告示

消防防災ヘリコプターの運航に関する基準

令和元年九月二十四日
消防庁告示第四号
消防庁長官 林﨑 理

消防防災ヘリコプターの運航に関する基準を次のように定める。

消防防災ヘリコプターの運航に関する基準

第一章 総則

(目的)
第一条
 この基準は、消防防災ヘリコプターの運航に関する基本的事項を定めることにより、航空消防活動の安全かつ円滑な遂行に資することを目的とする。

(用語の意義)
第二条
 この基準において、次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。

一 消防防災ヘリコプター 地方公共団体が運航する回転翼航空機(消防の用に供するものに限る。)をいう。
二 運航団体 消防防災ヘリコプターを運航する地方公共団体をいう。
三 航空消防活動 消防防災ヘリコプターを用いて行う消火、救急業務、人命の救助、情報収集、輸送その他の消防の活動(これらの活動に係る訓練を含む。)をいう。
四 航空消防活動従事者 消防防災ヘリコプターに乗り組んでその運航又は航空消防活動に従事する者をいう。

第二章 消防防災ヘリコプターの運航体制

(運航体制の整備充実)
第三条
 運航団体は、消防防災ヘリコプターの運航の安全の確保のために必要な組織及び施設設備の整備充実を図るものとする。

(運航規程等の整備)
第四条
 運航団体は、消防防災ヘリコプターの出発の承認の判断基準、運航中の留意事項その他の運航の管理に必要な事項について記載した消防防災ヘリコプターの運航に関する規程(第十六条において「運航規程」という。)を定めるものとする。
2 運航団体は、消防防災ヘリコプターの安全かつ効率的な運航のために全ての利用可能な人員、資機材及び情報を効果的に活用する措置(CRM)に係る実施要領を定めるものとする。
3 運航団体は、運航中の消防防災ヘリコプターにおける航空消防活動従事者による周囲の監視及び機長の注意を喚起するための措置(ボイス・プロシージャー)に係る実施要領を定めるものとする。
4 運航団体は、山岳救助、水難救助その他の特に安全の確保に配慮する必要があると認める航空消防活動の類型ごとに、地域特性等を考慮して、消防防災ヘリコプターに乗り組ませる航空消防活動従事者の数、積載する資機材、要救助者の救出方法その他の航空消防活動の実施に必要な事項について記載した活動要領を定めるものとする。

(運航責任者及び運航安全管理者の配置)
第五条
 運航団体は、消防防災ヘリコプターが配置されている拠点に、運航責任者及び運航安全管理者を配置するものとする。
2 運航責任者は、消防防災ヘリコプターの出発の承認、航空消防活動の中止の指示その他の消防防災ヘリコプターの運航の管理に関する事務をつかさどるものとする。
3 運航安全管理者は、航空機の運航その他の航空消防活動に関する専門的な知見を有する者をもって充てるものとし、消防防災ヘリコプターの運航の安全を確保する観点から、運航責任者、機長その他の関係者に対する消防防災ヘリコプターの運航、航空消防活動の実施、航空消防活動従事者の健康管理その他必要と認める事項に関する助言、第十三条に規定する教育訓練等基本計画及び第十四条に規定する教育訓練等実施計画の立案、これらの業務に必要な調査研究等を行うものとする。
4 運航団体は、運航責任者の事務を補助するため必要な職員を置くものとする。

(二人操縦士体制)
第六条
 航空消防活動を行う消防防災ヘリコプターには、操縦士(航空法(昭和二十七年法律第二百三十一号)第二十八条の規定により当該消防防災ヘリコプターを操縦することができる航空従事者(定期運送用操縦士又は事業用操縦士の資格についての技能証明を有する者に限る。)をいう。以下同じ。)二名を乗り組ませるものとする。
2 運航責任者は、前項の操縦士のうち一名を機長に、他の一名を副操縦士に、それぞれ指定するものとする。
3 副操縦士は、機長が行う操縦の補助及び周囲の監視を行うとともに、機長に事故があるときは、機長に代わってその職務を行うものとする。

