平成20年版 消防白書

附属資料

[消防防災行政の方向性]

社会経済情勢の変化とこれに伴う地域社会の変化による災害の態様の複雑多様化など、消防防災行政を取り巻く状況は、大きく変化しており、迅速な対応が求められている。このような状況の中、国民の安心と安全を向上させていくためには、総合的な消防防災行政を積極的に推進していく必要がある。
第一に、平常時の防災活動とともに、火災や事故、自然災害の発生時には、地域に密着した消防団などの役割が重要であり、地域における総合的な防災力の強化が求められている。
第二に、社会経済情勢や国際情勢の変化の中で、備えが必要となる危機も多様化しており、大規模な自然災害、武力攻撃事態等あらゆる事態に対応するための体制整備が求められている。
第三に、身近な生活における安心・安全の確保のため、生活者・消費者の視点に立って、きめ細かに対応する施策が求められている。
第四に、救急需要が急増している中で、真に急を要する傷病者に対してより迅速な対応が可能となるよう、消防と医療の連携による救急救命体制の一層の充実が求められている。
このため、以下の事項を重点的に推進する。

[重点的に推進すべき事項]

1 地域における総合的な防災力の強化

消防団の新戦力を確保するため、事業所、大学等に対する被雇用者、学生の入団促進の働きかけを行うとともに、消防団活動の円滑化のため事業所における活動環境の整備や学生の活動参加の支援を行う。さらに、将来の地域防災の担い手となる児童・生徒を対象とした地域防災スクール(仮称)の実施、少年消防クラブ活動の拡充強化を推進する。
このほか、消防団の活動を推進するため、消防団協力事業所表示制度の全国的な普及、機能別団員・分団制度の一層の活用、資機材の充実を図る。

消防団を核として自主防災組織、自衛消防組織など地域の様々な団体との連携を推進するとともに、災害時の地域コミュニティの維持・継続のあり方や地域コミュニティの活力を活かした安心・安全について検討する。
地域防災を支えるリーダー役となる人材の資質の向上を図るとともに、自主防災組織の活性化や防災・危機管理教育の充実を図る。
また、企業等の防災に関する社会貢献への取組を促進する。

自衛消防組織の設置や大規模地震に対応した消防計画の作成の義務付けを内容とする消防法の改正を受け、自衛消防組織の優良事例の表彰・紹介、消防機関への技術的支援を行うとともに、大規模地震に対応した消防用設備等や避難誘導システムの整備を進め、百貨店、旅館・ホテル、病院などにおける自衛消防力の確保を図る。

災害時に要援護者が安全に避難するための支援体制の確立を目指し、市町村において要援護者情報の収集・共有等を円滑に進めるための避難支援プランの全体計画などの策定を促進する。

防災拠点となる庁舎、学校、公民館などの公共施設等の耐震化について、必要な支援を行い、平成25年度までに耐震化されていない施設の割合(平成18年度末40.4%)の半減を目指す。

2 危機管理体制の充実

新たな緊急消防援助隊基本計画に基づき、引き続き、部隊及び装備の更なる充実を図るとともに、より機動的な応援活動を可能とするため、ヘリコプター用衛星電話の配備や後方支援体制の充実を推進する。また、被災地情報の収集体制を強化するため、可搬型ヘリテレ受信機の配備や地上からの画像伝送の体制整備を進める。
さらに、東南海・南海地震を想定した訓練を実施する。

消防体制の基盤強化を図るため、引き続き、消防の広域化実現に向けた取組を積極的に推進する。このため、都道府県の消防広域化推進計画を踏まえた市町村の広域消防運営計画作成を促進するため、消防広域化推進アドバイザーの派遣による助言や情報提供など、必要な支援を行う。

全国瞬時警報システム(J-ALERT)の学校、病院などへの直接受信の拡大や伝達媒体の多様化の推進、国民保護訓練の実施により、国民保護体制の充実強化を図る。
安否情報システムの定着及び自然災害・事故時等における利用を図るとともに、事務効率化の方策について検討する。
また、地方公共団体における危機管理対応方策についての検討や、危機管理の普及啓発、研修等により、危機管理体制の充実を図る。

