4.火災の検証と今後の対応
消防庁では、岩手県大船渡市における林野火災を踏まえ、令和7年4月11日から6回にわたり林野庁と共同で「大船渡市林野火災を踏まえた消防防災対策のあり方に関する検討会」(以下、本特集において「検討会」という。)を開催した。検討会では、原因調査の結果等を踏まえ、林野火災の予防を目的とした林野火災注意報の創設など林野火災における予防・警報のあり方、緊急消防援助隊を含めた常備消防や消防団の体制強化、林野火災における住民避難、消火薬剤の効果的な活用など大規模林野火災に備えた多様な技術の活用・開発、災害復旧・二次災害の防止活動について検討を行い、今後の消防防災対策のあり方を報告書として取りまとめた。
また、緊急消防援助隊の一連の活動等を検証し、今後の迅速かつ的確な運用を図るため「岩手県大船渡市林野火災における緊急消防援助隊の活動に関する検証会」を開催し、受援側、応援側それぞれの観点から緊急消防援助隊の活動上の奏功事例と課題の共有を行い、対応策について議論を行った。
これらを踏まえて、消防庁では、令和7年8月に「大船渡市林野火災の教訓を踏まえた今後の消防防災対策の推進について」(令和7年8月29日消防庁次長通知)を発出し、各地方公共団体における消防防災力の強化に向けた推進事項を周知した。
検討会等における検証により得られた課題と消防庁及び林野庁における今後の対応策は以下のとおりである。
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検討会の状況
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検討会報告書手交式の様子
(左から大沢消防庁長官、関澤座長、谷村林野庁次長)
(1)林野火災における予防・警報のあり方
ア 検証から得られた課題
令和7年2月26日に岩手県大船渡市赤崎町字合足地内で発生した林野火災は、それまでの記録的な降水量の少なさ、発生日前後の乾燥、強風、地形等の影響により急激に拡大し、消防本部の覚知から約2時間で延焼範囲は600ha以上にも達し、最終的には約3,370haとなる我が国の林野火災としては昭和39年以降最大、約60年ぶりの記録的な大規模なものとなった。
林野火災は発生原因の大半が人為的な要因によるものであることも踏まえ、たき火や火入れの把握、林野火災の予防上危険な気象状況になった際の周知や火の取扱いへの注意喚起などを通じた林野火災予防の実効性の向上を図る必要がある。
また、広報・啓発の対象に応じた効果的な手法を用いた危険性が高まる時季における戦略的かつ幅広い広報・啓発活動、森林の防火機能の向上のための植栽や消火活動に資する林道整備・測位技術の普及などを通じた林野火災に強い地域づくりなどを推進する必要がある。
イ 今後の対応策
(ア)予防・警報のあり方
平時においては、森林法に基づく火入れの許可制度の周知を行うとともに、たき火の届出制度を火災予防条例(例)に明確に位置付けることなどを通じて、各消防本部におけるたき火や火入れの実施の把握や、これらを行う者に対する防火指導(場合によっては消防法第3条に基づく措置等)の強化を促進する。
実際に林野火災の予防上危険な気象状況になった際には、平時からの取組に加えて、気象庁が火災気象通報を発出するとともに、段階に応じて、各市町村による注意喚起等の仕組みとして創設する林野火災注意報や、消防法に基づく火災警報のうち、林野火災の予防を目的とした林野火災警報の的確な発令を通じ防火指導の強化や火の使用制限の徹底を促進する。
(イ)林野火災に係る広報・啓発の強化
例年3月1日から7日まで消防庁と林野庁の主唱により実施される全国山火事予防運動の機会のほか、その地方において林野火災の危険性が高まる時季における戦略的かつ幅広い広報・啓発活動を促進する。
消防団を含む消防機関だけでなく、防災担当部局、林務担当部局、廃棄物処理担当部局等幅広い部局や、自主防災組織、女性防火クラブ等の住民や事業者等が主体となる活動を促進する。
また、林野庁と共同で政府広報やSNS等を活用し、火の取扱いや不始末による出火の危険性・初期消火準備の必要性を周知するなど林野火災予防の広報を引き続き実施していく。
(ウ)林野火災に強い地域づくり
火災の被害が居住地にも及ぶ、森林と住宅地にまたがるWUI(Wildland Urban Interface)火災と言われる状況が見られたことを踏まえ、建物の防火対策の推進や空地の確保などのまちづくりにおける事前対策、飛び火を考慮した消防計画など林野に近接する居住地域に視点を置いた対応を推進していく。
