令和7年版 消防白書

特集1 大規模林野火災への対応

1.岩手県大船渡市における林野火災への対応

(1)災害の概要

ア 火災の概要

令和7年2月26日13時02分(覚知)に岩手県大船渡市赤崎町字合足地内で発生した林野火災*1は、火災発生当初に複数地域での延焼が見られたことから、大船渡地区消防組合消防本部及び大船渡市消防団並びに岩手県内消防応援部隊が消火活動等を実施するとともに、消防力の不足を早期に判断し、速やかに緊急消防援助隊の応援要請及び自衛隊に対する災害派遣要請が実施された。
この結果、ヘリコプターによる空中消火や市街地延焼を阻止するための地上からの消火活動等が、地元消防本部を含めた1日当たり最大で2,100人規模で昼夜を通じて実施され、3月9日17時00分に鎮圧、4月7日17時30分に鎮火した。
本火災はそれまでの記録的な降水量の少なさ、発生日前後の乾燥、強風、地形等の影響により急激に拡大し、最終的には約3,370haが焼損する我が国の林野火災としては昭和39年以降最大、約60年ぶりの記録的な大規模なものとなった(特集1-1図)。

特集1-1図 岩手県大船渡市における林野火災による延焼範囲(地理院タイル(標準地図)を加工して作成)

画像をクリック(タップ)すると拡大表示します

特集1-1図 岩手県大船渡市における林野火災による延焼範囲

 

イ 気象の状況

大船渡市では、2月13日頃から一日の最小湿度が35%前後の空気が乾燥した状態が継続し、同月18日からは乾燥注意報の発表が続いていた。また、2月の月降水量は2.5mmで、大船渡市の2月の記録としては観測史上最も少なく、特に出火の直前8日間は0.5mm以上の降水が観測されなかった。
出火した後も0.5mm以上の降水がなく、3月5日から3月6日にかけて、東北地方に接近した低気圧や前線の影響で、2日間の総降水量が27.5mmのまとまった雨や雪が降るまでの間、乾燥した状態が続いた。
また、2月26日の朝には岩手県全域を対象に強風注意報も発表されており、大船渡市の最大風速は8.3m/s(風向・北西)、最大瞬間風速は18.1m/s(風向・北西)に達した。

ウ 出火原因

出火箇所は最初に火炎が確認された付近の建物の敷地と山林の境界付近に存する焼損の著しい切り株付近であると考えられるが、具体的な発火源、出火に至る経過及び着火物の特定には至らなかった。

(2)火災による被害状況

この火災により、死者1人、住家90棟(うち全焼54棟)、住家以外136棟(うち全焼121棟)の建物被害、約3,370haを焼損するなどの被害が発生した(令和7年11月4日現在)。また、避難指示は、最大時には1,896世帯4,596人に対して発令された。

画像をクリック(タップ)すると拡大表示します

大船渡市火災現場周辺の様子

大船渡市火災現場周辺の様子

画像をクリック(タップ)すると拡大表示します

緊急消防援助隊による活動の様子①

緊急消防援助隊による活動の様子①

(3)政府の主な動き、消防庁の対応及び消防機関等の活動

ア 政府の主な動き

政府においては、2月27日0時00分に情報連絡室を設置し、2月28日9時00分には官邸対策室に改組した。
2月28日に関係省庁局長級会議及び第1回関係閣僚会議が開催され、関係省庁間で被害状況等の情報が共有された。その後、3月3日及び3月7日にも会議が開催された(特集1-1表)。

特集1-1表 政府の主な動き

画像をクリック(タップ)すると拡大表示します

特集1-1表 政府の主な動き

 

イ 消防庁の対応

消防庁では、当初から情報収集を開始するとともに、2月26日14時30分に国民保護・防災部長を長とする消防庁災害対策本部(第2次応急体制)を設置し、岩手県知事から消防庁長官に対する緊急消防援助隊の応援要請を受け、同日15時34分に消防庁長官から出動の求めを行い、同時刻に消防庁長官を長とする消防庁災害対策本部(第3次応急体制)に改組した。
また、被災地との情報連絡体制をより強固なものとするため、2月26日に岩手県庁、大船渡市役所、大船渡地区消防組合消防本部及びヘリコプターの活動拠点である花巻空港(後に高田松原運動公園に活動場所を移動)へ、消防庁職員8人を派遣した。その後3月15日に撤収するまで現地に派遣された消防庁職員は、延べ45人となった。派遣された消防庁職員は、被害情報の収集や共有、関係機関との連絡調整の役割に加えて、消防庁現地広報員として、現地の消防職員等の活動に係る映像・画像を消防庁災害対策本部に共有し、報道機関へ提供する等の活動に従事した。
本火災については、消防法第35条の3の2に基づく消防庁長官の火災原因調査を実施した。2回の現地調査等を消防研究センターの職員が中心となって実施し、それらの調査結果を「令和7年2月26日に発生した大船渡市における林野火災に係る消防庁長官の火災原因調査報告書」として取りまとめ、7月に公表した。

