土砂災害対策(監修:岩松暉 鹿児島大学名誉教授)
5.土石流

土石流は渓流に沿って土石が急速に流下する現象です。大部分上流でのがけ崩れが引き金となっています。崩壊した土砂が川になだれ込んで水をもらい、流動化するのです。これは1997年に起きた出水市針原川の土石流災害です。土石流は直進する性質がありますから、沢の出口は危険です。マタギなど昔から山で働く人々の中には、「天狗の踊り場で野宿するな」との言い伝えがありました。山の中でテントを張れる平らなところはなかなかありませんが、支流が合流したところの土石流扇状地は、平らで乾燥していて、しかも水が得られる絶好の場所です。ですが、ここは天狗様の遊び場だから使ってはいけないと戒めてきました。上流で雨が降ると、そこは晴れていても土石流や鉄砲水に襲われる恐れがあることを知っていて、タブーにしたのでしょう。

出水市針原川土石流災害の起きた針原は、実は天草や島原から移り住んできた人たちが作った新しい集落だったのです。川を人工的に付け替えて集落の端を迂回させ、まさに天狗の踊り場に集落を作ってしまった訳です。
左の写真は1999年の広島災害の航空写真です。沢の出口に団地を造成しています。今の人は、昔の人よりも知恵がなくなってしまったのでしょうか。
なお、土石流もがけ崩れと同様、スピードが速いですから、しばしば人命が犠牲になります。やはり迅速な避難が肝心です。

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