風害対策(監修:丸山敬 京都大学防災研究所准教授)
9.強風被害の発生機構

 ここでは、風によってどのような力が加わるのかを見てみましょう。
 風は空気の運動なので、エネルギーをもっています。1立方メートルあたりの風の運動エネルギーは、1平方メートルあたりの力、すなわち圧力に相当します。例えば、風速40m/sの風が建物でせき止められたとすると、建物には1平方メートルあたり100kg程度の力が加わります。
 この風圧力は風速の2乗に比例して大きくなるので、風速が倍の80m/sになると、風圧力は4倍の約400kgになるわけです。
 さて、建物まわりに風が吹くと、風は建物をよけて吹くため、場所によって風速が変化します。

 風速が減少する部分では、風の運動エネルギーが圧力に変わり、圧力が上昇します。逆に風速が増加する部分では圧力が減少します。
 また、建物の後ろ側では流れがはがれ、平均的に、風上側に風が吹く領域が生じます。
 この領域は、瞬間的には非常に乱れた流れになっており、上空の流れ場の影響を受けて圧力は周囲よりも低くなっています。
 このように、建物まわりでは場所によって圧力の大きさが変化しますが、建物の内部の圧力は、壁や屋根に開いているいろいろな穴や隙間から加わる圧力の総和になるので、周囲の圧力の平均的な大きさとほぼ等しいとみなせます。
 このとき、壁や屋根に加わる風圧力は、建物の内と外から加わる圧力の差となるので、風上面では建物を内側に押す力が、その他の部分では、建物を外側に引っ張る力が加わることになるのです。また、その大きさは、建物周囲の風速の変化に対応して、風上側の軒近くで大きくなり、この部分の被害が多いことに対応しています。
 ところで、このとき風上側の窓が割れるとどうなるでしょうか?
 窓が割れると、大きな開口が生じるため、風上側の圧力が建物の中に伝わります。すると、風上側の圧力は周囲の平均的な圧力よりも高いため、建物内部の圧力は上がり、建物の壁や屋根には、内側から外側に向かって押す力が増加します。
 したがって、先ほど示した風圧力と、この内部に加わる圧力の合計が壁や屋根に加わることになるので、窓ガラスが割れる前に比べて、風上側以外の部分で建物を外側に引っ張る力が増大します。このことは、窓の破壊が、屋根の破壊、壁の剥落などを引き起こす可能性があることを示しており、この意味でも、開口部の防風対策は有効であることが判ります。
 とくに、窓ガラスは飛来物により破壊されることが多いことを考えると、雨戸やルーバーを取り付けることが効果的であることが判ります。

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