(機長及び副操縦士の乗務要件)
第七条
 運航団体は、航空法その他の関係法令が定めるもののほか、「ドクターヘリ、消防・防災ヘリ操縦士の乗務要件及び訓練プログラムに関する検討委員会」の検討結果について(平成三十年一月九日消防広第六号消防庁国民保護・防災部防災課広域応援室長通知)を踏まえ、その消防防災ヘリコプターの機長に必要な飛行経歴その他の要件を定めるものとする。
2 運航団体が第十一条の規定により計画を定めて操縦士の養成訓練を行っており、当該養成訓練のために必要と認める場合には、運航団体が安全性を考慮して定める一定の航空消防活動に限り、当該航空消防活動を行う消防防災ヘリコプターの機長に必要な要件は、前項の要件とは別に定めることができるものとする。
3 運航団体は、その消防防災ヘリコプターの副操縦士に必要な飛行経歴その他の要件を定めるものとする。
4 機長又は副操縦士は、それぞれ第一項又は前項の規定により運航団体が定めた要件を満たす操縦士でなければならないものとする。ただし、運航団体が第二項の規定による要件を定めている場合における同項に規定する一定の航空消防活動を行う消防防災ヘリコプターの機長については、当該要件を満たす操縦士でなければならないものとする。

(航空消防活動指揮者)
第八条
 運航責任者は、航空消防活動の実施に当たっては、航空消防活動指揮者を指定するものとする。
2 航空消防活動指揮者は、消防防災ヘリコプターに乗り組んで、航空法その他の関係法令の規定により機長が行うものとされている権限を除き、航空消防活動の実施に関し、航空消防活動従事者を指揮監督するものとする。

(消防防災ヘリコプターに備える装備等)
第九条
 運航団体は、航空法その他の関係法令の規定により必要とされるもののほか、運航の安全の確保に資するために消防防災ヘリコプターに別表第一に掲げる装備、装置及び資機材を備えるものとする。
2 運航団体は、地域の実情に応じて、運航の安全の確保に資するために消防防災ヘリコプターに別表第二に掲げる装備、装置及び資機材を備えるよう努めるものとする。

第三章 教育訓練等

(教育訓練)
第十条
 運航団体は、次に掲げる教育訓練を行うものとする。

一 操縦士の操縦技能の習得維持に必要な飛行訓練及びシミュレーターを用いた緊急操作訓練
二 第四条第二項に規定する措置を円滑に実施するための訓練
三 前二号に掲げるもののほか、航空消防活動従事者の安全の確保に資する訓練

(操縦士の養成訓練)
第十一条
 運航団体は、将来にわたり操縦士を安定的に確保できるよう、計画を定めて必要な操縦士の養成訓練を行うものとする。

(操縦士の操縦技能の確認)
第十二条
 運航団体は、操縦士の効率的な養成及び安全かつ確実な航空消防活動に資するため、毎年、当該運航団体の操縦士の操縦技能の確認を行うものとする。

(教育訓練等基本計画)
第十三条
 運航団体は、第十条に規定する教育訓練、第十一条に規定する操縦士の養成訓練及び前条に規定する操縦士の操縦技能の確認(以下「教育訓練等」という。)を実施するに当たっては、次に掲げる事項について定めた教育訓練等基本計画を作成するものとする。

一 教育訓練等の目標及び内容並びにその実施方法
二 教育訓練等に係る安全管理対策
三 教育訓練等に必要な施設設備の整備計画
四 教育訓練等に当たる指導者の確保及び養成のための対策
五 前各号に掲げるもののほか、教育訓練等を効果的かつ安全に実施するために必要な事項

2 運航団体は、毎年、教育訓練等基本計画に検討を加え、必要があると認めるときは、これを修正するものとする。

(教育訓練等実施計画)
第十四条
 運航団体は、教育訓練等基本計画に基づき、毎年、次に掲げる事項について定めた教育訓練等実施計画を作成するものとする。

一 年間の教育訓練等の目標及び内容並びにその実施方法
二 年間の教育訓練等の対象者
三 年間の教育訓練等の時間数及び実施時期
四 前三号に掲げるもののほか、年間の教育訓練等を円滑に実施するために必要な事項

