審議会

国・地方の適切な役割分担による消防防災・救急体制の充実方策に関する答申

平成14年12月24
消防審議会


 平成14年10月7日付けで諮問のあった「消防防災・救急体制の充実方策や国、都道府県及び市町村の役割分担のあり方」について、別紙のとおり答申する。

平成14年12月24日

消防審議会会長 菅原 進一

消防庁長官 石井 一殿


別紙

国・地方の適切な役割分担による消防防災・救急体制の充実方策について

Ⅰ.基本的な考え方
(1)
 我が国の消防は、昭和23年に地域に密着した市町村消防として発足して以来、半世紀余りが経過したが、この間、関係者の努力の積重ねにより、その充実強化が図られ、火災の予防・消火はもとより、救急・救助から地震、風水害等への対応など、広範囲にわたり国民の安全・安心の確保に大きな役割を果たしてきた。また、国際的な観点から見ても、我が国の消防は、技術、施設・設備等の面で、相当高い評価を受けるまでに至っている。
 しかしながら、我が国の消防本部は小規模なものが多く、こうした小規模消防本部の中には、要員の確保や資機材の整備に限界があるため、災害発生時をはじめ、高齢化等に伴い著増する救急需要に対する適切な対応や予防査察・違反処理、火災原因の調査、危険物施設の防火安全対策等より一層専門化する予防業務への対応などについて、なお不十分なところが少なくない。
 また、平成7年の阪神・淡路大震災は約6,400人の死者と約10兆円の経済的損害をもたらしたが、今後、広域かつ激甚な被害が想定される大規模地震として、現在、東海地震が何時発生してもおかしくない状況とされているほか、東南海・南海地震、南関東地域直下の地震などの発生が懸念されている。さらに、昨年9月の米国の同時多発テロに加えて、本年10月にインドネシア・バリ島でのテロが発生するなど、国内におけるテロ発生への対応強化が求められている。このような大規模・特殊災害等への対応を考えた場合、市町村消防の機能のみでは限界もあると考えられる。
 災害等から国民の生命、身体及び財産を守る消防の責務は、ますます大きなものとなってきており、上記のような課題も踏まえながら、今後とも消防防災制度とその運用の充実強化を図り、国民の安全確保、安心して暮らせる地域づくりに全力を挙げて取り組んでいく必要がある。
 その際、通常の火災や災害に係る消防防災事務については、市町村消防の原則を基本的に維持しつつ、その制度・運用の充実・強化を図るべきである。一方、大規模・特殊災害対策や専門性・広域性を有する消防業務については、市町村消防を補完するため、国・都道府県の役割分担の明確化・充実が必要である。
(2)
 通常の火災や災害に係る消防防災事務については、市町村消防の原則に立ってさらなる地方分権を推進することとして、常備消防の設置や救急の実施を市町村の自主的な判断に委ねるため政令指定制度を廃止するとともに、消防力の基準の見直し・簡素化を図っていく必要がある。また、市町村消防の原則を今後とも維持していくためにも、消防本部の広域再編や当該市町村以外の行政主体が消防・救急の事務を担うことができる仕組みの活用等により、消防本部の体制強化を図ることが必要である。また、消防団・自主防災組織等の活性化、消防大学校、消防学校等における防災・危機管理教育の拡充を推進することにより、地域における消防防災体制の充実を図る必要がある。さらに、本年10月1日に発生し大きな被害を生じたダイヤモンド・プリンセス号の火災を踏まえ、建造中の船舶等工事中の防火対象物における防火管理の充実を図る必要がある。
 また、救急救命士の処置範囲の拡大等により高度救急救命体制を充実するとともに、その前提となるメディカル・コントロール体制を確立する必要がある。
(3)
