令和元年版 消防白書

[風水害対策の現況]

1.風水害対策の概要

梅雨前線の影響による大雨や台風の日本列島への接近・上陸は、しばしば日本列島に土砂災害、河川の氾濫、低い土地の浸水など大きな被害をもたらしている。また近年は、短時間強雨の回数が増加傾向にあり、短時間で局地的に非常に激しい雨が降ることにより、中小河川の急な増水が引き起こされ、被害を生じさせる事例が多く発生しているほか、地下空間やアンダーパス*1の浸水等による被害も発生している。

*1 アンダーパス:交差する鉄道や他の道路などの下を通過するために掘り下げられている道路などの部分をいう。周囲の地面よりも低くなっているため、大雨の際に雨水が集中しやすい構造となっている。

(1)洪水

流域に降った大量の雨水が河川に流れ込み、特に堤防が決壊すると、大規模な洪水被害が発生する。近年では、平常時には川遊びができるような穏やかな河川であっても、上流域で激しい雨が降ることで短時間のうちに極めて急激に増水して勢いを増し、氾濫して甚大な被害をもたらす事例が各地で発生している。

平成29年7月九州北部豪雨災害を踏まえ、洪水への対策強化として、平成30年6月に以下の事項について防災基本計画が修正された。

〔1〕洪水予報河川・水位周知河川以外の河川に係る、市町村による避難勧告の発令基準を設定すること。

〔2〕土砂・流木による被害の危険性が高い中小河川における透過型砂防堰堤や流木被害が発生するおそれのある森林における流木捕捉式治山ダムの設置等の対策を強化すること。

(2)土砂災害

大雨の際には、土石流、地滑り、崖崩れなどの土砂災害について厳重に警戒する必要がある。

平成26年8月に発生した広島市の土砂災害を踏まえ、土砂災害への対策強化として、以下の事項について防災基本計画が修正された。

〔1〕土砂災害警戒情報及びこれを補足する情報(メッシュ情報)等を活用した避難勧告の発令範囲を設定すること。

〔2〕避難準備情報*2の発令による自主的な避難を促進すること。

〔3〕災害に適した指定緊急避難場所への避難を周知すること。

平成26年広島県広島市の土砂災害の被災現場
平成26年広島県広島市の土砂災害の被災現場
(内閣府提供)

*2 平成29年1月の「避難勧告等に関するガイドライン」の改訂に伴い、「避難準備情報」は「避難準備・高齢者等避難開始」に名称変更されている。

(3)高潮

平成11年(1999年)9月に熊本県不知火海岸で高潮により12人の死者が発生したこと等を踏まえ、消防庁では、平成13年3月に内閣府、農林水産省、国土交通省等と共同で、高潮対策強化マニュアルを策定した。
また、平成28年2月には高潮災害への対策強化として以下の事項について防災基本計画が修正された。
〔1〕高潮警報等の予想最高潮位に応じて想定される浸水区域に避難勧告等を発令できるような具体的な避難勧告等の発令対象区域を設定すること。
〔2〕高潮警報等が発表された場合に直ちに避難勧告等を発令することを基本とした具体的な避難勧告等の発令基準を設定すること。
平成30年9月には台風第21号が四国・近畿地方に上陸し、大阪湾を中心に過去最高潮位を超える値を観測するなど、顕著な高潮になり、関西国際空港の滑走路の浸水等の大きな被害が発生した。

(4)竜巻等突風

竜巻等突風による災害は全国各地で発生している。平成24年5月6日には、茨城県、栃木県及び福島県において複数の竜巻が発生し、死傷者や多くの住家被害が発生する被害となった。
この竜巻災害を受けて、消防庁では同年5月に、地元気象台などとも連携の上、気象情報に十分留意し、竜巻等突風災害に係る対応についての住民に対する周知、啓発等に努めるよう、通知や会議等で要請した。また、政府においては、関係府省庁からなる「竜巻等突風対策局長級会議」(事務局:内閣府)が開催され、8月に竜巻等突風に係る住民、市町村及び国の今後の取組等について報告が取りまとめられた。これを受けて、消防庁では同報告に留意の上、竜巻等突風対策に取り組むよう要請した。
また、平成25年においても、埼玉県越谷市等で竜巻等突風により大きな被害が発生したことに鑑み、竜巻等突風対策局長級会議が開催され、予測情報の改善、災害情報等の伝達のあり方、防災教育の充実、建造物の被害軽減策(窓ガラス対策等)のあり方及び被災者支援のあり方について報告が取りまとめられた。消防庁及び気象庁では、平成28年度から全国の都道府県の消防本部において、気象台への情報提供を行うよう要請していたが、令和元年6月4日から竜巻等突風の発生に関する情報について、各消防本部からの連絡先を、地方気象台等から気象庁本庁の竜巻目撃窓口に一元化した。

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