地震編-1 発生から24時間まで
3.地震発生から1時間

次に、注意喚起と並行した場面をもう1つ考えましょう。発災からおおむね1時間以内です。
 この場面では、組織的な応急対策を開始するための前提条件を整える必要があります。すなわち、災害対策本部としての機能を確立するとともに、概括的な被害情報を把握して都道府県や消防庁に伝達することです。
 震度5強以上の地震を覚知した場合、市町村は被害の有無に関わらず第一報を30分以内に都道府県と消防庁に対して報告することになっています。この活動は、被災した市町村にとっても、応援活動を調整する役割を担う都道府県や消防庁にとっても、広域的な応援を迅速に進めるための鍵となります。
 しかし、こうした重要な活動は、さまざまな要因によって阻害されることが少なくありません。どのような阻害要因があるのかを見てみましょう。

災害対策本部の機能確保を阻害する要因の1つは、庁舎の被災です。

2003年(平成15年)に発生した宮城県北部地震では、町役場の庁舎そのものが被災し、役場近くの農協の建物に災害対策本部を移転した例があります。また、2000年(平成12年)の鳥取県西部地震でも、町役場が被災し、隣接する職員駐車場に臨時の災害対策本部を設置した町がありました。災害対策本部は、計画で定められた場所に設置できるとは限らないのです。

たとえ庁舎が無事であったとしても、電力や上水道などライフラインが停止することで、災害対策本部の機能が阻害されることもあります。停電が起こり、非常用電源も立ち上がらない場合には、災害対応に必要なさまざまな機器やエレベーターなどが使えません。断水によってトイレが使えない中で、職員が災害対応に当たらなければならない可能性もあります。

第二の阻害要因は、応急対策に必要な職員数を確保できない可能性があることです。

災害対策本部の機能を確立するためには、ある程度の人数の職員参集が必要です。しかし実際には、自宅が被害を受けたり、職員自身が被災したりという理由から、すぐに参集できない場合もあります。

仮に自宅を出ることができても、日常的に利用している交通手段が利用できるとは限りません。また、徒歩や自転車などで参集する場合でも、路面の陥没やブロック塀・がれきの散乱により、道路が通行できなくなることもあります。阪神・淡路大震災の当日、神戸市では職員全体の41%しか参集することができませんでした(神戸市,1996)。

また、逆に、被害がそれほどでもない場合には、「参集の必要はない」と職員が自分で判断してしまい、参集する人が少なくなる可能性もあります。

発生から1時間以内の段階では、災害対策本部の機能を確保すると同時に、庁舎付近での火災や生き埋め現場の発生状況を把握し、判明したものから逐次、都道府県や消防庁に伝達することが必要です。しかし、それも容易ではありません。

その理由はさまざまです。被災地内の電話利用が急増し、電話がふくそうすることも大きな理由の1つでしょう。また、停電などの影響でファクスをはじめさまざまな機器が使えない可能性もあります。このような状況に備えて、多くの自治体では自家発電装置を備えていますが、過去の災害では、これがうまく作動しなかった例も少なくありません。

その他にも、消防、警察、病院などの関係機関が被災してしまい、連絡を取れない状況となることもあります。自主防災組織も、その主要メンバーなどが被災して、連絡が取れなくなるかもしれません。

発災直後には、災害対策本部で待っていても必要な被害情報はほとんど入手できません。自ら外に出て被害情報を収集しなければ、被害状況はいつまでもつかめないままなのです。

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