通知・通達

消防予第47号 浮体構造物の取扱いについて(平成10年3月31日)

消防予第47号
平成10年3月31日

各都道府県消防主管部長   殿



消防庁予防課長 &nbsp

浮体構造物の取扱いについて(通知)


 浮体構造物(係留船であって水面、海底等に定常的に桟橋や鎖等で定着された海洋建築物であるものをいう。以下同じ。)であって、消防法のほか、建築基準法、船舶安全法又は港湾法(以下「関係法令」という。)の適用を受けるものに関して、「規制緩和推進計画の再改訂」(平成9年3月28日閣議決定)、「経済構造の変革と創造のための行動計画」(平成9年5月16日閣議決定)等に基づき、事業者に対して過重な負担を課すことがないよう、下記のとおり取り扱うこととしたので通知する。
 ついては、その運用に遺憾のないよう配慮されるとともに、貴管下市町村に対しても、この旨周知を御願いする。
 なお、浮体構造物の取扱いについては、運輸省及び建設省からも別添のとおり各所管担当部局あてに通知されているので、念のため申し添える。


1 浮体構造物については、管海官庁、港湾担当部局及び特定行政庁(以下「関係機関」という。)と連携を図りつつ、個別の浮体構造物の構造、設備、使用形態等を配慮して、関係法令の間で統一的な運用を図り、重複する基準について整合的な要件を設定するものとする。
  特に、船舶安全法が適用される浮体構造物の消防用設備等については、消防法と船舶安全法で異なる要件を設定することがないように留意しつつ、管海官庁と十分調整を図ることとする。

2 消防法に基づく検査及び点検の実施に当たっては、その日程、執行方法等について関係機関及び防火対象物の関係者と十分調整を行うこととする。
  特に、船舶安全法が適用される浮体構造物の消防用設備等のうち、同法の技術基準により設置・維持されているものについては、同法による検査の結果を利活用して、提出書類、現場における機能確認等の簡素化を図るものとする。

海安第38号
海査第170の2号
平成10年3月31日


  地方運輸局船舶部長
  新潟運輸局船舶船員部長 殿
  神戸海運管理部船舶部長
  沖縄総合事務局運輸部長

海上技術安全局安全基準課長
海上技術安全局検査測度課長


   係留船に係る取扱いについて

 係留船であって、船舶安全法のほか、港湾法、建築基準法又は消防法(以下「関係法令」という。)の適用を受けるものに関して、「規制緩和推進計画の再改訂(平成9年3月28日閣議決定)」、「経済構造の変革と創造のための行動計画(平成9年5月16日閣議決定)」等に基づき、関係省庁において「複数の規制が適用される浮体構造物に係る技術基準の適用については、事業者に対し過重な負担を課すことがないよう、個別の事案ごとに、関係行政機関間で協議を行い、重複する事項について当該浮体構造物の形態を配慮して統一的な要件を設定し、これを相互に認め合う」ことで合意し、下記のとおり取り扱うこととしたので通知する。
 管内各海運支局長又は各海運事務所長あてこの旨周知し、運用に当たって遺漏なきよう留意されたい。
 なお、標記については、運輸省港湾局、建設省住宅局及び自治省消防庁からも別添1から3までのとおり各所管部局あて通知されているので、念のため申し添える。


1 技術基準について
  係留船に対する船舶安全法関係技術基準省令の適用については、従前のとおり、原則として船舶検査心得一部改正(暫定案)(昭和63年6月10日 海安第95号)を参考として個別の係留船毎に行うこととし、設計検査に当たって、首席船舶検査官に伺いでることとする。この場合において、関係法令で重複する安全基準については、当該係留船の構造、設備、使用形態等を考慮して、関係法令の所管省庁と調整の上整合化を図った要件を設定することとし、特に、消防法又は建築基準法が適用される浮体構造物については、次の手続きにより取り扱うこととする。

 (1) 消防設備について(消防法関連)
   消防法が適用される係留船の消防設備については、その設計及びその適用基準について、船舶安全法と消防法で異なる要件を設定することがないように留意しつつ、当該係留船を所轄する消防機関の意見を聴取の上、管海官庁の意見を付して首席船舶検査官に伺いでることとする。

