令和元年版 消防白書

第5節 風水害対策

[風水害の現況と最近の動向]

1.平成30年中の主な風水害

平成30年中の風水害による人的被害は、死者285人(前年58人)、行方不明者8人(同2人)、重傷者236人(同83人)及び軽傷者1,637人(同522人)、住家被害は、全壊6,922棟(同360棟)、半壊1万2,633棟(同2,291棟)及び一部破損11万3,068棟(同4,662棟)となっている(第1-5-1図)。

第1-5-1図 風水害による過去10年間の被害状況の推移

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第1-5-1図 風水害による過去10年間の被害状況の推移

また、平成30年中に発生した台風の数は、平年より多い29個(平年値25.6個)であり、このうち日本列島に上陸した台風の数は、平年より多い5個(同2.7個)であった。

なお、平成30年中の主な風水害による被害状況等については、第1-5-1表のとおりである。

第1-5-1表 平成30年中の主な風水害による被害状況

(平成31年4月1日現在)

第1-5-1表 平成29年中の主な風水害による被害状況等

(備考)「消防庁とりまとめ報」により作成

(1)平成30年7月豪雨による被害等の状況

6月28日以降、北日本に停滞していた前線は、7月4日にかけ北海道付近に北上した後、5日には西日本まで南下してその後停滞した。
また、6月29日に発生した台風第7号は、東シナ海を北上し、対馬海峡付近で進路を北東に変えた後、7月4日15時に日本海で温帯低気圧に変わった。
この前線や台風第7号の影響により、日本付近に暖かく非常に湿った空気が供給され続け、西日本を中心に全国的に広い範囲で長期間にわたる記録的な大雨となった。
この大雨により、6月28日から7月8日までの総降水量が四国地方で1,800ミリ、東海地方で1,200ミリを超えるなど、7月の月降水量平年値の2~4倍となる降水量が観測された地域があったほか、九州北部、四国、中国、近畿、東海及び北海道地方における多くの観測地点で、24時間、48時間及び72時間降水量の値が観測史上第1位となった。
この大雨に関し、気象庁は、同月6日に福岡県、佐賀県、長崎県、岡山県、広島県、鳥取県、兵庫県及び京都府の1府7県に、7日には岐阜県に、さらに8日には高知県及び愛媛県に対し、大雨特別警報を発表し、最大級の警戒を呼びかけた。
気象庁は、6月28日から7月8日までの記録的な大雨について、その名称を「平成30年7月豪雨」と定めた。
消防庁では、台風第7号による大雨に備え、同月2日に各都道府県及び指定都市に対して「平成30年台風第7号警戒情報」を発出し、警戒を呼びかけるとともに、3日11時30分に応急対策室長を長とする消防庁災害対策室を設置(第1次応急体制)し、情報収集体制を強化した。
また、同月5日、各都道府県及び指定都市に対して「低気圧と梅雨前線による大雨警戒情報」を発出し、温帯低気圧と梅雨前線による大雨への更なる警戒を呼びかけた。
さらに、その後の被害状況を踏まえ、同月6日9時00分に国民保護・防災部長を長とする消防庁災害対策本部へ改組(第2次応急体制)するとともに、20時30分には消防庁長官を長とする消防庁災害対策本部へ改組(第3次応急体制)し、災害応急体制を強化した。
この長時間にわたる記録的な大雨により、各地で河川の氾濫による浸水や土砂崩れ等が発生し、特に岡山県、広島県及び愛媛県においては、多数の死者が発生するなど甚大な被害となった。
また、長引く大雨により、西日本の多くの市町村において、避難指示(緊急)及び避難勧告等が発令され、ピーク時における避難者数が4万人超に達したほか、道路損壊等による集落の孤立や電気・ガス・水道等のライフラインの寸断など、住民生活に大きな支障が生じた。
このほか、岡山県総社市内のアルミ工場において、河川の氾濫により、工場の溶解アルミ炉内に大量の水が流入したことによる水蒸気爆発が発生し、周辺住民が負傷したほか、工場から半径2.5kmの範囲の民家等にまで被害が及んだ。
なお、この大雨により、死者263人(岐阜県1人、滋賀県1人、京都府5人、兵庫県2人、奈良県1人、岡山県73人、広島県133人、山口県3人、愛媛県32人、高知県3人、福岡県4人、佐賀県2人、宮崎県1人、鹿児島県2人)、行方不明者8人(岡山県3人、広島県5人)、重傷者141人、軽傷者343人の人的被害のほか、5万1,110棟の住家被害が発生した。

(2)台風第13号による被害等の状況

台風第13号は、8月9日に関東地方の沿岸を北上し、次第に勢力を弱めながら北東へ進み、10日15時に日本の東海上で温帯低気圧に変わった。
この台風の影響により、埼玉県秩父市で157.0ミリの24時間降水量を記録するなど、関東地方では24時間降水量が100ミリを超えるところがあった。
消防庁では、同月6日、各都道府県及び指定都市に対して「平成30年台風第13号警戒情報」を発出し、警戒を呼びかけるとともに、8日11時00分に応急対策室長を長とする消防庁災害対策室を設置(第1次応急体制)し、情報収集体制を強化した。
なお、この台風により、重傷者2人及び軽傷者5人の人的被害のほか、8棟の住家被害が発生した。

