土砂災害対策(監修:岩松暉 鹿児島大学名誉教授)
12.土石流アンケート

これは出水市針原川土石流災害後、鹿児島県土木部が行ったアンケート結果です。土石流危険渓流という看板は設置されていますから、一応、自分のところは危ないところだと知ってはいますが、前兆現象について知っている人はあまりいませんでした。また、国交省が全国的に危険箇所分布図を作成し、県の土木事務所単位のマップにして配っているのですが、その存在を知らない人も過半数いました。
どうして土木部がアンケート調査をしたかと言いますと、災害当日、住民に対して避難勧告が出され、公民館長さんが公民館の鍵を開けたから使うようにと再三連絡したのですが、一人も利用せず、被災してしまったからなのです。勧告を受けた住民は橋のところに川の水位を見に行ったところ、平常よりかえって少ないくらいだったので、洪水の恐れはないと判断して、避難勧告に従わなかったということです。

上流で山崩れが起き、崩壊土砂が川を塞いだからこそ、水位が下がったのであって、まさに土石流の前兆現象だったのですが、土石流に対する知識がなかったため、不幸な結果になってしまいました。
アンケート結果から見ると、これでは第2・第3の針原災害が起こりかねません。もっと普及啓蒙活動が必要なことを示しています。土砂災害の発生頻度は100年オーダーですから、祖父母から孫へかろうじて伝承される程度の周期です。核家族時代にそうした家族間の伝承は期待できませんし、都市では住民の移動が激しく、地域としても災害の経験が伝わりません。学校教育・社会人教育における防災教育が重要になる所以です。また、マスコミによる啓蒙の果たす役割も大きいと思います。

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