  大規模・特殊災害等対策については、市町村消防を補完するため、全国的な観点から、国・都道府県の役割分担の明確化・充実等により、広域対応体制を充実・強化することが必要である。このため、緊急消防援助隊に対する国の役割分担の明確化・充実などによる機能拡充や都道府県の調整機能等の強化を図るとともに、国・地方公共団体間及び行政と住民間の防災情報共有化等、消防組織間の広域的な連携等に必要な事項の標準化を推進する必要がある。
 さらに、専門性・広域性を有する消防業務に対応するため、国の火災原因調査の主体的な実施や都道府県がヘリコプターを用いて消火・救急救助活動を行うことができることを法令上明確化するとともに、消防用設備等への新技術の導入を促進する等のための消防法令の性能規定化を図る必要がある。
 以上の観点から、消防庁においては、下記の対策について、消防組織法、消防法等関係法令の改正や予算措置・地方財政措置を含む所要の措置を講じるとともに、地方公共団体・消防機関に対し周知徹底を図ること等により、その具体化に努めるよう求めるものである。
Ⅱ.市町村消防の体制強化
1.市町村消防における自主性強化
(1)常備消防設置義務市町村に係る政令指定制度の見直し
【現状と課題】
 常備消防を設けなければならない市町村を政令指定する制度は、市街地の大火防止が大きな課題であったことから、消防本部及び消防署の設置により、予防行政の推進と消防力の充実強化を図ることを目的として、昭和38年に創設された。
 以後、常備化は著しく進み、市街地の大火防止という目的は概ね達せられつつあり、また、市町村の消防責任の原則が国民の間にも定着していることから、市町村がその消防責任をどのように果たすかについては、当該市町村の判断に任せてよいのではないかと考えられる。
【対応の考え方】
 常備消防を設けなければならない市町村を政令指定する制度は、市街地の大火防止が大きな課題であったことから、消防本部及び消防署の設置により、予防行政の推進と消防力の充実強化を図ることを目的として、昭和38年に創設された。
 地方分権の趣旨にかんがみ、制度を廃止することとし、市町村が地域の実情を踏まえた上で、十分な消防体制を整備・構築できるよう、その自主的判断に委ねることが適当である。
(2)救急業務実施義務市町村に係る政令指定制度の見直し
【現状と課題】
 救急業務を実施しなければならない市町村を政令指定する制度は、増加する交通事故等に対処するため、消防機関の実施する救急業務に一定の基準を設けて制度化することにより、その円滑な発展を図ることを目的として、昭和38年に創設された。
 当初、政令指定の市町村は、消防本部設置市町村で人口10万以上等のものとされたが、その後順次対象範囲が広がり、昭和50年には現行の消防本部設置市町村にまで拡大された。しかしながら、常備化の進展等に伴い、市町村の救急を含めた消防責任の原則が国民の間にも定着していることから、市町村がその救急責任をどのように果たすかについては、当該市町村の判断に任せてよいのではないかと考えられる。
 【対応の考え方】
 地方分権の趣旨にかんがみ、制度を廃止することとし、市町村が地域の実情を踏まえた上で、十分な体制を整備・構築できるよう、その自主的判断に委ねることが適当である。
(3)消防力の基準の見直し
【現状と課題】
 消防力の基準は、平成12年に、その性格が「最小限度」の基準から「市町村が適正な規模の消防力を整備するに当たっての指針」に改められ、市町村の自主的な決定要素が大幅に拡充され、国の関与の内容・度合いを相当程度緩和した。
 しかしながら、地方分権の趣旨にかんがみ、さらに分かりやすく簡素化を図る等の観点から、見直しが要請されている。
【対応の考え方】
 各市町村で消防力の確保を図るための指針としての性格を踏まえつつ、消防機関等の意見を踏まえた上で、社会環境の変化に対応した必要な見直しに取り組む必要がある。また、住民ニーズの把握に努めた上で、住民の安全・安心を確保するために必要な消防力の整備という観点等からの見直しを図っていくことが必要である。
