令和4年版 消防白書

4.救助の課題と対応

(1)体制の整備

近年の救助活動は、火災、交通事故、水難事故だけでなく、激甚化・頻発化する自然災害やNBC災害といった特殊災害への対応も求められている。これらの災害に対して適切な救助活動が実施できるよう、東京消防庁及び指定都市消防本部に特別高度救助隊、中核市等消防本部に高度救助隊を設立し、全国的に救助体制の強化を進めている。
これらは消防大学校や各都道府県、各指定都市の消防学校などで人命救助に関する専門的かつ高度な教育訓練を受けた隊員を中心に構成され、従来の救助器具に加えて、要救助者の捜索が困難な場合に活用される画像探索機や地中音響探知機等の高度な救助器具を備えている。

(2)車両及び資機材の整備

テロの発生が危惧されるなか、サリンなどの化学剤や細菌などの生物剤、放射線が存在する災害現場における迅速かつ安全な救助活動が求められている。これらを踏まえ、救助隊の装備の充実を図るため、国有財産等の無償使用制度を活用し、特殊災害対応自動車*3、大型除染システム搭載車*4、化学剤遠隔検知装置*5等を配備している。また、近年増加している土砂災害や浸水等の風水害に対応すべく、重機*6及び重機搬送車、高機能救命ボート*7や広範囲な浸水区域での迅速な捜索・救助活動のために水上オートバイ*8を配備している。令和4年度には、令和3年7月に発生した静岡県熱海市土石流災害を踏まえ、小型救助車*9の配備を予定している。
その他、特別高度工作車*10の更新やNBC災害即応部隊*11へのNBC災害対応資機材の計画的な配備を進めている。
このように、消防庁では緊急消防援助隊に必要な装備について継続的な充実強化を図っており、各消防本部では、これらの資機材等を活用した訓練が実施されている(資料2-6-5)。

画像をクリック(タップ)すると拡大表示します

特殊災害対応自動車
特殊災害対応自動車

画像をクリック(タップ)すると拡大表示します

大型除染システム搭載車
大型除染システム搭載車

画像をクリック(タップ)すると拡大表示します

化学剤遠隔検知装置※化学剤を検知した場所を色で識別
化学剤遠隔検知装置
※化学剤を検知した場所を色で識別

画像をクリック(タップ)すると拡大表示します

重機及び重機搬送車
重機及び重機搬送車

画像をクリック(タップ)すると拡大表示します

高機能救命ボート
高機能救命ボート

画像をクリック(タップ)すると拡大表示します

水上オートバイ
水上オートバイ

画像をクリック(タップ)すると拡大表示します

小型救助車
小型救助車

画像をクリック(タップ)すると拡大表示します

特別高度工作車
特別高度工作車

(3)救助技術の高度化等

多様化する救助事案に全国の消防本部が的確に対応し、救助技術の高度化を推進することを目的に、消防庁では、有識者や消防機関関係者などにより構成される検討会を実施しているほか、全国の救助隊員などの意見交流の場として、全国消防救助シンポジウムを毎年度開催している。
検討会は、これまでは災害種別に応じたマニュアルの策定や新たな資機材の導入を検討してきたが、令和3年度から令和4年度の2年は、「多様化する救助事象に対応する救助体制のあり方について(救助人材育成)」をテーマとして、「人」に焦点を当てている。
災害が頻発化・広域化・激甚化し、消防の広域応援や警察、自衛隊等の関係機関との連携が求められている場面が増えている。また、全国的な職員の若返りや救助活動の多様化により、技術の継承や効果的な教育訓練指導が課題となっている。
そこで、令和3年度はまず、大規模災害時の関係機関との連携体制強化方策及びそれを実行できる人材育成について検討した。検討会では、令和3年7月に静岡県熱海市で発生した土石流災害の対応を振り返りつつ、活動調整会議等において情報共有・活動方針の調整を行うことや平時から関係機関と「顔の見える関係」を構築していくことの重要性を確認し、関係機関連携に関する提言がまとめられた。
令和4年度は人材育成を中心に、時代に即した効果的な教育手法、救助の現場・教育訓練をリードする中核人材の育成等について検討している。具体的には、救助人材に求められる到達目標を明確にすることで自発的な人材育成を促す「内発的動機付け」、テクニカルスキル(救助実技)と併せて磨くべき「ノンテクニカルスキル」(例:コミュニケーション力)、なぜそうするのかについてコミュニケーションを通じて理解させる「Know-Why教育」などの人材育成に関する専門的知見を取り入れながら、救助隊長の理想的な人材像や身につけるべきスキル、効果的な訓練指導マニュアル等について検討を進めている。
全国消防救助シンポジウムは、全国の消防本部の経験、知見及び技術を共有することにより、我が国における救助体制の一層の充実を図ることを目的としている。令和4年度は「活動困難な環境下における救助対応能力の向上」をテーマに、掘削現場での生き埋め事故などの対応事例発表、専門家による講演や総合討論が行われた(11月15日に開催)。会場には700名以上が来場するとともに、インターネットでライブ配信された。また、消防関係企業による救助資機材等の展示ブースも会場に設けられた。

*3 特殊災害対応自動車:NBC災害に対応するため各種検知器や防護服などを積載することができる構造を有する車両
*4 大型除染システム搭載車:NBC災害において隊員及び被災者などを除染するために、1時間に200人以上除染できる大型除染システムを積載した車両
*5 化学剤遠隔検知装置:日中・夜間問わず最大5km離れた場所から、化学剤を瞬時に識別し可視化できる装置
*6 重機:がれき、土砂などの障害物を除去することにより、道路の啓開や救助隊等と連携した効果的な救助活動を行う機械
*7 高機能救命ボート:大規模風水害に伴う浸水区域において、がれき等がある場面でも多数の要救助者を一度に救出することができ、船首パネルを開閉することで車椅子等をそのまま乗船させることが可能な膨張式ボート
*8 水上オートバイ:広範囲な浸水区域において、瓦礫・漂流物に強く、迅速な捜索・救助活動が可能な船舶
*9 小型救助車:狭隘な道路、悪路を走行可能で、早期の情報収集、迅速な救助・火災活動が可能な小型オフロード車両
*10 特別高度工作車:排煙消火機能を有する大型ブロアー装置と水力で切断可能なウォーターカッター装置を搭載し、トンネル火災や倉庫火災などの大規模災害時に対応可能な車両
*11 NBC災害即応部隊:NBC災害に対し、高度かつ専門的な救助活動を迅速かつ的確に行うことを任務としている部隊