令和元年版 消防白書

3.主な火山災害対策

(1)火山防災対策推進ワーキンググループ

御嶽山噴火災害の教訓を踏まえ、平成26年12月に中央防災会議の下に火山防災対策推進ワーキンググループが設置された。平成27年3月に取りまとめられた報告には、火山噴火からの適切な避難策や、火山防災情報の伝達等の火山防災対策推進に向けて取り組むべき事項等について記載されており、消防庁では、退避壕等の避難施設の整備促進、情報伝達手段の多様化等に取り組んでいる。

(2)活動火山対策特別措置法の改正

ア 改正の背景

火山防災対策推進ワーキンググループの報告を受け、

  • 火山は明瞭な前兆がなく突如噴火する場合もあるため、住民、登山者等様々な者に対する迅速な情報提供・避難が必要であること
  • 火山現象は多様かつ火山ごとの個別性(地形や噴火履歴等)を考慮した対応が必要なため、火山ごとに、様々な主体が連携し、専門的知見を取り入れた対策の検討が必要であること

等の課題に対し、火山防災対策の強化を図るため、平成27年7月に、活動火山対策特別措置法の一部を改正する法律が成立し、同年12月施行された。

イ 改正の概要

火山防災対策の対象として、これまでの「住民」だけでなく、「登山者」についても明記された。その他、改正の主な概要は以下のとおり。

(ア)火山防災協議会(都道府県や市町村などを構成員とする、警戒避難体制の整備等の協議を行う機関)の設置
(イ)火山防災協議会における警戒地域の噴火シナリオや火山ハザードマップ、これらを踏まえ噴火警戒レベル(第1-8-1表)や避難計画等、一連の警戒避難体制全般の協議
(ウ)火山情報の伝達、避難場所等を含む避難計画等の都道府県及び市町村地域防災計画への記載
(エ)市町村長による、警戒避難の確保に必要な事項の、住民等に対する周知
(オ)避難確保計画(ホテル等の集客施設等の管理者等により作成される避難計画等)の作成
(カ)登山者が自らの安全を確保するための努力義務(火山情報の収集、連絡手段の確保等)

第1-8-1表 「噴火警戒レベル(気象庁ホームページから)」
https://www.data.jma.go.jp/svd/vois/data/tokyo/STOCK/kaisetsu/level_toha/level_toha.htm
噴火警戒レベル

第1-8-1表 「噴火警戒レベル(気象庁ホームページから)」

注1:住民等の主な行動と登山者・入山者への対応には、代表的なものを記載。
注2:避難・避難準備や入山規制の対象地域は、火山ごとに火山防災協議会での共同検討を通じて地域防災計画等に定められています。ただし、火山活動の状況によっては、具体的な対象地域はあらかじめ定められた地域とは異なることがあります。
注3:表で記載している「火口」は、噴火が想定されている火口あるいは火口が出現しうる領域(想定火口域)を意味します。あらかじめ噴火場所(地域)を特定できない伊豆東部火山群等では「地震活動域」を想定火口域として対応します。
注4:火山別の噴火警戒レベルのリーフレットには、「大きな噴石、火砕流、融雪型火山泥流等が居住地域まで到達するような大きな噴火が切迫または発生」(噴火警戒レベル5の場合)等、レベルごとの想定される現象の例を示しています。

(3)退避壕・退避舎等

平成26年の御嶽山噴火災害では、突発的な噴火に伴う噴石等により多数の登山者が被災した。一方で、何らかの身を隠す施設等に避難できた登山者が、結果的に噴石から難を逃れることができた例も報告されている。噴石から登山者等の身の安全を確保するために、退避壕・退避舎等の整備が有効である。消防庁では、地方公共団体が行う退避壕・退避舎等の新設、改修整備について、消防防災施設整備費補助金や、緊急防災・減災事業債等により財政措置を行い、事業を推進している。さらに、平成30年の草津白根山(本白根山)の噴火の際にロープウェイ山頂駅が山頂付近に取り残された登山者の一時的な避難場所として機能したこと等を踏まえ、平成30年度から、山小屋等の民間施設を活用した避難施設の整備について、地方公共団体が補助する場合に係る新たな財政措置を講じている。

桜島の退避壕
桜島の退避壕
美瑛町の退避舎(十勝岳望岳台防災シェルター)
美瑛町の退避舎(十勝岳望岳台防災シェルター)
(美瑛町提供)
噴石対策を実施した民間施設(富山県立山町雷鳥荘)
噴石対策を実施した民間施設(富山県立山町雷鳥荘)
(立山町提供)

(4)噴火速報

登山者や周辺住民等に火山の噴火を端的にいち早く伝えることにより、身を守る行動を取ってもらうことを目的として、気象庁により平成27年8月4日から噴火速報が運用開始された。消防庁では、市町村に対し、官民様々な関係者の必要な連携・協力を得て、噴火速報を防災行政無線、スピーカーや広報車による呼び掛け、登山口への情報の掲示、山小屋の管理者等を介した伝達、インターネットや防災情報のメール配信サービスによる周知等地域の実情を踏まえた様々な方法を活用して、適切に情報伝達するよう要請している。また、平成28年3月から、全国瞬時警報システム(Jアラート)により、防災行政無線等を自動起動させて噴火速報を伝達できるようにしている。

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