令和4年版 消防白書

2.新型コロナウイルス感染症対策に係る消防機関等の取組

(1)消防庁の体制

消防庁では、令和2年1月26日、救急企画室長を長とする消防庁災害対策室を設置し、30日には、総務省対策本部の設置を踏まえ、消防庁においても、消防庁長官を本部長とする「消防庁新型コロナウイルス感染症対策本部」を設置した。
3月26日には、特措法に基づく政府対策本部の設置を受け、消防庁長官を本部長とする「新型コロナウイルス感染症消防庁対策本部」(以下、本特集において「消防庁対策本部」という。)を設置した。
同月28日、政府における基本的対処方針の決定及び総務省における総務省対処方針の決定を踏まえ、消防庁においても消防庁対策本部を開催し、「新型コロナウイルス感染症対策の消防庁対処方針」(以下、本特集において「消防庁対処方針」という。)を決定した。消防庁対処方針では、新型コロナウイルス感染症対策を更に進めていくため、消防庁職員への注意喚起や、地方公共団体・消防機関等の関係機関との連携の推進等について、消防庁として迅速かつ適切に行うこととした。
消防庁は、その後、累次にわたる基本的対処方針及び総務省対処方針の改正及び変更を受け、消防庁対処方針を改正してきた。

(2)具体的な取組

消防庁においては、新型コロナウイルス感染症対策について累次の通知等を発出し、消防機関の円滑な活動の推進や、国民の安全確保に努めた。

ア 救急業務における対応

救急業務については、救急隊員の行う感染防止対策などの具体的手順の徹底や、保健所等関係機関との密な情報共有、連絡体制の構築、救急搬送困難事案の抑制に向けた連携協力等を消防機関に要請した(特集2-1表)。

特集2-1表 新型コロナウイルス感染症に係る都道府県消防防災主管部(局)及び全国の消防本部への対応状況(救急関係)について

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特集2-1表 新型コロナウイルス感染症に係る都道府県消防防災主管部(局)及び全国の消防本部への対応状況(救急関係)について

(ア)救急隊員への注意喚起等
救急分野における新型コロナウイルスへの対応のため、「新型コロナウイルス感染症に係る消防機関における対応について」(令和2年2月4日付け通知。以下、本特集において「2月4日通知」という。)では、救急業務の実施に当たって、保健所等との連絡体制を確保した上で、①都道府県知事が入院を勧告した患者(疑似症を含む。)又は入院させた患者の医療機関までの移送は、都道府県知事(保健所設置市の場合は市長又は区長)が行う業務であること、②全ての傷病者に対して、標準感染予防策を徹底すること、③救急要請時又は現場到着時に、新型コロナウイルス感染症の患者又は感染が疑われる患者であることが判明した場合は、直ちに保健所等に連絡し、対応を引き継ぐこと等の基本的な対応を消防機関に示したところであり、以後、当該通知に基づき、消防機関が対応に当たっている。
救急現場における感染防止対策については、消防庁から消防機関に対して、累次の通知等を発出し、保健所等関係機関との連携や、マスク・手袋などの感染防止資器材の正しい装着方法、救急隊員の健康管理及び救急車の消毒の徹底といった、具体的な対応手順の周知・徹底を図ってきている。令和3年度には、厚生労働省から「N95マスク等の個人防護具の取り扱いについて」(令和3年11月2日付け事務連絡)が発出され、N95マスク等の個人防護具の例外的取扱いが廃止されたことや、新型コロナウイルス感染症への対応に関するガイドラインが更新されたこと等を踏まえ、消防庁においては、令和4年2月に「救急隊の感染防止対策マニュアル(Ver.2.0)」を一部改訂し、「救急隊の感染防止対策マニュアル(Ver.2.1)」としてとりまとめ、「「救急隊の感染防止対策マニュアル(Ver.2.0)」の一部改訂について」(令和4年2月17日付け事務連絡)を発出し、全国の消防本部に周知した。