 (2) 構造・設備(消防設備を除く)(建築基準法関連)
   建築基準法が適用される係留船の構造・設備(消防設備を除く)については、その設計及びその適用基準について、船舶安全法と建築基準法で異なる要件を設定することがないように本省において建築基準法所管部局と調整を行うので、管海官庁の意見を付して首席船舶検査官に伺いでることとする。

2 検査の方法について
  係留船の検査の方法については、従前のとおり、原則として検査の方法の改正(係留船関係)(暫定案)(昭和63年6月10日 海検第57号)を参考として個別の係留船毎に行うこととする。この場合において、関係法令で重複する検査・点検等については、次の手続きにより、効率化・簡素化を図る。

 (1) 消防設備について(消防法関連)
   建造時検査の実施にあたっては、当該係留船を管轄する消防機関と連携を図りつつ、検査の日程、執行方法について調整することとする。その後の検査の実施に当たっては、消防法が適用される係留船の消防設備であって同法施行令に定める基準が適用されたものについては、同法に基づく点検等の結果を確認の上、差し支えないと認める場合には、現状検査にとどめ、効力試験等を省略して差し支えない。

 (2) 構造・設備(消防設備を除く)(建築基準法関連)
   建造時検査の実施にあたっては、当該係留船を管轄する特定行政庁と連携を図りつつ、検査の日程、執行方法について調整することとする。その後の検査の実施にあたっては、船舶所有者又は建築基準法に基づく検査等の実施者と検査の日程、執行方法について調整を図るものとし、また、同法が適用される係留船の設備(消防設備を除く。)であって同法施行令に定める基準が適用されたものについては、同法に基づく検査等の結果を確認の上、差し支えないと認める場合には、現状検査にとどめ、効力試験等を省略して差し支えない。

平成10年3月31日
港技第34号


  都道府県の港湾関係部局長
                   殿
  重要港湾の港湾管理者の関係部局長

運輸省港湾局技術課長


   浮体構造物の取扱いについて

 浮体構造物(本通達においては、係留船であって水面、海底等に定常的に桟橋や鎖等で定着された海洋建築物であるものをいう。)については、港湾法のほか、建築基準法、船舶安全法又は消防法により、それぞれの法の趣旨に基づいて規定の適用が行われているところであるが、「規制緩和推進計画の再改訂」(平成9年3月28日閣議決定)、「経済構造の変革と創造のための行動計画」(平成9年5月16日閣議決定)等に基づき、今後、貴職が浮体構造物に関して法第56条の3の届出等の審査等をする場合には、事業者に対して過重な負担を課すことがなく、重複して適用される他の技術基準と整合のとれた運用がなされるよう、下記のとおり取り計らい願いたい。
 また、貴管下各機関に対しても、この旨周知方お願いする。
 なお、本件については、運輸省海上技術安全局、建設省住宅局及び自治省消防庁からも別添1から3までのとおり各所管担当部局あてに通知されているので、念のため申し添える。



 浮体構造物に対して、港湾の施設の技術上の基準を適用する際には、複数の法令が適用されることにより事業者に対して過重な負担を課すことがないよう、貴職において、個別の事案毎に当該浮体構造物の構造、設備、使用形態等に配慮して管海官庁、特定行政庁及び消防機関と調整を図られたい。
 なお、技術基準の運用、解釈に疑義が生じた場合には各港湾建設局、北海道開発局又は沖縄総合事務局に問い合わせ願いたい。