2.地域における消防防災体制の充実
(1)通常の消防防災事務に係る消防本部の体制強化等
【現状と課題】
 消防機関については、一部事務組合の活用等により広域化が進められており、本年4月の消防本部数は900で、全市町村数(3,218)の3分の1以下となっている。しかしながら、管轄人口規模10万人未満の消防本部が全体の65.6%に上るなど、未だ小規模消防本部の割合が高い。
 このような小規模消防本部の場合、災害発生時の動員力が不十分であるほか、財政基盤が脆弱であり、消防事務の高度化・専門化に対応するための専門要員の確保や消防防災施設・設備の整備等が困難な面がある。
【対応の考え方】
(消防本部の広域再編等)
 市町村合併の推進と軌を一にした消防機関の広域再編を進めるとともに、合併に伴い消防担当部局と防災担当部局の一元化を推進することが必要である。また、合併後の市町村を単位に、一部事務組合や広域連合、事務の委託を活用して、管轄人口概ね10万人以上を目安として、さらなる広域化を推進することが必要である。
 さらに、広域体制の整備に伴い、機動力の確保や情報通信基盤の整備等の推進が必要である。
(当該市町村以外の行政主体が消防・救急の事務を担うことができる仕組みの活用等)
 小規模市町村においては、上記の広域再編等を進めるほか、その消防防災機能の高度化を推進するため、近隣市町村のみならず、同一都道府県内の指定都市や中核市等に対する消防事務の一部委託を活用することも検討すべきである。
 また、地域事情に応じて、都道府県が特例的に消防事務を処理するための都道府県への一部委託や都道府県が参画する広域連合の設置も考えられる。
 なお、消防機関の予防事務の一部などの効率化等を図るため、民間の資格者による定期点検報告制度を十分活用するなど、民間の活用等をさらに推進する必要がある。
(2)消防団・自主防災組織等の活性化
【現状と課題】
 消防団は、通常の火災、林野火災、風水害などの災害等への対応はもとより、特に大規模地震等の発生時には、その要員動員力、地域密着性等を活かし、大きな力を発揮している。しかしながら、地域社会や就業構造等の変化に伴い、団員数の減少や高齢化、サラリーマン団員の増加などの影響を受けており、地域の実情を踏まえつつ、その活性化を図ることが必要になっている。
 また、地域住民自らが災害から地域を守るために自主的に結成する自主防災組織には、災害発生時における初期消火や救助、被災者の援護等の役割が期待されている。現在、自主防災組織は、全国に約10万組織あり、参加世帯の割合(組織率)は59.7%となっているが、地域によっては結成状況や活動内容に大きな差があり、さらなる組織率の向上、組織間の連携や活動の充実・活性化が必要となっている。
 さらに、自発的に防災活動に参加するボランティアの活動環境整備が必要となっている。
【対応の考え方】
 消防団については、各地域で、それぞれの実情や特性等を踏まえ、多様な活動を確保できるよう、処遇改善や拠点施設・資機材の充実等の支援や環境の整備に努めることが必要である。とりわけ、弾力的な運営、他組織との連携・協力、教育訓練における工夫、被用者による消防団活動等の促進などについて配慮していくことが必要である。
 また、自主防災組織については、自分の身は自分で守るという自助の精神に加え、高齢者・子供等の災害弱者も含む隣人同士の共助の視点も踏まえた教育・訓練を推進するとともに、資機材整備に対する支援を行うことなどにより、その組織率の向上や活動内容の充実・強化に努めることが必要である。その際、消防本部・消防団との連携を図るとともに、優良活動事例の情報交換や研修等のために、市町村単位に加え、都道府県単位での連合組織を整備していくことも必要である。併せて、婦人防火クラブについても、教育・研修に関する支援を進めるとともに、情報交換の場となる都道府県協議会の設置等を通じ、その育成・強化に努めることが必要である。
