平成23年版 消防白書

7 災害別対策

(1) 洪水

流域に降った大量の雨水が河川に流れ込み、特に堤防が決壊すると、流域では大規模な洪水被害が発生する。平成23年7月新潟・福島豪雨では、新潟県、福島県で河川が増水、氾濫し、浸水被害が生じた。
平成23年9月の台風第12号においても、記録的な大雨により、3河川で計画高水位を、5河川ではん濫危険水位を超過するなどして、河川の水位が上昇し、和歌山県、三重県を中心に、川から溢れた水で住宅が流されるなど、死者・行方不明者を出す被害となった。
一方、近年、短時間に局地的に激しい雨が降り注ぎ、山間部や都市部の中小河川に一気に流れ込み、平常時には川遊びができるような穏やかな河川が増水して勢いを増し、氾濫して沿岸地域に甚大な被害をもたらす事例が各地で発生している。
特に洪水被害への対策として、消防庁では通知等により、市町村に対して以下の取組について要請している。
〔1〕 大雨、洪水等の警報や、雨量、河川水位に関する情報などの防災情報を的確に収集・活用し、避難勧告等の迅速かつ的確な発令・伝達に努めること。
〔2〕 地下空間での豪雨及び洪水に対する危険性について事前の周知を図り、地下空間の施設管理者と連携し、浸水対策及び避難誘導等安全体制を強化すること。洪水時には迅速かつ的確に情報を伝達し、利用者の避難のための措置等を講じること。また、豪雨時に冠水する可能性のある道路のアンダーパス等の区間について、道路管理者等と連携し、洪水時には迅速に状況を把握し、適切な措置を講じること。
〔3〕 大雨後の河川増水時、行楽者等に対して速やかに安全な場所へ避難するよう注意を促すなど適切に対応すること。また、局地的大雨により中小河川が急に増水する事例が発生していることを踏まえ、行楽者等に対して水難事故の危険性について啓発に努めること。

h23265.jpg
h23266.jpg

(2) 土砂災害

大雨の際には、土石流、地すべり、がけ崩れなどの土砂災害に厳重に警戒する必要がある。平成23年9月の台風第12号における大雨では、三重県、奈良県、和歌山県を中心に大規模な土砂崩れ、土石流が発生し、多数の死者・行方不明者を出す被害となった。また、奈良県、和歌山県においては、大雨に伴う山腹崩壊等により複数の河道閉塞*4が形成されたため、「土砂災害警戒区域等における土砂災害防止対策の推進に関する法律(平成12年法律第57号)」に基づく緊急調査が国土交通省近畿地方整備局により実施され、関係地方公共団体に避難勧告等の判断を支援するための情報の提供がなされた。河道閉塞の決壊に伴う土石流等による被害が想定される地域では、警戒区域の設定等により、住民の地区外への避難が行われた。

*4 河道閉塞:土砂崩れや山崩れにより、河川が土砂等でせき止められること。河川がせき止められることにより、川の水が下流へ流れることができず閉塞箇所の上流に水がたまり、周辺の家屋等に浸水被害をもたらすとともに、決壊による土石流等が下流に甚大な被害をもたらす危険がある。

