令和元年版 消防白書

2.台風第15号に伴う被害と対応

(1)災害の概要

ア 気象の状況

令和元年9月5日3時に南鳥島近海で発生した台風第15号は、発達しながら小笠原諸島を北西に進み、非常に強い勢力となって伊豆諸島南部へと進んだ。
台風は、強い勢力を保ったまま、同月9日3時前に三浦半島付近を通過し、5時前に千葉市付近に上陸後、千葉県から茨城県を北東に進み、10日9時に日本の東海上で温帯低気圧に変わった(特集1-3図)。
この台風の影響により、同月7日から9日までの総降水量が静岡県伊豆市で450.5ミリ、東京都大島町で314.0ミリを記録するなど、伊豆諸島や関東地方南部を中心に大雨となった。また、東京都神津島村で最大風速43.4メートル、最大瞬間風速58.1メートルを、千葉県千葉市で最大風速35.9メートル、最大瞬間風速57.5メートルを観測するなど、伊豆諸島や関東地方南部で猛烈な風を観測し、多くの地点で観測史上1位の風速を更新する記録的な暴風となった(特集1-4図)。

特集1-3図 雨量の状況(期間:9月8日18時~9日9時)

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特集1-3図 雨量の状況(期間:9月8日18時~9日9時)

(備考)気象庁提供

特集1-4図 最大風速・風向分布図
(期間:9月8日10時~9日24時)

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特集1-4図 最大風速・風向分布図(期間:9月8日10時~9日24時)

(備考)気象庁提供

イ 被害の状況

この台風による大雨と暴風により、東京都で1人の死者が発生したほか、千葉県を中心に7万4,900棟を超える住家被害が発生するなど甚大な被害となった。
また、千葉県内の市町村を中心に、多くの市町村において避難指示(緊急)及び避難勧告等が発令され、ピーク時における避難者数は2,200人超に達した。
さらに、千葉県では、暴風により、多数の住宅において屋根瓦の飛散などの被害が発生し、被災地域ではブルーシート等による応急措置に追われた。
このほか、送電線の鉄塔や電柱の倒壊、倒木や飛散物による配電設備の故障等により、千葉県を中心に、最大約93万4,900戸の大規模停電となった。この長期間にわたる停電の影響により、携帯電話網や市町村防災行政無線等が使用できず、住民への情報伝達が困難となる通信障害が発生したほか、多くの市町村で断水等ライフラインへの被害や鉄道の運休等の交通障害が発生するなど、住民生活に大きな支障が生じた。
なお、今回の台風第15号による各地の被害状況は、特集1-2表のとおりである。

強風により屋根瓦が飛散した千葉県館山市の状況(千葉市消防局提供)
強風により屋根瓦が飛散した千葉県館山市の状況
(千葉市消防局提供)

特集1-2表 被害状況(人的・建物被害)
(令和元年12月5日現在)

特集1-2表 被害状況(人的・建物被害)

(備考)「消防庁とりまとめ報」により作成

(2)政府の主な動き及び消防機関等の活動

ア 政府の主な動き

政府においては、台風第15号の警戒を強化するため、9月6日、官邸内に情報連絡室を設置した。
また、台風第15号の影響により千葉県を中心に発生した多数の住家被害及び大規模停電に対処するため、同月10日、第1回目の台風第15号に係る関係省庁災害対策会議が開催された。本会議は10月11日までに計16回開催され、食料やブルーシート等の物資のプッシュ型支援や千葉県内市町村への国職員の派遣等、政府一体となった災害対応及び被災者支援が進められた。
さらに、「令和元年八月十三日から九月二十四日までの間の暴風雨及び豪雨による災害」(令和元年8月から9月の前線等に伴う大雨(台風第10号、第13号、第15号及び第17号の暴風雨を含む。))を激甚災害と指定(10月11日閣議決定、10月17日公布・施行)し、激甚災害に対処するための特別の財政援助等の対策を講じることとされた。
加えて、台風第15号による災害では、長期間の停電による被害に加え、極めて多くの家屋が、暴風による屋根の被害や、直後の強風を伴う降雨による屋内への浸水被害を受け、被災者の方々の日常生活に著しい支障が生じたところであり、これを契機として、被災者の生活の安定を確保する観点から、災害救助法の応急修理制度の対象を拡充することとした。
このほか、「被災市区町村応援職員確保システム」に基づく被災自治体への応援職員の派遣が行われ、総務省職員を千葉県に派遣して情報収集を行ったうえで、9月13日以降、千葉県内の6市3町の災害マネジメントを支援するため、6都県3市から延べ308人の総括支援チームを派遣し、災害対策本部の運営支援等を行った。さらに、7市2町への対口(たいこう)支援団体*8を決定し、17日以降、10都県6市から延べ3,545人の応援職員を派遣し、罹災証明に係る家屋調査や避難所運営等の支援を行った。

