消防予第44号 消防設備点検資格者の資格喪失に係る運用について(平成10年3月31日)
消防設備点検資格者の資格喪失に係る運用について
(通知) |
消防法第17条の3の3の規定に基づく消防用設備等に係る点検のうち、一定の要件の防火対象物については、消防設備士免状の交付を受けている者のほか、自治大臣が認める資格を有する者として財団法人日本消防設備安全センター(以下「安全センター」という。)が行う講習の課程を修了した者(消防設備点検資格者)が行うこととされている。
この消防設備点検資格者の資格喪失に係る要件については、「消防法施行令第36条第2項に定める防火対象物における消防用設備等を点検する資格を有するものを定める件」(昭和50年自治省告示第89号)第3に定められているところであるが、今般、安全センターから資格喪失に係る事務処理等について明確化を図る観点から、別添1のとおり取り扱うこととする旨の報告があったので通知する。
また、全国消防長会(予防委員会)において、「消防設備点検資格者の不適正点検に対する指導指針」(別添2参照。以下「指導指針」という。)が取りまとめられ、既に関係消防機関に送付されているので、消防設備点検資格者に対する指導、安全センターに対する通報等については、当該指導指針を活用することとされたい。
なお、消火器の不適切な点検等に係る情報提供については、平成9年12月1日付け消防予第186号において行っているところであるが、最近においても類似の事例が各地において散見される状況にあり、引き続き防火対象物の関係者等に対し、情報提供をするなど、その周知方についてよろしくお願いしたい。また、当該状況を把握した場合にあっては、指導指針に従って適切な措置を講じることとされたい。
おって、貴管下市町村にもこの旨示達の上、よろしく周知を図られたい。
別添1
消防設備点検資格者の資格喪失に係る運用について
昭和50年自治省告示第89号第3各号の規定(以下「資格喪失要件」という。)の一に該当し、資格を失うこととなる消防設備点検資格者(以下「点検資格者」という。)及び「消防設備点検資格者の不適正点検に対する指導指針」(平成10年2月25日付け全消発第34号全国消防長会会長通知)により、市町村消防機関から通報された点検資格者については、次のとおり運用するものとする。
1 履歴管理体制の整備
現在、行っている点検資格者の免状の書換え、再交付、再講習受講状況、資格の喪失等の履歴管理に加え、不適正点検を行ったとして消防機関から通報されてきた情報等の履歴を追加入力し、一元的に管理・蓄積することとし、併せて関係書類を編綴し、保管しておくこととする。
2 調査委員会の設置
点検資格者の資格喪失に係る処分等について調査・審議等をするため、学識経験者、消防庁、消防機関の代表者等で構成する「消防設備点検資格者調査委員会。以下「調査委員会」という。」を設置する。
3 事実確認
消防機関等から点検資格者の不適正点検に係る通報又はその他資格喪失に係る情報を入手した場合は、速やかに、その内容についての事実確認を行うものとする。
4 調査・審議
資格喪失要件に該当する事実が確認された点検資格者については、調査委員会において処分等に係る調査・審議等を行うものとする。
5 聴聞
資格喪失要件に該当するに至った者について、資格喪失の処分を行う場合には、聴聞を行うこととする。
6 資格喪失の通知等
点検資格者の資格喪失の処分を決定した場合には、当該点検資格者に資格が喪失した旨及び消防設備点検資格者免状の返納について通知するとともに、消防庁に報告するものとする。
7 公表
資格を喪失した点検資格者の氏名、免状の種類、交付年月日、交付番号を機関誌「月刊フェスク」に掲載し、その事実を各都道府県消防主管課、各市町村消防機関、各都道府県消防設備保守協会等の関係者に通知するものとする。
8 履歴登録・管理
資格を喪失した事実及び不適正点検により消防機関から通報された通報基準点数、不適正点検の概要等を履歴として登録し、管理するものとする。
別添2
消防設備点検資格者の不適正点検に対する指導指針
目次
第1 目的
第2 免状交付機関への通報の基準及び運用要領
1 通報の趣旨
2 通報基準点数の算定
3 通報の対象
4 通報の方法
5 広域的不適正点検への対応
6 通報上の留意事項
第3 行政指導の基準及び運用要領
1 行政指導の趣旨等
2 行政指導の責任者、主体
3 行政指導の客体
4 行政指導基準
5 行政指導の方法
6 運用上の留意事項
第4 運用開始
[添付資料]
資料1 不適正点検の実例調査結果
資料2 消防設備点検資格者資格喪失事例
資料3 基本的事項の検討
