平成28年版 消防白書

3.台風第10号に係る被害等

(1) 河川の状況

8月29日から30日にかけて日本列島に接近し、上陸した台風第10号の影響による大雨で、北海道及び東北地方の各地で河川の氾濫が発生した。国土交通省の発表によると、国管理の2水系5河川、道県管理の20水系38河川において、堤防決壊やいっ水等による浸水が発生した。

(2) 被害の状況

この台風の影響で、死者22人、行方不明者5人の人的被害が生じたほか、多数の住家被害が発生した。北海道においては、河川の氾濫により橋が崩落し、車ごと流された2人が死亡、1人が行方不明となったほか、1人が建物ごと流されて行方不明となった。岩手県においては、岩泉町で小本川等の氾濫により高齢者福祉施設(グループホーム)の入所者9人を含む19人が死亡し、2人が行方不明となったほか、久慈市で1人が死亡、宮古市で1人が行方不明となった。
その他の地域(青森県、宮城県、秋田県及び福島県)においても、複数の負傷者及び多数の住家被害が発生した(特集2-1表)。

特集2-1表 台風第10号に係る人的・物的被害

また、道路の損壊等による孤立事案が多数発生した。特に岩手県においては、最大で535世帯、1,093人が孤立した(9月2日時点、岩手県取りまとめ。)。

グループホーム周辺に堆積した流木(岩泉町乙茂地区)
被災後の状況(岩泉町安家地区 仙台市消防局提供)
浸水により損壊した住家等(岩泉町安家地区 仙台市消防局提供)

