平成28年版 消防白書

第2節 北朝鮮ミサイル発射事案への対応

平成28年2月7日、北朝鮮北西部沿岸地域の東倉里(トンチャンリ)地区から、平成24年12月12日以来となる「人工衛星」と称するミサイルが南の方角へ発射され、沖縄県上空を通過し、東シナ海や太平洋などに落下した。
また、北朝鮮は、その後も日本海に向けてミサイルを継続して発射するとともに、平成28年5月に開催された朝鮮労働党大会において、核・ミサイル開発を継続する方針を表明するなど、朝鮮半島情勢は依然として不安定、不透明な状況が継続しており、今後もミサイル発射を含む動向を注視していく必要がある。

(1) 事前通報がなされたミサイル発射事案(平成28年2月7日)

ア 事案の概要
平成28年2月2日、北朝鮮が関係国際機関に対し、「人工衛星」を2月8日~2月25日の間に南方向へ打ち上げるとの事前通報があった。また、2月6日、北朝鮮から関係国際機関に対し、発射期間を2月7日~2月14日に変更する旨の通報があった。
発射期間を変更した翌日の2月7日9時30分頃、北朝鮮から「人工衛星」と称する弾道ミサイルが発射され、1段目と2段目の推進装置の段間部とみられる物体が9時39分頃、東倉里地区から約500kmの黄海に落下し、先端部の「外郭覆い(フェアリング)」とみられる物体が9時44分頃、東倉里地区から約800kmの東シナ海に落下した。また、3段目の推進装置とみられるものを含む物体及び2段目の推進装置とみられる物体がそれぞれ、9時40分頃及び9時41分頃、沖縄地方上空を通過し、2段目の推進装置とみられる物体が9時49分頃東倉里地区から約2,500kmの太平洋に落下した。
国際海事機関(IMO)及び国際民間航空機関(ICAO)への通報内容

【北朝鮮からの地球観測衛星発射情報の概要】
「衛星」の名称:光明星(クァンミョンソン)
北朝鮮は下記日時に地球観測衛星打ち上げのための危険区域を設定
日時:2016年2月8日~2月25日
7:30~12:30(日本時間)
区域:黄海及びフィリピン東方海域
【北朝鮮からの地球観測衛星発射情報の改定情報の概要】
北朝鮮は地球観測衛星打ち上げのための危険区域の設定期間を2月7日~2月14日に変更する。

北朝鮮より通報のあった2月7日~14日に設定される危険区域

(国土交通省プレスリリースより)

北朝鮮より通報のあった2月7日~14日に設定される危険区域(国土交通省プレスリリースより)
イ 消防庁の主な対応
平成28年1月29日、昨今の北朝鮮情勢を踏まえ、危機管理対応に係る情報伝達体制等について都道府県に通知を発出し、必要な連絡体制を確保するよう要請した。
2月3日には、北朝鮮による人工衛星打ち上げ発表を受け、政府が危機管理センターに設置していた「北朝鮮による核実験実施情報に関する官邸対策室」を「北朝鮮情勢に関する官邸対策室」に改称したのに併せて、消防庁では消防庁長官を長とする消防庁緊急事態連絡室を設置し、関係機関及び地方公共団体と連絡体制を強化した。また、ミサイル発射に関する対応、消防機関の態勢に係る留意事項及び落下物があった場合の対応要領について都道府県へ伝達し、不測の事態に備えるなど、国民の安心・安全の確保に万全を期した。
2月4日には、内閣官房及び防衛省とともに対応要領について、飛翔経路下となっていた沖縄県及び沖縄県内の全市町村を対象とした地元説明会を実施するとともに、全国の都道府県に対する同様の説明会を実施した。
また、政府としてミサイル発射事案に関し、Jアラートを使用する考えが示されたことから、2月5日にJアラートの情報伝達訓練を実施した。この訓練では、沖縄県内の41市町村のうち、40市町村において防災行政無線等の自動起動がなされた。不具合があった1町においても、当日中に機器を適正な設定に変更し、防災行政無線が自動起動することを試験で確認した。これにより、沖縄県内全ての市町村における緊急情報の伝達体制が整っていることが確認され、地方公共団体及び住民への情報伝達体制について万全を図った。
2月6日には、消防庁職員2名を沖縄県庁へ派遣し、沖縄県との情報連絡体制の強化をした。また、北朝鮮から関係国際機関に対し、発射期間を2月7日~2月14日に変更する旨の通報があったため、都道府県へ情報提供を行った。
2月7日9時30分頃、北朝鮮から「人工衛星」と称するミサイルが発射されたため、地方公共団体への情報提供を行うとともに、通過区域の沖縄県(市町村・消防本部)に落下物情報及び被害情報を確認し、我が国への被害が無いことを確認した。
ノータム(※)及び航行警報が解除されたことを踏まえ、2月9日13時30分、消防庁に設置していた情報連絡室を閉鎖した(第3-2-1表)。

※ ノータム(Notice to Airmen):航空保安施設、業務、方式及び航空に危険を及ぼすもの等の設定、状態又は変更に関する情報で、書面による航空情報では時宜を得た提供が不可能な場合に通信回線(CADIN及びAFTN)により配布されるもの。

第3-2-1表 事前通報がなされたミサイル発射事案(平成28年2月7日)における消防庁の主な対応
ウ 沖縄県内におけるJアラートの活用状況
沖縄県内の各市町村では、Jアラートで受信したミサイル発射情報及びミサイル通過情報を防災行政無線等の情報伝達手段を用いて即座に住民へ伝達した。
また、平成24年12月のミサイル発射事案では、一部の市町村において自動起動装置が導入されていなかったが、今回は、全ての市町村において自動起動装置が整備されていたことから、防災行政無線等の情報伝達手段を自動で起動させ、即座に住民へ伝達することができた。さらに、国民保護に関する情報を消防庁から直接、携帯電話事業者を通じて緊急速報メールで配信する体制となった平成26年4月以降、初めて携帯電話利用者に対して実際に国民保護に関する情報が緊急速報メールにより配信された。

(2) 事前通報がないミサイル発射事案

平成28年に入り、20発以上(10月末日現在)という過去に例を見ない頻度で弾道ミサイルを発射した。消防庁は、ミサイル発射の兆候に関する報道等を踏まえ、Jアラートの点検等について地方公共団体に対し周知を行った。また、ミサイル発射後は、ミサイル発射の事実等について、地方公共団体への情報提供を行うなど、国民の安心・安全の確保に万全を期した。

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