第四章 航空消防活動

(調査)
第十五条
 運航団体は、航空消防活動の安全かつ円滑な実施を図るため、当該運航団体の区域、当該運航団体と航空消防活動の実施に関し相互に応援する協定(第二十二条において「相互応援協定」という。)を締結している他の地方公共団体の区域その他当該運航団体の消防防災ヘリコプターを運航することが見込まれる区域における次に掲げる事項について、調査を行うものとする。

一 地勢の状況
二 航空消防活動の必要がある災害の発生するおそれのある場所並びにその地形及び気象の状況
三 飛行場外離着陸場、山林火災の消火に係る給水場所、消防防災ヘリコプターの燃料の補給施設その他の航空消防活動の実施に必要な施設設備の状況、位置、構造及び管理状態
四 前三号に掲げるもののほか、運航団体が必要と認める事項

(消防防災ヘリコプターの出発の承認等)
第十六条
 機長は、消防防災ヘリコプターを出発させるに当たっては、運航規程の定めるところにより、運航責任者の承認を得るものとする。
2 運航責任者は、気象の状況、航空消防活動の内容及びその実施場所の状況等を可能な限り詳細に把握し、運航規程の定めるところにより、前項の承認の可否を判断するものとする。
3 航空消防活動を行うため消防防災ヘリコプターを運航しようとするときは、機長は、航空法第七十三条の二に規定する確認のほか、航空消防活動指揮者による他の航空消防活動従事者に対する当該航空消防活動の目的、内容、現場の状況等に係る説明が終了した後に、消防防災ヘリコプターを出発させるものとする。
4 航空消防活動を行うため消防防災ヘリコプターを運航しようとするときは、運航責任者は、他の消防隊又は救急隊との連携に十分配慮するものとする。

(機長及び航空消防活動指揮者の運航中の安全対策)
第十七条
 機長及び航空消防活動指揮者は、消防防災ヘリコプターの運航中は、運航体制、周辺の気象の状況及び地理的条件、消防防災ヘリコプターの機体の特性、操縦士の操縦技能等を踏まえ、安全管理に十分配慮し、必要に応じて航空消防活動を中止する判断を行うものとする。
2 機長又は航空消防活動指揮者は、航空消防活動を中止する判断を行った場合は、速やかにその旨を運航責任者に報告するものとする。

(運航責任者の運航中の安全対策)
第十八条
 運航責任者は、消防防災ヘリコプターの運航中は、衛星通信を活用した消防防災ヘリコプターの動態を管理するシステム等による飛行状況の監視及び航空消防活動の現場の状況、気象の状況その他の航空消防活動に関する情報の収集を行い、必要に応じて機長及び航空消防活動指揮者に当該情報を提供するとともに、航空消防活動を安全に実施することが困難であると認める場合には、機長及び航空消防活動指揮者に対し、航空消防活動を中止するよう指示するものとする。

(関係機関との連絡体制)
第十九条
 運航団体は、航空消防活動の実施に関し、航空機を用いた捜索及び救助を行う他の行政機関(第二十三条において「関係機関」という。)と相互に緊密に連絡する体制を整備するよう努めるものとする。

第五章 航空機事故対策

(航空機事故発生時の捜索救助体制の確立及び報告)
第二十条
 運航団体は、消防防災ヘリコプターに係る事故(航空法第七十六条第一項各号に掲げる事故に限る。次条において同じ。)が発生した場合又は発生した疑いがある場合には、速やかに当該消防防災ヘリコプターの捜索及び救助の体制を確立するものとする。
2 前項の場合においては、運航団体は、速やかにその旨を消防庁長官に報告するものとする。

(事故が発生するおそれのある事案に係る報告)
第二十一条
 運航団体は、消防防災ヘリコプターに係る事故が発生するおそれのある事案が生じた場合は、その旨を消防庁長官に報告するものとする。