平成10年3月31日
建設省住指発第168号


  都道府県建築主務部長 殿

建設省住宅局建築指導課長

   海洋建築物の取扱いについて

 標記については、平成元年1月19日付け建設省住指発第5号及び平成2年5月1日付け建設省住指発第187号により通知したところであるが、海洋建築物のうち建築基準法のほか船舶安全法、港湾法又は消防法の適用を受けるものに関して、「規制緩和推進計画の再改定について」(平成9年3月28日閣議決定)、「経済構造の変革と創造のための行動計画」(平成9年5月16日閣議決定)等において、技術基準の整合性の確保、効率的な検査の実施等これらの法律の円滑な運用方法について検討し所要の措置を講じることとされたところである。
 このため、建設省においては、建築基準法第38条の規定に基づく認定に当たり、関係法令に基づく技術基準との整合を図るため関係機関と調整することとしているが、貴職におかれても、平成2年5月1日付け建設省住指発第187号の別添「海洋建築物安全性評価指針」が関係法令に基づく技術基準との整合性を踏まえ別添1のとおり改訂されたので、本指針を参考として必要な指導を行い、海洋建築物の構造上、防火上及び避難上の安全性の確保並びに的確な維持管理の実施に努められたい。
 また、建築基準法第7条第2項の規定による検査の実施に当たっては、事業者の負担の軽減を図るため、船舶安全法施行規則第1条第14項に規定する管海官庁及び消防部局の検査と同時に行うなど、検査の日時、方法等について管海官庁及び消防部局と緊密な連携を図るほか、建築基準法第12条第1項の規定による調査及び同条第2項の規定による検査の実施に当たっても、同様に、管海官庁及び消防部局の検査と日時、方法等について調整することができることを所有者(所有者と管理者が異なる場合においては、管理者)に周知されたい。
 なお、標記については、運輸省及び消防庁からも別添2から4までのとおり各所管部局あてに通知されているので、念のため申し添える。
 貴管下特定行政庁に対しても、この旨、周知方お願いする。

別添1

   海洋建築物安全性評価指針

財団法人 日本建築センター

まえがき
  近年、ウォーターフロントを利用したレジャー開発が盛んになってきており、その一形態として、係留型の海洋建築物(水上、水中に設けて建築物としての用に供する施設をいい、淡水域に設けるものも含む。)が、各地で計画されるようになってきた。
  建築基準法では、従来より水底に固着された水中展望塔などの他に、水上に浮かぶものについても、鎖や桟橋により水底に定着され建築物の用に供するものは建築基準法の対象とされており、旧南極観測船ふじ(名古屋港で博物館として使用)等、多くの海洋建築物の安全性が建築基準法により確保されてきている。
  また、平成2年4月には、(財)日本建築センターにおいて、この「海洋建築物安全性評価指針」をとりまとめ、評定のガイドラインにするとともに、事業者側の計画・設計の指針として活用されることを目的として作成したところであるが、このたび「規制緩和推進計画の再改定について(平成9年3月閣議決定)」等を踏まえ、関係法令の技術基準の整合性の確保の観点からこの「海洋建築物安全性評価指針」を改訂したものである。
 この指針の適切な活用により、海洋建築物の計画・設計の合理化と審査の迅速化に資することが期待される。

目次

 第1章 総則
  1 一般
  2 構造種別と規模
  3 係留位置

 第2章 構造計画
  1 総則
  2 自然環境条件
  3 設計用荷重
  4 構造解析
  5 構造材料
  6 構造設計
  7 復原性能設計
  8 係留装置設計v
  9 桟橋設計
  10 防食

 第3章 防災計画
  1 総則
  2 防災計画の基本方針
  3 主構造材の耐火性能
  4 防火区画
  5 内装防火設計
  6 煙制御設計
  7 避難設計
  8 消防用設備

 第4章 維持管理
  1 維持管理

第1章 総則

 1 一般
   本指針は、新築及び転用船舶の係留型の海洋建築物(以下「海洋建築物」という。)及びその係留装置、桟橋等の構造計画、防災計画及び維持管理において、その安全性を担保するために考慮しなければならない基本的事項を示すものである。

 2 構造種別と規模
  (1) 対象とする構造物の構造種別は、鋼構造を原則とする。木造、鉄筋コンクリート造、FRP造等他の構造種別による場合は、必要な事項について別途検討を行い安全性を確認すること。
  (2) 規模の大小は問わないが、小型のものについては、本指針に示された以外の方法により安全性を確認することは妨げない。

