平成28年版 消防白書

3.勤務条件

(1) 消防職員の勤務条件等

消防職員の職務は、火災等の災害出動のため24時間即応体制を維持しなければならないという特殊性を有していることから、勤務時間や休日、休憩等の勤務条件については、一般職員と異なる定めがされている。具体的な給与、勤務時間その他の勤務条件は、市町村の条例によって定められている。

ア 給料及び諸手当
消防の組織は、緊急時の部隊活動等に必要な指揮命令系統を明示し組織の統一性を確保するため、階級制度がある。行政職給料表を適用した場合、各階級に一定の割合の人数が必要となるという特徴を持つ消防組織においては、階級制度を維持しつつ、給料の水準を適正に保つということが難しい。このため消防職員の給料については、その職務の危険度及び勤務の態様の特殊性等を踏まえ、一般職員と異なる特別給料表(現在の国の公安職俸給表(一)に相当)を適用することとされている(昭和26年国家消防庁管理局長通知)。行政職給料表を採用しつつ、号給の加算調整や特殊勤務手当の支給により職員の給与水準の維持を図るなどの対応は、明確性及び透明性の観点から問題があり、条例により一般職員と異なる特別給料表(現在の国の公安職俸給表(一)に相当)を採用することが望ましい。
なお、消防職員の平均給料月額は、平成27年4月1日現在の地方公務員給与実態調査によると平均年齢38.6歳で30万1,535円であり、一般行政職の場合は平均年齢42.5歳で32万5,130円となっている。一般行政職より消防職員の平均給料月額が低い理由のひとつに、消防職員の平均年齢が若いことが考えられる。
また、消防職員の平均諸手当月額は9万6,048円であり、出動手当等が支給されている。
イ 勤務体制等
消防職員の勤務体制は、毎日勤務と交替制勤務とに大別され、さらに交替制勤務は主に2部制と3部制に分けられる。一部、指令業務に従事する職員などに対し、4部制を用いている消防本部もある。2部制は、職員が2部に分かれ、当番・非番の順序に隔日ごとに勤務し、一定の期間で週休日を取る制度であり、3部制は、職員が3部に分かれ、当番・非番・日勤を組み合わせて勤務し、一定期間で週休日を取る制度である(第2-3-3表、第2-3-4表)。
第2-3-3表 消防本部における交替制勤務体制
第2-3-4表 勤務体制別消防吏員数
ウ 消防職員委員会
消防職員委員会は、消防職員からの意見を幅広く求めることにより、消防職員間の意思疎通を図るとともに、消防事務に職員の意見を反映しやすくし、これにより消防職員の士気を高め、消防事務を円滑に運営することを目的として、消防組織法第17条の規定により消防本部に置くこととされている。消防職員委員会においては、消防職員から提出された〔1〕消防職員の勤務条件及び厚生福利、〔2〕消防職員の被服及び装備品、〔3〕消防の用に供する設備、機械器具その他の施設に関する意見を審議し、その結果に基づいて消防長に対して意見を述べることにより、消防事務に消防職員の意見を反映しやすくしている。
平成27年度においては、全国749消防本部中749本部で消防職員委員会が開催され、職員から提出された5,025件の意見について審議された。平成27年度においては、審議された意見のうち「実施が適当」とされたものは、全体の35.1%を占めた。また、平成26年度において審議された意見のうち「実施が適当」とされた意見の57.2%が既に実施されている。一方、予算上の制約などにより、実現できていない意見も見られる(第2-3-5表、第2-3-6表、第2-3-7表、第2-3-8表)。
第2-3-5表 消防職員委員会の審議結果
第2-3-6表 平成26年度に消防職員委員会において審議された意見の実現状況
第2-3-7表 各年度の消防職員委員会開催状況
第2-3-8表 各年度の消防職員委員会審議件数及び審議結果
エ 公務災害補償
消防職員の公務上の災害(負傷、疾病、障害又は死亡)には、地方公務員災害補償法の定めるところにより、療養補償、休業補償、傷病補償年金、障害補償、介護補償、遺族補償及び葬祭補償が支給される。また、福祉事業として、被災職員の円滑な社会復帰を促進するために必要な事業や、被災職員及びその遺族の援護を図るために必要な資金の支給などがある。
オ 消防長及び消防署長の資格の基準
消防長及び消防署長の資格については、市町村の消防長及び消防署長の任命資格を定める政令(昭和34年政令第201号)で定めていたが、地域の自主性及び自立性を高めるための改革の推進を図るための関係法律の整備に関する法律(平成25年法律第44号)による消防組織法第15条の改正により、政令で定める基準を参酌して市町村の条例で定めることとされた。このため、各市町村が条例を制定するに当たって参酌すべき基準が、市町村の消防長及び消防署長の資格の基準を定める政令(平成25年政令第263号)で定められ、消防組織法の改正とともに、平成26年4月1日から施行された(第2-3-9表)。
第2-3-9表 市町村の消防長及び消防署長の資格の基準を定める政令の概要