 さらに、このような消防団や自主防災組織等の拠点施設、資機材等の整備などに対する財政措置の充実について検討すべきである。
 また、災害時のボランティア活動を支援するため、ボランティア団体やボランティアを希望する者に対する情報提供体制の強化、広域防災拠点を活用した研修・訓練の実施など、その環境整備等を推進することが必要である。
(3)消防大学校、消防学校等における防災・危機管理教育の拡充
【現状と課題】
 消防大学校や消防学校においては、これまで消防職員や消防団員を中心に専門的な消防防災教育を実施してきたが、地域の防災・危機管理体制の強化を図るためには、消防防災担当職員や消防職団員の実践的な対応力の向上に加え、地方公共団体の首長等が緊急時に的確な判断が行えるようクライシス・マネジメント能力を高めていくことが必要となっている。
 さらに、地域に密着した防災力強化の必要性から、自主防災組織等の地域の防災リーダーや災害時に被害を受ける地域住民一人ひとりの防災力についても、強化・充実を図ることが必要となっている。
【対応の考え方】
 消防大学校や消防学校において、消防防災担当職員や消防職団員に対する消防防災教育を拡充するとともに、消防大学校において地方公共団体の首長等に対する危機管理セミナーを、図上訓練等も含め実践的に実施することが必要である。また、各消防学校や地域の大学等の研究機関と連携し、自主防災組織等の防災リーダーや関心のある住民等に対して、e-ラーニングも活用しつつ、体系的な教育・研修体制を構築することが必要である。
 また、地域の防災力強化のためには、国・地方公共団体による消防・防災に関する広報・啓発活動も重要であり、住民の主体的参加を促すことができるよう、引き続き積極的に取り組むことが必要である。
(4)建造中の船舶、工事中の建築物等の防火対象物における防火管理の義務付け
【現状と課題】
 本年10月1日に発生した客船ダイヤモンド・プリンセス号の火災は、長崎県長崎市の港内岸壁においてぎ装工事中の当該客船を半焼する大規模な火災となったところであるが、消防法第8条に基づく現行の消防法施行令においては、建造中の船舶、工事中の建築物等、工事中の防火対象物における防火管理が義務付けられていない。
【対応の考え方】
 建造中の船舶、工事中の建築物等の防火対象物(一定規模以上のもの)において、防火管理の充実を図ることについて、消防法施行令の改正も含め、検討することが必要である。
3.高度救急救命体制の充実
○救急救命士の処置範囲の拡大とメディカル・コントロール体制の確立
【現状と課題】
 救急救命士は、我が国におけるプレホスピタル・ケア(救急現場・搬送途上における応急措置)の充実を図るため平成3年に制定された救急救命士法に基づき、医師の具体的な指示の下に3つの特定行為(①半自動式除細動器による除細動(電気ショック)、②乳酸リンゲル液を用いた静脈路確保のための輸液、③食道閉鎖式エアウェイ等を用いた気道確保)を行うことができる。平成14年4月現在、救急救命士は12,068人(うち救急救命士として運用されている者は10,823人)であり、全国の救急隊4,596隊のうち救急救命士が搭乗している隊は2,884隊(62.8%)、全国の消防本部900のうち救急救命士運用本部は862(95.8%)と増加しつつある。
 一方、救急救命士が行うことができる処置範囲は、諸外国のパラメディックに比較して狭く、高齢化社会の進展等に伴い著しく増大する心筋梗塞、脳卒中等による心肺機能停止患者に対し、さらに救命効果の向上を図るため、処置範囲の拡大が強く求められている。
【対応の考え方】
 救命効果のさらなる向上を図るためには、救急救命士の処置範囲を拡大すべきであり、①医師の具体的な指示なしでの除細動については、平成15年4月を目途に実施すること、②医師の具体的な指示の下での気管挿管については、必要な講習・実習を修了した上で、平成16年7月を目途に実施すること、③薬剤投与については、ドクターカー等による研究・検証を平成15年中のできるだけ早期に実施し、結論として薬剤投与を認めることとした場合には早期実施を目指すことが必要である。
