令和2年版 消防白書

[風水害対策の課題と対応]

1.令和元年東日本台風(台風第19号)等を受けた対応

ここ数年、豪雨・台風による被害が全国各地で発生しており、令和元年房総半島台風(台風第15号)では、暴風により千葉県を中心に最大約93万4,900戸の大規模停電や通信障害が発生した。また、令和元年東日本台風(台風第19号)では、台風とその後の度重なる大雨により、各地で河川の氾濫・堤防の決壊による浸水、土砂崩れ等が多数発生した。特に、堤防が決壊した河川は140箇所にのぼり、濁流による浸水域は広範囲にわたったことから、自宅で被害に遭った高齢者や、自動車での移動中に被災された方が多かった。

(1)令和元年台風第15号・第19号をはじめとした一連の災害に係る検証チーム

この令和元年房総半島台風(台風第15号)への一連の対応を検証するため、10月2日、政府は「令和元年台風第15号に係る検証チーム」を設置した。
しかしながら、この検証の開始直後に、令和元年東日本台風(台風第19号)による大規模・広域的な被害が発生したことから、11月14日に、同検証チームを、「令和元年台風第15号・第19号をはじめとした一連の災害に係る検証チーム」に改組し、一連の災害に係る検証を行うこととなった。
同検証チームでは、令和元年房総半島台風(台風第15号)に係る課題として、長期停電や通信障害とそれらの復旧プロセス及び国・地方公共団体の初動対応を、令和元年東日本台風(台風第19号)に係る課題として、避難の実効性の確保、分かりやすい防災情報の提供及び避難所対策を掲げ、検討が進められた。令和元年房総半島台風(台風第15号)に係る課題については、社会的重要施設への非常用電源の導入促進や通信障害に関する携帯電話利用者への分かりやすい情報提供、初動対応や災害対応の各フェーズで必要となる知識・技術を付与するための研修の充実等が対応策として取りまとめられ、令和2年3月31日に公表された。なお、令和元年東日本台風(台風第19号)に係る課題とされた避難の実効性の確保等については、以下の「令和元年台風第19号等による災害からの避難に関するワーキンググループ」等において、検証が行われた。

「令和元年東日本台風」(台風第19号)による浸水被害宮城県丸森町(山形県消防防災航空隊提供)
「令和元年東日本台風」(台風第19号)による浸水被害宮城県丸森町
(山形県消防防災航空隊提供)

(2)令和元年台風第19号等による災害からの避難に関するワーキンググループ

令和元年東日本台風(台風第19号)等による災害の教訓を今後に活かすため、令和元年12月3日に、中央防災会議の専門調査会である防災対策実行会議の下に「令和元年台風第19号等による災害からの避難に関するワーキンググループ」が設置され、関係省庁が連携して今後実施するべき取組の具体的な内容について検討が進められた。
令和2年3月31日には、「災害リスクととるべき行動の理解促進」、「高齢者等の避難の実効性の確保」及び「大規模広域避難の実効性の確保」の各論点について対応策が取りまとめられ、公表された。各対応策は、令和2年出水期までに速やかに実施することが可能かつ望ましいものと令和2年度以降も検討が必要なものとに整理された。
令和2年の出水期に向けた主な対応としては、「避難の理解力向上キャンペーン」を実施することとされた。同キャンペーンは、地方公共団体や教育機関、福祉関係者や民間企業等あらゆる主体が参画して、国民に対し、災害リスクと災害時にとるべき行動に関する理解の普及啓発を行うものであり、市町村に対し、ハザードマップ、避難行動判定フロー及び避難情報のポイントを各戸配布又は回覧することなどについて、令和2年4月に内閣府と消防庁連名で各都道府県宛て通知を発出した(第1-5-4図)。
なお、各対応策のうち、引き続き制度的な検討を行うこととされたものについては、令和2年6月に設置された「令和元年台風第19号等を踏まえた避難情報及び広域避難等に関するサブワーキンググループ」及び「令和元年台風第19号等を踏まえた高齢者等の避難に関するサブワーキンググループ」において検討が進められている。

第1-5-4図 「避難行動判定フロー」及び「避難情報のポイント」

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第1-5-4図 「避難行動判定フロー」及び「避難情報のポイント」

(3)避難勧告等の発令・伝達体制の改善

「避難勧告等の判断・伝達マニュアル作成ガイドライン」は平成17年3月の策定以降、東日本大震災や広島市の大規模な土砂災害等の教訓を踏まえ、平成26年4月、平成27年8月に改定され、また、平成29年1月には、改定を行うとともに、"避難行動・情報伝達編"と"発令基準・防災対策編"に分け、名称を「避難勧告等に関するガイドライン」と変更したところであるが、平成30年7月豪雨による水害・土砂災害からの避難に関するワーキンググループの報告内容を踏まえて、市町村が適時的確に避難勧告等を発令できるよう、平成31年3月に改定が行われた。この中で、住民等が情報の意味を直感的に理解できるよう、防災情報を5段階の警戒レベルにより提供し、とるべき行動の対応を明確化する内容に改定された。
また、市町村に対し、避難勧告等の防災情報の伝達について、防災行政無線(同報系)、緊急速報メールをはじめ、マスメディアとの連携や、広報車・インターネット(ホームページ、SNS等)・コミュニティFM・Lアラート等を活用した多様な伝達手段を整備・点検し、対象地域の住民等の安全確保のため、早い段階からの確実な防災情報の伝達を図るとともに、住民等が避難行動の判断に活用しやすいよう、住民等の立場に立った分かりやすい情報提供に努めることを要請している。

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