(3) 政府・消防庁・消防機関等の活動

ア 政府の活動
台風第10号が8月29日頃に日本に接近するおそれがあることから、26日に関係省庁災害警戒会議を開催して応急対策の確認を行い、29日10時00分に総理大臣官邸に情報連絡室を設置した。
31日8時50分、総理大臣から、<1>早期に被害状況を把握すること、<2>地方自治体と緊密に連携し、人命を第一に、政府一体となって、被災者の救命・救助等の災害応急対策に全力で取り組むとともに、住民の避難支援等の被害の拡大防止の措置を徹底すること、<3>国民に対し、避難や大雨・河川・浸水の状況等に関する情報提供を適時的確に行うことの指示が発せられた。
8時57分、関係省庁局長会議を開催し、既に判明した被害及び対応状況について関係省庁間の情報共有と対応の確認を行った。13時00分には、情報の集約、関係省庁との連絡調整等を集中的に行うため、既設の情報連絡室を改組して官邸連絡室を設置した。
8月31日から9月1日には、内閣府大臣政務官を団長とする政府調査団を岩手県へ、9月5日には内閣府特命担当大臣(防災担当)を団長とする政府調査団を北海道へ、それぞれ派遣した。
また、多数の者が生命又は身体に危害を受け、避難所開設、応急仮設住宅供与などの救助が必要となっていたことから、北海道の20市町村、岩手県の12市町村に災害救助法(昭和22年法律第118号)を適用することが決定され、被災者支援が進められた。
さらに、9月16日、台風第10号による被害を含む8月16日から9月1日にかけて発生した一連の災害を激甚災害として指定することを閣議決定した。
イ 消防庁の対応
8月26日に全都道府県に対して「台風第10号警戒情報」を発出し、警戒を呼び掛けた。29日10時00分には、応急対策室長を長とする消防庁災害対策室を設置し(第1次応急体制)、情報収集体制の強化を図った。
31日5時30分、消防庁長官は、岩手県知事から広域航空消防応援の要請があったことを受け、宮城県、秋田県及び福島県の知事に対して、岩手県への航空隊の出動を要請した。
また、同時刻、国民保護・防災部長を長とする消防庁災害対策本部を設置した(第2次応急体制)。
9時58分には、大規模な被害が発生した場合に備え、青森県、宮城県、秋田県及び山形県に対して、岩手県への緊急消防援助隊の出動準備を依頼した。
10時00分には、現地活動支援のため、消防庁職員を北海道及び岩手県へそれぞれ2人派遣することを決定し、その後、11時55分には、追加して岩手県宮古地区広域行政組合消防本部へ2人派遣することを決定した。
10時10分には、岩手県知事から消防庁長官に対して、緊急消防援助隊の応援要請があり、同時刻、消防庁長官を長とする消防庁災害対策本部への改組を行った(第3次応急体制)。
11時15分には、消防庁長官は、岩手県知事からの緊急消防援助隊の応援要請を踏まえ、宮城県及び神奈川県の知事に対して、緊急消防援助隊の出動を求めた。その後、被害状況等を踏まえ、11時30分に、青森県、秋田県及び福島県の知事に対して、出動の求めを行うとともに、広域航空消防応援により出動していた宮城県、秋田県及び福島県の航空隊の出動について、緊急消防援助隊の出動の求めに切り替えた。11時45分には、東京都知事に対して、出動の求めを行った。
消防庁から、8月31日には災害対策官を岩手県に、9月5日には消防・救急課長を北海道に、それぞれ政府調査団の一員として派遣した。
9月7日には、高市総務大臣が、達増岩手県知事及び伊達岩泉町長との面談や消防職員・団員への激励を行うとともに、岩泉町内の災害発生現場を視察し、併せて、被災者をお見舞いするため、避難所を訪れた。
関係機関による災害対応の検討(岩手県庁にて)
高市総務大臣による岩泉町内の被災現場視察(9月7日)(岩泉町提供)
ウ 消防機関の対応
(ア) 地元消防機関
北海道では、甚大な被害が発生した新得町、清水町等を管轄するとかち広域消防局、南富良野町を管轄する富良野広域連合消防本部等が、災害発生直後から、被災住民の救助活動、避難誘導等を実施した。
岩手県では、甚大な被害が発生した久慈市を管轄する久慈広域連合消防本部並びに岩泉町及び宮古市を管轄する宮古地区広域行政組合消防本部が、災害発生直後から、被災住民の救助活動、避難誘導等を実施した。
被災地では、河川の氾濫により、道路上に流木等が散乱して通行障害が発生するなど、消防活動には大きな困難が伴った。
(イ) 県内応援消防本部等
北海道においては、北海道防災ヘリコプター及び札幌市消防局消防ヘリコプターが、南富良野町等での救助活動を実施した。
岩手県においては、岩手県防災ヘリコプターが、8月31日早朝に、上空からの被害調査及び救助活動を実施したほか、岩手県の消防相互応援に関する協定に基づき、盛岡地区広域消防組合消防本部、花巻市消防本部、北上地区消防組合消防本部及び二戸地区広域行政事務組合消防本部の4消防本部が、岩泉町において、救助活動等を実施した。
(ウ) 広域航空消防応援
消防庁長官から広域航空消防応援の要請を受けた宮城県、秋田県及び福島県の航空隊は、岩手県へ向け、迅速に出動した。
これらの航空隊は、久慈市及び岩泉町において、情報収集活動及び救助活動を実施し、久慈市において2人を救助した。
(エ) 緊急消防援助隊
消防庁長官から緊急消防援助隊の出動の求めを受けた緊急消防援助隊は、久慈市及び岩泉町へ向け、迅速に出動した。
緊急消防援助隊は、発災当初、久慈市及び岩泉町で活動したが、9月2日以降は、被害が甚大であった岩泉町へ部隊を集中投入し、活動した。
仙台市消防局指揮支援隊は、部隊長として岩手県庁に設置された消防応援活動調整本部に参集し、岩手県、岩手県内消防本部及び消防庁派遣職員のほか、警察、自衛隊、海上保安庁、DMAT、国土交通省、気象庁等の関係機関とも連携し、被害情報の収集・整理、緊急消防援助隊の活動方針の調整等を行った。また、横浜市消防局指揮支援隊は、久慈広域連合消防本部に参集し、被害状況の収集・整理、緊急消防援助隊の活動管理等を行った。東京消防庁指揮支援隊は、当初、宮古地区広域行政組合消防本部に参集したが、岩泉町における119番通報は全て岩泉消防署で対応するなど、災害現場の情報の多くが岩泉消防署に集約されていたことから、岩泉消防署へ移動し、自衛隊や警察等の関係機関と連携を図り、被害情報の整理、緊急消防援助隊の活動管理、活動内容の調整等を行った。
陸上隊について、発災当初、青森県大隊は久慈市で、宮城県大隊は岩泉町で捜索・救助活動等を行ったが、9月2日には、青森県大隊も被害が甚大であった岩泉町へ転進した。岩泉町では、重機を有効に活用して、孤立地域へ進出する際の道路啓開、流木や土砂等が流れ込んだ家屋での救助活動を行った。また、道路が損壊し、車両が通行できない場所も多くあったため、水陸両用バギー等を活用して、活動地域へ隊員及び資機材を搬送し、救助活動を行った。特に、到着に長時間を要することが見込まれた地域においては、消防及び自衛隊のヘリコプターにより隊員及び資機材を投入し、救助活動を行った。
航空隊は、上空から効果的な情報収集活動を実施するとともに、ホイスト等により、陸上から救助が難しい孤立地域における住民の救助活動を行った。また、救急隊により、被災地域の病院から県立岩泉高校グラウンドへ搬送した転院患者33人を自衛隊のヘリコプターと連携し、岩手県消防学校(SCU)への空路搬送も実施した。
これら懸命な活動の結果、陸上隊及び航空隊を合わせて43人(広域航空消防応援時に救助した2人を含む。)を救助した。
こうした緊急消防援助隊の活動は、8月31日から9月9日まで10日間にわたり実施され、出動隊の総数は、1都5県(青森県、宮城県、秋田県、福島県、東京都及び神奈川県)の257隊、1,044人(延べ825隊、3,238人)に上った(特集2-2表)。また、1日単位での活動のピークは、9月2日で、93隊、364人であった。