 これらの推進を図るため、高規格救急自動車や新型除細動器等の資器材の整備を積極的に進めることが必要であり、それに応じた財政措置の充実を検討すべきである。
 また、救急救命士の処置範囲の拡大に当たっては、医学的観点から救急救命士が行う応急処置等の質を保証することが必要である。
 その場合、救急活動時の医師の常時の指導・助言体制の強化、救急活動の事後検証体制の整備、救急救命士の資格取得後の再教育の充実などのいわゆるメディカル・コントロール体制の構築に取り組む必要がある。
 このため、消防機関、医療関係者等を構成員とするメディカル・コントロール協議会を各都道府県単位ごと及び二次医療圏(又は複数の二次医療圏)の単位ごとに設置する必要があり、都道府県及び各地域の消防機関・医療関係者の積極的な取組みが望まれる。なお、これに伴いメディカル・コントロールに携わる救急医の確保にも努める必要がある。
Ⅲ.市町村消防を補完する消防防災体制等の整備・拡充
1.大規模・特殊災害に対する緊急対応体制の拡充
(1)全国的な観点からの広域対応体制の充実・強化
【現状と課題】
 大規模・特殊災害等の場合は、市町村消防を補完するため、全国的な観点から、国・都道府県の役割分担の明確化・充実等により、広域対応体制を充実・強化することが必要である。
 現在、阪神・淡路大震災の教訓を踏まえ、大規模・特殊災害(被災市町村の属する都道府県内の消防力では対応できないもの)に対処するため、消防組織法第24条の3に基づく消防庁長官の求めにより自主的な応援出動を行う緊急消防援助隊を、要綱により設置しており、769消防本部の2,028隊(29,000人規模)が登録されている。
 しかしながら、東海・東南海・南海地震、南関東地域直下の地震等大規模地震の切迫性やNBC災害発生の危険性の高まりが指摘される中、大規模・特殊災害の規模・態様等によっては、現在の市町村の自主的応援では迅速・的確な対応に限界があり、また、部隊や資機材の確保も必ずしも十分にできず、国民の生命・身体・財産の保護に支障を生ずるおそれがある。
 また、市町村を補完すべき都道府県の緊急対応体制についても、その役割を十分に果たすため、充実・強化を図ることが必要となっている。
【対応の考え方】
 全国的な観点からの広域対応体制の充実・強化を図るため、緊急消防援助隊について、①法的に位置付けるとともに、②二以上の都道府県の区域に被害が及ぶ大規模災害やNBC災害などの特殊な災害等が発生した場合に国が全国的見地から出動を指示できる仕組みの導入、③部隊の編成、装備等に係る基準や整備計画の策定、④東京消防庁や政令指定都市の消防本部等の中核的消防本部を中心に構成される迅速・高度な対応を行う部隊の整備等、その機能の拡充に関し所要の措置を講じることが必要である。
 また、緊急消防援助隊について、出動指示を受けた場合の活動経費や、施設・資機材の整備費、訓練経費、関連する情報通信システムの整備経費に対する国の役割分担の明確化・充実に対応した国庫負担を含めた財政措置及び特殊災害用資機材等に係る国から地方公共団体への無償貸与について検討すべきである。
 さらに、大規模・特殊災害時においては、都道府県が、広域的観点から市町村を補完することが重要であり、消防組織法、災害対策基本法等に基づく役割・機能を適切に担うとともに、平時から、危機管理監等の専任スタッフが首長等を補佐し、各部局を統括・調整する組織や24時間体制の整備等により、その強化を図ることが必要である。
(2)国・地方公共団体間及び行政と住民間の防災情報共有化等の推進
【現状と課題】