 3 係留位置
   本指針の対象とする海洋建築物の係留位置は、当該建築物の構造安全性の検討に当たって設定されるべき自然環境条件を合理的かつ適切に推測することができ、かつ流氷の着岸のない水域とする。

第2章 構造計画

 1 総則
  1―1 一般
    本指針は、係留型の海洋建築物及びその係留装置、桟橋等の設計において構造安全性を確保するために考慮しなければならない基本的事項を示すものである。
  1―2 構造設計及び構造安全性検討の手法
   (1) 設計に採用する荷重は、「3 設計用荷重」に示すものとする。
   (2) 設計手法及び構造安全性の検討手法は、建築基準法、同法施行令及びこれらの規定に基づく命令並びに(社)日本建築学会の関連諸基準等に準拠することを原則とするが、対象構造物特有の構造部分に関する検討や、特殊な荷重・外力条件に関する検討などについては、船舶等他分野で慣用されている手法によることができる。
   (3) 係留装置については、想定される荷重・外力の他、係留機能を保持するものとする。
   (4) 桟橋は、直接作用する荷重・外力の他、係留浮体を介して得られる荷重・外力に対しても構造安全性を確保しなければならない。

 2 自然環境条件
  2―1 風
    暴風時に想定する暴風の10分間の平均風速は、建設地点において100年につき1回の割合で発生するものと予想されるものとして定める場合のほか、次の式により計算したものとすることができる。
    V=V0(h/10)0.1
    ここに、
     V:海面上高さh(m)における10分間の平均風速
     V0:海面上10mにおいて想定した10分間の平均風速として、次の表に掲げる数値以上のもの
     h:海面上の高さ(m)

地方 昭和27年建設省告示第1074号第2号の表中(1)に掲げる地方 同表中(2)及び(3)に掲げる地方 沖縄県 左記以外の地方
平均風速
(m/s)
30 35 50 40


  2―2 波浪
   (1) 暴風時には、前項において設定した風を伴う波浪を想定する。
   (2) 風浪を推算する手法は、有義波法を標準とする。
   (3) うねりを推算する手法は、プレットシュナイダー法を標準とする。
   (4) 係留水域周辺の地形、推進及び海洋建築物周辺の既存の施設の設置状況等に応じて、回折・反射・屈折等による波の変形を考慮する。
   (5) 顕著な砕波の発生が予想される場合には、浮体の水線近傍の構造強度を検討するための砕波を想定する。
  2―3 潮流及び海流
    潮流及び海流による影響は、必要と認められる場合には考慮する。
  2―4 潮位及び副振動
   (1) 潮位の変動については、その影響を検討する。
   (2) 過去に異常潮位あるいは顕著な副振動が発生した水域では、その影響についても検討する。
  2―5 高潮(暴風津波)
    台風時に高潮(暴風津波)の発生が予測される水域では、その影響について検討する。
  2―6 津波
    過去に、地震に伴って著しい波高の津波が発生したことのある水域では、その影響について検討する。