消防設備点検資格者の不適正点検に対する指導指針
第1 目的
この指針は、消防機関が消防設備点検資格者(以下「点検資格者」という。)の不適正な点検を把握した場合における、財団法人日本消防設備安全センター(以下「免状交付機関」という。)への通報要領及び点検資格者等に対する行政指導要領等について定める。
第2 免状交付機関への通報の基準及び運用要領
1 通報の趣旨
通報は、消防用設備等の信頼性を確保し、もって人命の安全を図るうえで、免状交付機関における情報管理が必要と認める点検資格者について、消防法施行令第36条第2項に定める防火対象物における消防用設備等を点検する資格を有する者を定める件(昭和50年4月自治省告示第89号)に規定する資格喪失を視野に入れて行うものとする。
2 通報基準点数の算定
点検資格者が不適正点検を行った場合は、(1)により算定した違反点数と(2)の前歴点数とを合計した点数(以下「通報基準点数」という。)を算出する。
(1) 違反点数の算定
違反点数は、表1の基礎点数に表2の事故加点を加えることにより算出する。
ア 基礎点数に該当する違反行為が複数特定された場合は、各違反行為に係る基礎点数を合算する。
イ 事故加点は、違反行為と相当な因果関係を有する損害について、その程度に応じた災害事故加点及び人身事故加点のうち、該当する項目を合計したものとする。
ウ 共同違反行為については、当該共同違反行為を行ったすべての点検資格者について当該違反行為に係る違反点数を計上する。
なお、他の点検資格者又は消防設備士を教唆して違反行為を行わせた者についても、共同違反行為を行った者として取り扱う。
表1 基礎点数
違反条項等 | 項 | 違反行為の種別 | 点数 | ||
GFCA |
① |
点検基準違反の点検実施 |
a |
消防用設備等の機能、効用が著しく損なわれている場合 | 6 |
b |
a以外の場合 | 2 | |||
② |
事実と異なる点検結果の記載 |
a |
消防用設備等の機能、効用が著しく損なわれている場合 | 6 | |
b |
a以外の場合 | 2 | |||
A、B、C、D、E |
③ |
資格外の点検実施又は無資格者を利用しての点検の実施 | 6 |
(注) 「消防用設備等の機能、効用が著しく損なわれている」とは、当該消防用設備等の未設置又は一部未設置と同一視され得る程度に機能、効用が損なわれている状況をいう。
(凡例)
A:消防法第17条の3の3
B:消防法施行令第36条
C:消防法施行規則第31条の4
D:消防法施行令第36条第2項に定める防火対象物における消防用設備等を点検する資格を有する者を定める件(昭和50年4月1日自治省告示第89号)
E:消防法施行規則の規定に基づき消防設備士免状の交付を受けている者又は自治大臣が認める資格を有する者が点検を行うことができる消防用設備等の種類を定める件(昭和50年4月1日消防庁告示第2号)
F:消防法施行規則の規定に基づき消防用設備等の種類及び点検内容に応じて行う点検の期間、点検の方法並びに点検の結果についての報告書の様式を定める件(昭和50年4月1日消防庁告示第3号)
G:消防用設備等の点検の基準及び消防用設備等点検結果報告書に添付する点検票の様式を定める件(昭和50年10月18日消防庁告示第14号)
表2 事故加点
事故の程度 | 点数 | 人身事故の程度 | 点数 |
事故の程度が小 |
2 |
軽傷(入院加療を必要としないもの) |
6 |
事故の程度が中 |
4 |
中等症(重症又は軽傷以外のもの) |
8 |
事故の程度が大 |
6 |
重症(3週間以上の入院加療を必要とするもの) |
10 |
  |   | 死亡(48時間以内に死亡した場合を含む) |
20 |
(注)① 事故発生に係る付加点数は、点検資格者が行った違反行為と事故が相当の因果関係を有する場合に当該事故の程度に応じ点数を加点する。
② 事故の程度は、火災の焼損面積(爆発事故の場合は破壊の程度)及び社会公共に与えた影響度等を総合的に勘案して判断する。
③ 人身事故の程度は、初診時における医師の診断に基づき分類する。
④ 死傷者が2人以上の場合は、その最も重い者により分類する。
(2) 前歴点数
前歴点数は、当該違反行為のなされた日(継続する性質の違反行為については、当該違反行為を覚知した日)を起算日とする過去3年以内におけるその他の違反行為に係る違反点数を合計した点数とする。
(3) 運用上の留意事項
ア 点数の算定
点数の算定に当たっては、原則として次に掲げるところによる。ただし、これにより難い事情がある場合は、個別に検討するものとする。