国際消防救助隊の派遣を一層効果的なものとするため、国際緊急援助活動に関する訓練・研修を実施し、活動体制の充実強化を図る。
また、中国その他アジア諸国における消防防災能力の強化を図るため、消防防災に関する国際セミナーを実施する。

消防の広域化を踏まえつつ、消防団との連絡体制も含めた消防救急無線のデジタル化が円滑に行われるよう、消防本部や都道府県に対してアドバイザーの派遣等の必要な支援を実施する。また、デジタル無線の干渉回避のためチャンネルプランの策定を進める。

消防大学校における教育の効率的・効果的な実施のため、指揮シミュレーション等のための訓練システムを整備するとともに、消防大学校における集合教育に先立って実施しているe-ラーニングによる個別教育の充実を図る。
また、ICTを活用し、住民や地域防災のリーダー等を対象とする防災・危機管理教育の充実を図る。

産学官が連携し研究開発を進めるとともに、消防防災分野におけるICT活用、消防活動支援のための研究開発やロボット技術の導入、火災原因調査技術の高度化等に関する技術研究に取り組み、最新の研究成果を利活用できる基盤整備を図る。

3 身近な生活における安心・安全の確保

事故時などにおいて、救急車を利用すべきか、どのような措置をとるべきかなどの市民の救急相談に、消防と医療が連携して応じる窓口(救急安心センター)の設置を促進する。

平成23年6月の全面義務化も踏まえ、住宅用火災警報器の全戸設置に向けた取組を強化するとともに、住宅防火の普及啓発活動を推進し、過去最悪であった住宅火災死者数(平成17年1,220人)の早期の半減を目指す。

製品火災調査の充実、調査結果の消防機関及び関係省庁との情報共有を図ることにより、家電製品等に起因する火災事故の防止を推進し、消費者の安心・安全を確保する。

小規模施設の実態を踏まえ、消防用設備等や防火管理による安全確保方策を引き続き検討するとともに、水道連結型スプリンクラー設備など簡易なシステムの導入による消防用設備等の普及促進や、違反是正の徹底に取り組む。

近年、身近な生活空間である住居や商業施設の高層化・利用形態の複雑化が急激に進行している。このような大規模建築物における防火・防災管理、自衛消防活動、新技術による消防用設備、公設消防隊の活動環境整備等のあり方について、関係省庁と連携しながら検討する。

危険物施設における事故対策につなげるため、新たな事故原因調査制度を効果的に活用し、インナーフロートタンク(内部浮き蓋付きタンク)に係る技術基準等の検討や官民一体となった事故防止対策を推進する。また、バイオマス燃料等の新技術・新素材の活用等に対応した安全対策に取り組む。

4 消防と医療の連携による救急救命体制の充実

救急患者の医療機関による円滑な受入を推進するため、消防機関と医療機関が定期的に協議する体制を構築するとともに、受入困難事案に対処するため、救急搬送実態に関する詳細な調査・検証を実施し、その結果を踏まえ、救急搬送・受入医療体制を整備・強化する。

事故時などにおいて、救急車を利用すべきか、どのような措置をとるべきかなどの市民の救急相談に、消防と医療が連携して応じる窓口(救急安心センター)の設置を促進する。

救命率の向上を図るため、救急救命士の処置範囲の拡大等を検討し、救急業務実施体制の充実強化を図るとともに、消防機関における救命講習の充実を図り、市民による応急手当の実施を推進する。

救急車の適正利用の呼びかけや民間の患者等搬送事業者の活用促進等を実施するほか、地域の救急需要に応じてトリアージ(緊急度・重症度の選別)の導入を促進することにより、真に急を要する傷病者に対する迅速な対応が可能となる体制づくりを推進する。

新型インフルエンザが発生した際の消防機関の対応をまとめた「消防機関における業務継続ガイドライン」を活用し、消防機関における業務継続計画の策定を推進するとともに、救急隊員の感染防御対策及び新型インフルエンザ患者の搬送体制等を強化し、新型インフルエンザ発生時における適切な救急業務提供体制の整備を図る。

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