 3 設計用荷重
  3―1 固定荷重(G)
    固定荷重は、建築基準法施行令第84条による。
  3―2 積載荷重(P)
    積載荷重は、建築基準法施行令第85条による。ただし、浮体の復元性を検討する場合には、積載荷重の低減と偏在を考慮する。
  3―3 静水圧及び浮力(B)
    静水圧及び浮力は、固定荷重と積載荷重の和に対して、浮体の静的な釣合から求める。
  3―4 風圧力(W)
   (1) 海洋建築物各部に作用する風圧力は、2―1 において想定した暴風の10分間の平均風速に基づき計算するものとする。
   (2) 風圧力の算定における風力係数は、実況に応じて適切に設定する。
   (3) 風圧力の算定に当たっては、風の乱れ及び海洋建築物各部の振動性状の影響を考慮する。
     ただし、海洋建築物の係留力及び復原性能の評価に係る風圧力の算定においては、それらの影響を無視することができる。
  3―5 波力及び波浪荷重(X)
   (1) 波は、原則として浮体に対して可能なあらゆる方向から来るものとする。浮体に作用する波力は、浮体の形容及び係留位置の波の諸元を考慮した適切な理論、あるいは水槽実験から求める。
   (2) 防波堤を設ける等、浮体周囲の環境を変える場合は、波力を適当に減じてもよい。
   (3) 浮体の動揺量及び動揺により浮体に生じる準静的な波浪荷重(変動水圧、慣性力及び係留反力)
   (4) 柔らかい係留システムで係留される浮体に対しては、波浪漂流力を考慮する。
   (5) 浮体の動揺量及び動揺により浮体に生じる波浪荷重の再現期間での最大期待値は、設計波法、あるいは設計スペクトル法から求める。
  3―6 地震力(K)
    桟橋、渡橋、係留装置については、それぞれ実況に応じて地震力を考慮する。
  3―7 氷雪荷重(S)
    氷雪荷重は、実況に応じて考慮する。
  3―8 係留力(Y)
   (1) 初期平衡状態においては、初期係留力が係留装置に作用する。
   (2) 係留浮体に風、波浪、潮流・海流、潮汐等による外力が作用すると、浮体は定常外力と見なしうる風、波浪、潮汐等による外力により静的な平衡位置まで移動し、波浪による変動外力により静的な平衡位置まわりで動揺をする。
   (3) 係留装置には、初期係留力と係留装置が浮体の定常移動を拘束することに伴う変動係留力が作用する。
   (4) 柔らかい係留装置で係留される場合には、浮体の長周期運動に起因する係留力をも考慮する必要がある。
   (5) 浮体には、上記の係留力が反力として作用することを考慮すること。

 4 構造解析
  4―1 荷重の組合せ
   (1) 暴風時の浮体の復原性能及び避難時の浮体の傾斜度を評価する場合における荷重の組合せは次表による。

評価に当たって想定する状態 荷重の組合せ
暴風時
避難時
G+P+B+W+X+Y
G+P+B+W+X+Y


    避難時とは、営業を、一時的に中止し、かつ、それに伴って乗客等を当該浮体から避難させる時を言う。
     避難時に浮体に横傾斜を生じさせる風圧力(W)、浮体に動揺を生じさせる波力及び波浪荷重(X)及び係留力(Y)の算定は、慣用の船体構造解析手法によることができる。
   (2) 浮体及び係留設備の構造安全性を評価する場合の荷重の組合せは次表による。

評価に当たって想定する状態 荷重の組合せ
常 時
暴風時
G+P+B+W+X+Y
G+P+B+W+X+Y


   (3) 氷雪荷重(S)は実況に応じて考慮すること。
  4―2 解析法
   (1) 構造解析は、自然環境条件・設計用荷重及び海洋建築物としての構造特性を総合的に判断して、適切な解析法に基づいて行わなければならない。
   (2) 構造解析は、弾性解析を原則とする。
   (3) 構造解析には、錆代を除いた部材寸法について行わなければならない。

 5 構造材料
  5―1 鋼材等
   (1) 鋼材等の種類及び品質は、原則として建築基準法施行令にもとづき建設大臣が基準強度を定めているものでなければならない。
     ただし、既存の船舶等を転用する場合、既設部分に用いられている鋼材等で基準強度の定めのないものについては、その材料規格等を参照して基準強度を定めることができる。
   (2) 鋼材の材料定数は、次表の値とする。

材 料 ヤング係数
(kg/d)
せん断弾性係数
(kg/d)
ポアソン比 線膨張係数
(1/℃)
鋼・鋳鋼・鍛鋼 2.10&times 106 0.810&times 106 0.3 0.000012


   (3) 鋼材の品質を確認するために、必要に応じて試験を行う。試験方法は、日本工業規格に示すもののほか、目的に応じたものとする。
  5―2 許容応力度
   (1) 鋼材の許容応力度は、建築基準法施行令第90条及び第94条によらなければならない。
   (2) 溶接継目ののど断面に対する許容応力度は、建築基準法施行令第92条によらなければならない。
   (3) 高力ボルト接合部の高力ボルトの許容応力度は、建築基準法施行令第92条の2によらなければならない。