画像をクリック(タップ)すると拡大表示します

岩手県内消防応援部隊による活動の様子

岩手県内消防応援部隊による活動の様子

ウ 消防機関等の活動

(ア)地元消防本部等の活動
2月26日、本火災を覚知した大船渡地区消防組合消防本部は、合足地区の住宅への延焼阻止を重点的に行った。
また、前日の25日に陸前高田市で発生した林野火災(26日12時00分鎮圧)の対応に当たっていた岩手県内消防応援部隊及び一部の大船渡地区消防組合消防本部の隊は、覚知後速やかに火元の北東に位置する綾里地区の住宅地への延焼阻止を重点的に行った。
これらの消火活動においては、消防水利の数が限られ、災害現場から消防水利までの距離が遠く離れていたことから、長距離のホース延長を行ったほか、岩手県内消防応援部隊の大型水槽車や民間事業者が所有するコンクリートミキサー車等を活用し、充水体制を確保することにより、継続的な活動を行った。
緊急消防援助隊到着後は、連携して消防防災ヘリコプターや防火水槽への補水作業、巡回警戒活動等を実施したほか、保有する背負い式消火水のうや熱画像直視装置等の資機材を活用し、残火処理を実施した。
大船渡地区消防組合消防本部は延べ1,430人、県内消防応援部隊は延べ2,090人が消火活動等に当たった。

画像をクリック(タップ)すると拡大表示します

大船渡地区消防組合消防本部による活動の様子

大船渡地区消防組合消防本部による活動の様子

 

(イ)緊急消防援助隊の活動
消防庁災害対策本部では、2月26日15時34分に岩手県知事から緊急消防援助隊の応援要請を受け、同時刻、消防庁長官から宮城県と山形県に緊急消防援助隊の出動の求めを行った。同日20時05分には、仙台市消防局の統括指揮支援隊と指揮支援隊が、それぞれ岩手県庁と大船渡地区消防組合消防本部に到着し、活動を開始した。その後も消防活動の状況に応じて順次出動の求めを行い、15都道県から緊急消防援助隊が出動、岩手県内消防応援部隊、地元消防本部も含め、1日当たり最大2,100人規模で地上及び空中の両方から消火活動等に従事した。

画像をクリック(タップ)すると拡大表示します

緊急消防援助隊による活動の様子②

緊急消防援助隊による活動の様子②


陸上部隊は、市街地への延焼阻止を主眼に活動を行った。山林と市街地との間に延焼阻止線を設定して山林からの延焼を防御するとともに、安全を確保しつつ、林野内の消火活動を実施した。エリアが広いことから、最大で4つの方面に活動エリアを分け、長期ローテーションを組んで夜間を含めて活動に当たった。また、山間地における消火活動では、延焼状況の把握にドローンを活用するとともに、使用可能な消防水利が限られていたことから、海水利用型消防水利システム等を活用した遠距離送水体制を構築するなど、保有する車両・資機材を有効に活用して活動した。火災鎮圧後は、残火処理及び巡回警戒を継続し、再燃防止を図った。
航空部隊は、市街地方向への延焼阻止を主眼に、最大8機体制により空中からの消火活動を実施した。自衛隊ヘリコプターと連携し、小回りが効く消防防災ヘリコプターは主に住宅に近い地域、大型で散水量の多い自衛隊ヘリコプターは主に火勢の強い林野内を担当するなど役割分担し、連続的な散水を行った。また、機体に搭載したカメラを用い、上空からの情報収集活動及び熱源探査を実施した。
陸上部隊は3月19日まで、航空部隊は4月7日まで活動を継続した。緊急消防援助隊としては、2月26日から4月7日までの41日間にわたって延べ7,618隊、2万8,225人及び消防防災ヘリコプター10機が活動し、林野火災対応としては最大規模になった(特集1-2表)。

特集1-2表 緊急消防援助隊の活動実績

画像をクリック(タップ)すると拡大表示します

特集1-2表 緊急消防援助隊の活動実績

 

画像をクリック(タップ)すると拡大表示します

緊急消防援助隊による活動の様子③

緊急消防援助隊による活動の様子③

(ウ)消防団の活動
大船渡市消防団は、被災した消防団員もいる中、被害状況の情報収集、避難の呼び掛けや避難誘導、消防隊と連携した消火、熱源の確認や残火の処理、夜間の見回りなど、懸命な活動を展開した(2月19日から4月7日までの間に延べ3,833人の消防団員が活動。)。
特に、消防団員から大船渡市の防災部局に提供されたSNS画像・映像は、大船渡市の地域住民に対する迅速な避難指示の発令につながった。また、現場の状況に応じた自然水利の活用や中継送水への迅速な対応、早期の退避判断による安全確保といった対応においては、地域に根ざした経験や、過去の火災を教訓に平時に実施している訓練が活かされた。

画像をクリック(タップ)すると拡大表示します

大船渡市消防団による消火活動の様子

大船渡市消防団による消火活動の様子

(エ)自衛隊の対応
2月26日に岩手県は自衛隊に消火活動に係る災害派遣要請を行い、2月27日から3月14日までの間、ヘリコプター部隊(最大時11機体制)が648万リットル(1,296回)の散水を行った。

 

 *1 大船渡市では、本火災の直前に別の2件の林野火災(2月19日大船渡市三陸町綾里地内で発生し約324haを焼損した火災、2月25日に陸前高田市小友町地内で発生後に大船渡市内に延焼し両市計約8haを焼損した火災)が発生している。