イ 消防庁の対応

消防庁においては台風第15号の接近に備え、9月6日11時15分に応急対策室長を長とする消防庁災害対策室を設置(第1次応急体制)し、情報収集体制の強化を図るとともに、各都道府県及び指定都市に対して「台風第13号と台風第15号についての警戒情報」を発出し、警戒を呼びかけた。
また、甚大な被害が発生した千葉県をはじめ、千葉県内の被災市町及び管轄消防本部に対し、9月12日から11月1日まで継続して延べ26人の消防庁職員を派遣し、災害対応を支援するとともに、関係省庁との連絡調整を緊密に図るなど、政府の災害対応に必要となる情報の収集等に努めた。
また、大規模停電の長期化について、「大規模停電下における熱中症の予防対策について」(令和元年9月9日付け消防庁国民保護・防災部防災課長、消防・救急課救急企画室長事務連絡)を発出し、熱中症対策の住民への広報等について、積極的な対応に努めるよう求めたほか、関係都県に対し「風水害、地震等の災害に伴う長時間停電を踏まえた防火対策の徹底について」(令和元年9月10日付け消防予第164号消防庁予防課長、消防危第134号消防庁危険物保安室長通知)を発出し、自主的な防火管理等により防火安全性を確保するよう周知した。
さらに、千葉県に対し「令和元年台風15号を受けた対応について」(令和元年9月12日付け消防庁国民保護・防災部防災課長事務連絡)を発出し、市町村職員、消防職員、消防団員等による戸別訪問等により、住民の安否確認など、積極的な対応を実施するよう求めた。
また、長期の停電が発生した地域があった千葉県に対し「令和元年台風第15号を受けた住民への情報提供について」(令和元年9月14日付け消防庁国民保護・防災部防災課長事務連絡)を発出し、これらの地域の住民に対して戸別訪問や広報車等による巡回、ラジオの活用等により、被災者支援に係る情報や復旧情報等の提供を行うよう求めるとともに、館山市からの要請により、屋外スピーカーが使用できない地域に対して電池で稼働する戸別受信機200台を緊急に貸与した。
ブルーシートによる家屋の応急補修に関しては、関係都県に対し「台風第15号を受けた当面の留意事項等について」(令和元年9月15日付け消防庁国民保護・防災部防災課長事務連絡)を発出し、消防職員、消防団員が被災家屋の応急補修や倒木処理に従事することが可能であることを周知したほか、千葉県に対し「台風第15号を受けた家屋の応急補修等について」(令和元年9月17日付け消防庁国民保護・防災部防災課長事務連絡)を発出し被災家屋の応急補修等を行うにあたっての消防力の積極的な活用を求めた。

ウ 被災自治体の対応

台風第15号の影響により、千葉県に災害対策本部が設置され、甚大な被害に見舞われた千葉県知事及び神奈川県知事から自衛隊に対し災害派遣が要請された。
また、被災市町村では、住民に対し、大雨による家屋の浸水や土砂災害への警戒を促すとともに、避難指示(緊急)及び避難勧告等の避難情報を発令し、早期の避難を呼びかけた。
このほか、被災都県においては、台風第15号により甚大な被害が発生した千葉県の41市町村及び東京都の1町に対し、災害救助法の適用を決定するとともに、茨城県及び千葉県の全市町村、東京都の2町村及び神奈川県の1市に対し、被災者生活再建支援法の適用を決定した。

エ 消防本部及び消防団の対応

(ア)消防本部
千葉県をはじめ台風による被害を受けた地域を管轄する消防本部では、多数の119番通報が入電し、直ちに救助・救急等の活動にあたったほか、被害状況を把握するため、千葉市、川崎市及び東京消防庁の消防防災ヘリコプターが情報収集活動を行った。
また、多数の住家被害と長時間にわたる停電に見舞われた千葉県内の消防本部は、戸別訪問による安否確認のほか、ブルーシート等による家屋の応急補修等の活動を行った。

ブルーシートによる家屋の応急補修活動(習志野市消防本部提供)
ブルーシートによる家屋の応急補修活動
(習志野市消防本部提供)

(イ)消防団
千葉県や神奈川県内の市町村をはじめ、甚大な被害に見舞われた多くの市町村において、消防団は、大雨に備え、住民に対して早期の避難を呼びかけるとともに、危険箇所の警戒活動等を実施した。また、倒木や飛散物の除去活動、ブルーシート等による家屋の応急補修、避難所の運営支援等を長期間にわたり実施した。

女性部による避難所運営支援(千葉県山武市消防団提供)
女性部による避難所運営支援
(千葉県山武市消防団提供)

*8 対口支援団体:自らが完結して応援職員を派遣するために、原則として1対1で被災市区町村ごとに割り当てられた都道府県又は指定都市

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