 6 構造設計
  6―1 一般
    構造設計に当たっては、自然環境条件、材料特性及び溶接施工方法等を十分に理解して構造計画を行い、「4 構造解析」及び「5 構造材料」の各節の規定に従って部材の寸法・形状を定めなければならない。
  6―2 溶接設計
    溶接設計は、建築基準法施行令及び(社)日本建築学会「鋼構造設計基準」等の関係諸基準による。ただし、浮体として機能する主構造部の溶接設計については、慣用の船体構造設計の基準によることができる。
  6―3 疲労設計
    疲労設計は、波浪などの繰返し外力に対して行う。特に接合部などの応力集中による疲労の影響を受けやすい部分については、疲労破壊が生じないよう、設計・工作上で配慮すること。
  6―4 錆代
    部材の寸法・形状を決定する構造設計に当たっては、部材位置や耐用年数等に応じた錆代を考慮しなければならない。

 7 復原性能設計
  7―1 一般
   (1) 復原性能の計算は、原則として、係留装置からの影響はないものとして行う。
     ただし、係留装置が復原性能に悪影響を及ぼす場合には、その影響を考慮する。
   (2) 復原性能の計算に当たっては、復原力曲線及び傾斜モーメント曲線を作成する。
  7―2 復原力曲線及び傾斜モーメント曲線
   (1) 復原力曲線及び傾斜モーメント曲線は、最も危険な軸まわりについて求める。
   (2) 復原性能計算に用いる風圧力は、「3 4 風圧力」に定めるところによる。
   (3) 風による傾斜モーメントの計算において、てこの長さは、水面下の浮体の横方向の抗力中心から風圧力中心までの垂直距離とする。
   (4) 傾斜モーメントは、傾斜状態での受風面積及びてこの長さに応じて算定できる。
   (5) 風洞実験により傾斜モーメントを決定する場合には、種々の傾斜角における抗力及び揚力効果を考慮する。
   (6) 係留設備が浮体の位置及び傾斜を拘束する場合には、潮位の変化に伴う復原モーメントの変化を考慮する。流れが傾斜モーメントを増加させる場合には、これを考慮する。この際、係留反力による効果を考慮できる。
  7―3 復原性能の規準
   (1) 浮体は、全ての使用状態において正の復原性を持たなければならない。
   (2) 暴風時にあっては、最大傾斜角が海水流入角を超えてはならない。
   (3) 避難時の傾斜角は、7度を超えてはならない。

 8 係留装置設計
  8―1 一般
    係留装置の設計は、主として、風、潮流及び長周期漂流力の定常外力から生じる係留力並びに浮体の運動及び波浪から生じる変動外力による係留力について行う。
  8―2 荷重及び荷重の組合せ
    荷重の大きさとそれらの組合せについては、「3 設計用荷重」及び「4 1 荷重の組合せ」に定めたところによる。
  8―3 材料
    係留装置に使用する材料は、海洋建築物の設置される自然環境条件、使用条件などを考慮して、十分安全で耐久性の高いものを選定する。
  8―4 疲労
    係留鎖・索・防舷材などの設計においては、実況に応じて疲労強度を検討し、安全性を確認しなければならない。

 9 桟橋設計
  9―1 設計一般
    桟橋の構造形式は、人の避難や緊急車両の進入など、防災面での安全性の確保を優先して決める。
  9―2 構造材料
   (1) 鋼材については、波浪の繰返し力下での強度・耐食性・溶接性等を検討して選定し、設置される自然環境条件下で十分安全で耐久的になるように防食法に配意する。
   (2) コンクリート材料は、海水の化学作用及び動的な荷重に対して、十分安全で耐久的なものでなければならない。
  9―3 解析及び設計
   (1) 弾性解析を原則とする。
   (2) 桟橋の動揺と振動・変形・構造強度上の安全性などを考慮しなければならない。
   (3) 桟橋は直接作用する荷重・外力の他、係留浮体から加えられる荷重・外力に対しても構造強度上の安全性を確保しなければならない。
   (4) 桟橋に作用する地震力は、その構造形式によって考慮の対象外とすることができる。
   (5) 浮体式の桟橋については、荷重の移動・集中による傾斜・転覆に対する安全性を確認する。
   (6) 設計荷重の下で、心理的不安感や歩行状の障害、振動障害などを生じないように、剛性確保に注意する。