(イ)感染防止資器材の確保・提供等
こうした中、新型コロナウイルス感染症の感染拡大等に伴い、救急需要が増加し、感染防止資器材の使用量が増加したため、感染防止資器材の確保に支障が生ずる消防機関も発生した。このため、消防庁においては、救急搬送に当たって必要となる感染防止資器材について不足が生じ、救急活動に支障が生じることのないよう、累次の補正予算等を活用し、緊急的な措置として、消防庁がN95マスクや感染防止衣などの感染防止資器材を調達して全国の消防本部に提供する形で支援することで、救急隊員の感染防止対策の徹底を図っている。併せて、消防庁が抗原定性検査キットを調達し、救急隊員間での感染防止等のため必要とする消防本部に提供する取組を実施しているほか、緊急消防援助隊設備整備費補助金により、搬送用アイソレーター装置の整備を支援している。

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感染防止資器材等の例
感染防止資器材等の例

(ウ)保健所等関係機関との密な情報共有、連絡体制の構築
2月4日通知においては、新型コロナウイルス感染症について、都道府県知事が入院を勧告した患者(疑似症を含む。)又は入院させた患者の医療機関までの移送は、都道府県知事(保健所設置市の場合は市長又は区長)が行う業務とされているが、厚生労働省から消防庁に対して、保健所等が行う新型コロナウイルス感染症の患者(疑似症を含む。)の移送について消防機関に対する協力の要請があったことから、保健所等と事前に十分な協議を行った上で移送に協力するよう、消防機関に要請している。
令和3年度以降の主な対応としては、令和3年8月には、「新型コロナウイルス感染症に係る周産期医療提供体制の確保への対応について」(令和3年8月23日付け通知)を発出し、新型コロナウイルスに感染した妊産婦に係る救急要請時に、産科的緊急処置が必要であると判断した場合の対応等を消防機関に要請した。また、厚生労働省から、「今夏の感染拡大を踏まえた今後の新型コロナウイルス感染症に対応する保健・医療提供体制の整備について」(令和3年10月1日付け事務連絡)が発出され、各都道府県が策定した「病床・宿泊療養施設確保計画」を、新たに「保健・医療提供体制確保計画」として充実するよう都道府県衛生主管部(局)等に要請があった。このことを受け、消防庁から「今夏の感染拡大を踏まえた今後の新型コロナウイルス感染症に対応する保健・医療提供体制の整備への対応について」(令和3年10月1日付け事務連絡)を発出し、各都道府県において策定する計画に、迅速な入院調整等の方法を記載するに当たって、関係者との間で協議の上、適切な調整・連携を図り、必要な対応に努めるよう都道府県消防防災主管部(局)及び消防機関に依頼した。その後、B.1.1.529系統(オミクロン株)による感染拡大を受け、コロナ医療と救急医療のバランスに留意した救急搬送受入体制の更なる強化など、保健・医療提供体制の強化等について、関係者との間での連携に努めるよう累次にわたり必要な対応を消防機関に要請している。
さらに、「次の感染拡大に向けた安心確保のための取組の全体像」(令和3年11月12日新型コロナウイルス感染症対策本部決定)及び「新型コロナウイルス感染症対策の基本的対処方針」(令和3年11月19日新型コロナウイルス感染症対策本部決定)において、医療提供体制の強化等が示された。このことを受け、消防庁から「「新型コロナウイルス感染症対策の基本的対処方針」への対応について」(令和3年11月24日付け事務連絡)を発出し、都道府県内の医療機関や都道府県調整本部、保健所、消防機関等との間で、病床の確保・使用状況を日々共有できる体制を構築するよう消防機関に要請した。
令和4年9月には、「With コロナに向けた政策の考え方」(令和4年9月8日新型コロナウイルス感染症対策本部決定)が決定され、感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(以下、本特集において「感染症法」という。)に基づく省令の一部を改正し、全国一律で感染症法に規定する医師の届出(発生届)の対象を65 歳以上の方、入院を要する方など4類型に限定することで、保健医療体制の強化、重点化を進めていくこととされた。これに伴い、厚生労働省から、「With コロナの新たな段階への移行に向けた全数届出の見直しについて」(令和4年9月12日付け事務連絡)が発出され、当該見直しに係る運用等の詳細が示された。これらを踏まえ、消防庁から「With コロナの新たな段階への移行に向けた全数届出の見直しへの対応について」(令和4年9月13日付け事務連絡)を発出し、感染症法上の移送について、届出の有無に関わらず、適用が可能であり、患者が救急要請を行う場合も含め、従前どおり移送の対象となることから、都道府県又は保健所等と消防機関とが届出対象外の患者の移送についての連絡調整を行うことが可能な体制の構築に努めるよう消防機関に要請した。
このような中、令和4年から令和5年にかけての冬期においては、新型コロナウイルス感染症について、令和4年の夏期を上回る感染拡大が生じる可能性があることに加え、季節性インフルエンザも流行し、より多数の発熱患者が生じる可能性があることから、厚生労働省から「季節性インフルエンザとの同時流行を想定した新型コロナウイルス感染症に対応する外来医療体制等の整備について(依頼)」(令和4年10月17日付け事務連絡)が発出され、「保健・医療提供体制確保計画」の一環として、新たに「外来医療体制整備計画」を策定することが都道府県衛生主管部(局)等に要請された。このことを受け、消防庁から「季節性インフルエンザとの同時流行を想定した新型コロナウイルス感染症に対応する外来医療体制等の整備への対応について」(令和4年10月18日付け事務連絡)を発出し、発熱患者等の相談体制の強化と周知徹底等について、関係者との連携など必要な対応に努めるよう都道府県消防防災主管部(局)及び消防機関に依頼した。

