4.人口減少社会における持続可能な消防体制の検討
いまだ管轄人口が10万未満の小規模な本部が435本部あり、全体の約6割を占める状況にある(平成28年4月1日現在)。小規模な消防本部においては、
(1) 災害時の初動の対応力が十分でない
(2) 専門職員の育成、確保が困難
(3) 「消防力の整備指針」に基づく施設・人員の整備率が低い
(4) 立入検査の実施率が低い
(5) 少人数のため、組織管理に多くの課題がある
などの課題が指摘されている。
加えて今後、更なる人口減少、高齢化の進展や人口の低密度化により、地域によっては、地域社会の様々な基盤の維持が困難となりつつある。
このような人口減少社会においても、複雑・多様化、大規模化する災害に的確に対応し、住民の生命、身体及び財産を守るという消防の責務を十分に果たすためには、今後も消防力を維持、確保していくことが不可欠である。消防庁では、平成27年8月から「人口減少社会における持続可能な消防体制のあり方に関する検討会」を開催し、計5回にわたって、人口減少が消防に与える影響や小規模な消防本部の抱える課題、持続可能な消防体制の確保の手段とその推進方策等について議論を行い、平成28年2月24日に報告書が取りまとめられた。
報告書においては消防の広域化は、それが実現し適正な規模で円滑な消防業務が実施されれば、消防体制を充実・強化するために極めて有効な手段であることは明白であるとされた。一方で、消防業務全体を一括して一元的な組織で処理する消防の広域化は、組織の一元化に向けた調整が著しく困難である事情があるなど、消防の広域化の実現にはなお時間を要する地域があることも現実である。そのような地域においても、消防体制を充実・強化していくために、消防機関間のより柔軟な連携・協力(※)を進める手段も検討すべきであるとされた。
(※) 消防機関間のより柔軟な連携・協力について 具体的には、地域の実情を踏まえながら、複数の消防機関の間で消防業務のうち一部の業務分野ごとにその業務の性質に応じた手法で連携し、協力することで、それぞれの組織は維持しつつ、スケールメリットを発揮することが可能となる。
特に消火・救急・救助の警防活動については、一定規模以上の圏域において、指令の共同運用による災害情報の即時共有と近隣消防本部との応援体制を強化することが、消防力の向上に極めて有効である。
消防指令業務の共同運用について
「消防指令業務*の共同運用」(以下「指令の共同運用」という。)とは、複数の消防本部における消防指令業務(通報受付業務や部隊運用管理等)を1か所の消防指令センターにおいて共同で運用するものである。消防指令業務は、消防本部が単独で整備し運用することが原則とされてきたところであるが、近年、より高度な消防サービスに対するニーズを踏まえ指令の共同運用が検討され、導入が進められている。消防庁においても指令の共同運用の有効性を認めてその推進を図っている。指令の共同運用のメリットや課題、実施状況等は以下のとおりである(第2-2-7図)。
* 消防指令業
消防指令センター等において、24時間体制で119番通報を受信し、通話内容等から災害発生地点や災害種別を決定、出動部隊を編成し、消防隊・救急隊等への出動指令、現場活動の支援等を実施する業務
なお、指令の共同運用を実施する際に、併せて隣接消防本部を中心に共有した災害情報をベースにした災害対応の応援等の連携を強化する取組を行うことにより、消防体制を強化している地域もある。
- (1)メリットと課題
- 指令の共同運用のメリットとしては、〔1〕情報の一元化による迅速な相互応援体制が可能になること、〔2〕高機能な消防通信指令システムの整備が図りやすいこと、〔3〕指令業務配置職員の効率配置により現場配置職員の充実を図れること、〔4〕施設整備費や維持管理費を効率化できることなどが挙げられる。
現在、消防本部において指令の共同運用の検討が進む理由としては、〔1〕指令センターの更新時期が近い消防本部間で財政面のメリットが大きいこと、〔2〕消防・救急無線のデジタル化の枠組みを活用できる可能性があること、〔3〕指令の共同運用は消防事務の一部の共同処理であり広域化と比較すると組織間における調整事項が少ないこと等の利点があるためと考えられる。
一方、課題としては、〔1〕小規模の共同運用では指令業務配置職員の効率配置による効果がでないこと、〔2〕各消防本部の部隊運用方式が異なるためこれを補完する工夫が必要になること、〔3〕各消防本部で異なる勤務体制を統一する必要があること、〔4〕職員の通勤距離が増すことなどが指摘されている。
- (2)実施状況と今後の実施見込み
- 指令の共同運用に関する全国の検討状況をみると、指令の共同運用の検討地域は、広域化対象市町村の組合せ(ブロック)とは異なる場合が多くなっている。
指令の共同運用は、平成28年6月1日現在、既に45地域(187消防本部、12非常備町村)で実施中であるが、さらに4地域(22消防本部)で運用開始時期を明示して検討中であり、これらの地域においても、中長期的には広域化をする可能性があると考えられる。