 10 防食
  10―1 防食設計
    海洋建築物は設置される海域の自然環境・気象・海象等を調査して、その海域に於ける防食設計を行わなければならない。
  10―2 防食法
    防食法は、対象物の状況、防食工法に対する要求性能・防食施工にかかわる要因・制約等を十分検討し、最も適切なものを選定する。

第3章 防災計画

 1 総則
  1―1 一般
    本指針は、船舶を転用した係留型の海洋建築物の防災計画について、その安全を確保するために配慮されるべき基本事項を示すものである。

 2 防災計画の基本方針
  2―1 一般
    海洋建築物は、建築基準法の規定に従うこととするが、これらの規定によりがたい場合は、それと同等の安全性の確保に必要な対策を講じるものとする。

 3 主構造材の耐火性能
  3―1 一般
    海洋建築物に係る耐火建築物及び耐火構造の要求性能は、建築基準法の規定による。ただし、これらの規定によりがたい場合においては、定量的な解析に基づく耐火設計により火災時の安全性を確認して必要な対策を講じるものとする。
  3―2 主構造材の耐火性能
    主垂直区域隔壁と主水平区域を区分する甲板、柱及びはり(以下「主構造材」という。)は、建築基準法の規定に従った性能の耐火構造とする。ただし、耐火設計により火災時の安全性が確認された場合においてはこの限りでない。
    船側の鋼板の外壁は、周囲の状況により、必要耐火性能を定め、甲板室の外壁は非耐力壁とみなすことができる。

 4 防火区画
  4―1 一般
    防火区画は、建築基準法の規定に従った構造・計画とする。ただし、これらの規定によりがたい場合は、それと同等の避難・延焼防止上の安全性及び消防活動上の条件が満たされるために必要な対策を講じるものとする。
  4―2 防火区画等の設置
    防火区画は、建築基準法の規定に従って設置する。ただし、耐火設計によりそれと同等以上の性能が確認される場合には、従来の船舶の構造のままとすることができる。
  4―3 区画構成部材の耐火性能
    防火区画を構成する部材は、建築基準法の規定を満足する耐火性能を有するものとする。ただし、室内の火災性状予測に基づき、火災時の安全性が確認できる場合は、収納可燃物の管理・制限を行うことを前提として、船舶の区画仕切り基準による構造(SOLAS第3規則)等とすることができる。
  4―4 防火戸
    区画を構成する開口部に設ける防火戸は、建築基準法の規定に従った構造のものとする。ただし、SOLASでA級仕切りに設ける扉は、甲種防火戸を設けた場合と同等の安全性を有するものとみなすことができる。また、SOLASでB級仕切りに設ける扉は、防煙性能を確認したうえで、乙種防火戸と同等の性能を有するものとみなすことができる。
    さらに、いずれの扉の場合にも、避難上支障とならないようにする必要がある。

 5 内装防火設計
  5―1 一般
    内装は、建築基準法の規定に従った防火材料を使用する。ただし、これらの規定によりがたい場合は、避難計画・延焼防止計画などについて、それと同等の安全性を満たすために必要な対策を講じるものとする。
  5―2 避難路の内装制限
    避難階に通ずる主たる廊下、階段及び通路の壁・天井の内装は、建築基準法の規定に基づき不燃材料又は準不燃材料で仕上げるものとする。避難階から桟橋・渡橋等により陸上と連絡する構造となっている場合は、陸上と連絡する部分まで、この規定を適用する。
  5―3 居室の内装制限
    居室の内装は、建築基準法の規定に従って所定の材料を使用する。ただし、以下の場合は、内装材料に関して建築基準法と同等の安全性を有するものとみなすことができる。
   (1) 壁・天井の内装が、SOLAS第49規則及び第50規則によって設計されている場合
   (2) 居室あるいは避難経路が、火炎伝播、煙性状、有毒ガス等により避難上危険とならないことが立証される場合