(ア) 複数の点検資格所持者、共同違反行為者に対する取扱い
a 点検資格者免状と消防設備士免状とを併せて有する者に対しては、次により処理するものとする。
(a) 点検資格者として不適正点検を行なった場合は、点検資格者資格について違反点数を計上する。
(b) 消防設備士として不適正点検を行なった場合は、点検資格者資格については違反点数を計上しない。この場合は、消防設備士免状の返納命令に関する運用基準の策定について(平成4年7月1日消防予第136号消防庁予防課長通知。以下「設備士免状の返納命令運用基準」という。)により処理する。
b 第一種及び第二種の点検資格者免状を有する者に対しては、当該両方の資格に違反点数を計上する。
c 点検資格者免状又は消防設備士免状を有する共同違反行為者に対しては、次により、いずれか一方の資格について措置するものとする。ただし、これにより難い事情がある場合は、点検資格者、消防設備士の双方の資格について措置を行なうことができる。この場合は、双方の資格について措置したことを都道府県消防機関及び免状交付機関に通知する等して、以後の円滑な事務処理に資するものとする。
(a) 実行行為者が点検資格者として不適正点検を行った場合は、次の優先順位で処理する。
① 実行行為者と同じ点検資格者資格
② 消防設備士資格(この場合は、設備士免状の返納命令運用基準により措置する。)
(例)実行行為者Aが自動火災報知設備を点検資格者として不適正点検、Bが共同違反行為者の場合
A:甲種第一、四、五類及び第二種点検資格者→点検資格者として違反点数を計上
B1:甲種第四類及び第一種、第二種点検資格者→点検資格者として違反点数を計上
B2:甲種第四類及び第一種点検資格者→設備士免状の返納命令運用基準により処理
(b) 実行行為者が消防設備士として不適正点検を行った場合は、次の優先順位で処理する。
① 実行行為者と同じ消防設備士資格(この場合は、設備士免状の返納命令運用基準により措置する。)
② 点検資格者資格
(例)実行行為者Aが自動火災報知設備を消防設備士として不適正点検、Bが共同違反行為者の場合
A:甲種第四類及び第二種点検資格者→設備士免状の返納命令運用基準による。
B1:乙種第四類及び第一種、第二種点検資格者→設備士免状の返納命令運用基準による。
B2:甲種第一類及び第一種、第二種点検資格者→点検資格者として違反点数を計上
(イ) 違反行為の分類と点数の取扱い
a 表1中①、②及び③に該当する違反行為がある場合は、合算して算出する。ただし、同種違反が複数存する場合は、(ウ)により算出する。
b 点検の未実施又は一部未実施の事実については、「点検基準違反」として違反点数を算出する。
c 不備欠陥を発見できなかった事実又は発見した不備欠陥を点検票に記載しなかった事実については、「事実と異なる点検結果の記載」として違反点数を算出する。
(ウ) 同種違反が複数存する場合の算出方法
a 複数の消防用設備等について違反行為がある場合は、消防用設備等の種類ごとに違反点数を合計する。
(例:消火器について6点、屋内消火栓設備について2点→6+2=8点)
b 同種消防用設備等に同一項に属する違反行為が2以上ある場合は、違反行為が1あるものとして算出する。この場合、最も点数が大きい違反行為が1あるものとして取扱う。
(例:屋内消火栓設備の点検基準違反(表1①)中、a該当(6点)が2件、b該当(2点)が4件→6点)
イ 違反点数、通報基準点数の不計上
違反行為の内容が次の各号の一に該当する場合は、違反点数及び通報基準点数を計上しないものとする。
(ア) 行為につき、正当防衛、緊急避難その他の違法性阻却事由がある場合
(イ) 行為につき無過失である場合
(ウ) 違反行為が継続する性質のものであって、既に行政指導等を行ったにもかかわらず、なお違反状態が継続している場合で、違反者が違反を是正するために要する相当期間が経過していない場合
(エ) 違反者が違反を行ったことにつき、真にやむを得ないと認める事情があるため、通報を行うことが著しく不当と認められる場合
3 通報の対象
通報の対象とする点検資格者は、点検を業とする者としての資質に著しく欠ける者及び経験則上その可能性が大きいと判断される者を重点とする。
(1) 通報の対象とする点検資格者は、表3に該当する者とする。
なお、当面、免状交付機関への情報提供が消防設備点検報告制度の維持発展に資するものであることを踏まえ、積極的に通報するものとする。
(2) 通報の検討要素は、表4を参考とする。
表3 通報を検討する点検資格者
項 |
区分 |
通報の対象とする点検資格者 |
1 |