(エ)救急搬送困難事案への対応
令和2年3月以降、発熱や呼吸苦などの新型コロナウイルス感染症を疑う症状を呈する傷病者への対応に関して、消防機関が受入れ医療機関の決定に苦慮する事案が報告された。
これを受けて、消防庁では、「新型コロナウイルス感染症に伴う救急搬送困難事案に係る状況調査について(依頼)」(令和2年4月23日付け通知)を発出し、全国52消防本部を調査対象として、救急搬送困難事案の件数を把握している。これを踏まえ、消防庁において救急搬送困難事案の状況を厚生労働省と共有するとともに、都道府県消防防災主管部(局)に対し、衛生主管部(局)等との情報共有等や地域における搬送受入れ体制の整備・改善などの検討等に活用するよう依頼している。
また、令和3年9月8日には、新型コロナウイルス感染症対策分科会において、「緊急事態措置解除の考え方」が示され、その中の医療ひっ迫に関する指標(一般医療への負荷)の一つとして、救急搬送困難事案が掲げられた。当該調査を通じて把握した令和4年1月以降の救急搬送困難事案の発生件数をみると、2月第3週まで増加し、その後、減少傾向となったものの、6月第4週からは再び増加し、8月第2週には6,747件となり、当該調査開始以降、最多件数となった。その後、対前週比ではおおむね減少傾向となり、10月第5週では2,574件となっている(特集2-2図)。