 6 煙制御設計
  6―1 一般
    煙制御は、建築基準法の規定に従った計画・設備とする。ただし、これらの規定によりがたい場合は、それと同等の避難上の安全性及び消防活動上の条件が満たされるために必要な対策を講じるものとする。
  6―2 防煙区画
    防煙区画は、建築基準法の規定に従った配置・構造とする。ただし、SOLASのA及びB級仕切りは防煙区画構成部材として有効とみなすことができる。
  6―3 排煙設備
    排煙設備は、建築基準法の規定に従った計画とする。ただし、これらの規定によりがたい場合は、それと同等の避難上の安全性及び消防活動上の条件を満たすために必要な対策を講じるものとする。

 7 避難設計
  7―1 一般
    避難施設は、建築基準法の規定に従った計画・構造とする。ただし、これらの規定によりがたい場合は、それと同等の安全性を満たすために必要な対策を講じるものとする。
  7―2 避難階
    岸壁・桟橋・渡橋の高さより上方の位置にあり、かつ、これらと連絡する避難上有効な出口を2以上有する階を避難階とみなす。また、避難階は複数設定してもよい。
  7―3 海洋建築物からの避難路
    海洋建築物から地上の道路等への避難路は、火災に対して安全な構造とし、その岸壁・桟橋・渡橋の構造、幅員及び面積は、避難者の数や消防隊の進入を考慮したものとする。
  7―4 屋内の避難施設の設置
    屋内の廊下、階段等は、建築基準法の規定に従って設置するが、ある部分を元の構造のまま残す場合には、当該部分を「4 2 防火区画等の設置」に基づき防火区画し、その区分ごとに2以上の階段を設置するものとする。
  7―5 避難施設の構造
    海洋建築物の避難施設は、建築基準法の規定に従った構造とする。ただし、用途、使用条件等により建築基準法と同等以上の避難上の安全性を確保できれば、別の方法で計画することができる。
   (1) 階段の幅員及び面積は、避難計算により避難上支障のないことを確認した計画とする。
   (2) 階段の区画については、遮炎性、遮熱性及び遮煙性に関し、避難上支障のないことを確認したものとする。
   (3) 屋外の避難施設
     外気に開放された甲板から前記の避難階まで連絡する屋外の階段は、屋外避難階段とみなすことができる。

 8 消防用設備
  8―1 一般
    消防用設備は、消防法令の規定に従った計画とする。ただし、当該海洋建築物が消防法令の規定をそのまま適用することが困難である場合は、その特殊性を考慮し、関係機関と協議して計画するものとする。

第4章 維持管理

 1 維持管理
  1―1 一般
   (1) 海洋建築物の維持管理は、原則として一般建築物の維持管理の方法に準じて行う。
   (2) 海洋建築物のうち特に一般建築物と異なる設計(構造)のものや、異なる使い方をするものは、それぞれの特性に応じて最も適した維持管理を行うものとする。
  1―2 計画書の作成
    海洋建築物の所有者、管理者又は占有者は、その海洋建築物を常時安全な状態に維持するため「維持管理計画書」を作成し、これに基づき適正な維持管理を行わなければならない。
  1―3 使用制限
    安全性確保のため、海洋建築物が危険な状態になると予想される場合は、事前に乗客等を避難させ海洋建築物の使用を停止しなければならない。
  1―4 定期報告
    特定行政庁の指定した海洋建築物の所有者、管理者は、その海洋建築物の構造及び建築設備の安全、衛生、防火及び避難に関する事項の状況を特定行政庁が定める期間ごとに定期的に1級建築士もしくは2級建築士又は建設大臣が定める資格を有するものに依頼し、調査させその結果を特定行政庁に報告しなければならない。なお、調査の項目及びその内容はあらかじめ特定行政庁と協議して定めるものとする。