第六章 相互応援協定等

(相互応援協定等)
第二十二条
 運航団体は、近隣の他の地方公共団体との間で、相互応援協定を締結するよう努めるものとする。
2 運航団体は、相互応援協定を締結した他の地方公共団体との間で、それぞれの消防防災ヘリコプターに係る航空法第十条第一項に規定する耐空証明を受けるために必要な検査(次条において「耐空検査」という。)の時期の調整等を行うことにより、当該運航団体の区域における航空消防活動に必要な消防防災ヘリコプターの運航が常時確保されるよう努めるものとする。

(関係機関との連携)
第二十三条
 運航団体は、耐空検査等により当該運航団体の消防防災ヘリコプターが運航できない場合に備えて、関係機関との間で、航空消防活動の必要がある災害が発生した場合における対応を相互に協力して行うための協定等を締結するよう努めるものとする。

附則

(施行期日)
第一条
 この基準は、令和元年十月一日から施行する。ただし、次の各号に掲げる規定は、当該各号に定める日から施行する。

一 第五条第一項(運航安全管理者に関する部分に限る。)及び第三項の規定 令和三年四月一日
二 第四条第二項、第六条、第七条及び第十条(第二号に係る部分に限る。)並びに次条の規定 令和四年四月一日

(経過措置)
第二条
 前条第二号に掲げる規定の施行の日から起算して三年を経過する日までの間において、操縦士の確保及び養成の状況等に鑑み、操縦士二名を消防防災ヘリコプターに乗り組ませることが困難であると運航団体が認める特段の事情がある場合には、第六条第一項の規定にかかわらず、同項の操縦士のうち一名に代えて、定期運送用操縦士又は事業用操縦士の資格(回転翼航空機に係るものに限る。)についての技能証明及び航空身体検査証明を有する者であって第十一条の規定により運航団体が定めた計画に基づき操縦士の養成訓練を受けている者一名を運航支援者として、消防防災ヘリコプターに乗り組ませることができるものとする。この場合における第六条第二項の規定の適用については、同項中「前項の操縦士のうち一名を機長に、他の一名を副操縦士に、それぞれ」とあるのは「操縦士を機長に、定期運送用操縦士又は事業用操縦士の資格(回転翼航空機に係るものに限る。)についての技能証明及び航空身体検査証明を有する者であって第十一条の規定により運航団体が定めた計画に基づき操縦士の養成訓練を受けている者一名を運航支援者に」とする。
2 運航支援者は、周囲の監視及び機長に対する操縦上の助言等の支援を行うものとする。
3 第一項の規定により運航支援者を乗り組ませることとする運航団体は、その消防防災ヘリコプターの運航支援者に必要な飛行経歴その他の要件を定めるものとする。
4 運航支援者は、前項の規定により運航団体が定めた要件を満たす者でなければならないものとする。

第三条 この基準の施行の際現に存する消防防災ヘリコプターであって別表第一に掲げる装備、装置及び資機材を備えていないもの(この基準の施行の際現に地方公共団体が取得の手続を進めている新たな消防防災ヘリコプターであって、その決定された仕様において別表第一に掲げる装備、装置及び資機材を備えることとされていないものを含む。)に係る第九条第一項の規定の適用については、同項中「備えるものとする」とあるのは「備えるよう努めるものとする」とする。

別表第一(第九条第一項関係)

一 自動操縦装置
二 VOR(超短波全方向式無線標識)信号受信装置及びILS(計器着陸用システム)信号受信装置
三 機上DME(距離測定装置)
四 航空交通管制用自動応答装置
五 電波高度計
六 予備姿勢指示装置
七 GPS(全地球測位システム)航法装置
八 GPS(全地球測位システム)地図表示装置
九 空中衝突防止警告装置
十 飛行記録装置及び操縦室用音声記録装置
十一 衛星通信を活用した消防防災ヘリコプターの動態を管理するシステム
十二 衛星電話装置

別表第二(第九条第二項関係)

一 緊急着水用フロート
二 雪上用降着装置(スノースキー・スノーシュー)
三 救命ボート
四 燃料増槽装置
五 気象レーダー
六 RNAV(広域航法)装置
七 対地接近警報装置
八 障害物を検知する装置
九 遮光カーテン
十 ホイストカメラ
十一 サーチライト装置