 大規模・特殊災害等において、広域的な対応をより迅速・円滑に行うためには、災害情報を迅速・確実に伝達し、国・都道府県・市町村の相互間における情報共有化等のためのシステムを整備することが必要不可欠である。また、行政と住民の間においても、必要な防災情報の共有化等を一層進めることが重要である。
 阪神・淡路大震災の教訓等を踏まえ、混信のないよう広域応援時の消防救急無線全国共通波の増波等を行ってきたところであるが、さらに統一的な情報通信基盤の整備や標準化を早急に進めることが必要となっている。
【対応の考え方】
 国・都道府県・市町村の間の防災情報の共有化等に資する消防防災通信ネットワーク(衛星系無線、相互通信用の地域防災無線、消防救急用無線等)のデジタル化・高機能化・相互接続・多ルート化等を強力に推進するとともに、各種防災情報通信システムの標準化・広域化により、地方公共団体における相互活用と費用の効率化を図ることが必要である。また、行政と住民の間についても、住民連絡用の市町村同報系無線のデジタル化やインターネット・携帯電話等の手段も活用した情報伝達システムの整備等を推進することが必要である。
 さらに、総合的・横断的な情報共有化のため、消防庁は、地方公共団体の実情も踏まえて、関係省庁等と調整を行い、国から地方公共団体への情報提供の促進等を推進する必要がある。併せて、地方公共団体が必要な連携を図りながら計画的な取組みを進めることができるよう、消防庁が消防防災の情報化に係る指針を地方公共団体に明示する必要がある。
 また、都道府県は、広域的な観点等から、区域内の市町村間の必要な調整を行うことが適当である。
(3)広域的な消防組織間の連携等に必要な事項の標準化
【現状と課題】
 阪神・淡路大震災の教訓を踏まえ、消防ホースの結合等に関し消防本部間での資機材等の標準化が進んでいるものの、大規模・特殊災害時の広域的な連携強化のため、さらに標準化を推進することが求められている。
【対応の考え方】
 広域的な消防組織間の連携や消防の相互応援等に必要な事項の標準化を図るべきである。
 また、国・都道府県・市町村を通じ、大規模災害時において円滑な災害対策を実施することができるよう、用語、指揮命令系統、防災・危機管理組織の標準化等を進めることが必要である。
2.専門性・広域性を有する業務に関する国及び都道府県の役割強化等
(1)国の火災原因調査の主体的な実施
【現状と課題】
 現行では、消防庁長官の火災原因調査については、消防長等から要請があり、特に必要があると認めたときに行うことができるとされている。
 これに対し、火災対策を総合的に推進するため、その前提となる火災の原因究明体制の強化が必要とされており、「消防法の一部を改正する法律」の採決に当たっても、衆・参両議院総務委員会において、「今後、地方公共団体から求めがないときであっても、消防庁長官が大規模火災等の原因調査を実施できるよう制度や体制の整備に努める」べき旨の附帯決議が行われている。
【対応の考え方】
 消防庁長官は、①火災予防対策等の企画立案上特に重視すべき火災、②社会的影響が極めて大きい火災、③通常の火災原因調査では原因究明が困難な特殊な火災(燃焼性状が特殊なもの等)、④消防長等から消防庁長官に調査を要請するいとまがない大規模火災等が発生した場合において、特に必要があると認めたときは、主体的に火災原因調査を行うことができることとする必要がある。
 また、当該調査は、消防庁職員・独立行政法人消防研究所の職員が、現地の消防本部と連携して行うこととし、消防庁・消防研究所の体制強化を図る必要がある。なお、当該調査に当たっては、必要に応じ外部の学識経験者等との連携を図っていく必要がある。
 さらに、消防組織法第24条に規定する消防と警察の相互協力の趣旨を踏まえ、火災原因調査と警察機関の捜査の両者を円滑に実施するため、消防庁と警察庁との調整などにより、火災原因調査の実効性を確保することが必要である。
(2)ヘリコプターによる消火・救急救助業務についての都道府県事務としての位置付け