資格喪失の検討が必要な者 | 通報基準点数が20点以上の者 |
2 |
広域的に不適正な点検を行っている可能性があり、その悪質性に鑑み、免状交付機関において速やかに情報管理等を行うことが相当と判断される者 | 通報基準点数が10点以上で、故意に不適正点検を繰り返し行っている者 |
3 |
通報基準点数が10点以上で、点検業務に関連して詐欺的行為が認められる者 | |
4 |
前各項以外で、免状交付機関における情報管理が相当と判断される者 |
表4 通報の検討要素(例)
項 |
検討要素 |
1 |
通報基準点数 |
2 |
故意、過失の別 |
3 |
過失の場合における不適正点検行為の結果回避可能性 |
4 |
適法行為の期待可能性 |
5 |
適法性の認識又は違法性の認識可能性の有無 |
6 |
平素における消防行政への協力度、反省の程度等の情状 |
4 通報の方法
通報は、消防長等から点検資格者免状交付機関の責任者(理事長)へ文書により行うものとする。
5 広域的不適正点検への対応
(1) 点検資格者に係わる不適正点検の調査の結果、他の消防本部の管轄に係わるものを認めた場合は、速やかに該当する消防本部に連絡するととともに、広域にわたっての不適正点検が行われているものと認められる場合には、通報基準点数が20点に到っていなくとも、併せて免状交付機関に通報するものとする。
(2) 前(1)の連絡又は免状交付機関から点検資格者に係わる不適正点検に関する情報連絡等があった場合は、遅滞なく処理するものとする。
(3) 通報の検討にあたっては、必要に応じて、前歴の有無等を免状交付機関に照会するものとする。
6 通報上の留意事項
(1) 通報することが決定された場合は、免状交付機関に対して、その旨を遅滞なく事前連絡するものとする。
(2) 通報は、通報の趣旨、点検資格者の氏名・資格番号等、事案の概要、情状及び処理上の意見、希望その他の所要事項を簡記したうえ、必要に応じて関係書証の写しを添えて行うものとする。
なお、通報に用いる様式は、別記様式1を基本とし、事案に応じて応用する。
(3) 通報書に添付する関係書証の写しは、別記様式1中の例を参考とする。
なお、必要に応じて免状交付機関と協議するものとする。
(4) 他の消防本部の消防長と共同して通報する場合は、該当する消防長が協議して処理するものとする。
(5) 必要に応じて、通報事案の概要を点検業者の本拠地等を管轄する消防本部、都道府県消防主管部等関係機関に連絡するものとする。
第3 行政指導の基準及び運用要領
1 行政指導の趣旨等
不適正点検を行った点検資格者に対しては、行政指導を通じて注意を喚起し、以後不適正点検を繰り返す場合には、免状交付機関に通報し、資格の取消しを求めることがある旨を警告する等して事案の重大性や責任等を当該点検資格者に理解させ、反省を求め、自発的な再発防止を促すことにより、消防用設備等の信頼性と人命の安全を確保する必要がある。
こうした観点から、本行政指導の内容は、不適正な点検行為に対する注意、警告又は再発防止をその中心とする。
2 行政指導の責任者、主体
行政指導の責任者及び主体は、原則として、消防長又は消防署長とする。
3 行政指導の客体
行政指導の客体は、不適正点検を行った点検資格者(不適正点検に関与した者を含む。以下同じ。)及び当該点検資格者が所属する法人等とする。
4 行政指導基準
(1) 点検資格者に対する行政指導
点検資格者に対する行政指導は、前第2の通報基準点数に応じて、表5の区分の例により行うものとする。ただし、免状交付機関に通報し、点検資格者の資格喪失を求める場合は、通報後における免状交付機関の対応を待って処理するものとする。
表5 点検資格者に対する行政指導基準
通報基準点数の合計 |
行政指導の区分 |
4点以下 |
指導 |
5点以上~12点以下 |
注意 |
13点以上 |
厳重注意 |
(2) 点検会社等に対する行政指導
前(1)の点検資格者が所属する法人等に対しては、必要に応じ、再発防止の徹底及び業務運営体制の確立・実施等について、指導又は警告を行うものとする。
5 行政指導の方法
行政指導は、文書により行うことを基本とする。その様式は別記様式2から6の例を参考とする。
6 運用上の留意事項
(1) やむを得ず口頭により行政指導を行う場合は、点検資格者及びその所属する法人の責任者等に対して、十分説諭する等して実効を確保するものとする。
(2) 必要に応じ、点検資格者及びその所属する法人等に対して、始末書、顛末書又は改善(計画)報告書等の提出を指導するものとする。
第4 運用開始
この指針は、平成○○年○月○日より運用する。