また、森林内においては延焼しにくい多様な林相への誘導、消火活動に必要な林道等の整備等を推進する。
(2)林野火災に対応できる消防体制のあり方
ア 検証から得られた課題
岩手県大船渡市における林野火災では、速やかな応援要請が行われ、適切な消防力を確保するとともに、方面別に担当部隊を明確化、地上部隊と航空部隊において共通のグリッド図を活用するなど部隊間の情報連携、延焼阻止線を設定した活動等により円滑な消防活動が行われた。
一方で、刻々と変化する延焼状況などの的確な情報把握、早期の応援要請・受援体制の確立、長期間の消火活動に必要な体制・消防水利の確保や強風下における飛び火警戒などの陸上部隊の消防活動の強化、消火効率を高める航空部隊の運用、陸上・航空部隊間や応援部隊による地元消防本部・消防団との連携、大規模林野火災に対処できる消防団の体制強化、急激な延焼拡大に対応した速やかな避難指示等の発令・周知等による住民避難の対応などを図る必要がある。
イ 今後の対応策
(ア)緊急消防援助隊を含めた常備消防の体制強化
的確な情報把握に資する夜間も監視可能なドローン、消防水利の確保に資する自然水利を利用できる海水利用型消防水利システムや大型水槽付き放水車、山中での部隊投入に資する悪路走破性の高い林野火災対応ユニット車等の整備を推進する。
また、延焼危険の高い建物等及びその付近への予防散水等を勘案して飛び火警戒要領の見直し等を行う。
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大型水槽付き放水車による放水の様子
(イ)消防団の体制強化
消防隊や分団間で確実な連携を行うため、電波が届かない不感地帯にも対応した訓練等の実施や衛星通信機器も活用した情報伝達手段の充実を図る。
また、今回の林野火災では、一度消火活動を行った箇所での再燃が頻出したことを踏まえ、確実な残火処理のために必要な背負い式消火水のう等の資機材の整備を推進する。
(ウ)林野火災における住民避難
個々の住民に避難情報等を伝達できるよう戸別受信機の活用や緊急速報メール、SNS、防災アプリ等を用いた災害情報伝達手段の多重化・多様化を推進する。
また、平時から自主防災組織等の住民参加による大規模林野火災に対応した避難訓練等の実施により、大規模林野火災に対する住民の防火意識の向上を図る。
(3)大規模林野火災に備えた多様な技術の活用・開発
ア 検証から得られた課題
被害が広範囲であり、飛び火や風向きの変化による急な延焼拡大など状況の把握が難しく、対応に苦慮したことから、諸外国や消防以外の分野で使用される新技術・新装備等の活用事例を踏まえた研究推進、延焼シミュレーション技術の研究開発、消火薬剤(延焼防止剤を含む。以下同じ。)の効果的な活用などの取組を進める必要がある。
イ 今後の対応策
(ア)新技術・新装備の研究開発の推進
ドローンによる空中消火や遠隔操作ロボットによる延焼阻止活動等、諸外国における活用事例を踏まえた林野火災対応の新技術・新装備や、林野火災が発生した場合の住家等への延焼拡大リスクを評価できる延焼シミュレーション技術、飛び火による火災発生を警戒・防御するための効果的な散水方法等の研究開発を推進する。
(イ)消火薬剤の効果的な活用の検討
消火薬剤の使用は、水が限られる場合において消防活動上有効な場合もあると考えられる一方で、健康・環境への影響も考慮する必要があることから、個別の消火薬剤の有効性や健康・環境への影響に関する評価方法とともに、消火薬剤の効果的な使用方法等を示す必要がある。
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赤外線カメラによる延焼範囲の確認の様子
(4)災害復旧及び二次災害の防止活動
ア 検証から得られた課題
被害を受けた森林について、被害状況の把握と迅速な復旧が重要であり、また、激甚災害地にあっては土砂流出等の山地災害リスクが高まるおそれがある。
イ 今後の対応策
復旧を進めるために必要となる森林所有者の情報の整理、広域的な連携体制の検討、災害被災木の受入可能施設の情報の整理や土砂災害等が起こり得る危険箇所の山地の荒廃状況に関する調査・点検及び治山施設の整備といった対策の適切な実施を促進する。




