4.地震対応の検証と課題
(1) 地震対応の検証
政府は、発災直後から非常災害対策本部及び政府現地対策本部を設置し、被災自治体に応援職員等を派遣して、初動対応に当たった。こうした初動対応の経験を今後の災害対応に活かしていくため、内閣官房副長官を座長とする「平成28年熊本地震に係る初動対応検証チーム」において、自治体支援、避難所運営、物資輸送等の初動対応についての検証を行った。
さらに、初動対応検証チームの検証結果も踏まえ、平成28年7月に中央防災会議・防災対策実行会議の下にワーキンググループが設置され、災害時における応急対策及び生活支援のあり方について検討がなされている。
(2) 消防庁が取り組むべき課題
熊本地震の検証等を踏まえた取り組むべき課題として、地域の災害対応力、発災時の情報収集体制及び消防機関の活動体制の強化が挙げられる。
- ア 地域の災害対応力の強化
- 熊本県内の5市町(八代市、人吉市、宇土市、大津町及び益城町)で、災害対策の拠点となる庁舎が損壊するなどして、その機能を移転せざるを得ず、被災者支援などの応急対策業務にも支障が生じた。このうち、庁舎が耐震化されていたのは益城町のみ、業務継続計画が策定されていたのは、八代市と大津町のみだった。このため、庁舎の耐震化を推進することや代替庁舎の特定を含む非常時優先業務の特定等の業務継続性を確保することの重要性が改めて認識された。
また、被災自治体における行政機能の低下及び膨大な応急対策業務に対応するため、被災自治体に対して全国から応援が入ったが、応援職員も含めた指揮命令系統の確立など、それらを受け入れる体制が課題となった。
- イ 発災時の情報収集体制の強化
- 救助活動においては、緊急消防援助隊を含む各消防機関の活動方針の策定、関係機関との調整等をより円滑・的確にするため、被災状況の映像等をリアルタイムで国・地方で共有するなど、被害状況等の情報を一元的に把握することの重要性が改めて認識された。
- ウ 消防機関の活動体制の強化
- 緊急消防援助隊の宿営場所であった熊本県消防学校では、屋内訓練場の天井が4月16日1時25分の地震で崩落するなど、既設の建物を活用した宿営が困難であったため、長期にわたり屋外でのテント等による宿営を行った。また、南阿蘇村では、道路が寸断されていたり、ガソリンスタンドの燃料の在庫が少なかったりしたため、消防車両への円滑な燃料補給が困難な状況であった。
このようなことから、緊急消防援助隊の応援出動時においては、被災地の天候やインフラ被害などの影響を受けない宿営場所の設営や車両等への安定した燃料供給など、自立的な活動体制の確保が課題となった。
また、被災地の消防団は、自らも被災者であるにもかかわらず、発災直後から、消火、住民の避難誘導、安否確認、救助、行方不明者の捜索等、様々な活動に献身的に従事し、消防団の重要性が改めて認識された。
(3) 消防庁が取り組むべき課題への対応
(2)で挙げた課題について、消防庁では、以下のとおり取り組んでいる。
- ア 地域の災害対応力強化のための取組
- 地方公共団体において、防災拠点となる庁舎等の早急な耐震化の取組が進められるよう、緊急防災・減災事業債*9の対象事業として、地方財政措置等により支援を行っていくとともに、関係省庁と連携し、業務継続計画策定研修会の開催等により地方公共団体における業務継続計画の策定を促進している。
また、全国の自治体で、大規模災害時の応援職員等の受入れを円滑に行えるよう、事前に必要事項、手順等を明確にした応援の受入れ体制の整備を進める必要がある。消防庁では、過去の災害時に応援・受援の実績がある市町村へのヒアリングを通じて、先進事例の収集を行っており、今後、結果を取りまとめて周知するなどして、受援体制の地域防災計画への位置付けなど、市町村の取組を促進していくこととしている。
*9 防災対策事業のうち、全国的に緊急に実施する必要性が高く、即効性のある防災、減災のための地方単独事業等を対象とする充当率が100%、交付税算入率が70%の地方債。
- イ 発災時の情報収集体制の強化のための取組
- 迅速かつ確実な情報収集と情報共有能力を向上させるため、ヘリテレ受信装置の整備を進めるとともに、ヘリテレや地上設置カメラなどの画像等をリアルタイムで大型スクリーンに表示し共有する災害時オペレーションシステムや被害情報の一元化等の災害応急対応機能並びに救援物資管理及び罹災証明書発行等の被災者支援機能を有する防災情報システムの整備を進める。
- ウ 消防機関の活動体制の強化のための取組
- 予定していた宿営場所やガソリンスタンドが被災した場合においても影響を受けず、緊急消防援助隊が自立的に活動できるよう、宿営に必要な資機材を積載する拠点機能形成車両や燃料補給車の配備を推進し、後方支援体制の強化に取り組む。
また、大規模災害に対応するため、消防団員の確保、消防ポンプ自動車をはじめとした資機材の整備、教育訓練の充実等に引き続き取り組む。