令和2年版 消防白書

【コラム】消防防災ヘリコプターの安全運航に向けた取組

乗務要件・訓練審査プログラム策定の趣旨

平成21年以降、4件の消防防災ヘリコプターの墜落事故が相次いで発生し、消防職員ら26人が殉職するという極めて憂慮すべき事態となっている(第2-7-2表)。
こうした経緯を踏まえて、消防庁では平成29年8月から「消防防災ヘリコプターの安全性向上・充実強化に関する検討会」を開催し、報告書を取りまとめた。
また、これまで以上に運航団体が安全性の向上に着実に取り組むためには、当該報告書の提言事項等を運航に関する基準として取りまとめ、助言より高い規範力を持つ形式で示すことが重要であると考え、平成31年3月及び令和元年6月に「消防防災ヘリコプターの運航に関する基準の在り方に関する検討会」を開催し、基準に盛り込むべき事項とその内容について検討した。令和元年9月に「消防防災ヘリコプターの運航に関する基準」(令和元年消防庁告示第4号)を消防庁長官の勧告として告示、二人操縦士体制、機長及び副操縦士の乗務要件、操縦士の養成訓練等について示した。
また、令和2年3月にこれらの検討結果や基準に示された事項を受けて、運航団体において消防防災ヘリコプターの操縦士の要件及び操縦士の養成訓練に係る計画を策定し、実施するための指針として「消防防災ヘリコプター操縦士の乗務要件・訓練審査プログラム」を定めた。

第2-7-2表 消防防災ヘリコプターの墜落事故一覧表(平成21年から令和元年)

第2-7-2表 消防防災ヘリコプターの墜落事故一覧表

乗務要件の概要

乗務要件においては、操縦士を飛行時間・運航技能から「専任機長」・「限定機長」・「副操縦士」の3段階に分け、それぞれの要件を定めた(第2-7-5図)。

第2-7-5図 段階的審査のイメージ

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第2-7-5図 段階的審査のイメージ

1 専任機長の乗務要件

(1)1,000時間の機長時間、うち500時間は回転翼機の機長時間
(2)500時間の実施する運航と類似した運航環境※における飛行時間
※「類似した運航環境」とは、海、山、交通量の多い都会などの地形学的な特徴が類似した運航環境をいう。
(3)50時間の当該型式の飛行時間
(4)夜間における20時間の機長時間(夜間運航を行う場合のみ)
(5)50回の吊下揚収運航経験

2 限定機長の乗務要件

限定機長の乗務要件は、各運航団体における活動状況に照らしミッションごとに必要な技能を勘案して各運航団体が定めることとする。

3 副操縦士の乗務要件

(1)回転翼事業用操縦士技能証明及び乗務機の型式限定
(2)第一種航空身体検査証
(3)航空特殊無線技士又は航空無線通信士
(4)特定操縦技能審査技能証明書

訓練審査プログラムの概要

訓練審査プログラムにおいては、ミッションごとに求められる技術の難易度に差があること、経験のある操縦士の確保が難しい状況を踏まえ、ミッション別の段階的な訓練審査プログラムを定めた。
自主運航団体において経験の浅い操縦士をゼロから養成可能なように、副操縦士から専任機長に養成するために必要な基本的な訓練項目を記載したプログラムとした。本訓練審査プログラムでは、「基本技能」、「情報収集」、「救急活動」、「一般救助」、「水難救助」、「山岳救助」、「消火活動」の7段階に分け、訓練項目例を記載している。一方で、必要となる訓練項目は各運航団体の活動地域・状況によって異なるため、ミッション別の段階の前後、あるいはミッションごとの訓練項目の追加・削除は各運航団体の判断によるものとする(第2-7-6図)。

第2-7-6図 段階的な訓練イメージ

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第2-7-6図 段階的な訓練イメージ

今後の課題

今後の課題として、二人操縦士体制による操縦士の増加や限られた飛行時間の中、操縦士1人当たりの訓練時間をどのように確保していくか、運用方法やコスト面からも調査研究をすすめ、更に検討する必要がある。
引き続き、消防防災ヘリコプターの安全運航を第一に、航空消防防災体制の充実強化に努めていく。

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