平成28年版 消防白書

第9節 国と地方公共団体の防災体制

1.国と地方の防災組織等

(1) 防災組織

地震・風水害等の災害から国土並びに国民の生命、身体及び財産を守るため、災害対策基本法は、防災に関する組織として、国に中央防災会議、都道府県及び市町村に地方防災会議を設置することとしている。これら防災会議は、日本赤十字社等関係公共機関の参加も得て、災害予防、災害応急及び災害復旧の各局面に有効適切に対処するため、防災計画の作成とその円滑な実施を推進することを目的としており、中央防災会議においては我が国の防災の基本となる防災基本計画を、各指定行政機関及び指定公共機関においてはその所掌事務又は業務に関する防災業務計画を、地方防災会議においては地域防災計画をそれぞれ作成することとされている。
また、災害に際して応急対策等の推進上必要がある場合には、国は非常災害が発生した場合においては非常災害対策本部、著しく異常かつ激甚な非常災害が発生した場合においては、緊急災害対策本部を設置し、都道府県及び市町村は災害対策本部を設置して災害対策を推進することとしている。

(2) 災害対策基本法の改正

伊勢湾台風で被害が甚大であったことを踏まえ、昭和36年(1961年)に策定された災害対策基本法は、阪神・淡路大震災を契機として、平成7年(1995年)に、緊急災害対策本部の設置要件の緩和、国民の自発的な防災活動の促進、地方公共団体の広域応援体制の確保など防災対策全般にわたる改正が行われた。それ以降も、平成11年(1999年)には地方分権の推進に関連した改正が、平成23年には地域の自主性及び自立性を高めるための地域防災計画に係る関与の規定の見直しを行う等の改正が行われた。
東日本大震災から得られた教訓を今後に活かし、災害対策の強化を図るため、平成24年6月には、防災に関する組織の充実、地方公共団体間の応援に関する措置の拡充、広域にわたる被災住民の受入れ、災害対策に必要な物資等の供給及び運送に関する措置など多岐にわたる改正(第1弾)が、平成25年6月には、災害発生時に避難の支援が特に必要となる者についての名簿の作成その他の住民等の円滑かつ安全な避難を確保するための措置を拡充するとともに、併せて国による応急措置の代行などについて改正(第2弾)が行われた。
平成26年11月には、首都直下地震などの大規模地震や大雪等の災害時に発生が懸念される放置車両等に対処できるよう、災害発生時に緊急通行車両の通行を確保するため、道路管理者の権限を強化する改正が行われた。
平成27年8月には、災害時における廃棄物処理について、平時の備えから大規模災害発生時の措置に至るまで、切れ目のない対応が行われるよう、災害廃棄物対策に係る措置の拡充を図る改正が行われた。

(3) 消防庁の防災体制

消防庁は、実動部隊となる消防機関を所管し、地方公共団体から国への情報連絡の窓口になるとともに、地域防災計画の作成、修正など地方公共団体の防災対策に対する助言・勧告等を行っているが、阪神・淡路大震災の教訓を踏まえ、地方公共団体の防災対策全般の見直しを推進し、支援措置の充実を図っている。
平成7年(1995年)に発足した全国の消防機関相互による援助体制である緊急消防援助隊については、平成15年に消防庁長官が出動に必要な措置を指示することができるようにするなど制度が法制化され、また、平成20年には、緊急消防援助隊の機動力の強化等を内容とする法改正が行われている。
消防庁内部の平常時の組織体制についても、平成17年に大規模地震対策、消防防災の情報通信システム、緊急消防援助隊、救助・テロ対策、国民保護の企画・運用等の緊急対応や地方公共団体との連絡調整等の各業務を統括する「国民保護・防災部」を設置し、より一層の業務の専門性の確立及び責任体制の明確化を図っている。東日本大震災におけるかつてない規模の緊急消防援助隊の活動経験を踏まえ、今後発生が予想される南海トラフ地震や首都直下地震等大規模災害への対応に備えるために、平成24年4月に緊急消防援助隊や航空機による消防に関する制度の企画及び立案等に関する業務をつかさどる「広域応援室」を、当該業務体制を拡充する形で部内に新設した。
また、「消防団を中核とした地域防災力の充実強化に関する法律」が成立したことに伴い、地域防災力の充実強化を図るため、その中核となる消防団に関する業務及び自主防災組織等に関する業務を所掌する「地域防災室」を平成26年4月に部内に新設した。
設備・装備の整備としては、緊急消防援助隊等のオペレーションや、大規模災害等発生時の迅速かつ的確な初動対応の実施のため、総務省(中央合同庁舎第2号館)内に「消防防災・危機管理センター」を整備するとともに発災時の職員の自動参集システムを構築したほか、消防庁職員等を被災地へ迅速に派遣し、併せて、現地調査、情報収集を行うことにより、消防庁長官による緊急消防援助隊の出動指示や現地における的確な災害対応等を迅速かつ適切に実施するための消防庁ヘリコプターを導入している。
しかし、東日本大震災発災時の災害対応時において、対応する人員に対し「消防防災・危機管理センター」のスペースが不足したことから、情報の収集、関係機関との連絡調整及び緊急消防援助隊の運用など、消防庁におけるオペレーションの効率性の観点からは課題を残した。この課題を解決し、今後発生が懸念されている南海トラフ地震等発生時の政府全体の災害応急対応の基盤としての機能が十分発揮できるよう、平成28年度中に消防・防災危機管理センターを拡張し、併せて、設備を充実することとしている。

関連リンク

平成28年版 消防白書(PDF)
平成28年版 消防白書(PDF) 平成28年版 消防白書(一式)  はじめに  特集1 熊本地震の被害と対応  特集2 平成28年8月の台風等の被害と対応  特集3 消防団を中核とした地域防災力の充実強化  特集4 消防における女性消防吏員の活躍推進...
はじめに
はじめに 昨年は、気象庁による震度観測開始以降、初めて震度7を観測した平成7年(1995年)の兵庫県南部地震(阪神・淡路大震災)から20年に当たる節目の年でした。そして、本年4月14日には、平成16年の新潟県中越地震、平成23年の東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)に続き、4例目の震度7の地震が熊本...
1.地震の概要
特集1 熊本地震の被害と対応 1.地震の概要 平成28年4月14日21時26分、熊本県熊本地方の深さ11kmを震源として、マグニチュード6.5の地震が発生し、益城町で震度7を観測した(特集1-1表)。 さらに、28時間後の4月16日1時25分、熊本県熊本地方の深さ12kmを震源として、マグニチュード...
2.災害の概要
2.災害の概要 一連の地震により、激しい揺れに見舞われた地域では、多くの建物が倒壊したほか、道路、電気、通信設備等のインフラ施設にも多大な被害が生じた。また、南阿蘇村では、地震の影響により発生した土砂災害によっても、人的被害、住家被害、道路損壊等の甚大な被害が発生した。 さらに、梅雨前線等の影響によ...