救急搬送困難事案への対応としては、令和4年1月以降、救急搬送困難事案が急増したことから、厚生労働省から、「即応病床等への救急患者の受入れに係る病床確保料の取扱いについて」(令和4年1月20日付け事務連絡)が発出されたことを受け、消防庁から「現下の救急搬送困難事案の増加を踏まえた救急搬送の円滑化について」(令和4年1月20日付け事務連絡)を発出し、コロナ疑い患者かそうでないかに関わらず、救急医療が必要な患者に対して適切に医療が提供できるよう、医療機関等の関係者との間での連携など必要な対応に努めるよう消防機関に依頼した。
併せて、厚生労働省から、「医療機関における救急搬送困難事案の解消に向けた取組について」(令和4年1月28日付け事務連絡)が発出されたことを受け、消防庁から「医療機関における救急搬送困難事案の解消に向けた取組について」(令和4年1月31日付け事務連絡)を発出し、救急患者を診察するスペースを拡充するなど、医療機関における救急搬送困難事案の解消に向けた取組を周知するとともに、引き続き、関係者との間での連携など必要な対応に努めるよう消防機関に要請した。
また、同年7月以降、オミクロン株(BA.5系統)による新型コロナウイルス感染症患者数の急増や熱中症などによる救急件数の増加、救急医療機関の外来医療がひっ迫している状況などを踏まえ、厚生労働省から、「直近の感染状況を踏まえた医療提供体制について」(令和4年7月22日付け事務連絡)が発出されたことを受け、消防庁から「直近の感染状況を踏まえた医療提供体制への対応について」(令和4年7月25日付け事務連絡)を発出し、引き続き、救急車の適時・適切な利用を地域住民に促す取組について推進するよう消防機関に要請した。
さらに、「社会経済活動を維持しながら感染拡大に対応する都道府県への支援について」(令和4年7月29日新型コロナウイルス感染症対策本部決定)において、都道府県が「BA.5対策強化宣言」を行い、特措法第24条第9項に基づく区域内の住民又は事業者への協力要請又は呼びかけを実施する事項の一つに「救急車の利用は、真に必要な場合に限ること」が示された。これを受け、消防庁から「「社会経済活動を維持しながら感染拡大に対応する都道府県への支援について」への対応について(救急車の適時・適切な利用について)」(令和4年8月2日付け事務連絡)を発出し、「BA.5対策強化宣言」を発出する都道府県において、引き続き、救急車の適時・適切な利用の推進とともに過度な受診控えを起こさない観点から、救急車の利用に関してわかりやすい情報の提供に努めるよう消防機関に要請した。
加えて、「今後の新型コロナウイルス感染症の再拡大及び季節性インフルエンザとの同時流行等による救急需要の増大に備えた救急安心センター事業(♯7119)の全国展開に向けた取組について」(令和4年10月18日付け通知)を発出し、新型コロナウイルス感染症と季節性インフルエンザの同時流行に備えた対策として、救急安心センター事業(♯7119)の早期実施や体制強化等を都道府県消防防災主管部(局)及び消防機関に要請した。
救急搬送困難事案の調査結果は、消防庁ホームページ上の特設サイト「新型コロナウイルス感染症対策関連」を毎週更新し、最新の情報を掲載している。

特集2-2図 各消防本部からの救急搬送困難事案に係る状況調査の結果(各週比較)

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特集2-2図 各消防本部からの救急搬送困難事案に係る状況調査の結果(各週比較)

(備考)
1 本調査における「救急搬送困難事案」とは、救急隊による「医療機関への受入れ照会回数4回以上」かつ「現場滞在時間30分以上」の事案として、各消防本部から総務省消防庁あて報告のあったもの。なお、これらのうち、医療機関への搬送ができなかった事案はない。
2 調査対象本部=政令市消防本部・東京消防庁及び各都道府県の代表消防本部 計52本部
3 コロナ疑い事案=新型コロナウイルス感染症疑いの症状(体温37度以上の発熱、呼吸困難等)を認めた傷病者に係る事案
4 医療機関の受入れ体制確保に向け、厚生労働省及び都道府県等と状況を共有。
5 この数値は速報値である。
6 本調査には保健所等により医療機関への受入れ照会が行われたものは含まれない。

イ 消防機関の業務継続等

(ア)消防本部の業務継続等
消防機関は、新型コロナウイルス感染症発生時においても、救急業務をはじめ、必要な業務を継続できるようにする必要がある。
消防庁では、基本的対処方針、総務省対処方針及び消防庁対処方針の決定に併せ、各消防機関に対し、消防職員の健康管理の徹底や、必要な業務を継続できる体制の確保を累次にわたり要請している。
また、「新型コロナウイルス感染症の再度の感染拡大に備えた消防本部の業務継続等のための当面の留意事項について」(令和2年6月30日付け通知。以下、本特集において「6月30日通知」という。)を発出し、消防本部において喫緊に取り組むべき当面の留意事項として、感染防止資器材の確保等について要請したほか、地方創生臨時交付金の活用事業例にその使途として、「感染症対応に従事した救急隊員等への防疫等作業手当等」が明記されたことを受け、適切な対応を各消防機関に要請した。さらに、「消防本部の業務継続について」(令和4年8月8日付け事務連絡)を発出し、6月30日通知を参考に適切に対応することに加え、職員数の減少により消防本部内における対応のみでは災害等に対応できなくなる事態も想定し、近隣の消防本部や都道府県との間で相互応援体制等について改めて確認することを要請した。