* SCU(Staging Care Unit):航空搬送拠点臨時医療施設。航空機での搬送に際して患者の症状の安定化を図り、搬送を実施するための救護所として、被災地及び被災地外の航空搬送拠点に、広域医療搬送や地域医療搬送に際して設置されるもの。

特集2-2表 緊急消防援助隊の活動規模(延べ)
岩泉町活動調整会議(岩泉消防署 仙台市消防局提供)
活動地域への徒歩による進行(岩泉町安家地区 仙台市消防局提供)
重機によるがれき・流木の排除(岩泉町安家地区 仙台市消防局提供)
水陸両用バギーによる資機材等の搬送(岩泉町岩泉地区 塩釜地区消防事務組合消防本部提供)
ヘリコプターのホイストによる救助(岩泉町岩泉地区 東京消防庁提供)

(オ) 消防団
被害のあった北海道内及び岩手県内では、各消防団が、台風上陸前から警戒活動、水害対応、住民の避難誘導等を実施するとともに、台風通過後においても、救助活動、安否確認、行方不明者の捜索等、多くの活動を実施した。
北海道においては、8月29日から9月14日までの間に延べ約500人(最大活動時は276人(8月31日))が、岩手県においては、8月29日から9月16日までの間に延べ約2,700人(最大活動時は754人(8月30日))がそれぞれ活動した。
消防団の主な活動内容については、次のとおり。

  • 台風の接近に備えた河川流域や危険箇所等の警戒活動
  • 河川の氾濫による家屋等への浸水防止のための土のう積み等
  • 消防ポンプ自動車等を使用した住宅敷地内からの排水作業
  • 避難勧告や避難指示が発令された地区の住民に対する広報活動
  • 家屋等への浸水により取り残された住民の救助活動
  • 住民の安否確認や河川に流された可能性がある行方不明者の捜索活動

なお、常備消防と連携したものも含め、消防団の活動により、北海道幕別町で10人、岩手県久慈市及び岩泉町でそれぞれ6人が救助された。

排水作業(久慈市消防団提供)
救助活動(岩泉町消防団提供)

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