(2) 消防団員の処遇改善

消防団員は、大規模災害時においては昼夜を分かたず多岐にわたり活動し、また、平常時においても地域に密着した活動を行っており、消防団員の処遇については、十分に配慮し改善していく必要がある。

ア 報酬・出動手当
市町村では、条例に基づき消防団員に対し、その労苦に報いるための報酬及び出動した場合の費用弁償としての出動手当を支給している。支給額や支給方法は、地域事情により、必ずしも同一ではないが、報酬等に対する地方交付税措置が講じられていることから、特に支給額の低い市町村においては、当該措置額を踏まえた水準となるよう、引上げ等の適正化を図る必要がある。出動手当の中でも地震、風水害などの長時間(長期間)の活動を余儀なくされる場合の手当について、充実を図るべきと考えられる。
なお、平成27年度の消防団員報酬等の地方交付税算入額は、第2-3-10表のとおりである。
第2-3-10表 消防団員報酬等の地方交付税算入額
イ 公務災害補償
消防活動は、しばしば危険な状況の下で遂行されるため、消防団員が公務により死傷する場合もある(第2-3-2表)。このため消防組織法の規定により、市町村は、政令で定める基準に従って、条例で定めるところにより、その消防団員又はその者の遺族がこれらの原因によって受ける損害を補償しなければならないとされており、他の公務災害補償制度に準じて療養補償、休業補償、傷病補償年金、障害補償、介護補償、遺族補償及び葬祭補償の制度が設けられている。なお、療養補償及び介護補償を除く各種補償の額の算定に当たっては、政令で補償基礎額が定められている(第2-3-11表)。
第2-3-11表 補償基礎額改定状況

また、消防団員がその生命又は身体に対し高度の危険が予測される状況の下において消防活動に従事し、そのため公務災害を受けた場合には、特殊公務災害補償として遺族補償等について100分の50以内を加算することとされている。
火災、風水害等においては民間の消防協力者等が死傷する場合もある(第2-3-12表)。この消防協力者等に対しては、消防法等の規定に基づき、市町村が条例で定めるところにより、災害補償を行うこととされている。消防協力者等の災害補償内容は、補償基礎額が収入日額を勘案して定められること以外は消防団員に対するものと同様である。

第2-3-12表 消防協力者等の死傷者数の推移
ウ 福祉事業
公務上の災害を受けた消防団員又はその遺族の福祉に関して必要な事業は市町村が行うものであるが、消防団員等公務災害補償責任共済契約を締結している市町村については、消防基金又は指定法人がこれら市町村に代わって行うこととなっている。 福祉に関して必要な事業の内容は、外科後処置、補装具、リハビリテーション、療養生活の援護、介護の援護及び就学の援護等となっている。
エ 退職報償金
非常勤の消防団員が退職した場合、市町村は当該消防団員の階級及び勤務年数に応じ、条例で定めるところにより退職報償金を支給することとされている。なお、条例(例)によれば、その額は勤務年数5年以上10年未満の団員で20万円、勤務年数30年以上の団長で97万9,000円となっている(第2-3-13表)。
第2-3-13表 退職報償金支給額
オ 公務災害補償等の共済制度
昭和31年(1956年)に、市町村の支給責任の共済制度として、消防基金が設けられ、統一的な損害補償制度が確立された。その後、昭和39年(1964年)には、退職報償金の支払制度が、昭和47年(1972年)には、福祉事業の制度がそれぞれ確立した。
消防基金の平成27年度の消防団員等に対する公務災害補償費の支払状況については、延べ2,254人に対し、18億1,992万円となっている(第2-3-14表)。また、福祉事業の支給額は、延べ989人に対し4億6,680万円となっている。
第2-3-14表 消防基金の公務災害補償費の支払状況

消防基金の平成27年度の退職報償金の支払額は、4万5,278人に対し約176億円となっている。

カ 消防団員等が災害活動等で使用した自家用車に損害が生じた場合の見舞金の支給
消防団員等公務災害補償等責任共済等に関する法律が改正され、平成14年度から、消防基金は、消防団員等が災害活動で使用した自家用車に損害が生じた場合に、見舞金(上限10万円)を支給する事業を実施している。平成27年度の支払状況は、延べ84人に対し699万円となっている。
キ 乙種消防設備士及び丙種危険物取扱者資格の取得に係る特例
消防団の活性化に資するとともに、消防団員が新たに取得した資格を活用し、更に高度な消防団活動を行える環境の整備を目的として、消防団員に対する乙種消防設備士試験及び丙種危険物取扱者試験に係る科目の一部を免除する特例が創設された(平成14年7月)。
消防設備士(乙種第5類・第6類)に関しては消防団員歴5年以上で消防学校の専科教育の機関科を修了した者が、危険物取扱者(丙種)に関しては消防団員歴5年以上で消防学校の基礎教育又は専科教育の警防科を修了した者が、それぞれ適用対象とされている。

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