令和4年版 消防白書

【コラム】大阪市北区ビル火災を踏まえた予防対策

火災の概要

令和3年12月17日に大阪市北区において、死者27人(容疑者1人含む。)、負傷者1人という極めて重大な人的被害を伴うビル火災が発生した。
出火原因は、防犯カメラ映像記録から、容疑者がガソリンを散布し、ライターを用いて放火したものと判明した。

検討会の開催

消防庁においては、国土交通省と合同で「大阪市北区ビル火災を踏まえた今後の防火・避難対策等に関する検討会」(以下、本コラムにおいて「検討会」という。)(座長 菅原 進一 日本大学大学院 教授)を開催した。
検討会では、火災原因調査の結果、火災シミュレーションによる避難可能性の検証結果(第1-1-20図)及び火災後に消防本部が実施した緊急立入検査結果などを踏まえ、地上に通ずる避難用の直通階段が一つしか設けられていない建築物における防火・避難対策や危険物の販売時における取扱いなどについて検討した。

第1-1-20図 火災建物をモデルとした火災シミュレーションの結果(出火60秒後)

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第1-1-20図 火災建物をモデルとした火災シミュレーションの結果(出火60秒後)

廊下の扉が閉鎖できた場合には、火災発生場所から離れた居室等(診察室等)への煙の影響を遅らせることができることがわかった。

検討会の結果

令和4年6月28日に検討会報告書がとりまとめられた。まず、本火災は、通常、建物内に存しえない大量のガソリンに着火した火災であり、延焼拡大が極めて早いものであったこと、また、直通階段への避難経路を塞ぐように放火されたものであったことから、「特殊な火災」であると位置づけられた。そして、このような「特殊な火災」に係る対策は、社会への負担の大きさを鑑み、「規制的な手法」によらず「誘導的な対策」を基本とすべきとされた。
報告書では、次の主な対策が示された。
①避難用の直通階段が一つの建築物に係る防火・避難対策の提示
・直通階段や避難上有効なバルコニーの増設による二方向避難の確保又は居室等の退避区画化など、建築物の安全対策を進めるとともに、それらを活用した避難行動を示すガイドラインを定め、避難訓練の指導を行うこと。
・小規模の増改築等の際は、二方向避難の確保(退避区画の設置を含む。)及び竪穴区画の形成を求めるとともに、その他の建築基準法令の防火・避難規定については、危険性が増大しないことを前提に、現行基準を遡及適用しないこと。
・直通階段が一つの建築物については、特に階段などの避難施設への物件存置により避難に支障がある場合など、消防法令違反が火災時の被害拡大要因となるおそれがあることから、そのリスクを徹底的に減らすため、消防法令違反が確実に是正されるよう、重点的に立入検査を実施すること。
②危険物(ガソリン)の適正販売の徹底
ガソリンを容器で販売する際に、現在義務付けられている顧客の本人確認等の適正な運用等を徹底すること。
③研究開発の促進
ガソリン等による火災の被害軽減に資する製品の技術開発が有効であること。

消防庁の対応

この報告書を受け、消防庁においては、令和4年7月以降順次以下の対策を講じた。
①直通階段が一つの建築物向けの避難行動を示すガイドラインを策定するとともに、防火対象物点検報告が必要な直通階段が一つの建築物で当該点検等が行われていない建築物などに対して、重点的な立入検査を実施すること等を各消防本部に通知し、立入検査標準マニュアル及び違反処理標準マニュアルについても見直した。
②消防隊による見回り等を通じたガソリン販売店における顧客の本人確認等の適正な運用の徹底とガソリンを購入しようとする者の言動に不審な点を感じた場合における警察への通報について、新たに作成した通報要領と併せて再度通知した。
③研究開発については、消防防災科学技術研究推進制度(競争的研究費)で、「ガソリン火災対策に資する資機材等の開発」をテーマに公募を行い、研究を開始した。