平成23年版 消防白書

2 地下施設等の災害対策の現況

(1) 鉄道トンネル

鉄道トンネルに関しては、トンネル等における列車火災事故の防止に関する具体的対策を示すことにより、消火、避難設備等の設置の促進及び所在市町村における消防対策の強化を図っている。また、青函トンネル(トンネル延長約53.9km)については、さらに長大海底トンネルとしての防災対策を取りまとめている。
また、平成15年2月に発生した韓国大邱(テグ)市における地下鉄道の火災を踏まえ、消防庁では、国土交通省と共同で、「地下鉄道の火災対策検討会」を開催し、ガソリンによる放火火災を想定し、地下鉄道の不燃化の推進と旅客の安全な避難対策を基本として、我が国の地下鉄道の火災対策について総合的に検討を進め、平成16年3月に検討結果を取りまとめた。主な内容については次のとおりである。

〔1〕車両の火災対策

我が国の車両は、一定の不燃性や難燃性などの防火性能を備えているが、さらに大火源火災を考慮し、以下の措置を講じる必要がある。
ア 防火性能が低い材料及び溶融滴下する材料は、車両天井部への使用を制限する。
イ 従来の車両材料燃焼試験に、溶融滴下の判定を追加するとともに、新たに大火源火災における防火性能を判定するための燃焼試験を追加する。
ウ 隣接車両への煙の流入等を防止するため、連結する車両間に、通常時閉じる構造の扉を設置する。

〔2〕地下駅・トンネルの火災対策

異なる2以上の避難経路を設けること等の現行の基準に加え、大火源火災に対し、旅客の安全な避難経路を確保するとともに消防活動を支援するため、以下の措置を講じる必要がある。
ア 駅の構造等個別の駅の状況に応じ、旅客が安全に避難できる時間を確保するための排煙設備を設置する。
イ 旅客の安全な避難を確保するとともに、消防活動を支援するため、ホームとコンコースを結ぶ階段に、出火場所からの煙や炎を遮断するための防火シャッター等を設置する。
ウ 旅客の避難経路を確保するため、袋小路部等には、売店を設置しない。これ以外の箇所に、売店を設置する場合には、自動火災報知設備を設置することとし、コンビニ型売店には、これに加え、スプリンクラー設備を設置する。
エ 消防隊員が地上と通信するための無線通信補助設備を設置する。また、駅の規模等により、消防隊員が使用する機器のための非常コンセント設備を設置する。

〔3〕旅客の避難誘導等に関する対策

旅客の安全な避難誘導をより確実に行うため以下の措置を講じる必要がある。
ア 火災発生時の運転取扱上徹底すべき事項を盛り込んだマニュアルを整備する。
イ 駅の構造等個別の駅の状況に応じ、旅客の避難誘導の方法等火災発生時に係員が行うべき事項を定めたマニュアルを整備する。
ウ 消火器、非常通報装置及びドアコックの車内表示を、ピクトグラム(絵文字)を使用する等により統一する。
エ 避難経路図の駅への表示、消火器配置図の車両への表示等を行うとともに、通常時の構内放送、車内放送により、旅客に対し危機管理意識の高揚を図る。

〔4〕消防機関と鉄道事業者の連携

駅の構造、火災対策設備の位置等消防活動上有効な情報を、鉄軌道事業者と消防機関が共有するとともに、定期的に両者が連携した訓練を実施する。
この検討結果を踏まえ、国土交通省において、鉄道に関する技術上の基準を定める省令等の解釈基準の一部改正が行われたことに伴い、消防庁としても、地下鉄道における火災対策について、平成16年12月17日付(電気設備・運転等の解説)・平成18年12月13日付(地下駅等の不燃化・火災対策設備等の解説)で都道府県を通じ各消防機関に周知を行った。

(2) 道路トンネル

道路トンネルに関しては、昭和54年(1979年)7月に発生した日本坂トンネル火災事故を契機に関係省庁とも協力して、「トンネル等における自動車の火災事故防止対策」、「道路トンネル非常用施設設置基準」により道路トンネルに係る消防防災対策の充実に努めている。
平成9年(1997年)12月に供用が開始された東京湾アクアライン(延長約15.1km、うちトンネル延長約9.5km)については、関係地方公共団体や東日本高速道路株式会社等と消防機関が連携を図り、災害対策の充実強化等所要の対策を講じている。
平成22年3月に全線供用を迎えた中央環状新宿線(横流換気方式)(トンネル延長約11km)については、都市内長大トンネルの防災安全に関する調査研究委員会における検討結果を踏まえ、非常用施設の設置、発災時の運用、広報啓発活動などの総合的な防災安全対策が講じられている。また、現在建設中の中央環状品川線(縦流換気方式)(トンネル延長約9.4km)についても、中央環状新宿線同様の検討が行われている。

(3) 大深度地下空間

大深度地下*3空間の公的利用については、臨時大深度地下利用調査会設置法に基づき設置された臨時大深度地下利用調査会において、大深度地下の利用に関する基本理念及び施策の基本となる事項等について調査審議が行われ、平成10年(1998年)5月に答申が取りまとめられた。

*3 大深度地下:〔1〕地下40m以深か〔2〕支持地盤上面から10m以深のいずれか深い方の地下

この答申を踏まえ、平成12年(2000年)5月に、大深度地下の公共的使用に関する特別措置法が公布され、平成13年4月1日に施行された。
また、同法に定める対象地域である首都圏、中部圏及び近畿圏において、関係省庁及び関係地方公共団体で構成する大深度地下使用協議会が、それぞれ定期的に開催されている。
大深度地下空間で災害が発生すると、地下の深部に多数の利用者が取り残される可能性があり、従来の施設と比較して消火活動や救助活動がより困難になることが予想されている。
このため、消防庁、国土交通省等関係機関において大深度地下施設の用途、深度、規模等に応じた安全対策について検討を行い、平成16年2月に「大深度地下の公共的使用における安全の確保に係る指針」を取りまとめた。
平成17年8月には、大深度地下の公共的使用に関する特別措置法の適用第1号として、神戸市が認可権者である兵庫県知事に対し、大容量送水管整備事業の事業概要書の提出を行い、平成19年6月に全国初の認可を受けた。

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