地震編-1 発生から24時間まで
2.地震発生直後

まず最初の場面は、地震発生直後です。大きな地震が発生した場合、市町村としてまず何をすべきでしょうか。
 過去の地震では、火災、津波、がけ崩れなどによって、死者や負傷者が発生しています。
 人的な被害をできる限り軽減するため、地震発生直後には、危険な建物からの避難や出火の防止、津波や土砂災害の危険がある場所からの避難など、住民への注意喚起を最優先に行う必要があります。特に、津波警報が発表された場合は、速やかに避難勧告・指示を出すことが必要です。
 しかし、この重要な活動は、さまざまな要因によって阻害されることが少なくありません。どのような阻害要因があるのかを見てみましょう。

住民への注意喚起を行う伝達手段としては、防災行政無線、サイレン、広報車、コミュニティFM、ケーブルテレビ、インターネットメール、ファクスなどが考えられます。被害拡大をできる限り防止するためには、これらの伝達手段を多重化して整備し、さまざまなルートから注意を促すことが重要です。
しかし、それらのすべてを整備している市町村は多くはありません。それどころか、防災行政無線すら整備されていない市町村もあるでしょう。広報車も、道路の被害が激しい場合は利用できる範囲が限られます。ケーブルテレビやインターネットも、回線の不通や損壊、停電などで使えないことが少なくありません。災害時に利用できる情報伝達手段は、非常に限られているのです。

 伝達手段が整備されていれば、何の問題もなく注意喚起を行うことができるかというと、そうではありません。伝達手段には、それぞれ一長一短の特徴があり、十分に情報が行き渡らない可能性もあるのです。
最も有効な伝達手段である防災行政無線について見てみましょう。屋外スピーカーで広報される場合、しばしば、地形や風向きによって聞き取りにくいという問題が指摘されています。2003年(平成15年)5月の宮城県沖を震源とする地震では、いち早く二次災害防止の呼び掛けが行われたにもかかわらず、「音が反響して全く聞き取れなかった」と言う方がいました(社会安全研究所,2003)。  

 このような屋外スピーカーの弱点を補うために、各家庭に戸別受信機が設置されている地域もあります。しかし実際には、日常の放送がうるさいために、受信機のコンセントを抜いたりする方もいます。また停電に備えた乾電池が切れていることもあり、戸別受信機も万全ではありません。

また、注意喚起を行う体制が不十分であることも、迅速かつ漏れのない注意喚起を阻害する大きな要因となります。
先にあげた2003年(平成15年)5月の宮城県沖を震源とする地震は、平日の夕方6時24分に発生しました。ある町では、すでに退庁していた防災担当職員が即座に駆けつけられず、計画されていた防災行政無線による注意喚起ができませんでした。また、あらかじめ広報文を準備していなかったため、どのような文面で広報するのか決めるのに時間がかかったという問題も指摘されています。
さらに、別の町では、防災行政無線を通じて自動的に注意を喚起するシステムが整備されていましたが、その広報文が不適切であったため、より効果的な広報文案を作成しておくことが重要との教訓も得られました(2003年宮城県沖の地震に関する調査団,2004)。

たとえ防災行政無線やサイレンなどの広報設備が整備されていても、それが使えない可能性もあります。
過去の地震では、庁舎が大きな被害を受けてしまい、職員が庁舎に入ることができなかった例があります。
また、庁舎は無事でも、広報設備そのものが被害を受けてしまうという問題もあるでしょう。さらには、災害に伴って停電が起こり、非常用の自家発電装置がうまく起動しないこともあります。このような場合には、広報設備は機能することができないのです。

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