【現状と課題】
 現在、ヘリコプターは、政令指定都市等で27機、都道府県で41機が整備されており、未配備県は3県となっている。ヘリコプターは、その高速性・機動性から、林野火災等に対する空中消火や救急患者の搬送、人命の救助、災害状況の把握などの面において、消防防災活動に極めて大きな効果を発揮している。
 ヘリコプターについては、財政負担の面から全消防本部への配置は困難であることから、都道府県の保有するヘリコプターを用いた広域的な消火、救急、救助等の活動が相当程度行われ、その出動件数も増加傾向にあるが、都道府県がこれらを実施することについて現在明確な法令上の位置付けはない。
【対応の考え方】
 ヘリコプターを用いた消火、救急、救助業務については、高齢化の進展等に伴う救急需要の増大や大規模震災時の陸上・海上交通の途絶等に適切に対処する必要があることから、市町村が行うのみでなく、都道府県が市町村の消防活動を支援するために行うことができるよう、法令上の位置付けを明確化すべきである。
(3)消防用設備等への新技術の導入促進等のための消防法令の性能規定化
【現状と課題】
 近年、超高層建築物、大空間を有する建築物・巨大複合建築物等の大規模・特殊な防火対象物が増大しているが、こうした防火対象物を中心に、消防用設備等に係る新技術の活用が強く要請されている。
 また、「規制改革推進3か年計画」(最終改定平成14年3月29日閣議決定)において、「仕様規定となっている基準については原則として全て性能規定化するよう検討を行うべき」とされている。
【対応の考え方】
 超高層建築物、大空間を有する建築物・巨大複合建築物等の大規模・特殊な防火対象物を中心に、新技術を活用した消防用設備等の円滑な導入が図られるよう、建築基準法令を参考に、消防法令に、従来の仕様規定に加えて、性能規定を導入することが必要である。
 この場合、その性能を確認するため、消防機関が客観的に検証できる方法を確立するとともに、当該方法で対応することが困難な消防用設備等の出現に対応するため、国が認定する途を開いておくことも必要である。その際には、高度な識見を有する民間の評価を活用する仕組みの導入等を検討すべきである。なお、性能規定化を図るに当たっては、現地消防本部の予防事務の適切な運用が図られるよう配慮するとともに、必要に応じ、適切な支援を行うことが必要である。

<資料編>
■資料1
地方分権改革推進会議「事務・事業の在り方に関する意見」
・・・・・・・・・・P1
■資料2
関係条文(消防本部及び消防署の義務設置に係る政令指定制度等)
・・・・・・・・・・P6
■資料3
消防力の基準について
・・・・・・・・・・P8
■資料4
市町村消防の常備化と消防本部数(単独、組合別)の推移
・・・・・・・・・・P9
■資料5
管轄人口別消防本部数(平成14年4月1日)
・・・・・・・・・・P10
■資料6
消防団を巡る状況と運営上の課題
・・・・・・・・・・P11
■資料7
地域の自主防災組織の状況
・・・・・・・・・・P12
■資料8
防災に関する研修体制(現状と課題)等
・・・・・・・・・・P13
■資料9
ぎ装工事中の客船 ダイヤモンドプリンセスの火災について
・・・・・・・・・・P15
■資料10
「救急救命士の業務のあり方等に関する検討会」報告書について等
・・・・・・・・・・P16
■資料11
緊急消防援助隊について
・・・・・・・・・・P20
■資料12
消防組織法及び災害対策基本法における都道府県の役割・機能
・・・・・・・・・・P21
■資料13
消防防災通信ネットワークの概要
・・・・・・・・・・P25
■資料14
消防庁長官の主体的な火災原因調査の対象火災等
・・・・・・・・・・P26
■資料15
消防・防災ヘリコプター整備状況等
・・・・・・・・・・P29
■資料16
大規模・特殊な防火対象物等に対応する消防法令の性能規定化
・・・・・・・・・・P31