(イ)救急隊員等へのワクチン接種
令和3年2月より開始された初回接種(1・2回目接種)では、消防庁において厚生労働省と協議の上、優先接種の対象となる範囲を①救急隊員、②救急隊員と連携して出動する警防要員、③都道府県航空消防隊員、④消防非常備町村の役場の職員、⑤消防団員(主として消防非常備町村や消防常備市町村の離島区域の消防団員を想定)と整理し、「医療従事者等への新型コロナウイルス感染症に係る予防接種における接種対象者について(周知)」(令和3年1月15日付け事務連絡)により周知した。
令和3年12月より開始された3回目接種では、消防庁から「新型コロナワクチンの追加接種について」(令和3年10月1日付け事務連絡)を発出し、救急隊員等は住民接種の枠組みの中で接種が進められることを周知した。
令和4年5月より開始された4回目接種では、同年7月下旬に接種対象者に拡大され、医療従事者等が4回目接種の対象に含まれたことを受けて、消防庁において「新型コロナワクチンの4回目接種の対象拡大について」(令和4年7月22日付け事務連絡)を発出し、4回目接種の対象者に救急隊員等が含まれることを周知した。

(ウ)消防団活動における感染症対策
消防団員は、主に災害時の避難誘導や避難所運営支援の際などに、新型コロナウイルス感染症患者と接することが想定される。
消防団活動において感染者や濃厚接触者が発生していることを踏まえ、「消防団活動における新型コロナウイルス感染症の感染防止対策の徹底について」(令和2年12月1日付け通知)を発出し、感染防止対策を徹底するよう要請した。また、消防団員が感染防止に留意して活動できるよう、感染症に関する基礎的な知識や、消防団員の新型コロナウイルス感染症拡大防止に向けた各市町村等の取組例などを消防庁ホームページに掲載するとともに、通知を発出し周知を図っており、引き続き、対応を求めている。

ウ 救急救命士によるワクチン接種

令和3年6月に「新型コロナウイルス感染症のワクチン接種を推進するための各医療関係職種の専門性を踏まえた対応の在り方等について」(令和3年6月4日付け厚生労働省通知)が発出され、一定の要件の下、救急救命士によるワクチン接種が可能になった。
これに伴い、消防庁からも「厚生労働省「新型コロナウイルス感染症のワクチン接種を推進するための各医療関係職種の専門性を踏まえた対応の在り方等について」への対応について(依頼)」(令和3年6月4日付け通知)を発出し、予防接種の実施主体である地方公共団体の長から、救急救命士の活用に係る協力要請があった場合には、本来業務に支障を生じさせない範囲で、できる限りの協力を行うこと等を消防機関に依頼した。この結果、同年10月13日時点では、全国103消防本部における5,688人の救急救命士がワクチン接種業務に従事した。
なお、令和4年12月2日に成立した感染症法等改正法では、救急救命士によるワクチン接種に係る規定が設けられたところである。

エ 災害対応に係る感染症対策

(ア)災害時の避難所における新型コロナウイルス感染症対策
災害が発生し避難所を開設した場合、多数の避難者が集まり、新型コロナウイルス感染症等の感染が発生する懸念があることから、通常の災害発生時よりも可能な限り多くの避難所の開設を図るほか、避難所の衛生環境を整える必要がある。
消防庁においては、令和2年4月以降、内閣府や厚生労働省等と連携し、多くの避難所の確保の観点から、親戚や知人の家等への避難の検討やホテル・旅館の活用を促すほか、避難所の衛生環境の整備の観点から、避難者の健康状態の確認等に関する留意事項や発熱者等の滞在スペース確保を含む全体レイアウト例を示す等、適切な取組を要請するため通知等を発出しており、引き続き、対応を求めている(特集2-2表)。

