令和元年版 消防白書

[地球環境の保全(ハロン消火剤等の放出抑制等)]

1.ハロン消火剤等の放出抑制について

地球環境の保全のため、消防法令により設置・維持が義務付けられている消防用設備等についても、その環境に及ぼす影響をできるだけ少なくするために、リサイクル等の省資源対策や省エネルギー対策等の取組が求められている。
ハロン消火剤*6(ハロン2402、1211及び1301)は、消火性能に優れた安全な消火剤として、建築物、危険物施設、船舶、航空機等に設置される消火設備・機器等に幅広く用いられている(平成31年3月現在、約1万7,000トン)。
しかしながら、ハロンはオゾン層を破壊する物質であることから、オゾン層の保護のためのウィーン条約に基づき、モントリオール議定書において、平成6年(1994年)1月1日以降の生産等が全廃されることとなり、ハロン消火剤の回収・リサイクルによりハロン消火剤のみだりな放出を抑制する取組や、ハロン代替消火剤の開発・設置等が必要となった。
消防庁では、平成2年(1990年)からハロン消火剤の放出抑制等に関する取組を推進しており、これを受けて、特定非営利活動法人消防環境ネットワーク*7を中心とした、一般社団法人日本消火装置工業会や消防機関等の国内関係者の継続的な取組により、世界でも例のない厳格な管理体制が整備されている。
また、第10回モントリオール議定書締約国会合における決議を踏まえ、これまでのハロン排出抑制等の取組等を勘案して、日本全体として「国家ハロンマネジメント戦略」が策定され、平成12年(2000年)7月末に国連環境計画(UNEP)に提出されている。
これらの取組により、クリティカルユース*8のハロン消火剤を適切な管理の下に使用していくとともに、建築物等の防火安全性を確保しつつ、回収・リサイクルを推進することにより、不要な放出を抑えていくこととしている。
一方、ハロン代替消火剤を用いた消火設備についても種々のものが開発され、消火性能、毒性等に係る評価手法の検討が行われるとともに、知見が十分に蓄積されたガスとして、窒素、IG-55(窒素とアルゴンの混合物)及びIG-541(窒素とアルゴンと二酸化炭素の混合物)の3種類については、平成13年3月の消防法施行令等の改正により、一般基準化が行われた。平成22年8月には、消防法施行規則が改正され、新たにハロン代替消火剤として開発されたFK-5-1-12(ドデカフルオロ-2-メチルペンタン-3-オン)に係る技術基準が整備された。また、ハロン代替消火剤のうちHFC(ハイドロフルオロカーボン)については、「気候変動に関する国際連合枠組条約に基づく京都議定書」において、温室効果ガスとして排出抑制・削減の対象となっているため、消防庁では回収・再利用等により排出抑制に努めるよう要請している。
今後も、国際会議等における地球環境保護の動向等に留意しながら、引き続きハロン消火剤等を適切な管理の下に使用していくとともに、建築物等の防火安全性を確保しつつ、回収・リサイクルを推進することにより、不要な放出を抑えていく必要がある。

*6 ハロン消火剤:ハロン化物消火剤のうち、フロンの一種で臭素を含有する物質を消火剤とするもの
*7 特定非営利活動法人消防環境ネットワーク:ハロン消火剤の回収・リサイクルのため、ハロン消火剤を使用するガス系消火設備等のデータベースを作成・管理する団体であり、平成18年1月に業務開始した。「ハロンバンク推進協議会」(平成5年7月設立)の業務を継承している。
*8 クリティカルユース:美術館、電気室等で他の消火薬剤では代替することができない必要不可欠な部分における使用をいう。

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