令和2年版 消防白書

【コラム】南海トラフ地震における緊急消防援助隊アクションプランの改定

緊急消防援助隊アクションプランについて

一般的に、緊急消防援助隊の都道府県大隊(陸上隊)は、応援の必要がある都道府県に隣接する4都道府県が第一次的に応援出動を行い、それでも消防力が不足する場合には、更に近隣の12都道府県(前述の4都道府県を除く。)から応援出動を行う。
なお、航空小隊も都道府県大隊と同様の考え方で応援出動を行う。
しかしながら、南海トラフ地震や首都直下地震等の大規模地震については、これらの隊だけでは消防力が不足すると考えられることから、消防庁長官が別に当該地震ごとにアクションプランを定め、全国規模で緊急消防援助隊を出動させ、被災地において迅速・的確に活動できるようにしている。

南海トラフ地震における緊急消防援助隊アクションプランの改定の背景

南海トラフ地震における緊急消防援助隊アクションプラン(以下「南海トラフAP」という。)は、平成27年3月30日に中央防災会議幹事会で決定した南海トラフ地震における具体的な応急対策活動に関する計画(以下「具体計画」という。)の内容を踏まえ、平成28年3月29日に策定された。
令和2年5月29日、具体計画が改定され、南海トラフ地震の想定震源断層域の全体が破壊されるマグニチュード9クラスの地震だけでなく、一部の領域で割れが生じるとされるマグニチュード8クラスの地震を含めた対応が新たに盛り込まれた。
このことを受け、南海トラフAPにおいても、従前に想定していたマグニチュード9クラスの地震だけでなく、マグニチュード8クラスの地震も想定し、緊急消防援助隊を柔軟に運用できるようにしたほか、後発地震発生時の対応について新たに規定するなど、改定を行った。

改定後の南海トラフAPの特徴

(1)南海トラフ地震発生後、応援可能な全ての緊急消防援助隊(重点受援県*1の陸上隊を除く。)を一斉に迅速投入。重点受援県の陸上隊は、南海トラフ地震臨時情報(巨大地震警戒)*2が発表されている間(対象地震発生から1週間)は自県で活動し、これが解除された場合は、自県の被害状況、災害対応状況及び緊急消防援助隊の活動状況等を踏まえ、出動可能な隊は出動(第2-8-5図)。
(2)被害想定*3を踏まえあらかじめ作成している4パターンの応援編成計画(都道府県大隊及び航空小隊のそれぞれにおいて作成)に基づき、迅速に応援先を決定。
(3)被害状況等(重点受援県以外の受援、応援の必要がない重点受援県の発生)に応じて柔軟に応援先を変更。
(4)想定上、大きな被害が見込まれない都道府県の都道府県大隊に対して、南海トラフAPの適用と同時に出動指示を行い、初動時の迅速性を確保。
(5)フェリーによる進出や自衛隊機による緊急消防援助隊車両の輸送等、多様な進出手段をあらかじめ想定し、交通途絶や遠方からの迅速な進出等に対処。
(6)後発地震発生時には、後発地震による被害状況、先発地震の被災地の状況等を踏まえ、必要に応じて応援先の変更や部隊の移動等を実施(第2-8-6図)。

第2-8-5図 出動のイメージ(マグニチュード8クラスの地震が発生した場合)

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第2-8-5図 出動のイメージ(マグニチュード8クラスの地震が発生した場合)

第2-8-6図 部隊の移動のイメージ(先発地震の被災地で活動中にマグニチュード8クラスの後発地震が発生した場合)

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第2-8-6図 部隊の移動のイメージ(先発地震の被災地で活動中にマグニチュード8クラスの後発地震が発生した場合)

*1 重点受援県:南海トラフ地震発生時において主として応援を受ける都道府県(静岡県、愛知県、三重県、和歌山県、徳島県、香川県、愛媛県、高知県、大分県及び宮崎県の10県)をいう。
*2 南海トラフ地震臨時情報(巨大地震警戒):南海トラフ地震防災対策推進基本計画(平成26年3月中央防災会議)において、気象庁が想定震源域内のプレート境界でモーメントマグニチュード8.0以上の地震が発生したと評価した場合に発表されると規定されている。これが発表された場合、後発地震に備えるため、対象地震発生から1週間、南海トラフ地震防災対策推進地域では警戒する措置をとることとされている。
*3 被害想定:南海トラフ地震発生時に想定される地震動と津波に基づき算定された具体的な被害(死者数、建物倒壊棟数等)の想定

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