特集2-2表 避難所における新型コロナウイルス感染症対策に関する主な通知等

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特集2-2表 避難所における新型コロナウイルス感染症対策に関する主な通知等

(イ)自然災害発生時の救助活動等及び緊急消防援助隊活動時における感染防止
新型コロナウイルス感染症の流行が継続していることから、救急以外の消防活動においても、万全な感染防止対策により、消防隊員の感染防止に努めることが重要である。
令和2年に出水期における河川の氾濫及び土砂災害による大規模自然災害に備え、自然災害発生時の救助活動等及び大規模災害発生時の都道府県を越えた広域応援を行う緊急消防援助隊活動時における感染防止対策について通知を発出し、各都道府県消防防災主管部(局)長及び全国の消防本部に対して周知しており、引き続き、対応を求めている。

オ 危険物保安・火災予防等の消防法令に関する措置

(ア)消毒用アルコールの増産等への対応
新型コロナウイルス感染症の発生に伴い、手指の消毒等のため、消防法に定める危険物第4類のアルコール類に該当する消毒用アルコールを使用する機会が増えた。これを受けて、アルコールの取扱いにおける火災予防上の一般的な注意事項についてリーフレット(特集2-3図)を作成するなど広報啓発を行った。
また、消毒用アルコールの需要の増加により、その運搬容器について柔軟な取扱いを求める声があったことを踏まえ、消防庁では、令和3年8月から、「危険物輸送の動向等を踏まえた安全対策の検討会」を開催し、同検討会では、消毒用アルコールを収納するプラスチックフィルム袋をダンボール箱に緩衝材とともに収納した場合の性能試験の結果等を中間報告としてとりまとめた。消防庁では、これを基に運搬容器としての安全性を確認したことから、この容器を運搬容器として使用できるよう関係告示を改正する予定である。

特集2-3図 広報啓発用リーフレット

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特集2-3図 広報啓発用リーフレット

(イ)飛沫防止用のシートに係る火災予防上の留意事項
新型コロナウイルス感染症の拡大防止対策の観点から、レジカウンター等に飛沫防止用のシート(以下、本特集において「シート」という。)を設置する例が増えた。このような状況の下、商業施設のレジカウンターに設置されていたシートに、ライターの火が着火する火災が発生した。当該火災を受け、火気使用設備・器具、白熱電球等の熱源となるものから距離をとること等、シートに係る火災予防上の留意事項を周知している。
また、各業種の感染拡大予防ガイドラインにシートの火災予防上の留意事項を記載することについて、内閣官房新型コロナウイルス等感染症対策推進室及び関係府省庁に対し周知を依頼したほか、リーフレットを作成し消防庁ホームページ上で公開している(特集2-4図)。

特集2-4図 広報啓発用リーフレット

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特集2-4図 広報啓発用リーフレット

(ウ)感染拡大防止に伴う消防法令の運用等
基本的対処方針を踏まえ、人と人との距離を確保し接触の機会を低減すること等の対策が講じられたことに伴い、消防法令に定める講習の受講や点検報告など各種義務の履行等が難しい場合がみられた。
このため、消防庁においては、安定した受講機会の確保を図るため、オンラインによる危険物取扱者講習の本格導入を進め、令和4年度には41都道府県(令和4年10月1日現在)でオンラインによる受講が可能となっている。また、防火管理講習、自衛消防組織の業務に関する講習及び防災管理対象物の防災管理に関する講習についてオンライン化を進めるため、オンライン化に当たっての留意事項等をまとめた「防火・防災管理に関する講習のガイドライン」を令和4年8月に作成し、講習を実施する団体に対して、ガイドラインを参考として、可能なものから順次オンライン化するよう依頼した。その他の講習についても引き続きオンライン化に向けて講習を実施する団体との調整を実施することとしている。
また、新型コロナウイルス感染症対策やデジタル社会実現の観点から、特に申請・届出が多い火災予防分野の手続において、マイナポータル「ぴったりサービス」を活用した消防本部における電子申請等の早期導入を促進するための取組を進めている(詳細は特集4を参照)。