平成23年7月新潟・福島豪雨でも、新潟県、福島県で土石流、地すべり、がけ崩れが発生し、死者・行方不明者が生じている。
土砂災害対策に関しては、昭和63年(1988年)に中央防災会議で決定された「土砂災害対策推進要綱」、平成13年4月に施行された「土砂災害警戒区域等における土砂災害防止対策の推進に関する法律」及びこの法律に基づいて定められた「土砂災害防止対策基本指針」等に基づいてハード・ソフトの両面により対策を推進している。
消防庁では通知等により、市町村に対して主に以下の項目について要請している。
〔1〕 都道府県が土砂災害警戒区域を指定したときは、土砂災害警戒区域等における土砂災害防止対策の推進に関する法律第7条に基づき、地域防災計画に必要な事項(警戒区域ごとの土砂災害に関する情報の収集及び伝達、予報又は警報の発令及び伝達、避難、救助その他当該警戒区域における土砂災害を防止するために必要な警戒避難体制に関する事項)を記載すること。その際、「土砂災害警戒避難ガイドライン」を参照し、適切に定めること。
〔2〕 特に災害時要援護者関連施設については、当該施設の利用者の円滑な避難が行われるよう土砂災害に関する情報の伝達方法を定めること。
〔3〕 例年、急傾斜地崩壊危険区域、地すべり防止区域等の指定区域以外の箇所においても土砂災害が発生していることから、従来危険性が把握されていなかった区域もあわせて再点検を行うこと。
〔4〕 大雨による土砂災害発生の危険度が高まった時に都道府県と気象庁が共同で発表する土砂災害警戒情報について、避難勧告等の発令にあたり重要な判断材料にすること。
〔5〕 土砂災害に対する地域防災力の強化を図ること。
さらに、平成21年8月13日の7府省庁連名通知(P.120参照)において、都道府県に対し、土砂災害警戒区域等における土砂災害防止対策の推進に関する法律に基づき、警戒避難体制の整備等に関する調査を実施し、速やかに、土砂災害警戒区域等の指定を実施すること、市町村が作成するハザードマップについて、砂防、河川、治山及び農業用施設等の専門的知見に基づく技術的助言などを行うことを求めている。

h23267.jpg

(3) 高潮

平成11年(1999年)9月に熊本県不知火海岸で高潮により12人の死者が発生したこと等を踏まえ、消防庁では、平成13年3月に内閣府、農林水産省、国土交通省等と共同で、高潮対策強化マニュアルを策定した(参照URL:http://www.bousai.go.jp/oshirase/h13/130330takashio.html)。
また、「避難勧告等の判断・伝達マニュアル作成ガイドライン」(平成17年3月策定)では、高潮災害についても、避難勧告等の発令基準の策定等の方法について示し、各市町村における具体的判断基準の策定を要請しているところである。

(4) 竜巻・突風

竜巻や突風による災害は全国各地で発生しており、平成23年8月には福岡県福岡市において、竜巻が発生し、人的被害や住家被害等が発生している。
なお、気象庁では、地方公共団体や事業者等の防災対策の参考となるよう、竜巻などの激しい突風に関する気象情報として平成20年3月から「竜巻注意情報」を発表しているのに加えて、平成22年5月より、竜巻などの激しい突風が発生しやすい地域の詳細な分布と1時間先までの予報として「竜巻発生確度ナウキャスト」(参照URL:http://www.jma.go.jp/jp/radnowc/)の提供を開始している。

h23268.jpg

関連リンク

はじめに
はじめに 我が国の消防は、昭和23年に消防組織法が施行され、市町村消防を原則とする自治体消防制度が誕生して以来、関係者の努力の積み重ねにより着実に発展し、国民の安心・安全確保に大きな役割を果たしてきました。 本年は、3月11日に発生した東日本大震災によって、死者・行方不明者併せて約2万人という甚大な...
第1節 本震
第I部 東日本大震災について 第1章 地震・津波の概要 第1節 本震 平成23年3月11日14時46分、三陸沖(北緯38度1分、東経142度9分)の深さ24kmを震源として、我が国観測史上最大のマグニチュード9.0*1の地震が発生した。この地震により宮城県栗原市で震度7を観測したほか、宮城県、福島県...
第2節 余震等
第2節 余震等 気象庁によると、東北地方太平洋沖地震の余震は、岩手県沖から茨城県沖にかけて、震源域に対応する長さ約500km、幅約200kmの範囲に密集して発生しているほか、震源域に近い海溝軸の東側、福島県及び茨城県の陸域の浅い場所で発生している(第1-2-1図)。  これまでに発生した余震は、最大...
第1節 人的被害
第2章 災害の概要 第1節 人的被害 東北地方太平洋沖地震及びその後の余震は、地震の揺れ及び津波により東北地方の沿岸部を中心として、広範囲に甚大な被害をもたらした。 被害の中でもとりわけ人的被害については、死者16,079名、行方不明者3,499名(11月11日時点)という、甚大な被害が発生した(...