常時の河川情報の提供やそれによる河川教育には、平常時が故に問題意識を持たせることの難しさは存在しますが、洪水ハザードマップの公表をはじめとする種々の社会教育・学校教育の機会を捉えて根気よく取り組み、河川そのものの理解とそれに基づく災害意識の高揚を図る努力が継続的に求められます。

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