平成28年版 消防白書

第2節 市町村の消防の広域化

1.消防の広域化の推進

市町村は、その区域内における消防事務を十分に果たすべき責任を有しているが、小規模な市町村における消防体制は様々な課題を抱えている場合が多い。
消防の広域化は、消防本部の規模の拡大により消防の体制の整備・確立を図ることを目指すものであり、消防庁として、平成6年(1994年)以降継続的な取組を行っているものである。

(1) 市町村消防の状況

ア 消防本部の状況
昭和23年(1948年)3月7日に消防組織法が施行されて以来、「市町村消防の原則」が消防制度の根幹として維持されており、消防本部及び消防署の設置が進められた。全国の消防本部数は、平成3年(1991年)に過去最多の936本部まで増加したが、平成6年(1994年)以降は、市町村消防の広域化の推進や市町村合併の進展とともに減少し、平成28年4月1日現在の消防本部数は733本部であり、消防本部や消防署を設置していない非常備町村は29町村である(第2-2-1図)。
第2-2-1図 消防本部数と常備化率
イ 非常備町村の状況
29の非常備町村は7都県に存在するが、地理的な要因から非常備である地域も多く、29町村中、1都3県の21町村(非常備町村全体の72.4%)が島しょ地域である(第2-2-2図)。
第2-2-2図 非常備町村一覧
ウ 小規模消防本部の課題
全国733消防本部のうち、管轄人口が10万未満の小規模消防本部は435本部あり、全体の59%を占めている。
一般的に、これらの小規模消防本部では、複雑化・多様化する災害への対応力、高度な装備や資機材の導入及び専門的な知識・技術を有する人材の養成等、組織管理や財政運営面における対応に課題があると指摘されている。

(2) 広域化の背景と推進の枠組み

ア 広域化の背景
小規模な消防本部においては、一般的に財政基盤や人員、施設、装備等の面で十分でなく、高度な消防サービスの提供に課題がある場合が多いことから、消防庁では、平成6年(1994年)以降、市町村の消防の広域化を積極的に推進してきたが、いまだ小規模消防本部が全体の6割を占める状況にある。
また、日本の総人口は、平成17年以降減少傾向にあり、都市部とその他の地域により差はあるが、一般的に各消防本部の管轄人口も減少すると考えられており、さらに、消防団員の担い手不足の問題も懸念されている。このような現状から、消防の体制の一層の整備・確立を図るために市町村の消防の広域化を推進することが必要と考えられてきた。
イ 平成18年の消防組織法の改正
平成18年に消防組織法の一部改正法が成立し、消防の広域化の理念及び定義、基本指針に関すること、推進計画及び都道府県知事の関与等に関すること、広域消防運営計画に関すること、国の援助等に関すること等が規定された(第2-2-3図)。
第2-2-3図 改正後の消防組織法による市町村の消防の広域化の推進スキーム

消防組織法では、市町村の消防の広域化とは、「二以上の市町村が消防事務(消防団の事務を除く。以下同じ。)を共同して処理することとすること又は市町村が他の市町村に消防事務を委託することをいう。」(消防組織法第31条)と定義され、広域化は「消防の体制の整備及び確立を図ることを旨として、行わなければならない」(同条)こととされている。
広域化の具体的な方法としては、消防事務を共同処理する一部事務組合又は広域連合の設置、既存の組合の構成市町村の増加、消防事務組合以外の事務を処理する組合の事務に消防事務を追加すること及び消防事務を他の市町村に委託することが考えられる。

ウ 市町村の消防の広域化に関する基本指針等
(ア) 基本指針
消防庁では、改正後の消防組織法第32条第1項に基づき、平成18年7月に「市町村の消防の広域化に関する基本指針」(以下、この節において「基本指針」という。)を定めた。この中で、広域化を推進する期間については、平成19年度中には都道府県において推進計画*1を定め、推進計画策定後5年度以内(平成24年度まで)を目途に広域化を実現することとされた。
(イ) 基本指針の改正
東日本大震災での教訓や類例をみない大規模災害等の発生、また、今後の災害リスクの高まり、さらに将来の日本の総人口が減少することが予想されていることを踏まえると、国、都道府県及び市町村が一体となった消防の広域化の推進による小規模消防本部の体制強化がこれまで以上に必要となる。このことから、平成25年4月1日に基本指針を改正し、広域化を着実に推進することとした。改正概要は次のとおり。
  • 広域化の推進期限を平成30年4月1日まで延長した。
  • 管轄人口30万以上の規模を一つの目標とすることが適当であるとされていたが、当該規模目標には必ずしも捉われず、地域の事情を十分に考慮する必要があるとした。
  • 自主的な市町村の消防の広域化を着実に推進するために、消防広域化重点地域の枠組みを設け、国の施策や都道府県における措置を他の広域化対象市町村よりも先行して集中的に実施することとした。

