令和元年版 消防白書

2.地域防災計画

(1)地域防災計画の修正

地域における防災の総合的な計画である地域防災計画については、全ての都道府県と市町村で作成されている。内容的にも、一般の防災計画と区別して特定の災害ごとに作成する団体が増加しており、平成31年4月1日現在、都道府県においては、地震対策は47団体、津波対策は30団体、原子力災害対策は35団体、風水害対策は33団体、火山災害対策は16団体、林野火災対策は16団体、雪害対策は12団体が作成している。
地域防災計画については、災害対策基本法において、毎年検討を加え、必要があると認めるときは、これを修正しなければならないこととされている。
消防庁では、災害救助法及び水防法等の関係法令の改正を踏まえた修正や平成29年7月九州北部豪雨災害等の災害対応の教訓を踏まえた修正を主な内容とした防災基本計画の修正を踏まえ、平成30年8月に地域防災計画の内容の確認及び必要な見直しを行うよう要請した。
また、同月、これらの防災基本計画の修正等を踏まえ、地方公共団体における地域防災計画の作成の基準等を定めた消防庁防災業務計画の修正を行った。
なお、平成30年度中において、都道府県39団体、市町村856団体が、地域防災計画の修正を行っている。

(2)地区防災計画の策定

平成25年の災害対策基本法改正により、市町村地域防災計画の一部として、地区居住者等が行う自発的な防災活動に関する計画(地区防災計画)が位置付けられ、地区居住者等は、市町村地域防災計画に地区防災計画を定めることを市町村防災会議に提案することができることとなった。地区防災計画制度は、コミュニティレベルでの防災活動を促進し、市町村による防災活動と地区居住者等による防災活動を連携させ、地域防災力の向上を図ろうとするものである。地区防災計画の内容としては、計画の対象範囲、活動体制のほか、地区居住者等の相互の支援等、各地区の特性に応じて地区居住者等によって行われる防災活動が挙げられる。市町村防災会議においては、計画提案が行われた場合には、当該計画提案で示された地区居住者等の自発的な防災活動の内容を最大限尊重して、当該地区に係る地区防災計画を定めることが望まれる。
また、平成25年12月に消防団を中核とした地域防災力の充実強化に関する法律が公布及び施行され、市町村は、地区防災計画を定めた地区について、地区居住者等の参加の下、地域における防災体制の強化に関する事項等の地域防災力を充実強化するための具体的な事業に関する計画を定めることとされた。

(3)広域防災応援体制

ア 広域防災応援体制の確立

地方公共団体間等の広域防災応援に係る制度としては、消防組織法に基づく消防相互応援のほか、災害対策基本法に基づく地方公共団体の長等相互間の応援、地方防災会議の協議会の設置等がある。また、災害対策基本法においては、地方公共団体は相互応援に関する協定の締結に努めなければならないとされている。
平成24年に東日本大震災の教訓を踏まえて災害対策基本法が改正され、地方公共団体間における応援業務等に対して、対象とする業務内容の拡充と、都道府県による調整権限の拡充、国による調整権限の新設が行われた。また、市町村・都道府県の区域を越えて被災住民を受け入れる広域避難に関する都道府県・国による調整手続が新設された。
一方、地方公共団体と国の機関等との間の広域防災応援に係る制度としては、災害対策基本法に基づく指定行政機関から地方公共団体に対する職員の派遣、自衛隊法に基づく都道府県知事等から防衛大臣等に対する部隊等の派遣の要請がある。このほか自衛隊の災害派遣については、災害対策基本法に基づき市町村長が都道府県知事に対し、上記の要請をするよう求めることができる。さらに市町村長は、知事に対する要求ができない場合には、防衛大臣等に対して災害の状況等を通知することができる。
平成30年度から、総務省では大規模災害からの被災住民の迅速な生活再建を支援するための応援職員の派遣を行う「被災市区町村応援職員確保システム」及び「災害マネジメント総括支援員制度」を整備した。被災市区町村応援職員確保システムは、大規模災害発生時に全国の地方公共団体の人的資源を最大限に活用して被災市区町村を支援するための全国一元的な応援職員の派遣の仕組みであり、災害マネジメント総括支援員は、被災市区町村長への助言、幹部職員との調整、被災都道府県をはじめとする関係機関及び総務省との連携等を通じて、被災市区町村が行う災害マネジメントを総括的に支援することをその役割としており、その運用は、本システムにおける関係機関である、地方公共団体、地方三団体(全国知事会、全国市長会、全国町村会)、指定都市市長会、内閣府及び消防庁と総務省とが協力して行うこととしている。このため、消防庁では、災害マネジメント総括支援員等に対する研修を開催しており、令和元年度は、2日間の同研修を3回実施し、全国から272人の支援員等が参加した。

イ 広域防災応援協定の締結

災害発生時において、広域防災応援を迅速かつ的確に実施するためには、関係機関とあらかじめ協議し協定を締結することなどにより、応援要請の手続、情報連絡体制、指揮体制等について具体的に定めておく必要がある。
都道府県間の広域防災応援については、阪神・淡路大震災以降、各都道府県で広域防災応援協定の締結又は既存協定の見直しが進められた。また、個別に締結している災害時の相互応援協定では対策が十分に実施できない大規模災害に備え、全国知事会で、全都道府県による応援協定が締結され、全国レベルの広域防災応援体制が整備された。東日本大震災においても、それに基づいた応援が実施されたが、東日本大震災での経験を踏まえ、全国知事会の応援協定の見直しが、平成24年5月に行われた。
さらに、全国知事会では、危機管理・防災特別委員会に平成25年6月に設置された「広域応援推進検討ワーキンググループ」において、大規模広域災害発生時における広域応援の今後の方向性について検討され、平成27年7月に「大規模広域災害発生時における都道府県相互の広域応援の今後の方向性について」が取りまとめられ、報告された。
また、市町村でも、県内の統一応援協定や県境を越えた広域的な協定の締結など広域防災応援協定に積極的に取り組む傾向にあり、平成31年4月1日現在、広域防災応援協定を有する市町村数は1708団体(全市町村のうち98.1%)であり、このうち、他の都道府県の市町村と協定を有する市町村数は1298団体(全市町村のうち74.6%)となっている。
東日本大震災においては、市町村間の応援協定に基づく応援のほか、全国知事会の応援協定、指定都市市長会や中核市市長会による応援協定、総務省及び全国市長会・全国町村会の調整による応援などが実施された。
引き続き、応援の受入れ体制の整備や広域応援を含む防災訓練の実施、市町村の区域を越えた避難への備えを進めること等により、実効ある広域応援体制の整備を図っていく必要がある。

ウ 受援体制の整備

平成24年の災害対策基本法の改正により、都道府県地域防災計画又は市町村地域防災計画を定めるに当たっては、地方公共団体等が円滑に他の者の応援を受け、又は他の者を応援することができるよう配慮することが規定された。
大規模災害発災時には、多数の団体等から応援の申出が寄せられ、膨大な応急対策業務と相まって、地方公共団体における混乱が予想される。多数の応援団体からの応援を効果的に活用するためには、平時から応援を受ける体制、「受援体制」について検討し整理しておく必要がある。

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