(3)台風第20号による被害等の状況

台風第20号は、8月23日21時頃に強い勢力で徳島県南部に上陸した後、23時半頃、勢力を維持したまま兵庫県姫路市付近に再上陸した。その後、近畿地方を縦断して、24日21時に日本海北部で温帯低気圧に変わった。
この台風及び温帯低気圧の影響により、近畿地方では24時間降水量が400ミリを超えるところがあり、奈良県上北山村で503.5ミリを観測した。また、和歌山県和歌山市で41.9メートル、高知県室戸市で39.6メートルの最大風速を記録するなど、四国地方や近畿地方で猛烈な風を観測し、観測史上1位となったところがあった。
消防庁では、同月20日、各都道府県及び指定都市に対して「平成30年台風第20号警戒情報」を発出し、警戒を呼びかけた。
また、同月23日6時00分に応急対策室長を長とする消防庁災害対策室を設置(第1次応急体制)し、情報収集体制を強化するとともに、同日、各都道府県及び指定都市に対して「警戒情報」に基づく適切な対応を改めて要請した。
なお、この台風により、重傷者3人及び軽傷者32人の人的被害のほか、961棟の住家被害が発生した。

(4)台風第21号による被害等の状況

台風第21号は、9月4日12時前に非常に強い勢力で徳島県南部に上陸した後、14時前、勢力を維持したまま神戸市に再上陸し、速度を上げながら近畿地方を縦断して日本海に抜けた後、5日9時に温帯低気圧に変わった。
この台風及び温帯低気圧の影響により、四国、近畿、東海地方で非常に激しい雨が降り、同月3日から5日までの総降水量が300ミリを超えたところや9月の月降水量平年値を超えたところがあった。
また、高知県室戸市で48.2メートル、大阪府田尻町関空島(関西国際空港)で46.5メートルの最大風速を記録するなど、四国地方や近畿地方では猛烈な風を観測し、観測史上第1位となったところがあった。
さらに、四国地方や近畿地方では顕著な高潮が発生し、大阪市では329センチメートル、神戸市では233センチメートルなど、過去の最高潮位を超える値を観測した。
この強風と高潮・高波により、関西国際空港では広い範囲で滑走路が冠水し、空港が閉鎖されたほか、強風に流されたタンカーが大阪府泉佐野市と空港を結ぶ関西国際空港連絡橋に衝突して連絡橋が使用不能となり、空港ターミナルビル内に2,000人を超える利用者が一時孤立状態となった。
このほか、強風による電柱の倒壊や高圧線の断線などにより、近畿地方を中心とする広い範囲で多数の停電が発生した。
消防庁では、同月3日、各都道府県及び指定都市に対して「平成30年台風第21号警戒情報」を発出し、警戒を呼びかけるとともに、同日19時00分に応急対策室長を長とする消防庁災害対策室を設置(第1次応急体制)し、情報収集体制を強化した。
なお、この台風により、死者14人(愛知県2人、三重県1人、滋賀県2人、大阪府8人、和歌山県1人)、重傷者46人及び軽傷者934人の人的被害のほか、9万8,617棟の住家被害が発生した。

(5)台風第24号による被害等の状況

台風第24号は、9月28日から30日明け方にかけて沖縄地方に接近した後、急速に加速しながら、30日20時頃、大型で強い勢力を維持したまま和歌山県田辺市付近に上陸し、東日本から北日本を縦断した後、10月1日9時に日本の東で温帯低気圧に変わった。
この台風の影響により、広い範囲で暴風、大雨、高波や高潮が発生し、鹿児島県奄美市で40.0メートル、沖縄県座間味村で38.4メートルの最大風速を記録するなど、沖縄地方から北海道地方の広い範囲で風速20メートル以上の非常に強い風を観測したほか、近畿地方では顕著な高潮が発生し、和歌山県御坊市では296センチメートルの最高潮位を観測した。
消防庁では、9月28日13時30分に応急対策室長を長とする消防庁災害対策室を設置(第1次応急体制)し、情報収集体制を強化するとともに、同日、各都道府県及び指定都市に対して「平成30年台風第24号警戒情報」を発出し、警戒を呼びかけた。
また、10月2日、各都道府県及び指定都市に対して「風水害、地震等の災害に伴う長時間停電を踏まえた防火対策の徹底について」を発出し、更なる警戒を呼びかけた。
なお、この台風により、死者4人(滋賀県1人、京都府1人、鳥取県1人、宮崎県1人)、重傷者26人及び軽傷者205人の人的被害のほか、1万2,570棟の住家被害が発生した。

(6)台風第25号による被害等の状況

台風第25号は、10月4日に沖縄本島と宮古島の間の海上を北西に進み、5日から6日にかけて九州北部地方及び中国地方に接近した後、21時には日本海で温帯低気圧に変わった。
この台風及び温帯低気圧の影響により、四国地方や九州地方で激しい雨が降り、降り始めからの降水量が高知県仁淀川町で420.5ミリ、宮崎県宮崎市で394.0ミリを観測した。
また、山形県酒田市で31.4メートル、沖縄県座間味村で30.5メートルの最大風速を観測するなど、沖縄地方から北海道地方にかけての広い範囲で非常に強い風を観測した。
消防庁では、同月5日11時30分に応急対策室長を長とする消防庁災害対策室を設置(第1次応急体制)し、情報収集体制を強化するとともに、同日、各都道府県及び指定都市に対して「平成30年台風第25号警戒情報」を発出し、警戒を呼びかけた。
なお、この台風により、死者1人(宮崎県)、重傷者8人及び軽傷者24人の人的被害のほか、172棟の住家被害が発生した。

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