なお、広域化により指定都市と同等以上の規模を備える消防本部が新設されることから、平成25年4月1日に消防吏員の階級の基準(昭和37年消防庁告示第6号)を改正し、管轄人口70万以上の市町村(消防の事務を処理する一部事務組合等を含む。)の消防長についても消防司監の階級を用いることができることとした。

(ウ) 期限内の取組に向けて
消防庁では、平成30年4月1日の消防の広域化推進期限に向け、平成27年4月27日の都道府県知事宛消防庁次長通知により、次のとおり都道府県のより積極的な取組を要請している。
  • 都道府県内の市町村の現状及び将来の見通しを改めて再検証の上、広域化の必要性がより高いと認める地域の重点地域の指定を速やかに行うこと。
  • これまでに広域化を実現した消防本部の所在する都道府県では、積極的な人的支援及び財政支援をしているところがあることから、広域化を進めるために、都道府県において更なる積極的な支援策を検討し、実施すること。
  • 消防広域化推進アドバイザー*2制度について、地方公共団体や協議会等において、当該制度を積極的に活用すること。

*1 推進計画:平成23年5月に「地域の自主性及び自立性を高めるための改革の推進を図るための関係法律の整備に関する法律」が施行され、都道府県による推進計画の策定は努力義務化された。

*2 消防広域化推進アドバイザー:既に広域化を実現した消防本部や関係市町村の幹部職員等で、広域化の推進に必要な知識・経験を持つ者の中から、消防庁が選定し登録する。都道府県等の要望に応じて派遣され支援活動を行う。

(3) 広域化のメリットと課題

ア 広域化のメリット
一般的には以下の3点のメリットが考えられる。
(ア) 迅速で効果的な出動による住民サービスの向上
広域化により消防本部の規模が大きくなり、消防本部全体が保有する車両等が増えることから、初動時や第2次以降の出動体制が充実するとともに、統一的な指揮の下、迅速で効果的な災害対応が可能になる。
(イ) 人員配置の効率化による現場体制の充実・高度化
総務部門や通信指令部門の効率化を図り、人員を消火や救急部門に再配置することにより、不足している現場体制の強化が可能になる。また、予防部門や救急部門の担当職員の専任化を進めることにより、質の高い消防サービスの提供が可能になる。
(ウ) 財政・組織面での消防体制の基盤強化
財政規模の拡大による効率化により、小規模消防本部では整備が困難であったはしご自動車、救助工作車及び高機能指令センター等の計画的な整備が可能になる。また、職員数が増加することから、人事ローテーションの設定、職務経験不足の解消、各種研修への職員派遣など、組織管理の観点からも多くのメリットが期待できる(第2-2-4図)。
第2-2-4図 広域化のメリット
イ 広域化に伴う課題
広域化をした消防本部では、職員の身分や給与の段階的な一本化、構成市町村が増加したことに起因する調整業務の増加及び構成市町村の負担金の調整等が、広域化検討時からの課題であるとともに、広域化後もこれらの課題への対応に時間を要している場合がある。
このことから、広域化対象市町村が広域化後に円滑に業務を行っていくためには、広域消防運営計画作成時に各調整事項について十分な協議を行うとともに、構成市町村の了承を得ておく必要がある。

関連リンク

平成28年版 消防白書(PDF)
平成28年版 消防白書(PDF) 平成28年版 消防白書(一式)  はじめに  特集1 熊本地震の被害と対応  特集2 平成28年8月の台風等の被害と対応  特集3 消防団を中核とした地域防災力の充実強化  特集4 消防における女性消防吏員の活躍推進...
はじめに
はじめに 昨年は、気象庁による震度観測開始以降、初めて震度7を観測した平成7年(1995年)の兵庫県南部地震(阪神・淡路大震災)から20年に当たる節目の年でした。そして、本年4月14日には、平成16年の新潟県中越地震、平成23年の東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)に続き、4例目の震度7の地震が熊本...
1.地震の概要
特集1 熊本地震の被害と対応 1.地震の概要 平成28年4月14日21時26分、熊本県熊本地方の深さ11kmを震源として、マグニチュード6.5の地震が発生し、益城町で震度7を観測した(特集1-1表)。 さらに、28時間後の4月16日1時25分、熊本県熊本地方の深さ12kmを震源として、マグニチュード...
2.災害の概要
2.災害の概要 一連の地震により、激しい揺れに見舞われた地域では、多くの建物が倒壊したほか、道路、電気、通信設備等のインフラ施設にも多大な被害が生じた。また、南阿蘇村では、地震の影響により発生した土砂災害によっても、人的被害、住家被害、道路損壊等の甚大な被害が発生した。 さらに、梅雨前線等の影響によ...