令和4年版 消防白書

2.災害に強い消防防災通信ネットワークの整備

災害発生時においても関係機関間で通信が確実に確保されるよう国、都道府県、市町村等においては、災害に強い自営通信網である消防防災通信ネットワーク、非常用電源等の整備を行っている。現在、国、消防庁、地方公共団体、住民等を結ぶ消防防災通信ネットワークを構成する主要な通信網として、①政府内の情報収集・伝達を行う中央防災無線網、②消防庁と都道府県を結ぶ消防防災無線、③都道府県と市町村等を結ぶ都道府県防災行政無線、④市町村と住民等を結ぶ市町村防災行政無線並びに⑤国と地方公共団体及び地方公共団体間を結ぶ衛星通信ネットワーク等が構築されている(第2-10-2図)。

第2-10-2図 消防防災通信ネットワークの概要

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第2-10-2図 消防防災通信ネットワークの概要

(1)消防防災通信ネットワークの概要

ア 消防防災無線

消防庁と全都道府県とを結ぶ無線通信網であり、電話やデータの相互通信のほか、消防庁からの一斉伝達が可能である。また、バックアップとして衛星系の通信網も運用している。

イ 都道府県防災行政無線

地上系や衛星系により、都道府県庁とその出先機関、市町村、消防本部、指定地方行政機関、指定地方公共機関等とを結ぶ無線網であり、電話やデータの相互通信により相互の情報収集・伝達に使用されている。

ウ 市町村防災行政無線(同報系)

市町村庁舎と地域住民とを結ぶ無線網であり、公園や学校等に設置されたスピーカー(屋外拡声子局)や各世帯に設置された戸別受信機を活用し、災害時には地域住民に対して気象警報や避難指示、国民保護情報等を一斉伝達している。また、災害時等における住民への情報伝達の方法については、他の設備を、市町村防災行政無線(同報系)の代替設備*1として利用する方法もある。整備率(整備している市町村の割合。代替設備を含む。)は95.8%(令和4年3月末現在)となっている。

エ 市町村防災行政無線(移動系)

市町村庁舎と市町村の車両、市町村内の防災関係機関等(病院、電気、ガス、通信事業者等)、自主防災組織等とを結ぶ通信網で、災害時においては、交通・通信の途絶した孤立地域や防災関係機関等からの情報収集・伝達、広報車との連絡等に利用される。整備率(整備している市町村の割合)は71.2%(令和4年3月末現在)となっている。

オ 消防救急無線

消防本部(消防指令センター)と消防署、消防隊・救急隊とを結ぶ通信網である。消防本部から消防隊・救急隊への指令、消防隊・救急隊から消防本部への報告、火災現場における隊員への指令等に利用されており、消防活動の指揮命令を支え、消防活動の遂行に必要不可欠なものである。全国の全ての消防本部において運用されている。

カ 衛星通信ネットワーク

地域衛星通信ネットワーク等の衛星通信ネットワークは、消防防災無線や都道府県防災行政無線の衛星系として整備されている。
現在、地域衛星通信ネットワークについては次世代システムへの移行を進めている。次世代システムは、従来システムと比べて整備コストを大きく削減できるほか、性能面についても、①大雨による通信障害が発生しにくい、②災害現場で柔軟に設置・運用できる、③高画質な映像を送受信できる等のメリットがある。令和2年度までに実施したモデル事業の結果等を都道府県に情報提供することで、各都道府県における次世代システムの整備を支援している。

キ 映像伝送システム

高所監視カメラや消防防災ヘリコプターに搭載されたカメラで撮影された映像は、都道府県や消防本部(消防指令センター等)、消防庁等へ伝送され、被害の概況の把握や、広域的な支援体制の早期確立などに活用されている(第2-10-3図)。

第2-10-3図 映像伝送システムの概要

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第2-10-3図 映像伝送システムの概要

ヘリコプターからの映像は、ヘリコプターテレビ電送システム(ヘリテレ)またはヘリコプター衛星通信システム(ヘリサット)のいずれかによって伝送される(第2-10-4図)。

第2-10-4図 ヘリコプター衛星通信システムの概要

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第2-10-4図 ヘリコプター衛星通信システムの概要

(2)耐災害性の向上及びバックアップ機能の整備

ア 通信設備の耐災害性の向上等

東日本大震災では防災行政無線が地震や津波により破損し、又は長時間の停電により、一部地域で不通となる事態が生じた。
災害時における通信設備の機能確保は極めて重要であり、これまでの経験を踏まえ、消防庁では、災害時に重要な情報伝達を担う防災行政無線が確実に機能確保されるように、
・非常用電源設備の整備
・保守点検の実施と的確な操作の徹底
・総合防災訓練時等における防災行政無線を使用した通信訓練の実施(非常用電源設備を用いた訓練を含む。)
・防災行政無線設備を耐震性のある堅固な場所に設置
・防災行政無線施設に対する浸水防止措置の状況の確認
等を都道府県及び市町村に対して要請している。
なお、非常通信協議会*2において、「無線設備の停電・耐震対策のための指針」や通知が取りまとめられており、地方公共団体においては、無線設備の停電対策、非常用電源設備、管理運用対策、耐震対策等について、自ら点検を徹底することが必要である。

イ 通信のバックアップ機能の確保

大地震等により消防庁の通信施設が使用不能となり、国と地方公共団体間の相互通信が困難となる場合に備え、東京都調布市にある消防大学校に衛星通信施設を整備しているほか、機動性のある衛星車載局車や可搬型衛星地球局を整備している。
また、非常通信協議会では、公衆網や前述の消防防災通信網が不通となった場合に備え、防災関係機関等が管理している自営通信網を活用した市町村、都道府県、国の間の通信ルートを策定し、非常通信訓練を定期的に実施することで、非常時における通信の確保に努めている。

*1 代替設備:令和4年3月末現在、MCA陸上移動通信システム、市町村デジタル移動通信システム、FM放送、280MHz帯電気通信業務用ページャー、V-Lowマルチメディア放送を活用した同報系システム、携帯電話網を活用した情報伝達システム、ケーブルテレビ網を活用した情報伝達システム及びIP告知システムを市町村防災行政無線(同報系)の代替設備として利用している市町村がある。なお、携帯電話網を活用した情報伝達システム、ケーブルテレビ網を活用した情報伝達システム及びIP告知システムを市町村防災行政無線(同報系)の代替設備として追加した経緯については、4.(1)アを参照のこと。
*2 非常通信協議会:自然災害等の非常時における必要な通信の円滑な運用を図ることを目的として設立。総務省が中心となり、国、自治体、主要な電気通信事業者、無線局の免許人等の約2,300機関によって構成。